第三話 ちょっと基本情報だけ共有しようとしてみた
皆さん楽しいGWをお過ごしでしょうか。
説明臭くてごめんなさい、あと動機説明まじめ回になります。
ヒロインの名前が今初めて明かされる。正ヒロインとは言ってないがな!
ぶっちゃけこの先二人がどうなるのかまだ決めてません!
爽やかな朝だ。第二の人生の始まりを、春ごろに選んだのは正解だった。
温かな日差しに乗った柔らかい風が気持ちいい。
「おはよう」
「ん、おはよう」
「さて、社員一号君。売れる店舗の条件とは何があるかね?」
「ん・・・人が多いところにある?」
「残念だが50点だ」
朝っぱらから駄目だしされて無表情ながらむっとしているのが見える。
「じゃあ、何?」
「まずダメな理由だが人が多くても、飯を食うところじゃない立地はダメだ」
「?」
こいつホントに表情変わらんな・・・。
長年付き合ってる俺ですらわかんないときあるしな。
ただ、今までの経験で未知の事やモノを新たに知るとき、コイツは間違いなく喜んでる。
だからこそ、こいつはずっと冒険者を続けると勘違いしたのだ。
「例えばだ、町から町へ一日かかる道のど真ん中に馬屋があったとして、お前は利用するか?」
「なるほど、そんなところはいくら人が通っても、必要ない。そこまで行くのにまず馬使うだろうし、馬を借りる必要はない」
「そういうことだ。飯屋も同じことが言える。そうだな・・・ダンジョンの前に安い価格が売りの酒場を立てたとして、需要はあるか?」
「あまりない。出発前は粗食に慣らすし、酒入れない。それに夜からダンジョンに入ることはまず無い。交通量は多いけど、入り口前に建てると存在する意味はあまりない。帰ってきたら町のギルドに寄って、換金してから、目星つけてたところで打ち上げが普通。実入りがさほどなかった人のために、ギルドの隣に立てた方がずっといい」
「そうだ。だが戦略を変えると話は違ってくる。」
「お弁当屋さん?」
「そう、良く解ったな。それに弁当屋なら万一モンスターが沸いてきても、そこで食うわけじゃないから粗末な店か、屋台でもいい。潰されたり退避が必要になっても身軽に逃げられる。弁当が欲しい奴は、行きの朝の時間帯はクソまずい携帯食を嫌がって買って行くのはもちろん、夕方の時間帯にはダンジョンから帰ってきて腹が空いてる奴が一品物を中心に思わず買っていくだろう。何より営業時間帯が絞れるのがいい。結構あっただろ?そういう店」
「わかる。ただ、営業時間帯が絞れる方がいいというのは?一人でも多く売った方がいいならなるべく長いことやっていた方がいい」
「そうもいかない。個人店なら自分の儲けにお小遣い付け足したくってそれやるのもありだが、人にやらせるとなると、その分給料が発生する。確かにイレギュラーな入り方する奴も少なからずいるが、その場合FLコストに見合わない営業になる。必要としてくれるお客様の為に柔軟に対応せよとか、そういうときこそ自分の技術を磨ける好機などとだまくらかして、ほぼ無給で働かせることもできるがな」
「人でなしの発想・・・やはり滅ぼしておくべきか・・・?それとFLコストとは?」
「だから理由を見つけては俺を消滅させようとするの止めてくれない!?やらないから!絶対やらないから!!」
「大丈夫仲間だから。あなたの犠牲はずっと忘れない」
「イイハナシダナー。ゴホン・・・それでFLコストだったな?それはまた今度。軌道に乗ってからの話になるから、かいつまんで簡単に説明するぞ?」
「了承」
「Fは食材代とLは人件費のコストのことだ。もっと簡単に言うと料理一品にかかる原価だな。そこに上乗せした金額が店の凡その一食当たりの利益ってことだ」
「FLコストって必要なの?」
俺の死を常に望んでいる存在が、可愛らしく小首をかしげている件について。
「うーん、そっか・・・。つまりだ、料理とサービス揃って初めて売り物ってこったな。素人は原材料費ばかり気にするんだが、作る人間、運ぶ人間の人件費がなきゃ食材だけ置いてある倉庫だ。ちなみに売り上げの低い時間帯に営業しても儲からない。これはわかるな?」
「ん・・・」
「なぜ儲からないかというと、食材の問題は・・・この際置いておくとして、人件費がかかるからだ。暇で、人も来ないのにそいつの給料は発生する」
「うん、それはわかってる」
「そんな時間帯は営業自体やめといて、休んでた方が店としてはいいんだ。仕込みだ掃除だ自分磨きだとやらせるにしても、店閉めて集中して終わらせてしまえばいい。もちろん雇う側なら、あーだこーだ理屈つけてやらせておけば儲けになるし、客にもいつでも空いてるからとつい立ち寄る安心感が発生して、その時間の利益は薄くても、馬鹿にならない大きさの集客効果になる。それとたとえ暇な時間帯にも客数の多い店にとっては、安心感でその客数も増えるし、プラスになる」
