25.会食2~マニアと秘書と神の子と~
マウントニアより帰還した天翔ける竜との久しぶりの会食を待ち望んでいたネロとシャル。
シャルはネロを執務室に置き去りにすると、天翔ける竜と共に銀月へと向かった。
今回の会食の一番の話題は、マウントニア冒険譚である。
(視点はエリー視点です)
「そうなんですよ、リズが吹き飛ばされた時は冷や汗ものでしたよ。壁がゴシャッ! って陥没するくらいの衝撃だったんですよ」
「あはは~あの時は私もびっくりしたかなぁ。あんな大きな魔獣と戦うの初めてだったし、攻撃を受けた時はちょっと死んだかもって思ったよ」
「リズの能力は頑強って言ったか?よかったなぁ~その能力があって」
「リズはその能力に安心しないで、これからの戦いにその経験を活かすようにしなさいね」
みんながご飯を食べ、お酒を飲みながらマウントニアの旅の話で盛り上がっている。
私もお気に入りの骨付き肉を手にとって、シャルが注いでくれる葡萄酒を飲んでいる。
「その時、エリーはどうしてたんだ?」
黙々と食べている私にネロが話を振ってきた。ネロとシャル。この2人の人族はリズとユウの次に好きだ。人族特有のドス黒い感情を感じない。ネロはサバサバとして接しやすく、こうして私が一人で会話に参加しないでいることを気遣って声を掛けてくれる優しさも持っている。
しかし、今この瞬間においては、その優しさは無用である。何故なら、魔獣との戦いの時の私は何も出来ずに役立たずだったから。出来れば話を振って欲しくなかった。
「見てた。その時の私は何も出来ずに役立たずだった」
隠しても仕方ないし、正直に話す。
「だからそんなことないよ?」
リズが私を抱きしめて頭をポンポンとしてくれる。気持ちいい。
「エリーの魔法は範囲魔法がメインなんですよ。だから、この間の魔獣との戦いでは場所が場所だけに魔法が使えなくてですね……」
ユウも丁寧に状況を説明してくれている。最初はリズを泣かせる酷い神の子だと思ったけれど、共に旅するうちにリズに近いものを感じている。ユウも優しい。でも、リズの方が好きだ。
「エリーは何魔法を使うの?」
シャルが葡萄酒のグラスを傾け、赤い液体をその艶やかな唇の奥に流し込みながら問いかけてくる。
「属性は無属性。星魔法って言えばわかる?」
ネロとシャルが顔を見合わせる。
「星魔法って、流星群とか彗星とか極大隕石とかだろ?」
「あとは宇宙爆誕とかかしら?」
さすがは人族の中でも経験豊富な2人だ。あまり知られていない竜族の魔法をよく知っている。
「そう。でも星魔法は広い場所じゃないと味方を巻き込む」
「確かになぁ。他には何か使える属性はないのか?」
「使える属性……今まで旅をしてきて星魔法以外を使おうと思ったことがないから、わからない」
「よし、じゃあ試そう」
そう言うとネロはシャルと席の場所を交代し、私の正面に来る。
リズの正面に座ったシャルは『それでそれで!魔獣討伐の他に甘い思い出はないの?』とリズとユウに嬉々として迫っていた。
ユウが『マウントニアの焼菓子は美味しかったですね!』などとトンチンカンな返事をする。彼は言葉の意味がわかっているはずなのに、何故かその手の話を避けようとしている節がある。あんなにもリズの愛情を向けられているのに、その愛情を人情と理解しているようだった。
3人の会話を横目にそんなことを思いながら、目の前のネロを見つめると、水に何かの種を入れたグラスを私に差し出す。その水もただの水ではなさそうだ。少し土色に濁っている。
「このグラスを、両手で握って魔力を注いでみてくれ」
言われるがままに、両手でグラスを握って魔力を注ぐ。すると次の瞬間、グラスが光に包まれる。
「なになに、何してるの?」
「ネロがエリーの魔法属性を調べてるみたいね」
「何それ、僕もやりたい」
「私も私も!」
そんなみんなの注目を浴びていると、光が収束していく。光が消えると、グラスの中にあった種が割れており、その割れた種が芽を出していた。
ネロがグラスを観察し、そしてその水を口に含むとすぐ吐き出した。
「なるほど。エリー、君は地属性の魔法も使えるはずだ」
「地属性?」
「あぁ、これは属性をチェックするものでな、俺が考えたんだ。植物の種に予め魔力を注入しておいて、水に入れる。水には魔力で変化する粉も混ぜた。これで、全ての属性が確認できる」
