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生きる喜びを教えてくれたのは異世界に転生した君でした  作者: 727
第二章 迫りくる闇の脅威と愛おしさ
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39.会食3~神の子と竜族と愛する人と~

魔神の存在に気落ちしたように元気のないリズとユウ。


そんな2人を優しく見守る2人の大人。


その2人にもまた、2人だけの想い出が隠れていた。

(今回はシャル視点です)


 執務室でこれから復活するかもしれない魔神の話をしてからというものの、この子達の空気は少し重くなっている。これから久しぶりの銀月の料理が出てくるというタイミングになっても、心なしかその表情は暗い。

 それも当然かもしれない。この子達の話を聞く限りでは邪淫の魔神(ルードネス)は万全な状態ではなかったらしいということ。そんな不完全な魔神に苦戦を強いられたのだ。加えて邪淫の魔神(ルードネス)は最も直接的な攻撃性の低い魔神だ。今後復活するかもしれない魔神を思えば、今の自分達の力で乗り越えられるものなのか不安なのだろう。

 でも今はせっかく私達のところに無事に帰ってきたこと、そして大きな戦果をあげて帰ってきたことを褒めてあげたい。


「知ってる? あなた達、今回の戦果で有名人よ?」


 この子達が喜びそうなことを伝えてあげよう。

 この子達の成し遂げたことで沢山の人が救われている。

 沢山の人達がこの子達に感謝をしている。

 それが自信に繋がるように。


天翔ける竜(スカイドラゴン)、魔神襲来のイーストエンドを救う』


 その知らせはイーストエンドから瞬く間に広がった。情報の発信源の詳細は不明であるが、その情報は確かな情報としてここギフティアまで辿り着いていた。この子達が招待されたという祝宴の場にいた誰かが広めたのかもしれない。


「やっぱり、そうなんですね。ギフティアに帰ってきてから、私達を見る目がなんだかやけに今までと違って……ここのご主人にも私達が天翔ける竜(スカイドラゴン)なのか確かめられました」


 ちょうどタイミングよく主人が麦酒(エール)に葡萄酒、料理を運んできてリズの傍からテーブルに配置する。その量は、頼んでいたものよりも多い気がする。


「おかえりなさいませ、皆様。これらはサービスです、次のオーダーからはお代をいただきますが、是非こちらを召しあがってください。今後ともよしなに」


「あ、ありがとうございます」


「いえいえ、天翔ける竜(スカイドラゴン)の皆様にうちの宿を気に入っていただけるのでしたらうちの宣伝にもなりますしこれくらいなんのそのですよぐふふ」


「あ、あの、ご主人、本音ダダ洩れですよ?」


「おっと、いけないいけない。では、ごゆっくり」


 意気揚々とカウンターの中に戻る主人。その小太りな後ろ姿はスキップしているかのようにウキウキと揺れていた。


「ね? こんな風に、みんな急に態度変わっちゃうんです」


「そりゃそうだろ。商売人は生きていくためには金が必要だしな。宣伝になるものがあればそりゃ利用したいさ」


「まぁ僕らもここにはお世話になってそれなりに経ちますから情も移りますし、あんな風にゴマすられなくても宣伝には協力したいと思いますけどね。料理も美味しいし、部屋も綺麗だし」


「主人に言ってやったら喜ぶぞ、その言葉」


「信頼関係は、言葉だけじゃ難しいですから……」


 ユウのその言葉に、リズとユウの表情に一瞬影が差すものの、見つめ合った2人は途端に笑顔になる。


 ……何かおかしい。


「でもどうしてご主人はあなた達が天翔ける竜(スカイドラゴン)だって気づいたのかしら?」


「そりゃエリーがフードを下ろしていたら結構すぐに気が付くと思うぞ」


「フードおろさない方がいい?」


 ネロの言葉にリズを見つめて気を遣うエリー。年端もゆかぬ少女に見える愛らしい竜族のこのコは、本当にリズのことが大好きなようだ。幼女と少女の境目にいる彼女の数年後、いや、数十年後なのかもしれないが、その愛らしい姿が成長するのが楽しみである。


