閑話03:エルフさん家の居候女神のお仕事風景
皆様、初めまして、異世界ヴァースの創世の女神のアルスメリアです。
一にゲーム、二にアニメ、三にカップうどんが大好物な日本かぶれの外国人となっていると噂の女神ですが、余り細かい事は気になさらず。
事の始まりは花梨奈がひょんな事で元の世界に戻ってしまったのが始まりでした。
私としては予想外の出来事で、ドリフのDVDが見終わるまで気が付かない失態をしてしまう始末。
異常は感じていたのですが、雷様のコントは面白くて目が離せなかったのです。
思い出すだけで笑いがこみ上げてきそうです。
私の世界と違って地球はエルフなんて存在しません。
万が一、公になれば大変な事態になります。
そこは流石花梨奈と言うべきか、そこら辺は気が利きます。
それ以上に本巣家の皆さんの馴染みの早さが異常に感じますが、非常に協力的なので良しとしましょう。
そんな出来る花梨奈ですが、初日からやらかしてしまいます。
某釣りバカな漫画の如く、初日から合体しておりました。
あれを見た私はその様子を観察しながら拙いなー、と思いながらもこれはチャンスでは無いかと思いました。
あの世界は超越者である魔王に各地域を管理させていますが、諸事情により神は私一人しかいません。
何が言いたいかと言うと私の代行役が誰もいないのです。
何かあればゲームやアニメの良い場面を切り上げてでも仕事に赴かなければならないのです。
はっきり言ってそこは邪魔をされたくはありません。
そこで私はこれを盾にして花梨奈を私の眷属の女神にしてしまえば良いと考えたのです。
転生の世話もしてあげましたし……と言うかあれは私の都合ではありましたが、転生した事で生前の家族と再会出来たので私に感謝するでしょう。
それに雑談、もとい神託で仲良くしていたので問題無いでしょう。
妊娠した子供は私が一時的に預かって向こうに戻った時に返せば完璧です。
人間とエルフの間に出来るのは必ずハーフエルフなので地球で生む事は出来ません。
妊娠した子供を盾に花梨奈を女神にする事に成功。
友達の少ない私の数少ない神友として居候させて貰う事にしました。
何故、居候したかと言うと花梨奈の周囲に異変が起きないかを観察する為です。
一時的にではありますが、花梨奈が地球に戻るのに次元に穴が開きました。
これは自然に塞がるのですが、次元が少々不安定になります。
次元が不安定な時はそこに縁がある者の周囲に何か不思議な現象が起こる事があるのです。
よくあるのは縁がある何かが呼び出されてしまう事です。
そして案の定、それは起きました。
花梨奈のヴァースでの娘であるヘルッタが地球に召喚されてしまったのです。
ヘルッタがこちらに召喚されてしまった原因は花梨奈です。
花梨奈とヘルッタは血の繋がった親子と言う非常に強い縁があります。
何故かその縁に引き寄せられてしまうのです。
翌日、私は世界の境界へと足を運びました。
世界の境界と言ってもパッと見、何も無い空間です。
次元なんて呼んだりもしますが、そこはご自由に。
こんな所で何をしているかと言うと新たに開いた穴の修復と花梨奈に繋がる縁を切る事です。
ある程度、力のある神であれば縁が線の様に見えるのでそれを断ち切るだけの簡単なお仕事。
縁はこれでもかと言うぐらいにバッサリ切ってしまいます。
これが残っていると塞いだ穴が召喚時に開いてしまうので先にやらないといけません。
開いた次元の穴は半日程で完全に塞ぎ終わります。
自然に出来た穴であれば一日経てば半分以上閉じてしまっているので楽な物です。
真面目にやれば以外と直ぐに終わります。
帰る前に日本の管理者である天照にメールをしておきましょう。
『次元の穴の修復完了しました。正月に鰤を持っていくのでそれでしゃぶしゃぶにしましょう』
