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第一話 引退

「・・・お疲れ様。元気で」

「いやー寂しくなるのぅ、落ち着いたら連絡するんじゃぞ」

「失敗したら戻って来いよーハハハ。まぁあんたほどの経験者だ。まだまだ現役行けるし勿体ねーよ」

温かい見送りの言葉を受けて俺は新たな人生に漕ぎ出す。



俺の名前は真壁龍之介。元転生者だった。

転生前は30にして引きこもりのニートだった。

親が米農家だったので、家の手伝いはしていたのだが・・・。

ある日の台風で、珍しくやる気を出して田んぼの様子を見に行ったところ、用水路に滑落した。


俺がやる気を出すと本当に碌なことがない。


やる気を出して、勉強すれば中高大と必ず受験当日腹を下した。マークシートは必ずずれて驚異の的中率0%。

やる気を出して、好きな子に告白すれば、なぜか内心一番嫌っている女子に告白したことになり、付き合う羽目になる。しかも重度のヤンデレで逃亡不能だった。

やる気を出して、就職活動したら何故か受けたところは全滅する代わり、受けた覚えのない内定通知が、ブラックと名高い飲食チェーンや介護業界から送られてくる始末。

やる気を出して、仕事をすれば必ず自分に関係のないクレームが発生し、現場責任者として責任を取らされ、陰湿ないじめが起きる職場に配置される。


これで引きこもりになるなって方が無理だ。

すっかりやる気をなくし実家で両親にたかり、ネットで時間と貯蓄を食いつぶす日々だったのは懐かしくも苦々しい日々だった。




用水路に滑落した後気が付いたら、神を名乗る男の前で転生を勧められた。

どうやら俺はあのまま死んでしまったらしい。


しかも腹立たしいことに、運設定ミスって誕生させてしまったからという理由らしい。

やる気を報われるように設定するつもりだったそうだが、どこまでできるかふと興味がわいて、限界を超えて入れられるだけ入力したら、エラーのためゼロになってしまっていたのだとか。

何という職務怠慢、もう死んだからいいけど、あの生き地獄多少のことでは許さん。


怒りに任せて猛然と抗議した結果、お詫びに、新しい人生ではチート能力を3つもつけてくれるというのでお言葉に甘えた。

俺は久しぶりに喜んだ。つらかった人生に感謝した。

だから、嬉しすぎて、「やる気」を出して能力を選んでしまった。





明日潜るダンジョンの為の消費アイテムの金額計算や、武器の手入れのない生活になったことに、ホッとしつつ宿のベットに腰掛け、今までの生活を振り返る。


冒険者になったころは、死にかけて学んで、また死にかけて、あくせく安い賃仕事をこなしては新しい武器に心躍らせ、前世でも見ることのなかった素晴らしい景色に胸を震わせ、楽しい仲間との冒険に次ぐ冒険の日々だった。


明日死ぬかもしれない生活に清々した反面、なんだか前世を思い出す。

あの頃の高校の卒業式も、めんどくさい学校生活から離れて最後にして最大のモラトリアムを満喫する未来が待っているにもかかわらず二度と戻ってこない日常を寂しく思う、そんなせつない気持ちだ。

そういや、別れ際見た仲間たちの顔はあの時の同級生の顔に似ていたな、と一人自然とにやりと笑ってしまう。





俺のチート能力は3つある。『この世にある、もしくは存在しうるすべての魔法が使える』『前世の物をなんでも持ってこれる』『自らの体を好きに変化させられる』


このどれを使っても、新しい人生は決してそればかりではないが楽しく喜びに満ちていた。

しかし、平凡な冒険者としてしか生きられなかった。


一応能力についてはポンコツなので説明しておこう。


まず『この世にある、もしくは存在しうるすべての魔法が使える』は大失敗だ。確かに何でも使えるが、自分自身の魔力が平均以下だった。

大魔法を使えば発動前に干上がって死にかけるし、過去にも戻ったり、好きなところに転移したりなんでもござれだが、込められる魔力の出力が弱すぎて時間制限か、効果上限が低すぎて話にならない。

