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52:エルフさんと本巣家の焼きそば

 三階へ上がると何やら音楽と一緒に効果音や声が聞こえてくる。


 この様子だと皆起きているわね。

 私はノックして彩奈の部屋の扉を開けると布団の上に寝転がってゲームしているネフティスさんとリアと彩奈。

 美希は一番、奥で気持ち良く寝息を立てていた。


「花梨奈、おはようございます」


「おはよう」


「ふわぁ……おふぁよう……」


 寝なくても平気なネフティスさんとリアは元気だが、彩奈は眠そうだ。


「おはよう。そろそろ起きなさい。夜更かしも程々にしておきなさい」


 起きていた三人はゲームを一度中断して布団からもぞもぞと出てくる。


「後30分程したらお昼ご飯にするからそれまで準備しておいてね。彩奈、美希をお願いね」


 私が来ても起きる気配が無いので彩奈に任せてしまう。


「……分かった。ふわぁ……。美希姉、朝だよ……」


 彩奈は欠伸をしながら美希を起こしに掛かる。


「もしかして彩奈寝てないの?」


 私の言葉に彩奈だけではなくリアも目を逸らした。

 これは間違いなく夜通しでゲームしていたわね。


「彩奈、あなたも良い大人なんだから程々にしておきなさい。それに今日も夜遅くまで起きているんでしょ」


「分かってる。少し昼寝するから大丈夫……ふわぁ……」


 眠そうにしながら答える様子に私は溜息を吐く。


「全くもう……。リアもあなたは眠らなくても良いけど、彩奈は普通の人間なんだから。しっかりしてよ」


 リアは自分に飛び火するとは思っていなかった様で驚いた顔をしながらも大人しく反省している素振りを見せた。


「すみません……。つい楽しくて……」


 リアは反省しているのか肩を落とした。


「ふふっ、リアが叱られているなんて初めて見たわ。花梨奈、あなた凄いわよ」


 ネフティスさんが私とリアのやりとりに面白そうに言った。


「まぁ、付き合いはそれなりに長いからね。後々を考えると今の内にしっかりさせておかないと大変じゃない?」


 リアは清楚でお淑やかな見た目と穏やかな性格に反してかなりのお茶目さん、且つ微妙な残念感を併せ持っている。

 ある程度それを制御出来ないと一緒に仕事をした時が大変になるのは目に見えている。


「それをさらっと言ってのけるのが凄いんだけどね。リアも意外と楽しくなると周りが見えなくなるからねぇ。それより今日はどうするの?」


「今日は夜までのんびりね。紅白を見た後は尾山神社に初詣ね。いつもは元旦の昼過ぎに行くんだけど、ネフティスさんとヘルッタがいるから年越し直ぐでも良いかな、と思って」


