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43.ルルド・オスカー

ギフティアの街で襲われていた女性を助ける正義のヒーローは、見た目幼い少年だった。


そしてその少年はエリーの旧知の人物であり、そしてつまり、竜族だった。

 少年とエリーが旧知の仲であることが窺えると、ひとまずユウ達は少年共々、宿屋銀月へと戻ってきた。戻る途中、ひたすら少年がエリーに抱きつこうと必死だったが、エリーは少年の顔を掌で押さえつけてその好意をひたすら拒み続けていた。

 銀月の主人に少年が泊まるための部屋を1つ用意してもらうと、ユウ達は全員、少年の部屋に集まる。少年は自室となった部屋の備え付けの椅子に腰かけ、エリーは少年の部屋のベッドにも関わらずそのベッドに腰を下ろす。リズは腰かける少年の傍に立ち、ユウはそのみんなを見渡すように一歩引いたところで壁に寄りかかっていた。

 誰が最初に口火を切るかと思って見ていると、リズが切り出した。


「えーと、それで、2人はどういう関係なのか聞いてもいいかしら?」


「オイラは、あっ、ぼ、僕はエリーの恋人の――」


 ――バフッ――


 ベッドに座るエリーが枕を少年に投げつけ、少年の言葉を遮る。枕は見事に少年の顔面へと吸い込まれていた。


「ただの幼馴染」


「え、えーっと……」


「ただの幼馴染。そうだよね、ルカ」


「は、はい。そうです、ごめんなさい」


 そのエリーの反応は今までに見たことがないものだった。ただの幼馴染とは言っているが、ルカと呼ばれた少年は絶対にそうは思っていない。しかし、エリーは断固としてルカのその言葉を拒絶する反応だ。


「オイラは、あっ、僕はルルド・オスカー。エリーと同じ竜族だよ。ルカって呼んでね」


「私はリズ。リズ・ハート。彼はユウ・ソウルよ。よろしく、ルカ」


 リズの紹介に合わせ、ユウは寄りかかっていた壁から離れ、ルカに手を差し出して握手する。ルカはどうやら自身の呼称を変えようと努力している最中のようだ。そしてその行為はもちろん、幼馴染だというエリーにも引っかかるものがあった。


「ルカ、何で『僕』なの? あなた、昔からオイラだったじゃない」


「だって! オイラって子供っぽいじゃん! 僕って言えば少し大人な気がするじゃん!これ、里を出てからのオイラの、あ、僕のポリシー!」


 オイラと言ってしまうのもきっとエリーが目の前にいるから故の昔の慣れなのだろうが、よくわからない感覚論を持ち出したルカにエリーは溜息をつく。ルカのその感覚論にツッコミたかったのかもしれない。しかし、エリーはそんなことはせずルカに諭すように言った。


「私はオイラの方が好き。ルカはオイラって感じだもの」


「わかった! オイラにするね!」


 エリーのその言葉に、淡青の髪色の少年は切れ長のその目を一層細くして満面の笑みを浮かべ、いとも簡単に自身のポリシーを捻じ曲げた。


「さっき私を助けようとした時のあの話し方も、意識していたの?」


「あぁ……意識してたと思うかい? あぁ、その通りだ! この話し方?」


「そう、その一回確認する面倒くさい話し方」


「うん、だってこの方がカッコいいからさ!」


「そう……まぁ、もう、どうでもいいわ」


 普段は無口なエリーも、幼馴染を前にやたらと饒舌じょうぜつだ。表情こそ無表情であるのは変わらないのだが、それでもその内面に渦巻く感情は決して悪いものではないことがわかる。

 そして竜族に対する印象も改めねばならない。ユウもリズも竜族と言えばエリーだった。だから無口無表情が竜族としてのデフォルトの認識でいたのだが、それは大きな間違いだった。無口無表情はエリーの個性なのだ。竜族も人と同じように、人それぞれで個性が違うということがよくわかった。それがわかると、エリーへの愛おしさが一層強まるのが不思議である。同時に、目の前の少年にも好感が持てた。

 しかし、こんなに無邪気で陽気な少年を前に、確認しなければならないことがあるのはその場のユウ、リズ、エリーの3人全員、わかっている。そしてユウはそれを切り出した。


「ルカ、ギフティアに来てから、さっきのように女性を何回か助けたかい?」


「うん、3回だったかな。今日ので4回目だったはずだよ。ギフティアに来る前も合わせるともっとだよ!」


「……ギフティアでのその3回って、相手を殺したの?」


「うん、殺したよ。ただでさえか弱な女の子なのに、そのか弱さにつけ込んで嫌な思いさせる悪い奴らなんだから、叩きのめすだけじゃなくて叩き潰さないとダメでしょ?」


 確かにネロの話によれば、被害者は全員頭部が叩き潰されていたとのことだ。ルカが言っていることは言葉通りの意味なのだろう。そしてその言い方には悪びれた様子は一切ない。自分は何も間違ったことをしていないという自信に満ち溢れた表情だった。

 弱きを助けることは何も間違ってはいないとユウも思う。ただ、ある程度の秩序が保たれている社会では、取り得る選択肢を考慮することも必要になってくる。無法地帯であればルカの考えで全く問題ないのかもしれないが、ギフティアはそれなりの大都市である。ルールがないわけがなく、郷に入って郷に従わなければ異端となるだけなのだ。間違ったルールがあればそれを正す異端になることは正しい姿であろう。しかし、今回の件に関して言えば、ルカが全て正しい、とは言えない気がする。

 ユウはリズと顔を見合わせると、どう話そうかリズも困っているようだった。そしてその一方で、エリーが何やら思い詰めた顔をしている。


「リズ、ユウ、私が話すから2人は部屋に戻っていて」


 そんなエリーが再び、2人に対して主体的な申し出をする。不思議なものでルカが現れてからと言うものの、エリーがやたら大人びて見える。その様子にリズは少し寂しさを感じたのか、エリーを抱き締めてから部屋を出る。ユウもリズ同様に抱き締めたかったのだが、受け入られるわけがないとわかりきっていたのでエリーの頭を撫でるだけにし、リズを追って部屋を出たのだった。






ここまでお読みいただきありがとうございます。


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