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生きる喜びを教えてくれたのは異世界に転生した君でした  作者: 727
第二章 迫りくる闇の脅威と愛おしさ
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22.初めての巨大魔獣

深夜にマウントニア付近を突如襲った大震動。

その振動はギフティアまで届き、夜が明けてみればマウントニアの傍には謎の巨大な穴がその口を開けていた。


ユウ達は有志の支援者としてマウントニアへ向かい、冒険者ギルド支部より、巨大な穴の調査と先に向かった冒険者達の捜索を依頼される。

そして辿り着いた穴の底には、暗い魔力の塊があった。



 大地の精霊造りの螺旋階段を降り続け、先の見えなくなっていたところまで辿り着く。

 先を見えなくしていたものは、暗く澱んだ魔力の障壁だった。この先に間違いなく何かがあることの証である。


 僕の後ろにいたリズがその華奢な腕で神の剛力を見せつける。いとも容易く壁をもぎ取るとその破片を障壁に向かって投げ入れた。

 それらは障壁に遮られることなく、そのまま暗闇へと消えていく。

 無機物はただ通過するだけのようだ


「私、触ってみるよ。ダメージがあったとしても、私なら多分平気だし」


「ダメだよ! 何言ってんのさ!」


 頑強ストレングスを有していたとしてもリズの申し出をそう易々と受け入れる訳にはいかない。どんな危険があるのかわからないのだから、安易に触れるのは避けたい。


「僕がキャンセルしてみる」


 手をかざし、実現リアライズを実行する。

 するとその闇の障壁は弾けるように消え去った。


 目に飛び込んで来たのはこの穴の底、そして、その一角に横たわる複数の冒険者と思われる者達の姿だった。魔獣等の姿は見えない。その様子を見て、僕達3人は残り数メートルの高さを駆けおりる。

 一人一人、声を掛けては呼吸を確かめる。なんとか、ここにいる者は全員、息をしているようだ。

 全員の無事を確認し安堵の息を漏らすと、傍の壁の一部が急に崩れ落ちた。


 即座に腰の剣を抜き、身構える。陣容はいつもの型。リズと僕が前衛、エリーが後衛だ。

 そこには、女性冒険者が座り込んで震えていた。


「助けに……来てくれたの?」


 必死に掠れた声を絞り出す。

 リズが剣を鞘に収め、その女性に水袋を渡すと、女性はその水袋を勢いよく飲み干した。


「何があったのか教えてくれますか?」


 空になった水袋を受け取るリズ。しゃがみこみ、女性と視線の高さを合わせて尋ねる。

 女性は辺りを見回すと、僕達を急かすように言う。


「早くここから出ないとっ! 早く! 魔獣が戻ってくる前に!」


 刹那、障壁を解除したことにより底まで届いていた陽光が何かに遮られる。


「っ……!」


 女性が言葉にならない悲鳴を上げ、見上げると翼を持った巨大な何かが降りてくる。


 まずい。戦闘になれば気を失っている人達を巻き込んでしまう。


「大地の精霊よ! 彼らを守って!」


 精霊達に呼び掛けると、大地が波のように揺れ、気を失っている冒険者の身体が地面を滑るように動き、穴の中心から最も遠い場所にまとまっていく。


「貴女も! 彼らのそばにいてください!」


 震える女性に叫ぶと、彼女はふらふらと、そして必死になって走り出した。他の冒険者のところまで着くと、大地の精霊による守護が働き彼女達を土壁で覆い隠した。さっき彼女が隠れていたのも、大地の精霊の守護だったのだろう。


「来るわよ!」


 リズの声が響く。

 魔獣らしきそれは今にも地面にその巨体を着けようとしているところだった。


 女性の怯え方、そしてこの巨体。

 間違いなく害ある魔獣だろうが、こんな魔獣は見たことがない。

 鷲の頭と身体、背中に翼、足はなくその代わり下半身は大蛇のように太くうねっている。その大きさは我々人間が恐らくは一口で喰われてしまう程だろう。

 ズシンとその巨体を着地させると、その頭を周囲に巡らせる。冒険者達の姿が見えなくなっていることに気がつくと甲高い雄叫びを目の前にいる僕達に向ける。


「くっ……」


 思わず耳を塞ぐが、リズはその雄叫びを物ともせず魔獣に向かって走り出した。

 リズの一閃が魔物の胴体をとらえたと思ったその時、僕の頭の上を何かが豪速で通り過ぎ、後方で岩が砕ける音がする。目の前にリズはいない。蛇のような尾がリズの身体を弾き飛ばしたのだ。


「リズ?!」


「だ、大丈夫……すっごい痛いけど、異常なし!」


 リズの無事を確かめると、僕は魔獣に向かって雷の網を放ち、その動きを止めようと試みる。普通なら痺れて動けなくなるものだが、その魔獣はのたうち回って雷の網を切ろうともがいている。壁にも身体を打ち付けており、その巨体で壁が崩れている。こちら側に攻められて同じことをやられたら隠れている冒険者達が下敷きになってしまう。


電光石火ライトニングスピード!」


 瞬間移動のように、自身の身体を光のように速くする実現リアライズで魔獣の背に飛びあがる。動き回る魔獣のその背に狙いを定め、腕を薙いで風の刃を発現させると魔獣の金切声が響いた。胴体の切断には至らなかったが、その片翼をもぎ取ることに成功した。


 達成感に浸る間もなく、翼を切り落とされた魔獣は僕を喰おうとその身をよじる。鋭い嘴をひと突き、ふた突きと躱し、僕は距離を取るため後ろに飛ぼうとした。


「?!」


 蛇の尾が頭上から迫る。

 速い! 避けられない!

