21.山岳の街『マウントニア』
地震の正体は不可解な穴の発生によるものだった。
壊滅的なダメージを負った山岳の街『マウントニア』及び周辺の村々の支援のため、ユウ達は『マウントニア』へ向かった。
針葉樹に囲まれた街道を進むとギフティアに比べ澄んだ空気を感じる。山々に囲まれた自然豊かなこの地は、ギフティアよりも高い場所にあった。
もうそろそろマウントニアに着く。
ギフティアを出てそろそろ丸3日となるところだった。途中、他の冒険者を見かけたり、魔獣に遭遇することもあったが、特段大きな問題もなく辿り着くことができた。
大穴が出来た影響なのだろうか。ところどころ、木が倒れているのも見受けられる。
街の外壁はすでに目に見えているが、その外壁にも崩れ落ちている箇所がいくつも見られる。大きな衝撃だったのは間違いなさそうだ。確かに、僕があの日、ギフティアの宿屋で地響きを感じたことからも、震源に近いここら一帯の衝撃は凄まじかったに違いない。
外壁の衛兵に応援できたことを告げ、ギルド支部の場所を確認する。街に入ると至るところで家屋の補修をしており、中には半身に包帯を巻いて歩いている人もいる。痛々しくもあるがその顔は活力に満ち、街中を駆ける子供達も資材を持って元気に補修現場と木材置き場を行き来しているようだ。みんながこの街を立て直そうと息巻いているのがわかる。決して活気がないというわけではなかった。
宿を探すよりも前に、ギルド支部へと顔を出す。中に入るとまだ雑然としており、ギルド支部も補修中のようだった。
「話は聞いています。お待ちしておりました。こんな状態で申し訳ございませんが、どうぞこちらに」
支部長はそう言うと、僕達を奥の小部屋に通す。奥で話すような大事な話があるのだろうか。
椅子に腰かけると、支部長はゆっくりと話し出した。
「神の子であるあなた方に、大穴の調査をお願いしたいのです」
神の子であることが知られている。支部長はギルド内情報をしっかりと確認しているらしい。もしくはネロが言ったのだろうか。まぁ気にすることでもないのでどちらでも構わない。それよりも気になるのは依頼の方だ。僕は思っていた手伝いではないことに面食らいながら聞き返す。
「大穴の調査? 街の瓦礫撤去とか村の復興の手伝いではなく?」
「はい。あの大穴は4日前の夜に現れたのはご存知かと思います。その翌日からこの街にいた冒険者のパーティがいくつか、先を競うようにその大穴を探索に行ったのです。ですが」
「未だに誰も帰って来ない、と?」
「そうなんです。距離はここから半刻程度。何日もかけるような距離ではないのです。何かを見つければそれが自分の功績だと見せびらかすのが冒険者の性質ですが、それもない。何かがあったとしか思えないのです。大穴の衝撃でこの損害。更に魔獣の襲撃でもあったらと思うと……この街はもう耐えられないでしょう」
なるほど。
別に支部長は冒険者の心配をしているわけではない。冒険者を危険に晒す程の何かが近くに潜んでいる可能性を心配しているのだ。
「わか――」
断ることを知らないリズは了承するはずだ。僕は返事をしようとすると、隣のリズが先に声を上げる。
「わかりました! 任せてください! 私達が、支部長さんの不安、解消してみせます!」
立ち上がり、胸の前で拳を握り締める。どうやらリズは『神の子』としての初の正式な任務であることを意識して少し興奮しているようだった。
◇◇◇
馬を半刻程走らせると、確かに村と、その村の隣に大きく広がる丸い穴が見えた。その大きさは直径にして50m程だろうか。突如こんな大きな穴が開いたら、その衝撃を受けた村はひとたまりもないだろう。
マウントニアは空いている宿屋を村人達のために開放し、村人達は今は一時的にマウントニアの街に避難している。そのため、今、この村には誰もいない。
馬を穴から少し離れたところに繋ぎ、歩いて穴のそばまで向かう。穴の縁が一箇所、崩されており、そこから穴の壁に沿って弧を描くように木の板が階段状に突き刺さっている。
恐らく先に来たという冒険者達が、下に降りるためにこしらえたのだろう。が、その下に何があるのかが全く見えない、深さがわからないのだ。
日が高いのに下の方に陽光は届かない。螺旋階段状の木の板も途中から消えているように見える。明らかに何かしらの魔法が発動しているように見えた。
「この板だけだと、少し怖いよね」
僕は穴の壁に刺さっている木の板に軽く体重を乗せてみる。乗れなくはないが、不安定であり、心許ない。
「そうね……何とかできる?」
「ん、やってみる」
僕は穴の縁に手を置き、実現を使おうとしたが、その時、何か囁きのような声が聞こえた。はっきりとは聞こえない。ただ何故か、その声は自分達の味方であるという確信だけは得られた。
辺りを見回してももちろん誰もいないし、リズもエリーも何も聞こえていないようだった。これはもしや……。
そう思い、僕はその声に耳を澄ませながら、話しかけるように言葉を紡ぐ。
「母なる大地の精霊達よ、僕達をこの穴の下へと案内してくれないか?」
その僕の呟きに、リズもエリーも顔を見合わせる。
その瞬間、木の板の下に穴の壁から大地がせり出し、階段を補強する。
おぉ、やっぱり。この囁きは大地の精霊の声だったのか。
「ユウ、今の、精霊との会話?」
リズの目が好奇心で満ち溢れる。
「うん、何かそれっぽい存在感を感じたから、話しかけてみただけなんだけど、すんなり応えてくれるなんて思わなくて僕もびっくりだよ」
「魔法も使えて精霊も使えて、ユウ、あなた本当に遊撃士なのかしら」
リズは驚きと喜びと呆れが混在するような笑みを浮かべている。
そして少しだけ、緊張しているようにも見えた。
当たり前だ。ここから先は、今までの依頼とは違う。正体不明の、本当の冒険だ。僕は立ち上がり、リズ達と顔を見合わせると、自分自身に気合を込める。大地の精霊のおかげで、道は出来た。
「さぁ、行こうか」
僕は先頭に立ち、ゆっくりと、その階段を下りて行った。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
感想・ご意見・評価・ブクマ等心よりお待ちしておりますm(__)m
【↓主に更新ツイートですが、Twitterもやってます↓】
@Posi_Nega_TT