 二日にも初詣に行く予定ではあるが、折角だから二箇所回ろうと考えている。

 元旦は尾山神社で二日は白山比咩神社へ行く予定。

 羽咋の氣多大社へ行くのも考えたけど、混む上にちょっと遠いのよね。

 今年は伊勢神宮へ行くから充分。

 念の為、リアに行く神社が私が行っても問題無いか確認したらどちらも問題無し。


「それじゃ期待してるわ。時間的に着替えたら下りたら良いのかしら?」


「えぇ。リア、ネフティスさんをお願いね。私はお昼の準備をするから」


「分かりました」


 台所へ戻ると都さんが既に材料を切り終わった所だった。


「都さん、全部やってくれたのね。ありがとう」


「材料を切るだけですからね。後は皆さんが下りてきてからですね」


 焼きそばの準備は完了。

 後は男衆にお任せ。

 輝が物置からホットプレートを二台持ってきて食卓に設置する。

 昔から我が家は人数が多いので焼き肉やお好み焼きをする時はホットプレート二台使いなのだ。

 六人分や七人分になるとホットプレート一台じゃ足りないし、今回は十人もいるのでフル稼働をしないと間に合わない。


 ホットプレートの準備をしているとおつかいに出ていた華奈も戻ってきた。

 その頃になると全員リビングに下りてきて食卓に着いていた。


「あら、今日は何をするのかしら?」


 ネフティスさんは食卓に並ぶホットプレートや食材を見ながら興味深げに聞いてきた。


「今日は焼きそばよ。簡単な料理だけど、こうやってみんなで囲んで焼きたてを食べるのも美味しいのよ」


 正確には我が家は人数が多く、フライパンで人数分を準備するのが厳しいのでホットプレートで作ってみんなで取り合うスタイルになっている。

 お昼ご飯に私とヘルッタとリアの三人だけとかならフライパンで作ってしまうんだけどね。


「お鍋とはまた違うのね。これは花梨奈や都が作らないの?」


 旦那と輝が油を引き始めて調理し始めた事に疑問を覚えた様だ。


「ウチだと焼きそばやお好み焼きは仁君や輝がやる事になっているの。お父さんの活躍の場みたいなものかしら?」


 何故か、そうなっている。


「最初は花梨奈がお好み焼きをひっくり返すのが苦手で儂がやり始めたのが初めだな。昔は今程料理上手じゃ無かったからな」


 旦那の言葉にネフティスさんだけでは無くヘルッタや孫達も意外そうな顔をした。

 私が料理をやり始めたのは結婚してからだから最初は本当に下手っぴだったのよね。


「私自身、そんなに起用じゃないからね」


 他愛の無い話をしながら旦那と輝は調理を続ける。


 油が温まってきたらスライスの豚バラ肉を炒める。

 お肉に豚バラ肉を使う場合は油は控えめにしておく。

 場合によっては油は引かなくても良い。


 豚バラ肉に火が通ってきたら人参としめじを入れて、その後に火の通りやすいピーマン、キャベツ、もやしを入れて炒めていく。

 野菜が半生ぐらいの火の通り具合になったら野菜をホットプレートの端に除けて、ほぐした麺を入れる。

 そこに炒めた野菜を被せて沸騰したお湯を少し入れて麺を蒸し焼きにする。


 麺が程よく柔らかくなったら三食焼きそば付属の粉末ソースを二食分をふりかける。

 実はここが我が家の特徴でソースは全部使わない。

 代わりに醤油をと塩コショウで味を足す。

 こうするとソース辛く無くあっさりとした焼きそばに仕上がるのだ。


 この作り方は昔、旦那とよく一緒に行った喫茶店のマスターに教わった焼きそばの作り方。

 これに慣れると普通の焼きそばはソースが強くてあんまり好みでは無かったりする。


 味付けをして炒めると言うよりは味を馴染ませる様に混ぜると完成だ。


「これで完成だ。取っても良いぞ」


 旦那が完成の合図をしたので私はネフティスさんの分を皿に取り分ける。


「どうぞ。後、真ん中にある青海苔や鰹節、紅生姜はお好みで使って」


「ありがとう」


 ネフティスさんはそう言って周りの人を見ながら鰹節や青海苔をかけている。

 リアは二度目なので慣れた手付きで自分の分を取っている。


「焼きそばって、初めて食べたけど美味しいわね。この青海苔と鰹節も風味が良くてよく合うわ」


 我が家の焼きそばの味にネフティスさんはご満悦な様で何より。


「このソースは一体何で出来ているのだろうか……」


 ヘルッタは美味しそうに食べているがソースの正体が気になっている様だ。

 この三食焼きそばのソースは醤油をベースに塩や砂糖以外に複数のスパイスが入っている。

 ウスターソースとかだとお酢も入っているらしい。


 ヘルッタは最近、こちらの食材の研究に余念が無い。

 色々な調味料や食品の作り方を調べて丁寧にまとめている。

 はっきり言って私より色々調べている。

 この調子だと帰ったら料理人とか料理研究家になりそうよね。


 腕白盛りの透也は早速、おかわりをして美味しそうに食べている。

 旦那達はさっと食べ終えて次の分に取り掛かる。

 私もそれと同時に席を立って台所へ向かう。

 それを見ていた透也が目を輝かせて期待の眼差しが私の背中に刺さる。


「花梨奈は何をするのかしら?」


 ネフティスさんは不思議そうに言った。

 私は冷蔵庫から人数分の卵を取り出す。


「焼きそばと言えば目玉焼きだよね」


 自信満々に答える透也。

 焼きそばのトッピングと言えば目玉焼き。

 鉄板のトッピングである。


「この焼きそばに卵……どんな味になるのかしら?」


 ネフティスさんが不思議そうに次の焼きそばを待っている間に私はガスコンロにフライパンを二つ並べて油を引いて火に掛ける。

 卵はボウルを二つ準備して五個ずつ割り入れる。

 目玉焼きを焼く時は卵を割って直接フライパンへ投入するよりボウルに割ってから静かに入れた方が綺麗に焼ける。


