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閑話09:エルフさんの三女と女神達との東京散策④

 リアさんの問いに私は素直に首を縦に振る。

 このパフェの味を知っているのは間違い無い。

 でもこのお店は聞いた事が無い。


「支配人、ノワールと言うお店は伝言でそのお店と言う事を指し示されているだけで天照の遣いが持ってきた物ではありませんか?」


 どう言う事?


「その通りでございます。食事の準備中に天照様の遣いの方がこちらのパフェを持って来られました」


「恐らくですが、ノワールと言うお店は存在しないと思います。馴染みと言ったのは嘘で彩を驚かせる為の方便でしょう」


 私を驚かせる為だったとしても、どうしてそんな事をする必要があるのだろうか?


「このパフェ、若干ですが、フルーツには相応しくない香りが付いています」


 私はそう言われて食べ終わった器の匂いを嗅いでみる。


「これは……煙草?」


 ほんの僅かだが煙草の匂いな気がした。


「そうです。彩は昔、煙草を吸うお客が多いお店でこのパフェを食べていませんでしたか?」


 何故、それをリアさんが知っているのだろうか?


「……はい。昔、お母さんと一緒に行った喫茶店で食べた事があります。煙草を吸うお客さんが多かったと思います」


 実は昔は体が弱くて病院によく通っていたんだけど、毎日注射されたりで嫌でよく行きたくないとダダを捏ねていた。

 実家が病院なのに別の病院に通うのかと思うのかもしれないが、ウチでは扱ってない管轄なのでどうしようも無い。

 そんな嫌がる私を病院に連れて行く為に我慢したらパフェを食べさせてくれると言うのだった。

 病院の近くに喫茶店があり、平日はサラリーマンが多く利用する店で今みたいに禁煙のお店の多くは無かったので煙草を吸う人は少なくなかった。

 それにお母さんもヘビースモーカーなので都合が良かったんだと思う。


「天照もややこしい事をしますね。良かれと思ってお節介を焼いたのでしょう。彩奈の母である花梨奈が戻ってきたので、過去からこのパフェを持ってきたのでしょう。懐かしい味を堪能してもらう為に」


 え、過去から?

 私の為に?

 驚きで口をパクパクさせる私に対してリアさんは説明を続ける。


「過去に干渉は基本的に良くはありませんが、影響が無い範囲では黙認されているのが現状です。多分ですが、天照の遣いが過去まで行って買って来たのでしょうね。知らない者には厳しいですが、知り合いになると甘過ぎます」


 どうやら過去への干渉は基本的にはダメな行いっぽい。


「でも何でここに?」


 私の疑問に答えたのはヴァルファルネアさんだった。


「それは楽しかったんじゃないかな?素で誰かと接する機会が少ないから余計に。この国だと天照と言えばね?」


 楽しい、と言っても私は普通にゲーム的な話をしていただけなんだけど。

 精々したと言っても仕事の愚痴だったり、何処かのご飯が美味しかったとかその程度。

 そんなに喜ばれる程なのかな?


「彩には分かり辛いかもしれませんわね。神の感覚は。神もあなたが思っている程、大した存在では無いのですわ。神だって誰かを愛します。悲しみます。喜びます。人間と一緒に感情が存在するのですわ。だからこそ普通の事が楽しかったと言う事でしょう。私も今の関係は楽しいですし」


「そうね。私も国に戻れば天照みたいな扱いだからね。まぁ、それが仕事だから割り切ってはいるけど、こうやって自由に楽しみたいって、言う思いもある訳よ。天照は色々と制限が多くて外に出にくいから余計よね」


 ベティさんもネスさんも天照さんの気持ちが分かる様だ。

 私に分かるか、と言われれば難しいと思う。

 神様と言うのは私が思っている以上に自由が無いのかもしれない、と思ってしまった。


「簡単に言えば窮屈な生活をしているから良い息抜きが出来てありがとう、と言う意味で受け取っておけば大丈夫よ。ま、お気に入りっぽいから一部の関係者にバレたら大変かもしれないわね」


