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42.正義のヒーロー

「昨夜、街中で殺人が起きた。これでこのひと月で3回目だ」


 ネロの元へ行くと、複数の資料をめくりながらユウ達天翔ける竜スカイドラゴンに向かってそんな言葉をこぼす。


「殺人……ですか」


「あぁ。まぁ殺人自体は珍しい事件でもない。冒険者間のイザコザで酔っぱらって感情のままにやり合って殺しちまうって話はある。もちろん、合意の上の決闘でも決められた場所以外の決闘は罪になるがな。ただ、今回の数件の事件は、犯人捕まえたとしても、どうすっかなって話だ」


「どういうことです?」


「被害者は死んでるんだが、必ず傍に目撃者の女性がいて、その女性達は決まってみんなその犯人に『助けられた』って言っている。どうやら女性を襲おうとした暴漢を殺し回っているらしい」


「なんだ、正義のヒーローじゃないですか」


「まぁそうなんだがな。ただ、その判決を下すのが個人であるのはよくない。私刑を認めれば秩序の維持が困難になる。殺さずとも捕まえて憲兵に突き出せばいいからな」


「まぁ確かにその通りよね」


 リズがネロの発言に首を縦に振って相槌を打つ。


「しかし今回は現行犯から女性を守るための正当防衛とも言える。だから、どうすっかなって話だ。実際、そいつのおかげで噂が広まって、女性を襲うような事件も少なくなってきているしな」


「えぇと、つまり、とりあえず、その犯人、というか正義のヒーローと接触しろって話になるわけですね?」


「お、ユウもだいぶ察しがよくなってきたな」


「そりゃあネロさんと会ってからそれなりに時間経ちますしね。その3件、同一人物で間違いないんですか?」


「あぁ。被害者のやられっぷりから同一人物として間違いない。結構な手練れだと思え。顔面に一発パンチ喰らうだけで、頭が吹っ飛ぶからな。気を付けろよ」


「何それ怖い。でもまぁ正義のヒーローなら話せばわかってくれますよ」


「やり方は任せる。話して、納得させて、ここに連れてきてくれ」


 この正義のヒーローとの出会いが、ユウ達天翔ける竜(スカイドラゴン)に変化をもたらすことになる。しかし、それはまだ、この場の誰も知らない話。

 そしてユウ達はその正義のヒーローに会うべく、夜の街へと繰り出すのだった。




 ◇◇◇




「本当に上手くいくかな」


 ユウとリズは建物の陰に隠れながら、夜の街を一人歩く竜族の美少女エリーを尾行する。

 作戦はこうだ。角を装飾品で隠したエリーが華やかに着飾り、夜の街を歩くことでエリーの可憐さに誘われた暴漢にエリーを襲わせるというおとり作戦。ユウもリズもこの作戦を拒んだが、何よりもエリーが今回、この役割を自ら申し出たこともあって渋々了解したという作戦だ。エリー曰く『自分にしか出来ない役割』とのことでその力強い発言を信じることにしたのだ。ちなみに、ユウは風の精霊にお願いをしており、エリーの傍の声や物音がユウとリズの元に届くようにしてある。有事の際、すぐに飛び出せるように。


「上手くいった時、私達が出るタイミング間違えないようにしないとね。目の前で人の頭が弾け飛ぶところなんて見たくないわ」


「いや、そうなんだけど、もっと前提の話でさ。エリーは確かに可愛いんだけど、色気的なところで言うと――」


「ユウ、エリーを信じて」


「そ、そうだよね、ごめん」


 確かにエリーは可愛らしい。淡いピンク色で癖のある髪、大きな瞳。人形みたいな顔立ちに角のアクセントがよく映えている。まぁ今回はその角は装飾品で隠れているのだけれど。

 しかし、色気的な妖艶さを持ち合わせているかというと、どちらかと言えば正反対であり、エリーの魅力はその見た目の幼さに垣間見える純真無垢なのだ。竜族として126歳のエリーだが、人族の見た目で言えば10歳前後に見える幼女とも言えなくもない見た目なのである。果たしてそれで暴漢が誘われてくれるのかどうか、そこがユウの心配どころではあったのだが、リズはその指摘を全く気にしない。エリーが任せろというのだから、信じて任せるというのがリズのスタンスなのだった。