 熱したフライパンに卵を静かに入れて、縁から水を入れて蓋をして蒸し焼きにする。

 我が家のフライパン用の蓋は透明なので揺らして卵の黄身の様子を確認しながら程よいタイミングで火を止める。

 私の焼きタイミングはバッチリでちょうど焼きそばも出来上がった所だった。


「さ、目玉焼きを作ったから焼きそばを取った人からお皿を出して」


 私の言葉に我先にと透也が皿を出す。

 本当に食いしん坊な孫でご飯の作り甲斐があるわね。

 透也の焼きそばの上に目玉焼きを乗せると早速、半熟の黄身を崩して焼きそばと絡めて満足そうな表情で食べている。


 透也の美味しそうに食べる様子を見たネフティスさんが私に催促する様に見てくるので目玉焼きを乗せてあげる。

 ネフティスさんは透也を真似て半熟の黄身を絡めて一口。


「黄身が焼きそばの口当たりを優しくしてくれるのね。これは美味しいわ」


 焼きそばと目玉焼きは最強の組み合わせである。

 全員に目玉焼きを配り終えた私も一口。

 普通に食べても美味しいけど目玉焼きの半熟の黄身が焼きそばの味を柔らかく包んでくれるので非常に食べやすい。

 それに同じ味が続かず程よい味変で食欲が増すのも良いわね。

 紅生姜の酸味もちょうど良いアクセントになっていて脂っこさを軽減してくれている。


「この味に慣れると外の焼きそばが食べられなくなるのよね」


「これ、普通の焼きそばとは違うの?」


 私の言葉にネフティスさんが質問をした。


「普通はソースで味付けをするんだけど、ウチのはソースを少し少なめにして醤油を入れているのよ。その分あっさり食べられるの」


「昔からこの味だな」


 旦那もこの味に慣れてしまっているので外ではあまり焼きそばを食べない。


「僕はどっちも好きかな」


 食いしん坊の透也は結構、濃い味も好きなので問題無いのだろう。


「私は仕事で大阪へ行くけど、向こうのコテコテのソース焼きそばも美味しいから好きかな」


「私はやっぱこの味ね」


 彩奈と美希では意見が分かれるみたいね。


「地域によっても味が違うしな」


「そうなの?」


「あぁ、静岡の富士宮だと魚粉が掛かっていたり、新潟だとトマトソースが掛かっていたりするんだ」


 輝がネフティスさんにご当地焼きそばについて説明する。


「新潟はここより北だったかしら?機会があれば行ってみたいわね」


 どうやら興味を惹いた様だ。


「ネフティスさんは日本によく来られるのかしら?」


「年に一回来るか来ないかね。京都と北海道と沖縄は行った事があるけど、他の場所は無いわ。北海道はご飯が美味しくて雪も見れて楽しかったわ」


 北海道強し。

 私も何度か旅行に行った事があるけど、一度では回りきれないのと美味しいご飯がたくさんあるのでまた行きたくなる場所。

 難点は国内旅行の中でもトップクラスにコストが高い事。

 旅行費用だけで言えば台湾や韓国へ行く方が断然に安い。


「北海道は良いです。函館や小樽で食べ歩きなんて魅力的です」


 どうやらリアは食べ物の事で思考回路が埋まっている様だ。

 気持ちは分かるけどね。


「北海道か~。懐かしいな」


「そうですね。新婚旅行以来行っていませんね」


 輝と都さんの新婚旅行は北海道だったりする。

 当時は今ほどお金に余裕が無かったので国内での新婚旅行になったのだ。

 本当はハワイやグアムに行かせてあげたかった。


「北海道はまた行きたいわね。修学旅行以来だから」


「私は沖縄だったから行った事無い。今度、友達と北海道旅行でも計画しようかな」


 美希と彩奈は修学旅行を思い出している様だ。

 因みに私の時代は奈良と京都と言う昔の定番。

 一体、何年前の事やら。

 ヘルッタは一人会話に入れず興味深々に聞きに回っている。


 ヘルッタと二人で北海道旅行なんてのも悪くないかもしれない。

 個人的には函館、小樽、札幌も回りたいけど、他の場所も行ってみたい。

 広いから一度に回りきれないから何処に行くかはかなり迷いそう。


 こうやってわいわいと楽しみながら昼食を食べていると私は言わなければいけない事を思い出す。


「そうだ。折角、みんな集まったから夜は紅白を見ながら麻雀をやりたいんだけど、どうかしら?」


 そう、夜の麻雀の話だ。


「偶には良いかもしれんな。面子はどうする?」


 旦那はかなりやる気な感じで良かった。


「ネフティスさんは麻雀はやった事あるかしら?」


「一応、ゲームでならやった事があるわよ。でも牌を使ってやった事が無いわね」


 都合が良い事にネフティスさんはやった事があった様ね。


「それならネフティスは参加ですね。私は笑ってはいけないを見たいので不参加でお願いします」


 どうやらリアの中では麻雀よりお笑いの方が大事らしい。


「僕もそっちみたいから不参加かな。姉ちゃんは?」


「私は参加しようかな。あんまり強くないけど」


 透也はお笑い組で華奈は参加。


「それなら俺も負けられないな。母さんには負け越してるし」


「お義母さんは強いですからねぇ。私も久しぶりなので参加します」


 輝と都さんも参加確定。

 でも負けてあげるつもりは無い。


「私はパス。麻雀弱いし」


 美希は私に麻雀の腕だけは似なかった。

 別に似る必要は無いんだけど。


「私は参加かな。ヘルッタさん、もし混ざるなら教えるよ」


「おぉ、かたじけない。それならお言葉に甘えよう」


 彩奈とヘルッタが参加と言う事でこれで面子は確定。

 この面子を考えると本気組とまったり組で分かれる感じになりそうね。

 ネフティスさんがどっちのタイプか分からないけど楽しい夜になりそうだ。



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