「ううん、別に気にしないから大丈夫。それに有名になるのは、冒険者としては嬉しいことだしね」


「そうだよ、世に知れ渡る冒険者! く~っ! 天翔ける竜(スカイドラゴン)、すごいよね!」


 まるで自分のことではないかのような口ぶりのユウだが、彼も間違いなくその有名人の1人なのである。そんな彼の表情が、旅から帰って来てだいぶすっきりとしているように見えるのは気のせいだろうか。


「ユウもね。私達3人で天翔ける竜(スカイドラゴン)だよ。ユウがいないとダメなんだからねっ」


 リズも私と全く同じことを思ったようで、そんなユウに優しく声をかけている。ユウもユウでそんなリズを見つめて相槌を打っているが、いつもならあり得ない時間を見つめ合っては優しい笑みをこぼしている。


 何かおかしい。何だろうこのむずがゆくも落ち着いた空気は。いや、まだ少し様子を見よう。まだ乾杯もしていない。色々聞き出すのであれば、もっと陽気になってからの方が面白そうだ。


「ほい、じゃあ天翔ける竜(スカイドラゴン)の凱旋に」

 

 ちょうどネロがタイミングよく切り出す。ただ早く飲みたかっただけだと思うけど、この人の間の良さは昔からだ。ネロの声に、みなそれぞれの杯を掲げて打ち鳴らす。


「「「「乾杯っ」」」」


 久しぶりの食事会が始まった。




◇◇◇




「そういえば、血塗る夕暮れクリムゾンサンセットに会いましたよ」


「え?! リズ、いつの間に会ってたの?!」


「え?! ユウも会ってたじゃない?!」


「え?!」


「え?!」


「いや、待て待てお前ら、落ち着け」


 突如始まった意味不明な漫才にネロも口を挟む。血塗る夕暮れクリムゾンサンセットと言えば、ギフティアでも名の知れたベテラン冒険者である。この子達の通り名が天翔ける竜スカイドラゴンとされている時の一例として挙げた冒険者達だ。


「ほら、あの人、紅い鎧で栗色の髪の女性の。邪淫の魔神ルードネス倒した時に手伝ってくれた人達だよ、血塗る夕暮れクリムゾンサンセット


「え、栗女が?! そうなの?! ……言ってよリズ、今の今まで知らなかった」


「私言ったもん。確かに私が言った時、ユウの反応があまりなかったけど、私ちゃんと言ったもん!」


「え?! 僕、聞き逃してた?!」


 心外だ! と言わんばかりにリズはその頬を膨らませてユウに抗議をしている。

 お酒はまだ回っていないはずだけど、酔っぱらった時のリズ並みに素直な感情表現がされている。2人の距離は、この旅の中で少し縮まったのかもしれない。そんな膨れているリズを擁護するようにエリーが一言口を挟んだ。


「うん、リズはちゃんと言ってた。ユウがボケーッとしてた」


「そうなの? ごめん……あ! リズに振られたって凹んでた時かも」


 振られた?!

 何? どういうこと?


「ちょっとごめんなさいね、今、聞き捨てならない言葉が聞こえたのだけど? リズに振られたってどういうこと?」


「うん、それは俺も聞きたいな。お前ら惚れた腫れた別れたってんならそんな状態でよく一緒にいられるな」


「「あっ」」


 リズもユウもしまったという顔をしている。エリーは、無表情に我関せずという顔だが、目を合わせてこようとしないその素振りは自分には聞いてくれるなという意思表示なのかもしれない。

