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2.銀髪翠眼に転生した僕が出会った人は金髪碧眼の君でした

 夢のような浮遊感、バタバタと布がはためく音、そして凄まじい風を感じる。神の言う転生が完了したのだろうか。ゆっくりと目を開くと、そこには眩い太陽と青く澄んだ空が眼前に見え、広大な森と天をも貫かんとする険しい山の頂が眼下に広がっていた。遠くに微かに見える街の景観からしても、今まで自分がいた国とは明らかに違う場所なのだとわかった。


 綺麗だな……っていうか、これ、落ちてる……?


「え、ウソでしょ?」


 意識すると落下速度が一層激しく感じる。さっきまでは全く見えなかったのに、木々の合間に動物の群れも見えるくらいになってきた。さっきまでは眼下にあったトゲトゲしい山の頂も、今は見上げなければ見えない。つまりは大地が近いということだ。


「あのダメ神! このままじゃまた死ぬじゃないか!」


『ダメ神……と?』


 頭に直接あの中性的な嫌味な声が響く。


「ダメ神でしょう?! せっかく転生したのにこのままだと――」


『私はあなたに、この世界で生きていける身体を差し上げました。大丈夫ですよ。あなたの想いが、この世界では力となります』


「は?」


 どういうことだろうか、この高さから落ちても大丈夫な頑強な身体だということだろうか。


『それから1つ、言い忘れていました。この世界では名前はとても重要です。真なる名は、あなたの命だと思ってください。決して、安易に他人に教えてはいけませんよ』


 今の状況を打破する言葉をろくに話さぬまま、その中性的な声の存在感は希薄になっていく。


 それだけかよ……。


 神への愚痴を吐こうとするが、大地は刻々と迫る。今のまま落下したとすると、おそらく、幸いにも森林の合間に流れる小川に落下すると思われる。下が川だから、神は大丈夫と言ったのだろうか。

 あの高さから、川幅が10mにも満たない小川に落ちて、本当に大丈夫なのだろうか。浅かったら一発アウトである。と考えていたら、川の底が見えた。


「やっぱりめちゃくちゃ浅いじゃないか!」


 そう、その川は歩いて渡れる足首まで程度の深さしかなかった。


 ストップストップ! 止まれ!


 もうダメだと思った着水のその瞬間――。

 一瞬、身体が止まったように感じた。


 ――バシャッ――


 何が起きたのかわからなかった。衝撃は水の音の通り大したことはなく、痛みも特にない。身体を起こし、濡れた自分の身を確かめる。

 神の言う通り、濡れたことを除き、この身体は無事なようだ。先ほどの空中での瞬間停止は神の仕業だろうか……まったく、助けてくれるならそう言ってくれればいいのに。


 命の危機が回避されたことに安堵し、改めてずぶ濡れとなった全身を眺めると、自分は見慣れない簡素な服を身に着けていた。

 麻、だろうか? これがこの世界の服。まるで冒険ファンタジーの世界に来たかのようだ。それにしても服だけ、というのは心許ない。

 神はこの世界の転生主人公に初期装備すら支給しないのか。いや、違うか。この世界の主人公は、きっと先に転生したあの人の方なのだ。だから僕に装備が支給されないのは、きっと何もおかしいことではない。


 とてつもない浮遊感を感じた後だからか、立つ動作もままならない。膝をつきながらもゆっくりと立ち上がってみる。身長は高くはない。どちらかという低めだろうか。元の世界の自分は170cmはあったことに比べると、目に映る木々や河岸の石や岩、そして自分の視点の高さから160cm程度と推測する。それはあくまでもこの世界の木々や石などの自然物が僕の知っている世界の物と同程度の大きさであることが前提だが。

 自分の外見も全くどうやら、この世界仕様になっているようだ。水面に映る自分は少しゴワついた銀髪で翠眼、揺れる水面でよくはわからないが、心なしか目鼻立ちも整っているような気がする。多少幼さの残る顔立ちではあるが、これは数年経てば結構イケメンなのではないだろうか? 身長は気に入らないが、そのほかの外見はよしだ。神よ、よくぞやってくれました。


 自身の外見を一通り確認したあと、とりあえず岸にあがると、目の前に何かが降ってきた。軽い金属音を立てて落ちてきたそれらは、太陽と竜のようなものが描かれた1つの紋章を除き余計な装飾など見当たらない短剣に革鎧、籠手、脛当付きのブーツ、そして腰袋のような物だった。

 待ちに待った初期装備で間違いない。なんだかんだで気の利く神である。ここまで来たらもう完全なリアルRPGだ。

 であれば、まずは場所を移動しよう。何も知らないこの世界で生きていくために、水場の近くであることは必要だが、岸は外敵に見つかりやすい。できれば川ではなく、森の中の泉のような場所のそばに拠点を構えたい。神から授かった装備を慣れない手つきでまごつきながらも何とか身に着けると、僕は木々の中を慎重に進むことにした。




 ◇◇◇




 どれくらい歩いただろうか。慎重に歩いているせいもあって、どれだけ歩いたかすらわからない。小動物をいくらか見かけただけで、モンスターのようなものが出てくる気配もないため、野営に適した少し開けた場所さえ見つかればいいのだが、中々見つからない。歩き続けたことで上昇した体熱と、慣れない革の装備を身に纏っているせいか、汗も尋常ではない。それでも思っていたほどの重さや暑さではないが、慣れるまでは大変そうだ。水を持ち運ぶ用の腰袋もなかったため水を汲んでくることは諦めたが、このままでは熱中症になってしまう。

 いよいよ限界を感じ始めたその時、水が激しく流れ落ちる音が聞こえてきた。


「滝……?」


 一縷の望みをかけて歩を進める。喉の渇きのせいで、その歩はすぐに駆け足になる。視界の先に水面の煌きが見え、僕はさっきまでの慎重さなど捨て去ってしまった。駆け足のまま茂みの合間をすり抜け、装備もそのままで水場に飛び込む。


 空中に身を躍らせたその時、僕の目に映ったのは、透き通った綺麗な水場と、上質なシルクのようなきめ細かさを感じさせる程に白く輝く、金髪碧眼の美しき女性の裸だった。


「あ――」


『あなたが最初に出会う人が、あなたが望む人です』


 神の言葉を思い出す。


 この人が……この人が、あの人なんだ!


 感動と、美しき裸体を目にした動揺で、自分がその人に向かって一直線に飛んでいることなどは頭から抜け落ちていた。

 水浴びをしていたその人は、そんな僕に気が付くと、叫び声一つ上げることなく容赦のない回し蹴りを放つ。


 きゃー! とかないんだなぁ……などと思いながら自分に鋭く迫る美しき脚を目で追う。


「せめて骨折とか内臓破裂がありませんようノーダメージでお願いしドゥハッ――」


 美しき裸体をその目に焼き付け、その衝撃に吹き飛びながらも思ってしまった。


 回し蹴る姿も、美しいと。


 痛みよりもまずそんな風に感じてしまう僕は、この世界に転生してから少し、おかしくなったのかもしれない。





ここまでお読みいただきありがとうございました。

不定期更新となりますが、なるべく短期間で更新していけるよう頑張ります。

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