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08:エルフさんと梅の木に宿る精

「精霊?この世界にもいるの?」


 こんな私が言うのもなんだけど。


「何処の世界にも精霊の様な存在はいるのですが、この子が困っていたのでつい……」


 それは初めて聞いた。

 それにしてもそんな存在、今まで見た事が無い。


「何回もここには来た事があるけど、初めて見たわよ」


「それはきっとエンシェントエルフになったからだと思います。向こうの世界でも精霊を感じる事は出来ても、姿を現さない限り目にする事は出来ません」


 そう言う事か。


「それでどうするの?」


「少し弱っていて意思疎通が上手く行かないのです」


「どうにか出来ないの?」


「魔力を分けてあげればどうにか出来ると思いますが、私の魔力を上げて良いのかが分かりません。私はこの世界の者では無いので」


 迂闊な事は出来ないのか。


「誰かに聞けないの?」


「その手がありましたね。ちょっと待って下さい」


 リアは懐から携帯を取り出し少し離れた所で電話を掛け始めた。

 女の子は不安そうに私とリアを交互に見ている。

 だからと言って私もリアの指示無しに勝手な事は出来ない。

 リアが少し困った顔をしている。

 何かあったのだろうか?

 そう思っていたら電話を仕舞ってこっちに戻ってきた。


「お待たせしました」


「どうだったの?」


「日本を管理する神に聞いたのですが……」


 日本の神は電話で気軽にやり取り出来るのかしら?

 神様って、そんなにお気軽なの?


「私達の魔力でも問題は無いとの事でした」


「じゃあ、リアが魔力を分ければ解決ね」


「いえ、それがですね……」


 何かあったのだろうか?


「出来れば花梨奈にやって欲しいとの要望が向こうからありまして……」


 それで困った様な顔をしていたのか。

 でも何故かしら?


「世界にいる者はその世界を管理する神の影響を強く受けます。人だけでは無く動物、植物、あらゆる物質も。精霊も例外ではありません。私の魔力を譲渡しても問題無いのですが、私の場合は完全な異世界の者です。なので魔力が馴染み難いのです。それに比べて花梨奈は体はヴァースの物ですが、魂はこちらの世界の物です。魔力は魂に大きく影響を受けますので花梨奈の魔力を分け与える方が受け取る側の負担が少なくなります」


 説明を聞いて合点が行った。


「それとイレギュラーを許容しているんだから少しぐらい手伝っても罰は当たらないだろう、と」


 それを言われると何も言えない。

 自分がイレギュラーな存在だと言う事はよく分かっている。


「無理を押し通した手前、私もそう言われてしまっては要望を聞かざるを得なくて……」


「分かったわ。やってみる」


 私は女の子の前にしゃがみ込む。


「少しお話したいの?」


 私はにこやかな笑顔で手を差し出す。

 そうすると女の子は私の手をそっと握る。

 私は彼女に送る様に魔力を流す。

 そうすると彼女は驚いた様な顔をして手を放してしまった。


「少しは回復した?」


「あれ?わたし……お姉さんが力を分けてくれたの?」


「そうよ。困った顔をした子を放っておけないでしょ?」


 私がそう言うと女の子は俯いてしまった。


「……ありがとう」


「どう致しまして」


 彼女の頭を優しく撫でてあげると彼女は照れ臭そうな表情を浮かべた。


「……お姉さん達は私が見えるの?」


「そうよ。何か困っている事があるなら聞くわよ?」


 私はチラッとリアの方を見ると頷いた。

 問題は無い様だ。


「良いの!?」


 私が頷くと女の子の不安なそうな顔が一気に明るくなった。


「わたし、梅に宿る精なんだけど、最近、お母さんの声が余り聞こえないの……」


 話を聞くとこの女の子はここの梅の木達を守る精だった。

 この梅林が造成される時に母親の精にここにいる梅の木を任されてここに来た様だ。

 どう言う理屈かは分からないが、距離が離れていてもお互いの声が聞こえていたのだが、最近声がはっきりと聞こえなくなったらしい。

 気にはなりつつもここの梅林からは動けないのでどうにかして確認出来ないかと思い、困っていたみたいだ。

 力が足りなくなっていた原因は母親の声を聴く為に力を開放して聴く事に専念していたら気が付けば枯渇していた様だ。

 この時期は梅の木が休んでいるのもあり、中々力が回復しないらしい。

 出来れば何とかしてあげたいけど……。

 リアに目線を送る。


「もし宜しければ私達が確認してきましょうか?」


 私の意図を察したリアが梅の精に聞いた。


「……お願いしていいの?」


「構わないわ。因みにお母さんは何処にいるの?」


 折角、ここまで聞いて断るのは人情として無い。

 母親を探す所からだと厳しいけど。


「お母さんはここよりずっと東でここより暖かい所にいるの」


 ……何処かしら?