 しかし、2人の様子からその後の言葉が出てこない。気まずい空気も感じない。この空気はむしろ逆だ。


「あなた達がそうやってモジモジしてるなら、エリーに聞いちゃうわよ?」


 我関せずをアピールするエリーには悪いが、これは言ってもらわねば話が進まない。エリーも私の目を見ると、気持ちを汲んでくれたのか、ポツリと言葉を漏らした。


「シャルの考えている通りで間違ってない」


 それだけ聞ければ十分だった。それはつまり、そういうことだ。自然と頬が緩んでしまう。


「ふ~ん、へ~、そうなの? だからあなた達を見ていたら甘酸っぱい気持ちになったのね」


 目の前の2人は恥ずかしそうにお互いを見つめては目を逸らしている。なんとまぁ純朴なのだろうか。


「甘酸っぱい気持ちになんてなったのか? お前も乙女なところがあるんだな」


「何よ? 私のこと女じゃないとでも思っていたのかしら?」


「いや、違う違う。お前のことはイイ女だと思っているよ。ただ、そうやって若者の恋愛に想いを馳せる少女らしさというかなんというか、そういう可愛げも持ってるんだなと思ってだな」


 思わぬ素直な反応に私自身戸惑ってしまう。

 あ、やば、顔、赤くなりそうかも。

 紅潮しそうな予兆を感じ取ると、それを誤魔化すために手元のグラスの葡萄酒を一気に呷り、飲み干した。


「シャル、ちょっとの間に、リズ達に追い抜かれてる。次はシャルの番、頑張って」


 エリーが小声で私に声援を送ってくる。嬉しいのだけれど、それはそれで照れるものだ。


「ま、まぁ、私は私で勝手にやるわよ、ありがとう」


 愛らしい竜族の声援に応えたいところだけど、今更なのだ。長年連れ添ってはいるものの、逆に長く一緒にいすぎて今の関係から先に踏み出すことができないでいる。この関係を変えたい想いは確かに自分の中にあるが、結構難しい状態だと思っている。何かきっかけがあれば……と思っている時点で攻めではなく守りに入っている自分に気づき情けなくなる。きっかけがあれば……じゃなく、きっかけを作るのだ。自らの手で道を切り拓く。それが冒険者としての基本スタンスだったはずなのに、引退してからというものの弱気になってしまってダメだ。


「何はともあれ、お前らがうまくいってんならよかったよ。気まずい空気になるのかと思って一瞬、お兄さんどうしようか本気で悩んでしまったよ」


 兄貴風を吹かせたネロを横目に見て、冒険者をやめて研究ばかりに没頭してきたこの人の今までを思い出す。そして、今、彼の隣にいたかもしれない人のことも。

 彼女はきっと、私のことなど気にするな、と笑うはずだ。いや、むしろ私の臆病な態度に怒るかもしれない。でも、それがわかっていても気にしてしまう。気にしないわけがないのだ。彼女はネロを想う大切な大切な、私達の仲間だったのだから。

 思いも寄らぬ感傷の波が押し寄せ、その波に揉まれていると、何やらユウがネロに提案を持ちかけている。その視線は、私にも向いていた。


「ネロさん、シャルさん。僕達のこと、鍛えてくれませんか?」


 その突拍子もない提案にネロは即座に笑って答える。


「おぅ、いいぞ、その変わり、中途半端に音を上げるようなことだけは、絶対に許さないからな」


 酔いが回っているネロは自分が何を言っているのかわかっているのだろうか。この子達は不完全な状態だったとはいえ、魔神すら倒す神の子だ。確かに自分達も現役時代はそれなりに実力があったと自負している。

 しかし自分達の時代には魔族はいても魔神はいなかったから自分達の強さが魔神に敵うものなのかもわからない。加えてブランクのある私達が、この子達を鍛えてあげられるかというと、私は少し、自信がなかった。


「ありがとうございますっ!」


 そう言ってユウは、今度は私を見る。

 そんな期待の込められた眼差しで見つめられたら、無下に断るわけにもいかない。


「はぁ……わかったわ。でも、あまり期待しないでね? 私達、一応もう引退してるんだから」






ネロとの距離を詰められないシャル。

ネロとシャルの間には、少し暗い過去がありそうです。

それはまた、別のお話で。


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