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第四話 お店をください

遅くなりましてすんません。が、こちらは不定期でゆっくり更新させていただきます。

暫く貯めてからの閲覧などを推奨させていただきます。

ネタがないわけではありませんが、今のところもう一本の方に集中したいので・・・楽しみにしていただいてる方いましたら、誠に申し訳ありません。

飲み過ぎて三日目なのに、まだ頭痛のする三日酔い状態の意識を顔を洗ってしゃっきりさせる。

不動産の斡旋業というものが発展していないので、どこかに気の利いたとこ無いかい?と聞きいたところで誰も答えてはくれない。

自らの足で回るしかないのだ。

こちらの世界では気に入られれば得をし、嫌われてても金を積めば何とかなるのが、一般常識だ。

接待のつもりで酒を飲むこともある。


「さって店をそろそろ決めなきゃな」


「いつまでもグズグズしてないで働くと良い」


「お前なぁ・・・」


連日の店探しの末、やっと候補を二つに絞ることにできた。

そして今日、返事をすると約束していた期日である。

俺が一生懸命駆けずり回る中、副社長殿は優雅に近隣店舗の食べ歩きをしていたのだ。


「それで、そっちは何か進展があったのか?」


「同系の店舗は大体回った。バッチリ」


「さいですか・・・。言っとくが眺めてみてる部分と、実際その場に立って働くのは大きな違いだからな?」


「解ってる。私が見ていたのは主に客層と客入り、後は従業員のもてなし具合と、味」


「ふーん?じゃあ近隣店舗は全部見たのか?」


「小さい店までくまなく」


つっても素人目だしなぁ・・・。

客目線も大事だが一番知らなくてはいけないのは、価格帯と品目、客層が丸被りしていることだ。

似たような店を集めることで絶対的な客数を集め共存するといった手法は、旭川のラーメン村や、コンビニの集中出店などあるにはあるんだが、店ごとの特徴を出す、ターゲット客層をずらす、協調体制をとるなどの策もない場合、ただの客数の食い合いになることもある。


「そういや業態についても話してなかったな」


「そう」


「知らないで見てきたって意味ないと思うんだが・・・」


「心配ない。今まで見た店舗の情報は暗記したから」


「マジか・・・。お前のそのむやみに高い意欲が一番恐ろしいわ」


お、恐ろしい子!

コイツ最初っから気になることに関しちゃ異常な記憶力を持っており、ダンジョンの碑文も読めもしないのに一字一句形だけで覚えていたこともあった。

その時は結局何の役にも立たなかったが、後でダンジョンの地図作成師に高値で情報を売っていた。

自信をもって覚えているというあたり、従業員の顔まで写真のように記憶してるだろうな・・・。


「そ。それで?お店はどうするの?」


まったくの無関心顔で続きを聞いてくる。

自分がされる評価はどうでもいいのか・・・。

大概の人間は他己評価は大なり小なり気にするもんだ。

気にしない度合いが大きいほど、変人度が反比例する。


「ああ、二つまで絞ったよ」


「ほう・・・どことどこ?そして何やるの?」


「一つは・・・そうだなアイテム売店だ。店主が高齢で、十分な蓄えもあって、そろそろ引退を考えていたけど、常連の俺に免じてかなり安い値段で売ってもらえる。作りが完全に売店なんで、飲食店にするには改装費がかかるのと、場所は現在発展してる北の大通りに近いところに面していい場所なんだが、店として使うという買い手がなかなかつかなくて困っていたらしい。宿や家としては良い買い手がそろっているんだが、店自体が無くなってしまうのは寂しいらしい。店名の看板もそのまま使ってほしいそうだ。この爺さん、他にも借家で儲けてっから、後は悠々自適な隠居生活を楽しみたいみたいだ」


「ふむ、もう一つは?」


「もう一つは、俺が見込んで話を持ち掛けたこの近くの酒場だな。店を畳んで手放したいらしい。俺の狙い通りならこの辺りは発展するはずだが、現状はうまく行ってない。料理は美味いんだが・・・こだわり強すぎて、ちょっとお高目なお値段になってしまうし、まぁ店主は商売人としてはいい加減だしな。始めて3年で何とか元手とトントンまで持ち込んだものの・・・常連は結構いついてるんだが、店が遠いせいで客足は最初ほど来なくなって経営が苦しくなったんだと。ここらが潮時と見切りをつけたんだそうだ。店もそのまま明け渡してくれる。従業員のうち希望者2名のバイトと、娘さんの面倒を見てほしいってよ。話してみたら、おっさんだけど・・・いい奴でさ、意気投合したんだ。店売れた金と多少の蓄え使って、料理人修行をするんだと。飯も上手かったが、顔に似合わず甘いものも得意で、いま南の王国で流行ってるケーキを学んで店を開きたいんだそうだ」


