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11.冒険者への第一歩

「では、こちらに名前と年齢、その他特記事項があれば記載してください。もちろん、今ここで記載いただく名前は真名である必要はありません」


 僕達は今、ギルドの受付で冒険者登録をしている。ギルドとは冒険者の集まる場所であり、また、各種の依頼(クエスト)が集まる場所でもある。依頼(クエスト)をこなせば報酬がもらえ、冒険者はそうして生計を立てている。僕達が認識している通りだった。

 それなりの大きさの街であれば必ずギルドがあるらしく、全てのギルドは神都にあるギルド本部と魔法で情報を共有しているらしい。


 手渡された魔法が付与されているらしい羊皮紙に、魔筆と呼ばれる特殊な魔具を使い、自分達の魔力をインクとして、名前と年齢を記載する。

 もうユウグ・ソウルではなくユウ・ソウルでいいかな。年齢は……そういえばこの間16になったところだったか。


「あれ、ユウ、名前それで登録するの?」

 横からリズが顔を覗かせる。

「うん、ユウグってリズに出会った時に咄嗟に言っただけなんだ。ユウって呼ばれるのに慣れたし、ユウ・ソウルって名乗ることにするよ」

「ふ~ん……あ、16歳なんだね。それ向こうの世界と一緒?」

「うん、同じだよ」


 そういえばリズは何歳なの?と口に出したい言葉を飲み込む。女性に年齢を聞くなどしてはいけない。


「私はね、こっちの世界では18歳なのです」


 おっと、自ら情報暴露と来ましたか。ありがたい。こっちの世界っていうのが気になるけど。


「やっぱり、年上だったんだね」


 リズが社会人だったことは以前の会話から明白だったが、実のところもう少し年上なのかと思っていた。しかしそんなこと口に出せるわけもなく、初めて年上であることを知った振りをする。

 しかし、18歳というにもだいぶ大人びて見える。転生してこちらの世界の風貌になっていることも影響しているのだろうか。


「年上は嫌い?」


 リズは受付台に頬杖をつきながら横から僕を見つめ問いかける。

 何その可愛い仕草。やめてほしい。鎖で雁字搦めにした僕の心の扉が破られてしまいそうになる。


「い、いや、年上でも年下でもリズはリズだよ、嫌いとかありえないし」


 焦って口走った言葉に、自分自身少し恥ずかしくなる。


「……っ。ありがと。実はね、転生時に神様に少し若返らせてもらったんだよね~」


 にししっとリズは自分の年齢が若返ったことを喜んでいる。

 向こうの世界では何歳なの? と口に出したい言葉を飲み込む。女性に年齢を聞くなどしてはいけない。


「ユウを助けた時はね、私は24歳だったの」


 おっと、自ら情報暴露と来ましたか。ありがたい。

 まるで僕の心の声が届いているかのようだ。というか……


「年齢の話とか平気なんだね。女性はそういうの嫌がるのかと思ってた」

「え? だってこんな話ユウにしか理解してもらえないしさ、ユウだって私の年齢なんて関係ないって言ってくれたし。私のことを仲間に知ってもらえる方が私の中では大事かな」


 この人は今まで、きっとこうして生きてきたのだろう。自らを隠すことなく、堂々と。こんなにも付き合いやすい人柄なのに、それでもこの人を裏切った人がいるというのが信じられない。

 それにしても、元は24歳なんだ。だからこんなに大人びているのか。記憶は引き継がれているから、少なくとも精神年齢は24歳で肉体年齢が18歳、ということになるのか――などと考えるのも何だか失礼な気がするからやめよう。


「特記事項に神の子とか書く? 自分で神の子って書くのはちょっと恥ずかしいけど」

「そうね……ギルド本部の方であとから情報が変更できるみたいだし、今は特に書くのはやめておこっか。この用紙を出して受付の人に通じなかったらそれこそ赤っ恥だもの。エリーの竜族っていうのは年齢を信じてもらうために書いておいた方がいいかも」

