32.血塗る夕暮れ
邪淫の魔神を撃破した天翔ける竜。
しかし、ユウは意識喪失に陥ってしまう。
ユウの実現によって無事に目を覚ましたリズに話しかけてくるのは、あの栗色の髪の女であった。
「リズ! リズ!」
身体が揺れている。
エリーのエリーらしからぬハリのある声がする。
意識を失っていたのか、閉じている瞼をゆっくりと開くとそこには涙が今にも零れ落ちそうなエリーがいた。
エリーの頭を撫でながら、身体を起こす。
大鎌を受けて吹き飛ばされ、自分から大量の血が流れたところまでは覚えている。
しかし、身体にはどこも異常がなさそうだった。
「私……どうなったの?」
私が無事なのを確認して安心したのか、エリーが私に抱きついてくる。
一体、何がどうなったのだろうか。
「邪淫の魔神とかいう奴の大鎌にやられてもがき苦しんでたよ。そんで見たこともない魔法で邪淫の魔神にトドメをさしたコイツがそんなあんたに必死で魔法を唱えてぶっ倒れて、少ししてあんたが目を覚ました」
聞き覚えのある声の方に顔を上げるとそこには山羊頭と戦っていた栗色の髪の女性がいた。
邪淫の魔神にトドメをさした?コイツ?
視線を脇に落とすと、そこにはユウが倒れていた。
「ユウ! 大丈夫?!」
「少し深そうだけど、ただの意識喪失だ。命に別状はねーよ」
その言葉に私は心底安堵する。敵が生きているのに自身は気絶する。
それはその後に何が起こったか認識できないことを意味する。
ユウが無事で本当によかった。
ユウが意識喪失してるということは、魔力消耗の激しい実現を使ったのだろう。
そんな状態だったのに、きっと、無茶をして私を助けてくれたんだ。
嬉しいけど、目を覚ましたらまた怒らないと。
「ありがとう。状況を教えてくれて」
「礼なんか言われることじゃねーよ。……この間は八つ当たりして悪かった。格下にアタイの剣を見切られたと思って苛立ってたんだが、あんたらは強い。見下して悪かった」
言葉遣いはキレイとは言えないけれど、その言葉には彼女の真っ直ぐさを感じる。
「気にしないで。実際私達は強いという自負はないわ。今もこうして気を失っていたわけだし……丈夫さには自信あったんだけどね」
「お前らは自分達の強さがわかってねーのか? あの大爆発も魔法なんだろ? それにお前らから横取りした山羊頭、あの山羊頭相手に引けを取らないこの銀髪野郎は相当な強さだぞ? お前もだ! 何だあのアホみたいな突きは?! アタイでもあんなんできねーぞ?! ってこんなこと言わせんじゃねぇよ! バカッ!」
「でも、貴女達も強いことには変わりないんでしょ? その山羊頭を倒しているんだもの」
「アタイ一人ではキツかったよ。だがアタイ『達』になれば話は違う。アタイ達に勝てねー奴はいねーよ。つーかさ、お前らギフティアから来てんのに、アタイ達を知らねーのか?」
もしかしたら有名人なのだろうか?
気分を害してしまったかもしれない。
「ごめんなさい、私達、ギフティアに着いてからまだひと月くらいしか経ってなくて」
その言葉に彼女は溜め息を吐いて項垂れる。
「アタイ達の名前も今やギフティアだけじゃなくてそれなりに色んな国に知れ渡ってると思ったけど、まだまだってことかよ。血塗る夕暮れって聞いたことねーか?」
血塗る夕暮れ……どこかで聞いたことのある名前だ。
リズは覚醒したばかりの頭で記憶を探ると、ネロの顔が思い浮かんだ。
「あ! 貴女達がそうなのね?! ベテラン冒険者だって聞いたことあるわ」
その言葉に少しだけ彼女の気分はよくなったようだ。
「お、何だよ、知ってんじゃねーか。アタイは血塗る夕暮れのレベッカ・コール。あっちにいるのはアタイの仲間な」
血塗る夕暮れのメンバーは岩に腰掛け、レベッカを見守っている。
「私はリズ・ハート。私達は天翔ける竜って呼ばれているみたい」
私のその言葉にレベッカはニヤリと笑う。
「やっぱりな。竜族もいるしそうだと思ったぜ。あんたに尻尾フリフリ感満載のこの銀髪は気に入らねーが、あんたはまだマシだ。よろしくな、リズ。今回は負けたが、アタイ達はあんたらに負けねーからな!!」
彼女にしてみたら討伐は勝負事らしい。
そう言って血塗る夕暮れのメンバーの元に戻りながらレベッカは声高に叫ぶ。
「ほらみろ! やっぱりあいつらが天翔ける竜だ!!」
そんなレベッカの背を見送り、ユウの状態を改めて確認していると、ウィルが傍までやってくる。
「みなさんのご活躍、確かにこの目で見ておりました。ご無事で何よりです」
「血塗る夕暮れにも助けてもらったけれどね」
「あぁ、彼らが血塗る夕暮れですか。彼らですよ、依頼を受注してくれたのは」
そういうことか。だから勝ち負けということだったのか。
「え、そうすると、血塗る夕暮れは依頼未達成ということでしょうか?」
「私がここにいなければ、そういうことになりますが、彼らの戦いも私は見ていました。その戦いに見合った報酬は出させていただきますよ」
ならよかった。
私達が横取りしてしまったことで無効になるのは申し訳なかった。
「では、戻りましょう。ただの意識喪失とは言え、ユウさんをこのままこの岩場に寝かせておくのは忍びないですので」
そういってユウに手を伸ばすウィル。
「待って! 大丈夫、私が運びます」
私のために意識喪失したユウ。
そんなユウを他の人に運ばせたくない。
立ち上がり、自身の身体を確かめる。全く何の異常も感じない。
ユウの実現に感謝しながら、ユウの身体に触れる。
「いえ、でも」
「運びたいんです。私の大切な人なので、私に運ばせてください」
喰いさがるウィルは、私がそう言うとそれ以上は何も言わず、ただ爽やかな笑顔で頷くだけだった。
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さて、バレバレだったかもしれませんが、闘牛士の皆様は血塗る夕暮れでした。
何故彼らは血塗る夕暮れと呼ばれているのか。
それはまた別のところでお話致します。
次話はリズとユウのモヤモヤ…です。
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