 自身に及ぶ目の前の脅威に頭がパニックになり実現(リアライズ)の発現も間に合わない。

 両腕で頭を守ろうと交差して覆った瞬間。


 ザンッ! と気持ちのいい斬撃の音が聞こえた。

 交差した腕の間からは、蛇の尾を分断するリズの背中が見えた。


 その激痛に再びのたうち回る魔獣。

 怒れる魔獣は尾を失ってバランスを崩しているのか、中々起き上がらない。


 すると物理攻撃を諦めたのか、魔獣の嘴の先にピンクとも紫とも見える魔法陣が現れ、魔力が尋常じゃなく集中していく。今まで敵の魔力に動じたことなどなかったけれど、肌にビリビリと感じる圧力。

 これはやばそうだ。この大穴もこれから発動するであろう魔法でぶち抜いたのかもしれない。そんな魔力の大砲をこんな穴の底で撃たれたら僕らはみんな生き埋めだ。埋まるだけならマシかもしれない。下手したら骨すら残らない。


反射氷の牢獄リフレクトアイスプリズン!」


 氷塊だけでは魔法を貫かれるかもしれない。機能するかはわかなかったが、魔法反射効果のある氷塊を出現させる。すると氷に覆われたその巨体は動きを止めた。幸いにも魔法陣も魔力も霧散したようだ。

 が、まだ生きているらしい。鷲頭のその目が動いている。


「ハァァァァァッ!」


 凛々しく雄々しく声を上げ、トドメを刺さんとリズが駆ける。

 氷の大きさから切断することを諦めたのか、大きく踏み込み、剣を真っ直ぐに突き出す。


 踏み込んだ振動なのか、突きの衝撃なのか、はたまたその両方か。

 魔獣が着地した時のような音が響く。

 目の前の氷塊には長剣のサイズとは思えない程の大きな穴が穿たれ、魔獣の首はその身体に別れを告げた。


 戦いが終わったことを実感すると、今になって足が震えてくる。よくもまぁこんな魔獣を倒せたものだと自分自身感心する。どうやらリズもほっとしているようだ。そんなリズと目が合い、自然と拳と拳をぶつけ合う。その様子を見て、エリーが後ろで申し訳なさそうにリズと僕を見ていた。


「ごめん、私、役立たずだった」


「この場所じゃエリーの大規模魔法を使うのは危なかったからね、気にすることないわ。それに、彼らに被害がないよう気を張って守ってくれていたじゃない、それで十分よ」


 落ち込むエリーの頭にリズはその手を置く。すると精霊達も守護はこれ以上不要と判断したのか、土壁の障壁を崩し、中から冒険者達が姿を現した。


「あ、あなた達だけで倒したの?」


 女性は驚きと安堵の表情を浮かべている。

 話を聞きたいが憔悴している彼らを穴の外に運び出すのが優先だ。

 冒険者はこの女性を含めて12人。

 穴の外に運び出すには、今一度、大地の精霊の力を借りる必要があった。


 ◇◇◇


 冒険者全員を地上まで運び出すと、冒険者達に覚醒の実現(リアライズ)を実行する。ひとり、またひとりと意識が回復していく。目を覚ますたびに、冒険者達は自分達の身を確かめ、そして揃って感謝の言葉を口にした。

 どうやら彼らがマウントニアの街にから穴の調査に来た冒険者のうちの一部のようだった。彼らと同じようにこの穴の調査に向かっていた冒険者パーティがあと2つあったらしいのだが、残念ながらその2組のパーティは先ほどの魔獣に喰われてしまったらしい。

 目の前にいる彼らは、穴の中に降りた際、その場面にちょうど出くわし、自分達の死を覚悟した。しかし腹が満たされた魔獣は彼らをその場では襲わず、穴の底に閉じ込め、魔法で意識を奪った。魔法耐性の強かった女性だけは意識を失わずにいたが、魔獣の魔法の結界が弾け飛んだ瞬間(僕達が到着した瞬間のことだ)、魔獣が戻ってきたと思い、精霊魔法で咄嗟に自分の身だけを隠したのであった。


 やはり普通はそうだ。自分の命と他者の命。天秤にかければ、女性のとった行動が普通である。決して責めることはできない。しかし彼女自身はそれを気にしているようで、助かったことを喜んではいるものの、その表情は暗かった。彼女のパーティのもう一人の女性冒険者に慰められると、彼女は謝罪の言葉を紡ぎ、泣き崩れていた。


 常日頃から命をかける冒険者であればこそ、自分の命は大事にしなければいけない。自分達の命が失われそうになった時、リズとエリーが僕よりも自身の命を優先したとして、僕はそれを不快に思うだろうか。いや、思うわけがない。むしろ自分を見捨てて大切な仲間には生きてほしいと思う。彼女を慰めている冒険者達も、きっと同じ気持ちだと思いたい。


 ただ彼女は、しばらく自身の行為を悔いそうだ。こればっかりは、自分で乗り越えるしかない。しかし、そんな風に悔いる姿ですら、僕は素晴らしいと思う。

 同時に、その泣き崩れる姿は本当か? アピールなんじゃないのか? と性根の腐った考えをしてしまうのだけれど……。ダメだダメだ。そんな風に考えてはいけない。久々に顔を出した陰鬱な自分を自らの中に押し込めると、僕達は自分達の馬に跨った。

 冒険者達は傍の壊滅的状況である村の方に馬を置いてきたということだったから、僕達はその場で別れ、それぞれ街に戻ることにした。






ここまでお読みいただきありがとうございます。

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