「え、それは一体どう言う……」


 ネスさんの言葉に私は思わず動揺した。


「天照のお気に入りと言う事は簡単に言えば神の寵愛とも言えますね。例えば会社の偉い方に知られたらとても大切にされると思いますよ。気付いたら平取りになるなんて事もあるかもしれませんね」


「リアさん、それって形だけの役職ですよね?」


「その可能性は高いですね」


 いや、流石にそれは困る。

 私は設計がやりたくて今の会社に入ったのにお飾りの役職で飼い殺しは嫌過ぎる。


「現実に私達と知り合いと言うだけで彩の価値はとんでも無い事になっているのは確かですわね。現実に会った事があるだけで四柱。ネット上だけなら十柱と面識がありますから各国の要人とかが近寄ってくるなんて事も」


 私って、そんな危ない立場なの?


「突然、見知らぬ外国人に話しかけられたと思ったら他国の要人だったなんて珍しくもなくなるんじゃないかしら?会社が分かっていたら妙なアポイントが増えたりするかもしれないわね」


 何それ!?

 怖すぎる!!


「それだけならまだ良いかもしれない。もしかしたらいきなり拉致されたりする可能性も無いとは言い切れないかな。神の利益に肖りたい人間は腐る程いるし」


 そんなつもりは全く無かったのに……今日、来たのはダメだったのかな……。


「全員で彩奈を脅したらダメですよ。そんな風にならない様にしてますから安心して下さい」


「え……?」


 もしかして冗談……?


「最初に揶揄い始めたのはリアですわ」


「そうよね。彩、そんな心配はいらないから。ごめんなさいね」


「すまん……。ちょっと調子に乗った……」


 さっきのが冗談だと分かり少し涙目だったのが治まってくる。


「それでも吹聴は避けた方が良いわよ。ここの支配人さんとかは天照の事を知っているから言う事は無いけど、彩から言ってしまった場合は分からないから」


「それは用心するに越した事は無いですわね。良からぬ輩が寄ってこないとも限りませんし」


 ネスさんとベティさんの口振りからするに微妙な立場なのは変わらないけど、自分から吹聴しなければ大丈夫と。

 私は慌てて首を横に振る。


「そ、そんな皆さんに迷惑が掛かる事なんて出来ません!」


 そんな私の様子に女神様達はにこやかに笑顔で返してくれた。


「知っていますよ。だから普通にお付き合いしているのです。彩奈はちゃんと分別を弁えた子だからこそです。あ、花梨奈には内緒ですよ」


 最後は少し悪戯っぽく言うリアさんはちょっと可愛かった。


「それはどうでしょう?お母さんにはリアさん達と東京で遊んでから帰るって、言ってあるので隠すのは難しいと思いますよ?」


 私も少し悪戯っぽく返してみる。

 さっきはたくさん弄られたので優しい仕返しである。


「あ、彩奈、私達はお友達ですよね?だから花梨奈には……」


 リアさんが慌てている様子にネスさんが悪い笑みを浮かべた。


「あら?リア、どうしたのかしら?何か聞かれたら不味い事でもあるのかしら?」


 ネスさんの質問にリアさんはおずおずと答え始めた。


「いえ、彩奈を振り回したとバレると怒られそうな気がしましたので……。前に拳骨も……」


 後半はかなり声が小さくなって聞き取りづらかったけど、意味は分かった。

 と言うかお母さんはリアさんに拳骨って、一体何してるの!?


