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生きる喜びを教えてくれたのは異世界に転生した君でした  作者: 727
第二章 迫りくる闇の脅威と愛おしさ
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27.荒ぶる女冒険者

約1週間の休息期間を経て、ユウ達天翔ける竜(スカイドラゴン)はイーストエンドへと旅立った。

順調に思えたその旅路で、一行は突如イーストエンドを騒がせているものと思われるものに出会うのだった。


 愛馬を走らせ早2日。

 予定ではあと1日程で指定されたイーストエンドの街に着く。国境そばの関所を兼ねた街だ。ギフティアは国境を定めていないが、近隣諸国が大昔に勝手に国境を決め、そこに関所となる街を造っていた。


 ネロにこの極秘任務の話をされてから、10日が過ぎようとしている。

 イーストエンドからの最終回答は最速でおよそ1週間というネロの見込みはその通りとなり、その最終回答を受けて僕達は即座にギフティアを出発していた。

 ランドの店で買った魔法道具のおかげか、馬もあまり疲れることなく順調な旅路となっていた。今日この時までは。


 その日の野営場所を探そうと、街道から少し逸れて森の中へと入っていくと、森の中から喧騒が聞こえてきた。


 何かを叫ぶ女性の声。


 その声に僕もリズも顔を見合わせ、森の中ではスピードが出せない馬から飛び降りる。


「エリーはこの達を見てて!」


 エリーが頷くのを横目に、僕とリズは駆ける。

 すぐに開けた場所が見え、その中央に、大柄な男に両肩を掴まれている女性らしき背が見えた。身なりからすると僕達と同じ冒険者なのだろう。僕と同じように革鎧を身に付けた軽装だった。


 リズと僕は剣を抜きながら走る。が、すぐにその光景に違和感を覚える。

 大柄な男は女性の肩を掴んではいるものの動きがない。

 僕らはあと数歩までの距離に近づくと、その違和感の正体に気付く。


 その女性の向こう側、大柄な男の後ろには、沢山の男達と思われる巨躯が斬り伏せられて転がっていた。

 そして、女性の肩を掴んでいた男の手がだらりと力なく落ち、背中から倒れる。


 刹那、僕はリズの前に出る。


「ユウ?!」


 鳴り響く剣撃の音。

 僕の短剣は無事にその女性の短剣を受け止めていたが、その一撃は女性の力とは思えないほどに重かった。


 女性は振り向きざまにリズにその剣を振るったのである。

 リズもその動きを察知したのか僕の名前を叫んだ時には瞬間的に後方に飛んでいた。

 僕はリズに向けられた殺意に怒りが込み上げる。


「いきなり何するんだよ!」


「あぁん?! なんだよお前? 同業か? 勝手に後ろに立つんじゃねぇよ」


 言葉遣いの荒いその女性は、僕の目の前の短剣を下げる。敵意はないようだが、苛立ちを覚えているようだ。また、その顔は赤黒い血に濡れていた。


「大変! 怪我してるの?!」


 こんな不躾な人にでも優しい言葉を掛けるリズはやっぱり聖女なんじゃなかろうかと思ってしまう。


「はぁ?! バカかお前? この状況見て何でそういう発言になんだよ。返り血だよ、か・え・り・ち!この化け物共のな! アタイの血はこんなに汚くねぇよ!」


 何なんだこいつ。何でこんなにイラついてるんだ? せっかくリズが心配しいてるのに何なんだこの態度は……いきなり斬りつけてきた詫びもなしに。

 女性とは言えここまでリズと対極に位置する女性など初めて見た。

 本当に女性なのかと思ってしまう。

 無造作に短く切られている栗色の髪、鋭い切れ長の目、僕よりも低いその背は一見少年のようにも見える。

 しかし、彼女の身に付ける紅い革鎧がささやかな胸の膨らみを包み込むように胸元が少しだけ弧を描いていたことからも、彼女が女性であることを表していた。


 ん……化け物?


 よく見ると地面に転がっている男達と思われたものは、人と同様に五体あるものの異形のそれだった。黒い皮膚に覆われ、その手の爪は鋭利に尖り、両手両足は人のものとは思えぬ程に太かった。極め付けはその頭部である。山羊のようなその頭部もまた黒く、その瞳は血のように赤かった。


「何、これ?」


 リズが恐る恐る目の前に転がる死体に近づく。


「こいつらのことを知らないってことはお前らギフティアから来たんだろ?ちっ……テメェらみたいな世間知らずのガキにアタイの剣が見切られるとかマジありえねぇ」


 なるほど。それでイラついていたのか。

 余程腕に自信があるのだろうか。でも確かにこの小さな身体で何体も転がる化け物達を一人で屠ったのであれば、その実力はかなりのものと思われる。


「こいつらは何なの?」


 相手の態度に僕は敬語を使う気などなくなってしまっていた。


「聞けば何でも教えてもらえると思うなよお坊ちゃん。必要な情報は自分達で手に入れることだな!」


 ほら、こういう奴だ。敬語は相手を敬う言語と書いて敬語だ。こんな奴は敬えない。

 しかし、言っていることは最もである。僕らは冒険者である以上、同業から情報を得ようとしてはいけないのだろう。同業、それはつまりライバルでもあるのだから。


 以降彼女は黙々と転がっている死体の首を次々と切り落とし、その手に持つ荷袋に詰めていく。そして赤黒い血に濡れた顔を拭い、その場に唾を吐くと、何も言わずに木に飛び上がり、忍者のように木の枝を飛び渡って、森の中へと消えていった。

 荷袋が膨れあがらなかったことから、あれも魔法道具マジックアイテムなのだろう。


「魔族……なのかな?」


 首のない化け物共の消えない死体を目にしてリズは呟く。

 そうかもしれない。こいつらがイーストエンドを騒がせている得体の知れないもの達なのかもしれない。


「私達も行こう? 野営する場所、もう少し先にしたいな」


 それにはもちろん同意だ。

 こんな光景を見てしまったら、この付近で野営をしようなどとは思えない。それにあの女性が消えていった森の方角は僕達の目指す街と同じ方角だった。意外と街はすぐそこなのかもしれない。


 エリーの元へ戻ると、僕達はもう少しだけ、イーストエンドへ向けて馬を駆る。

 やはりかなりの距離を進んでいたようだ。四半刻も走ると街の外壁が見えてきた。

 陽が落ちる前に辿り着けたことに僕達は安堵する。


 この国の宰相の遣いと落ち合う街、イーストエンドのベリルである。






ここまでお読みいただきありがとうございます。

ご意見・ご感想・評価・ブクマお待ちしております!!

よろしくお願い致しますm(__)m


イーストエンドを騒がす事件。

次話はその解決に向けて動き出すこととなります。



【↓主に更新ツイートですが、Twitterもやってます↓】

@Posi_Nega_TT


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