「もう少し無いかしら?」


 梅の精は腕を組んで難しそうな顔をする。

 さっきの情報だけでは何とも分からない。


「昔、お殿様がいた所のお庭!花がわたしのよりすっごく綺麗なの」


 そうすると水戸の偕楽園の可能性が高い。


「分かったわ。少し時間が掛かるかもしれないけど大丈夫?」


「うん。あ、これを持って行って。お母さんがいたら姿を見せてくれると思うの」


 この時期には無い蕾の付いた梅の小枝を梅の精から受け取る。


「分かったわ。春にまた来るからそれまで待っててね」


「うん。お姉さん達、ありがとう!」


 彼女と別れ、少し背中から寂しさを感じながら梅林から離れる。

 距離が離れた所でリアへ確認する。


「こっちの世界の事に介入した形になってしまうけど大丈夫?」


「電話でその事も話したのですが、報告さえして貰えれば基本的には構わないとの事でした。あの方達は有名過ぎて動けないので何かあった時はお願いするかもしれない、と……。私達は居候なので断れませんので」


 居候と言われてしまえばそうかもしれない。

 問題無いのなら良かった。

 これで文句を言われたら面倒だから。


「それなら良いわ。今度、水戸の偕楽園に行かないとダメね」


「私にはよく分からなかったのですが、そこに行けば彼女の母親に会えるのですか?」


「私の予想があっていればだけどね。その前に車の免許を取らないとダメね」


 正直、電車で行くのは面倒だ。

 北陸新幹線で行くのも悪くないけど車でかっ飛ばして行きたい。


「私は車は持っていませんよ」


「大丈夫。生前使っていたのがあるから」


 小立野口の方へ向って辰巳用水、山崎山、鶺鴒(せきれい)島、日本武尊(やまとたける)像を見て霞ヶ池の南側に来た。

 兼六園の写真でよく見る灯篭はこの霞ヶ池にある物だ。

 ここは兼六園観光ではメインスポットなので人が多い。

 土曜日と言う事もあり、観光ツアーの旗を持った人があちこちにいる。


「凄い人ですね」


「ここは一番人気だから」


「でも何となく分かる気がします。この池の風景は私も好きです」


 私もリアと一緒でここの風景は凄く好きだ。

 兼六園に来てこの眺めを見ないのは有り得ない。

 定番だからこそ是非、見て欲しい所だ。

 灯篭のベストショットが撮れるポイントは人でごった返しているので、近づくのを断念した。

 春に来る時は平日にしよう。


 今日はこのまま桂坂口から外へ向う。

 兼六園は一度で全部回るよりも何回も来て見る方が楽しい。

 そこから陸橋で道路を渡って金沢城の方へと向う。

 金沢城はリアの希望だ。

 日本の城には興味があった様で一度は見に行きたかったらしい。

 兼六園に行く時点でセットで行くから何も問題無し。

 桜の時期にこの陸橋からの風景は格別なので春には二回来る事になるかしら。


 金沢城は石川門、三十間長屋、鶴丸倉庫以外は焼失している。

 なので城の天守閣は存在していない。

 復元整備事業として第一工事で菱櫓、橋爪門、橋爪門続櫓、五十間長屋が復元され、現在第二工事が進められている。

 昔は敷地内に金沢大学のキャンパスがあったが、現在は角間の方に移転してしまっている。


 陸橋を渡ってすぐにあるのが石川門だ。

 左右に配置されている櫓が圧巻だ。

 門へ入って右手に第二の門がある。

 石川門を抜けた所に三の丸があった場所で今は広場となっている。

 三の丸は石川門、河北門の内部の郭を指し、高地番所と物頭番所があり、宿直して警備に当たった所だ。


 先へ進んで平成二十七年、ほんの最近復元されたばかりの橋爪門へ来た。

 ここは二の丸の正門として最も格式の高い門だ。

 重厚感のある門で私も現地で見るのは初めてだ。

 出来た頃はちょうど入院していたからね。

 リアは凄ーい、と言いながらスマホで写真を撮るのに夢中で単なる観光に来た外国人と化している。

 いや実際その通りかしら?