ネロによると、グラス内の水が温かくなれば火属性、水の量が増えれば水属性、水がグラスの中で動いて入れば風属性、種が芽を出して入れば地属性、水が痺れていれば ( 炭酸になっていれば ) 雷属性、土色の水の透明度が上がっていれば光属性、逆に暗くなっていれば闇属性、種が砕けたり割れたりしていれば無属性ということらしい。
早速明日から地属性の魔導書を読もう。地属性はサポート系の魔法が多い。私に足りなかった部分だ。ありがたい。
そんなネロの話を聞いたリズとユウが自分もとネロにせがんでいる。結果、リズは風属性と光属性。実現 ( リアライズ ) を使えるユウは言わずもがな全属性だった。
「リズも魔剣士になれるかもね。どこかの誰かさんみたいに」
その結果を聞いたシャルがリズに話しかける。 魔剣士。リズ達の認識でいうところの魔法戦士のことだ。
それにしてもどこかの誰かさん? 私は今ここにいる人族しか知らない。その言葉にリズもユウも私も誰のことを言っているのか理解できなかった。
するとユウが『まさか』と口火を切った。
「その体格、もしかしてネロさん、魔術師じゃなくて、魔剣士なの?」
「もう今は魔術師だよ。冒険者時代の話な、魔剣士っていうのは」
その言葉にリズが目を輝かせる。
それはそうだ。リズは魔剣士になることにも憧れを抱いている。そんなリズが魔剣士の先輩を目の前にして興奮しないわけがない。ネロの言葉を聞いた直後から、魔剣士になるためにはどうしたらいいのかということをひたすらネロに聞いている。
そんな一生懸命な様子のリズを、優しい瞳で見つめるユウ。
全く……。
そんなに好きなら早く気持ちを伝えてしまえばいいのに、何を恐れているのやら。
竜族は無表情とよく言われるが、無感情なわけではない。リズの想いも、ユウの想いも、一緒に生活していれば手に取るようにわかるのだ。当の本人達はお互いが異性として想い合っているとはわかっていないようだけど。
同じく感じたのか、シャルがユウにこっそりと話しかけている。普段ならこんな時私は1人で食事を進めるところだが、たまには人族の恋愛模様を聞いてみるのもいいかもしれない。今度は私が、ネロと魔剣士談義で盛り上がっているリズと席を変わってユウの隣、シャルの正面に座る。
「それで、リズとの仲はその後どうなのよ? ちゃんと進展してるの? キスはした?」
「ななな何を言ってるんですか?! 僕は別にそんな――」
ユウはそんなにお酒を飲んでないはずなのに顔を赤くしている。
「シャル、やめておいてあげて。ユウはまだ、その域に達していない。ずっと達しないかもしれない」
「その域ってなんだよっ」
ユウがボヤくように言うのもお構いなしに、私は続けた。
「だから、ユウに教えてあげてほしい。人を愛するということを」
「そうねぇ、まず、恋をすることと人を愛するっていうことを、同じに考えちゃダメっていうのが私の持論」
「どういうことですか?」
「恋は自分の気持ち優先。愛は相手の気持ちを思いやって自分を律することができること、かな」
なるほど。ユウも納得しているようだ。でもその説明だと、ユウが今のままでいいと思ってしまう気がする。2人に挟まれる私からすれば、とっととくっついて欲しいのだ。リズがユウにひとり占めされるのは嫌だけど、ユウはそんなことしないというのはわかっている。
だから早く進展してほしいのだ。今のままだと見ているこっちがもどかしい。具体性を示したらユウも少し変わるかもしれない。
「シャル、その言い方じゃ多分ユウには伝わらない。だからシャルがネロに恋して愛しているという具体的事例でもって、説明してあげてほしい」
私の言葉にユウは驚いている。どうやら全く気付いていないようだった。2人の関係を見ていれば、何となくでもわかるものだと思ったのだけれど。
私の感覚は間違っていなかったようで、私がそう言うと今度はシャルが顔を赤くして、目をキョロキョロと所在無げに動かすのであった。
ここまでお読みいただきありがとうございます!
このメンバーでの会食の場面は今後も1つの冒険が終わる毎に書く予定でいます。
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次話はまだ親書が返ってくるまでの休息時間です。
天翔ける竜の買い物を描きます。
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