お正月に天照の所に行く約束をしているのでこっちの名産品を持っていけば喜ぶでしょう。
彼女は有名過ぎて神殿から出られないと嘆いてますからね。
実際に彼女が表へ出れば大騒ぎは間違い無いでしょう。
そんな事もあって出会いを求めてネットゲームに入り浸っているのですが。
ヘルッタの件は当日にメールで既に天照に連絡してあるので当面の滞在は問題ありません。
花梨奈が原因とは言っても事故みたいな物なので向こうもそんなに気にはしていません。
それに花梨奈の作った認識偽装のピアスが良い感じで機能しているのであれを着けていれば問題は無いでしょう。
でもヘルッタが素直で大人しい子で良かったです。
彼女なら花梨奈の言う事をちゃんと聞いて周りに迷惑を掛ける事は無いでしょう。
さて、用事も終わった事ですし、花梨奈に美味しいご飯を所望しましょう。
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「ただいま戻りました」
私はいつも通り花梨奈の家の玄関に入るとパタパタとリビングから都さんが現れた。
「リアさん、お帰りなさい。夕飯はもうすぐなので少しお待ち下さいね」
「はい。ありがとうございます」
都さんは花梨奈の息子さんのお嫁さんで非常に出来た人。
私も見習いたいぐらい人との距離感を掴むのが上手です。
都さんが出迎えてくれたと言う事は今日の晩御飯は花梨奈が作ってくれているのでしょう。
私はブーツを脱いでスリッパへ履き替え、コートを空間収納へ放り込んでリビングへ入ると賑やかな音が耳に入ってきた。
その方向を見ると花梨奈の孫の華奈とヘルッタがアクションゲームで対戦をしていました。
見た感じは華奈が優勢の様ですね。
ヘルッタも持ち前の動体視力で際どいのもギリギリ避けていますが、やりなれている華奈にはまだ一つ及ばなさそうです。
「花梨奈、ただいま戻りました」
「リア、おかえりなさい。用事は大丈夫だった?」
花梨奈は少し心配そうに聞いてきます。
「滞りなく終わりました。暫くは何も無いと思いますので安心して下さい」
私の言葉に花梨奈は何処か安堵して表情を見せました。
本当の事を伝えると気に病むでしょう。
「良かったわ。でもごめんなさいね」
「良いのですよ。このぐらい大した労力では無いので。今日の晩御飯は何ですか?」
私が晩御飯の内容を聞くと花梨奈は棚から何かを取り出した。
「今日はリアの大好きな小うどんをお味噌汁代わりよ」
花梨奈が手にしていたのはインスタントのお椀一杯分の小さなうどんです。
それも私が好きな味の奴です。
和風出汁のあっさりとしたシンプルな味なのですが、柚子がほんのり香る逸品。
「流石、花梨奈です」
ツボは心得ていますね。
「リアがインスタントのうどんが好物なのは意外だったわ。お陰で常備されているんだけど」
私が大好きと言う事で切らさない様に花梨奈がお店で見かけると買ってきてくれています。
そう言う気遣いは非常に嬉しいです。
偶にお昼にはアルミ容器に入った鍋焼きうどんにしてくれたりと私の好みをしっかり掴んでいます。
「私もこれは好きだから良いんだけどね」
花梨奈は柚子の風味が好きですからね。
冷凍庫に刻んだ柚子の皮があるぐらいですから。
気が利く花梨奈は小うどんに刻み葱に山椒を少々、冷凍の柚子の皮を乗せてワンランクアップさせて出してくるので侮れません。
「リアはソファにでも座って待ってて。後はお魚を焼くだけだから」
「それではお言葉に甘えて」
私は炬燵のある和室へ移動して炬燵へ入り、テレビを点ける。
いつもは花梨奈の夫である仁さんがいるのですが、今日は遅くなると言う事で和室には誰もいません。
のんびりニュースを見ながら夕飯を待つだけです。
既に自分の家の様に寛ぎながら神としてでは無く、人としての生活を楽しみながら平穏な日々が続く事を願うだけです。