「エリーっていくつなの? 見た目10歳くらいだけど、竜族は年の取り方違うの?」

「126歳」

「え?」

 リズを見ると、頷いている。

「そういうことみたいなの。すごいよね、竜族って。エルフみたいで」

 開いた口が塞がらないまま、僕は2人の記載した登録申請書を受け取り、まとめて提出する。

 エリーは大先輩じゃないか。でも、そんな風に見えないのは、きっと種族としての特殊な事情でもあるのだろう。今はまだその辺りを突っ込んで聞けないが、いつか聞いてみようと思う。


「はい、ではお預かりしますね。3名様になりますので、登録料は銀貨6枚となります」


 どうやら冒険者となるには登録料がかかるらしい。リズもお金がかかるとは思っていなかったらしく、あたふたと腰袋に手を伸ばし、銀貨と思われるコインを6枚、お願いしますと窓口の女性へと手渡す。

 登録の間、ギルド内に張られている張り紙を見ていたら確かに登録料の記載がある。登録に必要な銀貨は2枚、銅貨200枚でも可とのこと。なるほど、銀貨1枚は銅貨100枚ということか。そうすると金貨1枚は銀貨100枚ということだと思われる。


 冒険者としての登録が完了すると銀のネームタグが発行されるらしく、そのネームタグに冒険者情報を魔法で刻み込む。この世界での身分証明書だと思えばいい。登録料はその発行手数料ということのようだ。

 張り紙の中にはもちろん依頼(クエスト)も張り出されていた。害獣退治に薬草の収集、中には家屋の修理などもあり、その内容は幅広い。冒険者ってある意味何でも屋だな、などと思っていると登録が完了したことを窓口が告げてくる。


「タグに冒険者名が刻印されております。このタグは冒険者であることの証ですので、外出の際は常に肌身離さず着用ください。また、現在は仮登録の状態ですので本登録をされる場合は6か月以内に神都にある本部にて本登録を行ってください。なお、金貨1枚で本部に行かずとも本登録が可能です。6か月を過ぎますと情報が削除されますのでご留意ください」


 魔法で情報が共有できるのに金貨1枚という高額な料金設定は何なのだろうか。よくわからないが、どうせすぐに神都に向かうのだ。必要性は感じない。

 しかし、神都に向かうにしてもどれだけの日にちがかかるのかは知りたい。リズは3か月も森の中で生活をしていたが、昨晩の生活を知ってしまったからには、少なからず今後の冒険での野宿に抵抗感が生まれるのではなかろうか。なるべくリズが冒険をするのに気持ちが後ろ向きにならない環境は整えたいし、そのためには準備するお金も必要だ。場合によっては、今日、神都には向かえないかもしれない。

 竜族が珍しいのかエリーを凝視しながらネームタグを差し出してくる窓口の女性に尋ねる。


「神都まではどれくらいかかりますか?」

「荷馬車に乗っていけば3日くらいでしょうか。早馬であれば1日と少し、というところです」


 馬か。そうだ、この街に来た時にも僕達は賊の馬があったから数日歩く距離を数時間で来れたのだ。こういう世界の移動手段と言えば馬である。しかし昨日の賊の馬も盗まれた人がいたことが判明したため返している。今、僕達の移動手段は徒歩しかないのだ。これはきつい。

 神都に向かう荷馬車に乗せてもらうという手段もあるがそれでもいくらかはお金が必要となる覚悟はしなければならない。冒険者になって早速、悩みの種ができてしまった。


 リズは特に何も気にしていなさそうだが、あとで実現(リアライズ)で馬でも出してみよう。リズに何て切り出そうかと考えていたが、話をするのはそれをやってからだ。

 しかしながら領主との約束の時間が迫っていた。まず、領主の屋敷に行くことが喫緊の優先事項である。窓口の女性に礼を言い、僕達はギルドを出る。

 僕は一人考えを巡らせながら、先を歩くリズ達の背中を追って歩き出した。







ここまでお読みいただきありがとうございました。

もしよろしければ評価・感想等頂戴できれば幸いです。

不定期更新となりますが、なるべく短期間で更新していけるよう頑張ります。

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