「ケーキ・・・おいしそう」


そういやこいつも南の生まれで、食ったことありそうだが・・・。

ほぅ、と遠くを見つめてため息をつく。

コイツが何かを聞いてるときに脱線するなんて珍しい。

もしかしてかなり好きなのか?ケーキ。


「オホン・・・。んで、前者ならラーメン屋、後者なら焼き鳥居酒屋だな」


「ラーメン?焼き鳥・・・は鳥焼くだけ?」


「そっから知らんのか・・・まぁこっちには無いしな」


「ラーメンは、そうだな・・・肉とスープのパスタだ。焼き鳥はタレと塩が選べる上に、部位によって触感や味も異なる。どっちも俺が作り方知ってるが、ちょっとは研究必要だな」


「この間作ってた骨をダシにしたスープ?確かにコクはあったけど流行るとは思えない。どっちも鳥使うみたいだけどどうして?」


ラーメンスープやんわりとおいしくないと言われた気がするが・・・。

っていうかあれはベーススープなのに、勝手に飲んだのかよ。


「もちろん料理どっちもアイディア盛り込んで、もっといいものに仕上げる予定だが、鳥使うってのは知り合いがニム鳥育ててるから、楽に安く手に入るからだな。なんとなく勧めたんだが、うまく行ったみたいで、ずいぶん感謝されたよ。狭い範囲に囲って、絞める時もシステマチックに別作業にして、と効率良い方法教えたんだが、動かないおかげでエサ少なく太るし肉も柔らかい、卵の収集も囲ってる床に傾斜付けることで、今までよりはるかに楽に収集できるしな。捨ててた糞はニムネギなんかの肥料にぴったりで、売れるから儲からなきゃ嘘だぜ。ホントは農家も考えたんだが、俺にはそっちのノウハウは全くないから、アイディアだけ餞別にくれてやったんだよ。ほら、ギルド窓口にいたサムソンって奴覚えてるだろ?」


まぁアイディアはほとんどパクリだがね・・・。


「サムソン・・・懐かしい。結婚して故郷に帰ったの見送って、失敗して夜逃げしてたらと、気にはなってた。うまく行ってるなら何より。料理、あれで完成品で、こんな自信満々だったらどうしようかと思ってた」


「・・・ちなみにどうする気だったんでしょうか?」


「眠らせて、一か八か攻略できなければ死ぬ呪をかけて、高難度のダンジョンに放り込む」


「殺す気か!」


「元仲間がみじめにのたれ死ぬのを見るくらいなら、一発逆転にかけさせる優しさを評価するべき」


いかんこいつマジだ。

危うく死ぬところだった・・・。


「はー・・・もういいよ。それで、今向かってるのはどっちの店だと思う?」


「ん、条件も良さそうだし、前者?」


「違うな、後者だ」


ん?と肩眉を上げて見せる。

腑に落ちないようだ。


「なぜなのかって顔してるな。元の狙いからずれて安定した経営目指すんなら前者も悪くねぇしな」


「うん」


「相手はあれでも商人だ。表向きは間違ったことは言ってないだろうが、損するような値段じゃ売ってくれねぇよ。どっかで辻褄合わせてる。引退したいだけなら、店はほかの奴に任せればいいわけだしな」


「なるほど」


流石にこいつもさもありなんといった顔をしている。

冒険者だった頃は、なんだかんださんざ足元見られてきたしな。


「それにな、什器や設備そろえてやろうとすれば、結局後者と値段は大して変わらねぇ、どころか少し上になるくらいだ」


「ふむ、後者は?」


顎に手をやり深く考え込んでいる。

考え事の世界には沈んではいるが、話は聞いている。器用な奴だ。


「こっちは『居抜き物件』しかも『造作譲渡料』もかからないと来てる。その上経験者が3人。先が見えねぇのが唯一の欠点だが、それ以外は計画通りよ」


「居抜き?造作譲渡料?」


「ああ。居抜き物件ってのは、店の内装変えないでそのまま今すぐにでも開店出来る物件のことだな。普通は、なんにでも使えるカラの状態で買って、出る時に、またなんにでも使えるカラの状態にして出てく『スケルトン』での賃貸・譲渡契約のが一般的だが、前にあるのも飯屋、そのあとに入るのも飯屋でこれやると勿体ねぇからな。建物や土地の持ち主次第だが、こういうやり方認められてるところも多い。そもそもあのおっさんがオーナーだし、好きにできるしな。造作譲渡料ってのは、『減価償却』される設備等の固定資産、つまりかまどや便所、調理台なんかの内装と、プラステーブル、椅子、什器に皿なんかの道具の買い取り価格のことだ。こっちも普通、ただで内装や皿や什器受け取れるなんてうまい話はねぇし、普通は建物とは別料金で有料なんだがな。内装はともかく、・・・本来なら他所で処分すると二束三文になる。向こうは少し高く売れるし、こっちは安く必要な道具や設備を手に入れられる。今回は上手い事、親父さんが帰ってきたら出店に可能な限り協力するってことで、建物本体とセットで無償ということで手を打った」