いったん区切って水を飲むと、真剣なまなざしと目が合った。
コイツなんだかんだこういう理論的な話、超が付くほど好きだよなぁ。
待ちきれないかのように、声に出して促してくる。
「ではなぜやらない?」
「しかしな、給料キッチリカッチリ払っていれば、大体の店舗ではハッキリ無駄の方が大きくなる。それに少ない人数で回すと個人の負担が相乗的に大きくなって、精神的にも肉体的にもつらいんだ」
「精神的、肉体的負担の為にお金を出してるはず。それに路地の飲み屋の親父はみんなやってる」
コイツ、ブラック思想に染まる素養あるな・・・。さらっと言いやがる。
人を滅ぼそうとしたくせに。
「そうはいってもだな。例えば、5人で回す規模の店舗に、暇な時間は一人だけ置いたとしよう。5人で中継ぎしながら動いていたのを、一人だと動く距離が増える、それは2秒3秒程度の違いだが、一時間にそれをやるとどのくらいかかる?」
「お客さんが30人として、90秒だから1.5分?」
「うーん、暇な時間に30人も来ないもんだけどなぁ・・・。来るのは大体5人前後で、その計算だと15秒になるけど。それはそもそも間違いだ。作業には工程がかかるからだな。接客対応分一往復、調理で一往復、テーブルの片づけ、会計等々、客が重なるごとに1分が余計にかかる。そのうち片付けやなんかの工程無視したり、後回しにしたり、客の協力仰いだりするにしても、一時間のうち15分くらいは普段の業務に加えて余計にかかる。よくあることだが、それが一気に来てそれぞれが別メニューだと、最後の客は普通8分かかるところ、15分以上待たされる。しかも調理中に声をかけられるからミスることだってある。そうなれば客も怒る奴もいてその対応でさらに6,7分遅れる。そんなことをしながら次の時間の仕込みだ、掃除だとやる。しかも、会計だ追加だと、客席は常に見張らなきゃいけないから動ける範囲や態勢にも制限がかかる。5対の目がやっていたことを、数が少ないとはいえ1対の目でこなさなくちゃいけないんだ。簡単に考えて従業員が一人減るごとに、15%づつ効率が下がる上に、責任や難易度は15%くらい増えるって考えてもいいな」
「ふむ・・・。そんなに忙しくなるなら給与増やさなければならない」
「そこで、FLコストが合わないという話だ。当然儲けは出ない時間帯だから人件費を削るしかねぇが、そんなんでやってられるか?1時間に対してやってることは確かに5人前後分の仕事に加えて仕込みと掃除だけだけど、店舗内での移動距離、これは『動線』というんだがそれが伸びて、肉体的にも疲れる。客に怒られたり、いつまで待たせるんだという態度を取られたり、死角も増えて注意するべき箇所が加速度的に増えるから精神的にも疲れる。なのに儲けの少ない時間だからと、給料減らそうとされるんだ。大体の奴はやりたくない」
「人探しも大変そう」
「お前の方がダークな思考回路だな、やらせねぇって考えなしかよ・・・。昼なら旦那が働きに出てる間少しでも家計の為にやるってやつもいなくはねぇ、夜は働くやつホントこねぇよ」
日本だとその主婦すら来ないがな。
夜に営業するなら溢れんばかりにプラプラしてる学生頼りだが、こっちもバックレとの戦いだ。
とはいえこの世界はそんな大学生みたいな下地はないから、普通に昼にしか従業員は見込めない。
「もちろんこれは、昼から夜までみっちり営業するつもりの店に限る話だが、いない分は正規雇用の奴をなんとか労働時間過少申告させて無理矢理入れるか、給料上げてバイト入れるのが普通だ。後者は適当やる奴多いから、店の質は下がるし、質を下げたくないなら、責任を持たせる位置につけてあとは社員と同じように、利益が~責任が~言って過少申告させるしかねぇよ」
「それでみんなやらない、と?なら酒場の親父は?昼からのんびりと夜遅くまでやってるけど」
「言っとくが、あれは特殊だ。飲み屋の親父はせいぜい詰めても10人かそこらしか入らない店でやってる。狭い厨房だからほとんど動かないので動線も短い。その上カウンターの上に出せば提供は客で勝手にやるし、下げるのもやってくれるから工程も減る。だからやっていけるんだ。それに自分一人なら文句も出ねぇし、小さな酒場の親父はちゃんとやってけるのさ。閉める時間も営業も気分次第で融通効くしな」
古き良き時代ってやつだな。
向こうではなんだかんだとお客様根性の五月蠅い客がいるからやる方も嫌がるし、個人主義が進んで利用価値が下がって業態として駆逐されている。
友達の家で飲み会する気持ちでいけば居心地良いんだがな。
「何より酒場のピークは夜だ。他所より夜にいい条件で求人出せる。夜帯に足踏み込めばその時間を中心に生活するわけだから、ちょっと大変だしな。大きい酒場でもきちんとしたところは営業時間絞ってる。丁稚を鬼のようにこき使ってる酒場もあるけどな、営業時間延ばす旨味は今は少ない」
