17.コツコツと積む戦闘経験
神都に着き本登録を済ませたユウ達。
戦闘に慣れるべく、難易度の低いものから順々にこなしていた。
「はぁぁぁぁ! やぁ!」
リズの煌めく不壊の長剣が魔狼を切り裂く。同時にその背に別の魔狼が回り込む。
「光を奪え闇の監獄!」
素早く回り込んだ魔狼を黒い靄が包み込み、魔狼の動きが止まったところを僕は短剣で突き刺す。その勢いのままに身体を反転させ、エリーに向かって駆ける魔狼に手をかざす。
「射貫け迅雷!」
そして閃光が駆け抜ける。
魔狼の群れはその光に一瞬たじろぐものの、すぐに態勢を立て直す。数が多い。一体何頭の魔狼を駆逐しただろうか。幾ら頑強のリズと言えども疲れが見えるし、僕も疲れて来た。
「リズ、ユウ、下がって」
エリーはそう言うと手を空にかざし、魔法を詠唱する。範囲魔法であることを瞬時に悟った僕達は魔狼の群れを牽制しながら下がる。
「遥かなる天空の旅人達よ、我が喚び声に応じ、今こそその力を示せ。流星群」
手を振り下ろした刹那、魔狼の群れにいくつもの火を纏った石が豪速で降り注ぎ、土煙と熱気がその場に立ち込める。間違いなく全滅だろうけれど、土煙でその様子が見えない。
「吹き抜けろ涼風!」
土煙と熱気を吹き飛ばすと、魔狼達が消滅した痕跡である魔石と、魔石から立ち昇る黒煙のみだけがその場に残っていた。
「索敵! うん、もうここら一帯に魔狼はいないよ」
「ふぅ、お疲れ様!」
汗を拭う前衛のリズと僕。後衛のエリーの様子はいつもと変わらない。
そう、僕達は今、依頼真っ只中である。神都から馬で四半刻程の村に頻繁に出没し、家畜を次々とダメにしている「魔狼の群れ」退治。これが今回の依頼だ。
村から少し離れた森の中で実現を使いながら魔狼の群れを探していたところ、先ほどの戦闘になった。
魔狼は普通の狼とは違い、その体には魔石が埋め込まれている。邪神の眷属とも、魔法都市が存在した時代に作られた魔法生物とも言われているが、真実はわからない。人が造ったものとは思いたくないから、邪神の眷属だということにしておく。
神都を初めて訪れた日から、1週間が過ぎようとしていた。その間、僕達は手始めになるべく簡単そうな討伐系依頼から始め、段階的に難易度を上げ、今回で5回目となる。
討伐系依頼は他の収集系や家事手伝い系に比べて報酬も高い。最も報酬が高い依頼は、時間もかかって命の危険も伴う長距離移動の護衛系なのだが、名が知られており信頼度の高い冒険者でないと護衛系の受注は難しいのが実情だ。
そのような依頼分類の中で、神都周辺の村々に関する討伐系依頼は思いの外多い。神都には騎士団も存在するが、基本は神都の警護と治安の維持が主たる任務であり、周辺の村々までその恩恵は届かない。神都に害なすほどの事件が発生すれば王立騎士団の出番だが、それほどの事態はそうそう起こらないらしい。そのため、案件的に小さめのものは冒険者が早い段階でフォローする役割を担っている。
「ユウもだいぶ戦闘に慣れてきたね」
リズが長剣を布で拭きながら、僕に声をかける。
確かに、これで5回目の戦闘だが、遊撃士としての戦い方も、実現を使っての戦い方も慣れてきた気がする。この数回の依頼での一番の収穫は、現時点、僕の実現での弱点が判明したことだ。
実現では、まず、命を創り出すことはできない。前に馬を出そうと考えたこともあったが、結局はできなかった。2つ目に、自身の心に偽りがあれば実現されない。これは試しに金貨を出してみようとしたが、それはできなかった。エリー曰く、自身の中で金貨を生み出すことが納得できていないからだと言われた。実現で金貨を生み出すという行為が偽造貨幣を作ることと同義な気がしていたから納得などできるわけもなく、全くエリーの言うその通りであった。3つ目に、これが依頼中に学んだ弱点なのだが、自分自身の魔力に限界が訪れると意識が飛ぶ、ということだ。実現は、魔力を源として発現していることがわかった。
2回目の戦闘の時だろうか。戦闘に慣れ始めたと思って一人で討伐をやらせてほしいと2人に申し出た。2人の見ている中、最初から最後まで実現を使いまくって竜巻やら極太の雷やら巨大な炎の玉を出していたら、戦闘が終わるころには急に意識が飛んでしまい、目覚めた時は宿屋の部屋だった。
リズには泣かれ、怒鳴られ、抱きしめられ。もう二度と実現を滅茶苦茶に使わないと心に決めた。
しかし、どの程度が限界なのかを知るために、今もこっそり魔力の限界を知るために試している。それを自分自身把握しなければ、またリズに心配をかけることになるのだから。
「慣れてきたけど、まだ2人に敵う気はしないかな。リズは剣捌きの安定感が見ていて頼もしいし、エリーの魔法も別次元だし。エリー、あれで加減してるんでしょ?」
「うん。加減しないと、この森、なくなる」
だそうだ。空から隕石を降らせる魔法など、僕の知るファンタジーでは最終奥義的な魔法である。それをいとも容易く使うエリーは、さすがは竜族と言ったところなのだろう。
「さっ、今日はネロさん達が銀月に来る日だし、ギルドに報告しに戻ろう。魔石持っていかないとね」
魔物討伐系の依頼では魔石が討伐の証になる。
魔石はギルドで貨幣にも交換してもらえるから沢山持って帰るに越したことはない。
「任せて。集結せよ!」
僕は魔石の散らばる方向に手をかざし、実現を使う。
一か所にまとまり宙に浮いている魔石の下で荷袋を開き、一斉にしまい込む。
「はい、終了」
「いつもありがと。さ、じゃあ先に村に行こっか」
依頼自体はギルドから受注しているため、報告はギルドにすればいいのだが、リズは毎回、依頼が終わると、その依頼元にも一声かけるようにしている。
その理由は『だって、早く安心してもらいたいでしょ?』ということだ。
どこまでも人の立場に立って考えるリズのこの姿勢が、僕達の冒険に大きく寄与しているとを、僕はこの時まだ、何も知らずにいた。
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