 そして夜もだいぶ深まってきて、道行く酔っ払いの数が(まば)らになってきた頃、それは起こった。


「おや、こんな夜遅くにこんなに可愛いお嬢ちゃんが一人でどうしたんだい?」


 エリーに話しかけてきたのは、想像に反して、身なりのちゃんとした細身の紳士だった。その手にはステッキを持っており、その風貌からそれなりの家柄であることが窺い知れた。


「帰る場所がないの。明かりがある場所で寝ようと思って、この辺りで探していたの」


 帰る場所がない、という言葉を聞いた瞬間に紳士の顔つきが変わったのがわかる。


「それならうちに来るかい? 1つ条件があるのだけれど」


「条件?」


「こっちに来ればわかるよ」


 そう言うと、紳士はエリーの手を取って傍の路地へと強引に連れ込んでいく。人は見かけによらないとはまさにである。紳士に見えても、結局はこんな夜遅くに繁華街にいる時点で、そういう人間なのだろう。


 ユウもリズも飛び出しそうになってしまったが、それをしたらエリーの努力が無駄になる。ここはじっと我慢である。それにエリーであれば、その力を解放すれば大抵の人族は耐えられない。ユウとリズが助けるまでもないのだ。だからユウとリズは、現れるかもしれない正義のヒーローだけを待つことにする。

 その時、路地の奥でエリーが声をあげた。


「イヤー、イヤー」


 あまりの棒読みにユウは噴き出しそうになる自分の口元を何とか抑える。しかし次の瞬間、その声を聞きつけ駆け付けたと言わんばかりに、その路地を形作る建物の上から人影が降り立ったのを見る。


「ユウ、来たわ」


 リズもその姿を見つけ、ユウと共に警戒態勢に入る。そして、正義のヒーローの声が聞こえてきた。


「いい大人が少女に欲望をぶつけるのを見逃すと思う? いや、見逃さない」


「な、なんですか君は?! 子供がこんな夜遅くに出歩くものじゃありませんよ! それにこれはちゃんと合意の上で――」


「少女が嫌がっているのに合意と思う? いや、思うわけがない」


「うるさいっ! これをやるから君はもう帰りなさい!」


 そのヒーローの声音と紳士の反応から、ヒーローが少年であることが想像できる。そしてガシャッと貨幣が入った小袋と思われるものが少年に向かって投げられた。


「金で買収されるほど、僕の想いがちっぽけだと思う? ふざけるな、命よりも大事なこの想いをバカにするな。弾けろ、クズが――」


 その会話を聞きながら様子が見て取れるまで近くに寄ったユウとリズは、少年が駆け出す瞬間を見る。2人が出遅れたと思ったその瞬間、その場の空気が変わった。


 ――解放――


「?!」


 駆け出した少年は、自分がその力を解放しようとした瞬間に浴びせられた強烈な威圧感にその身を一瞬固める。目の前の紳士は泡を吹いて崩れ落ちており、少年はその威圧感の出元が少女であることに気づく。

 ユウもリズもひとまず紳士が殺される事態にならないとわかり、安堵してその路地に入っていく。


「この威圧感(プレッシャー)……嘘だろ……もしかして、エリーなのかい?」


「……誰?」


 エリーは自分の魔力解放に平然と耐える少年に驚きながらも、自身の名を呼ぶ少年にその瞳は釘付けだった。少年のその言葉に、ユウもリズも顔を見合わせた。


「エリー! エリーなんだね! やっと見つけた! 僕だよ! ルカだよ!」


 そう言って、ルカと名乗りをあげた少年はエリーに駆け寄り抱きしめようとした。その瞬間、エリーは地属性魔法でルカの足をその場に固定する。ルカは走り出した勢いのまま盛大に顔面を地面へと叩きつけることになった。


「ルカ……あなた……こんなところで何してるの?」


「いてててて……感動の再会をさせてくれないあたり相変わらずだね、エリー。でも、僕の大好きなエリーが変わっていなくて安心したよ!」


 盛大に転んだせいで、ルカという少年のフードがその背に落ちる。その顔は青年と呼ぶには少し早い幼さを残す少年の顔立ちであり、淡いブルーの髪色が印象的な少年だった。そして何よりも印象的だったのは、その頭には、エリーと同じ角があった。

 それはつまりこのルカと名乗る少年も、竜族であることの証明だった。





ここまでお読みいただきありがとうございます。


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