「今は・・・?」
「いつか夜も人出が増えるようになれば、夜に生きる人間も増える。無理くりでも夜遅くまでやってる方が儲かるのさ。でも、そうなると社会全体のピークがぼやけるんだよ。どの時間帯も儲けの薄い時間帯になるってわけだ。そうすりゃ今度は、さっき言ったような従業員の胃の痛くなるような営業を続けた方が勝つ。給料も上げるどころか下げなきゃいけねぇし、経営者以外は飯関係の仕事に就くこと自体嫌がる奴が増えるのさ。儲けたいなら少ない人数で酷使しなくちゃいけないが、酷使したら人が嫌がる」
「だいぶ脱線してきた」
コイツの話は無視して俺は続ける。
「それだけじゃねぇ、労働環境を悪化させる先駆けになるってわけさ。夜に働くやつ増えれば、夜に買い物したい奴も増えるし、そしたらそこも夜に営業しなくちゃならねぇ。さらに病気や国への申告も夜に必要だから、できれば遠慮したいところ善意でやってるはずの医者や役所もみんなまとめて右に倣えさ」
「・・・」
「だが、それはやりたくねぇ。やってる奴が少ないうちにやる奴は儲かるが、増えればそれもなくなる。それは業界全体の損失に留まらない。サービスがいつでも受けられるってのは便利だが、それ以上に労働が苦しくなる。仕事が趣味の奴はうれしいだろうがな、そんなもんは少数派だ。たいていの奴は金のためにそこそこキッチリ働いて、その金でうまいもん食って、ダチと楽しくできりゃいいはずだ」
何事かを考えていたようだが、ポツリという
「仕事を怠けたり、努力を怠る人は、害悪。でも・・・」
「そう、全員にそれを強要する。俺はそんな世の中が大嫌いで何もしなくなった。俺はそこそこの努力で、そこそこの生活ができれば自分で幸せになれた。どこまでも、どこまでも言われた通りの努力しても、自分で考えた努力しても、成功も失敗も、それは俺が選んだ人生じゃないから幸せじゃない。みんなのお荷物になってそれを分け与えてやりたい。こんなこと始めた奴は地獄に落ちろと思った」
「それでこの業界から?」
「まぁ昔ちょっと働いてたしな。それにその争いは何処かがというより、みんなちょっとづつ始めた感じだから、この業界だけが悪いんじゃねぇ。それでも国の発展に合わせてきっとそうなっていく。だから、俺が大きくなってそれを止めるんだ」
「でも、そんな国・・・?」
「あー・・・ずっと海向こうの生まれだ、俺」
「そう・・・」
少しだけ少女は、探るようにこちらを見て、そのまま目を伏せた。
そして
「やっぱり、あなたは面白い。私に、私の人生に喧嘩を売る天才」
「・・・ありがとよ!あと努力厨死ね!なんでも努力で片付くと思ったら大間違いだこの野郎」
「まじめな雰囲気に耐えられなくなった・・・これだから怠け者は・・・可哀そう」
「憐れむんじゃねぇ!息苦しいことするのがでぇ嫌いなだけだ!」
「それで、怠け者の御託は聞き飽きた・・・早く働こう」
「この仕事中毒が!そんじゃ行くぞ!店に当たりつけてきたんだ。店が忙しくなる前に行ってやらねぇとな」
やっぱりいつもの軽いやりとりは心地よい。
ガッと立ち上がると、やっぱりこれからのことが、楽しみなのは変わらない。
報われるようにも報われないようにもなった『やる気』が満ちてくる。
性格は合わないが、気が合う少女に再び顔を向けると、俺は声をかける。
「行くぞ!アイリス副社長!」
「了解した・・・ゴミムシ、じゃなくて・・・社長」
「そこに間違える要素無いからね!」
今日も楽しい一日になりそうだなぁ・・・。
見てくださってる方。本当にありがとうございます。
偉人さんの小説を読むと自信がバーンアウトするんです。
漱石様やめてくださいしんでしまいます(^q^)
ホントは主人公の思い的にも思想的にも、もっと長い設定はありますが、そっから先はもう冗長になるんでぶった切りました。
続きは個人個人で考えてみてくださいってことで、余地は残しておきました。
あと主人公は作者なんじゃ?と思われた方もいるでしょうが、モデルは元先輩社員です。
そこに自分なりのアレンジと主人公の生い立ちで補足してあります。
自分はもうちょっと違う思考回路で生きてます。
前作だと主人公のキャラを無理矢理活躍させないと、影が薄くなって困ったんで、そこだけ先にめっちゃ練りこみました。
これでも過去の偉人たちの残した主人公たちの内面描写に追いついてないんじゃないかと悩みます。超むずかしい。一気にやると、説教臭いおまけつき。
これが良いって人もいるかもしれないんで、一応ほかにもいろいろ考えておきます。
言われるまでは必要性ないところで出す気はありませんが・・・。
悩みも尽きないので編集みたいな人欲しいですねぇ・・・。