 ある意味写真を撮らずにいる私の方が珍しい存在かもしれない。


 橋爪門を抜けると二の丸跡の二の丸広場に出る。

 ここで押さえておきたいのは菱櫓だ。

 天守閣の無い金沢城で一番シンボルとなる建物で大きな石落としや千鳥破風の華やかな外観は見る者を惹きつける。

 この菱櫓は他の城には無い特徴を持っており、金沢城の一番の見所だと思う。


 二の丸広場から極楽橋を渡り三十間長屋を見て、玉泉院丸庭園へ向った。

 ちょうど通路の階段を下りると庭園を見下ろす様な形で全景が見渡せる。


「これは凄いです。今日、見た中で一番かもしれません」


 リアが驚きの声を上げた。

 ここは二代目藩主前田利長の正室である玉泉院が屋敷を構えた事がその名の由来とされ、橋爪門と同様に最近復元されたばかりの場所だ。

 再現されているのは江戸末期の光景だ。

 私が思ったのはまるで箱庭だと思った。

 庭園にも関わらず非常に立体的な造りで、段落ちの滝から流れてくる様は非常に優美で池に浮かぶ小島も自然でつい見惚れてしまう。


 通路の階段を下りて池のほとりにある建物へ歩いていく。

 この建物は玉泉庵と言って休憩所である。

 元々は露地役所、簡単に言うと庭の整備管理に関する役所のあった場所だ。


「ここで休憩していく?」


 リアはお腹を押さえた。


「メロンパンアイスは捨て難いですが、そうですね。折角なので休憩して行きましょう」


 どうやらリアはここで食べられる抹茶と生菓子とさっき通りにあったメロンパンアシスを比べていた様だ。

 玉泉庵では抹茶と生菓子を頂きながらお座敷で休憩が出来る。

 因みにここを貸切にしてお茶会等を開く事も出来る。

 そんな機会は無いと思うけど。


「金沢はどう?」


 私は抹茶を一口啜る。

 良い苦味だ。


「良い所ですね。こっちの世界は東京の一部しか知らないので新鮮です。私の世界には日本の様な文化は生まれませんでしたから興味深くもあります」


 ヴァースにいた時に色んな土地を回ったけど、日本に近い文化を持っている街は見た事が無い。

 日本から来た転生者の知り合いがいない訳では無いが、皆口を揃えて私の家が日本っぽいと言う。

 理由は単純で板張りではあるが二階が土足厳禁だからだ。

 実は王都にある侯爵家の本邸の庭は少しこだわって日本庭園っぽくはしたが、あんまり上手く行かなくて風変わりな庭園にしかならなかった。


「この庭園は見ていると凄く落ち着きます。町の中なのに、ここだけまるで別世界です」


 リアの言う通り金沢城は広坂、香林坊と繁華街のすぐ傍にあるが高台になっており、中の庭園にいると自然に囲まれている事もあり、街中だと言う事を忘れてしまう。


「今日は本当にありがとうございます」


 リアは笑顔で私に感謝を述べた。


「まだ終わってないわよ」


「そうでしたね。ここにいるとつい落ち着いてしまいました」


「そうね。ここにいると嫌な事を忘れられそう……」


「この華やかなお菓子は少し変わってますね。上品な甘さが良いです」


「それは上生菓子ね。金沢では人をもてなす時に出したりするわよ。私の生まれた富山ではそんな事はないんだけど。これを食べた後に抹茶を飲むと味が引き立つのよ」


 お茶の席に出るお菓子はお茶を飲む前に食べるのが正しい。

 お菓子はお茶を美味しく頂く為にある物だからだ。

 抹茶と生菓子を頂いて休憩した後は玉泉院丸口から出る。


 ちょうど出た所には緑地が広がっており、大通り方面には旧県庁をリニューアルしたしいのき迎賓館がある。

 平成十四年に県庁が広坂から鞍月へ移転した際に跡地の再利用と言う事で造られた。

 結婚式場に使ったりも出来るらしいけど、基本用事が無いので行った事は無い。


 もう少し回っても良いのだが今日は良い宿を取ってあるので程々の時間にチェックインをしたいので、しいのき迎賓館前から金沢周遊バスへ乗って橋場町へ向う。

 目的地はバス停のすぐ目の前だ。

 ここには一度しか来た事が無い。

 都さんにここを予約したと言ったら羨望の眼差しを向けられた。

 今日の宿は金沢でも老舗の懐石料亭旅館の金城樓。


 自腹だとここは取らない。

 高くて庶民には手が出ない。

 二人で一泊十万超えてるのだから。

 予約する時にリアに確認は取ったが問題無いと言われたので容赦無く予約した。

 懐石料理でメニューによっては一人四万もするのだ。

 味は文句無しの天下一品なのは言うまでも無い。



日本の神様は折を見て出てきます。

ど定番の神様しか出す予定なので意外性は薄いです。

金沢は抹茶と生菓子が頂ける場所は地味に多いです。

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