「へぇ~、リアに拳骨とは凄いわね。あなた敬われてないんじゃない?」


 ネスさんの言葉にリアさんは胸を押さえた。

 図星なんだ。


「向こうにいる時からの付き合いもある関係で気安く話していたら敬われなくなってしまって……。私の生活を話したらニートって……」


 リアさんの言葉にヴァルファルネアさんが腹を抱えて笑い出した。


「アハハハハッ!リアがニートって……ハハハハッ……面白過ぎる……」


「リアを……ニート……ぷっ」


 ネスさんは必死に吹き出さない様に堪えているけど、無理だった様だ。


「もしかしてそれも叱られたのですか?」


「……はい」


 リアさんの生活っぷりを聞いていると引き篭もりの可能性は否定出来ない。

 それでもニートは流石に……。


「是非、会ってお話をしてみたいですわ。仕事以外は引き篭もっているリアに堂々とそう言える者がいると言うのは驚きです。二人とも笑い過ぎですわよ」


 ベティさんは未だに腹を抱えている二人に注意する。


「だ、だって……リアがニートって……ヒヒィッ……当たってるし……」


 笑いすぎて引き攣り笑いになってるし。

 ヴァルファルネアさんは苦しげに飲み物を飲んで落ち着かせる。


「まぁ、良いんじゃないかしら。私は叱られるリアしっかり見ておかないと行けないわね」


 ネスさんはお母さんに話す気満点だ。


「ネス、そんな事をすると送るのを止めますよ」


「リア、別に怒られる事じゃないと思うわよ。それに花梨奈がもしWOにログインしていて他のメンバーと話していたら分かる話なんだし」


 もうお母さんには話しているから口止め意味が無い様な気が。


「リアさん、電話でお母さんに言ってしまってるんで下手に隠すと余計に言いそうな気がします」


 隠す方が怪しくて追求されると思う。


「私もネスさんの言う通りで叱られる事は何も無いと思うのですが」


 実際に普通に遊んでいるだけなんだし、怒られる要素は無いと思う。


「いえ、それがあるのです」


 リアさんは真剣な表情で私を見て言った。

 でも少し残念な雰囲気がするのは気のせいだろうか?


「はい?」


「彩奈にあげたドレスとアクセサリーです」


「あ!」


 これは怒られる案件かもしれない。

 それにここに連れてきた事も怒られるかもしれない。

 半分、現実逃避していたのもあるけど。


「因みにこのドレスとアクセサリーって、いくらぐらいになるんですか?」


 怖くなって聞かなかったけど聞いておいた方が良いかもしれない。


「ドレスと合わせて二千万あれば買えると思いますわよ。ドレスのキラキラと光っているのはスワロフスキーでは無くてダイアモンドですし、そんな物では?」


 金額を聞いて私は眩暈がした。

 一体、私が何年働いたらその金額を稼げるのだろうか?


「そうね。比較的お高め程度よね?私の金糸のドレスより安いわよ。前に作ったダイアモンドを散りばめたプラチナ糸のドレスなんか六億ぐらいしたわよ」


 プラチナ糸!?

 金銭感覚が根本的に違う気がした。


「ベティもネスも程々にお願いします。私達はお金に困っていませんし、ネスからすれば億単位の買い物は普通かもしれませんが、彩奈が普通のOLだと言うのを忘れないで下さい」


 リアさんの言葉に二人は少ししまった、と言う顔をした。


「これは私も不注意だったかもしれませんね。これは大人しく叱れらておくしか無さそうですね……はぁ……」


 リアさんが深い溜息を吐く。

 それ程お母さんが怖いのだろうか?

 本気で叱るお母さんは怖いかも。


「これを返却したらお母さんもそんなに怒らないのでは?」


「多分、無理だと思います。でも一度は預かった方が良さそうなのは確かなので花梨奈と相談します」


 私としてもリアさんに預かって貰った方が非常に助かる。

 はっきり言って二千万円もする様な物を置く場所なんて私の家には無い。

 何ていっても私の家は会社が借り上げている極々普通のアパートなのだから。


 リアさんが叱られる話になって懐かしい過去から来たパフェの話は有耶無耶になり、楽しく食事を堪能した私達は予定通りのお泊り会へ移行した。

 私も普通のドレスから部屋着へと着替えてほっと一息吐けた。

 お泊り会と言っても部屋が豪華なだけでやる事はみんなで黙々とスマホでゲームしているだけなんだけど。

 それでも気を遣う女神様達だけど楽しい一日だった。



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