「減価償却って、時間の経過や使用により価値が減少する固定資産を取得した際に、取得費用をその耐用年数に応じて費用計上していく会計処理のことでいい?」


「そうだ。良く知ってるな。土地とかは劣化しないから費用計上はいらないが、かまどや建物本体なんかだと、新しくしたり、直したりしなきゃいけないしな。その時の金を損益として他所に積み立て貯金していって、直すときそっからまとめて出す。ちなみに不動産と動産の違いは分かってるか?」


「土地建物は動かないから不動産。馬車やテーブル、椅子は動くから動産」


「まぁそうだな。不動産にくっついてるかまどやなんかの設備も不動産のうちだし、皿やテーブルは動産だ。言葉本来の意味では不動産に付属する内装しか指さないんだが、慣例として動産も入るからな。勘違いしてもめる原因になってる。注意してくれ」


向こうの世界でもそうだったのだが、そこ突いて騙しに来る奴もいそうだしな。


「わかった」


「ま、焼き鳥はな。良さが分かればハマるよ。大体それ一品でもないしな。要は珍しい肉料理をつまみに出す酒場ってことだ。酒も酒税含めても割のいい商品だしな」


手間のかからない漬物や枝豆なんかも、用意するしな。

後はサラダなんかの一品物も充実させる予定である。

向こうですでに当たり前のように感じてるサラダだが、案外歴史が浅い。

野菜を生で食う習慣というのは、昨今出来た習慣だ。

きっとコッチでは物珍しいだろう。


「そう。聞いてみると普通で安心した」


「奇抜すぎると、後が続かねぇよ」


「ふっ」


「今なんで鼻で笑ったし」


「それより行こう」


コイツも楽しそうで何よりだな。

なんで笑われたのかは知らんけど。


――――――

――――

――


「というわけで、おっさん。酔った末のたわ言とは言うまいな?」


「ガハハハ、酒なんぞいくら飲んでも水みたいなもんよ!覚えてるともよ!」


ツルっと剥げ頭の、身長185はあるかという筋骨隆々の親父が盛大な笑い声をあげながら何度も頷く。

パッと見、そこらの山賊が逃げだしそうな厳つい顔に皺をよせ、整えられた口ひげを震わせて常に爆音でしゃべるおっさんだ。

今は目じりに皺が寄っているので、かろうじて上機嫌と読み取れるけど。


「うんうん。むしろ兄ちゃんがその気になってくれてうれしいぜ!」


と言って背中を無造作にバンバン叩いてくる。


「お父さん・・・また相談もなく・・・」


さらりとした金髪を伸ばし、細身の華奢な背をまっすぐに父親の後ろに立っていた娘が、困ったような顔で頭に手を当て、父親とは対照的に控えめな声量で口を挟む。

どうしてこれからこんな可憐そうな子がと、何度も遺伝子に問いたいな。

整った目鼻立ちはクッキリとしているものの、柔和そうなクリッとした目元が優しげな雰囲気を醸し出している。


「ええ、娘さんも責任もって、お預かりしますよ」


「おう!『責任もって』預かってくれるとよ!良かったなリーゼ!」


ん?今なんか・・・。


「しっかし、ワシ相手に物怖じせず堂々としてやがる!ますます気に入ったぜ!にぃちゃんよ!ワハハハ!」


また笑ってる。人生超楽しそうで何よりです。


「え?あ、ああ・・・。別に取って食われるわけじゃねぇしな」


まぁ、冒険者のたまり場行けば何人かは居たしなこんな奴。

慣れてるっちゃ慣れてる。


「おう!その意気だ!そんでそこの娘っ子は?」


「コイツは元冒険者仲間で、まぁ、仕事仲間だな」


「どうも。アイリス副社長です」


「そうかそうか!大事な娘預けるんだ。ほどほどにな!お嬢ちゃんも仲良くやってくれや!」


「お、おう」


一瞬真顔になったなおっさん。なんだってんだ。

嫁にもらうわけでもあるまいし。


「よし!リーゼ、店を畳め!固めの杯だ!」


「お父さん・・・って言っても無駄かな・・・。店閉めるけど、ちょっと事情説明してよ」


「おう!ワシのとっておいた酒どこだ?あっちか?悪いがにぃちゃんとってきてくれ!つまみ作るぞ、リーゼ手伝え!」


「ハイハイ・・・。お酒飲む前にちゃんと説明してよね」


と、こちらへは地下への階段を指し示し、鍵を放ってよこし、娘を引き連れ厨房へドタドタと入り込んでいく。

相変わらず嵐みたいなおっさんだ。

娘の方はぺこりと会釈して父親についていく。


「すごい」


という一言とともに目を点にしている。

珍しくアイリスが驚いた様子だ。


「まぁ気のいいおっさんなんだ。一晩じゅう酒を飲ませてこなければ・・・」


「道理で。まぁ、いい。『私は』大丈夫」


「俺は大丈夫じゃないの確定なんだね・・・」


そう言いながら俺は、楽しそうに大量の料理をする親父さんと、パッパと手際よくそれを手伝う娘さんを横目に、どれだけ酒運べばいいんだろうと地下へ降りていくのだった。

現代では簡単に店舗売買とはいきませんけどね。

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