3秒前に戻っても惨劇は回避できないし、ならばいっそ現代に戻って魔法で逆チートだと思っても転移陣には指先しか通らない。


魔力補助アイテムは、一般アイテムは消費中には回復しないし、高価値アイテムは高すぎて手が届かないし、そもそも数少ないので所有者も手放さない。

手に入れたところでやっぱりどこまでできるか不明だし、高位者か国家しか持ってないので奪い取ろうとしようものなら、高確率でミンチである。

それでも金があれば、理屈上は何とか抜きんでた存在にもなれるかもしれないけれども・・・。



二つ目は『前世の物をなんでも持ってこれる』

確かに出せるが、機械は電気が無い。設備もないから大したものが使えない。

もうちょっとよく考えて条件設定するべきだったと今でも後悔している。


銃火器やなんかも出せるし、これには冒険中ずいぶん助けられたものだが、向こうの世界でなくなるとパニックが起こるので、調子に乗ってドラゴン相手にRPGを出したところで、神の奴に使用制限を付けられてしまった。

今ではマフィアが捨てた拳銃とか、廃棄予定の弾薬しか出ない。

それに、魔力は肉体にも通っているらしく、普通に弾丸見切る剣士とか、はじき返す拳闘士とかそこらに結構いるし、効かない魔物なんかはゴマンといる。

魔力の薄い向こうにでも連れて行かないと、確かに強いし怖い武器だが、逆にその程度でしかないのだ。



三つめは『自らの体を好きに変化させられる』

これも味方に喜ばれる能力ではあったが、大部分が魔法と被っていたし、元の質量を超えて変化はできない。

多少の欠損なら修復できる魔法の方が回復手段としてはむしろ有効である。

それにイケメンにもなれるが、元が褒められるわけじゃないので、ちっともうれしくない。

やっぱり不満はあっても自分の顔が一番落ち着くね。


美女になれるってのはちょっといろいろと、うん、かなりいろいろと楽しんだが、男の子に戻れない空恐ろしい限界を感じたので、もうやっていない。

そもそも男に言い寄られるのも恐ろしいし、まかり間違ってあれとかこれされたら俺は本当に男相手にすらまともでいられるのだろうかという恐怖は筆舌に尽くしがたい。


ちなみに仲間にモロバレしたうえ、使用禁止令を出された。

ついでに冒険者同士では、変な魔法が使えると広まっている。


―――言っておくが、仲間の着替えをのぞこうとしてバレたわけではない、あれは危険なところで着替えていたので守ろうとしただけである。

しかし、人を信じるということができない愚かな者たちによって、悪用は禁止され、特殊スキルとしてギルドに登録されてしまった。

ちなみに仲間の魔法使いのおっぱいは80のGくらいである。ちっさいくせに着やせしてたんだなぁ・・・。



「―――よう、世話になったな」


「ま、お前さんは金払いもきちんとしてた。他の奴らよりも上客だったよ。何かあったらまた寄ってくれ」


長年愛用した宿の主人にも、声をかけて出る。

冒険者が多く集うこの宿は、ダンジョンや隣町へのアクセスは良い。

しかし、普通に利用する分には町の中心から離れており、一般客には使い勝手の悪い宿なのだ。


「機会があったら、きっと寄るよ!」


社交辞令という奴だが、力強く返事をする。

いずれ冒険が懐かしくなった時に、見慣れた主人の顔を見に来るのも悪くないか。



こうして低燃費の細かい魔法と魔道具を使い分ける、剣の腕の微妙な、特殊スキル持ちの変態戦士『千変小技のリュウ』として、そこそこの活躍をして引退したわけである。

この日の為に、異世界転生冒険者チーレム計画に限界を感じた俺は、ある目標へのお金を貯めるため、あくせく働いていたのだから。

思い付きスタートです。前作の方完結させるまでは優先しますので遅速です。

まったり更新予定。

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