04:エルフさんの女神との再会
そこは唯々白一色の何も無い空間だった。
この空間には見覚えがあった。
三百年前、向こうに転生した時だ。
目の前に一人の女性が佇んでいる。
澄んだ空の様な蒼く長い髪、純白の羽衣を見に纏う姿は神々しく、美しい。
彼女は向こうの世界の女神アルスメリアだ。
「お久しぶりです。アルスメリア様」
「そうですね。あなたを転生させて以来ですね」
要件は予想が付く。
「三百年振りにどうしたのでしょうか?」
「要件はあなたが転生前の世界に行ってしまった事です」
やっぱりね。
それで夢に干渉してきたと言う事かしら。
「やはり拙いですか?」
女神は首を傾げる。
「問題があるかと言えばあるのですが、無いと言えば無いと言いますか……」
ん、何か煮え切らない言い方。
「どう言う事ですか?」
「一応、こちらの世界の神々と相談した結果、あなたがこちらにいる分には問題ありません。人格的に問題無いと言うのは私は自身もよく理解してますから」
あら、以外にも滞在許可が出たのは嬉しいわね。
そうすると問題は何かしら?
「問題はあなたの子供です」
「え!?ウチの子供達が何か拙い事を!?」
子供達、何をしたの!?
「言葉に語弊がありました。あなたのお腹にいる子供です」
「え?」
間抜けな声が出た。
お腹の子供?
…
……
………
もしかして、さっきの旦那との逢瀬で妊娠したと言う事?
「一発で妊娠しました。おめでたです」
自らの迂闊さに頭を抱えた。
子供は拙いと分かっていながらこの始末だ。
「でもあれだけハッスルしたら妊娠しても可笑しくはないでしょう」
女神はにっこり笑いながら言った。
出歯亀女神。
「……覗いていたのですか?」
「こっちの神々と一緒に」
穴があったら入りたい……。
「その事は置いておいてあなたの子供はハーフエルフです。あっちの世界ではいない存在です。誤魔化せる存在でもありません」
分かっていた。
地球にエルフの居場所はない。
周囲から迫害されたり、宇宙人の様な扱いを受けるだろう。
「そこで提案です」
女神と取引。
でも受ける以外の選択肢は無い可能性が高い。
「あなたのお腹にいる子供を私が今、引き取ります」
そう来るか……。
「そしてあなたには【神】となり、ヴァースを支える一柱となってもらいます」
ヴァースとは向こうの世界の名前だ。
つまり神の子として召し上げるから私に仕事を手伝え、と言う事だ。
「ちょっと代償が大き過ぎないかしら?」
私の魂は永遠に縛られる事になる。
「そもそもこちらの神には対処出来ません。更にこれはあなたの不注意によって起きた事であれば当然です。私にとって好都合なのは事実ですがね」
地味に腹黒よね、この女神。
「ヴァースは神が私一人では少な過ぎなので恩を売って【神】になってもらおう、と言うのが本音です」
明け透け過ぎて呆れるわ。
「後々あなた以外にも一柱増える予定なのであなたがいるとあの子が寂しい思いをしなくて済みますから」
「やはりあの子は元々【神】になる予定だったの?」
あの子とは私が面倒を見ている転生者の少女だ。
「はい。本人も了承済みです」
「もしかして今回の件、あなたがわざと起こしたのではないかしら?」
「それは邪推です」
流石に考え過ぎかしら?
「原因は分かっています。あの子が無意識にあなたの潜在的な願いを叶えてしまったからです」
「は?」
「それもあってあの子が【神】になる話が早まってしまいました。まぁ、一連托生と思って諦めて下さい」
ちょっとあの子を恨みそう。
私の潜在的な願い。
この世界にいたい。
違う。
旦那に添い遂げたい。
それを地球への転移と言う形で発動したと。
「因みに断ったらどうなるのかしら?」
「私の力で強制的に中絶させます。お腹の子の存在は世界を乱します」
選択肢が無い。
「受ける以外に選択肢が無いじゃない。卑怯だわ……」
唇を噛む。
旦那との子を殺す選択肢など選べる筈が無い。
向こうもそれを分かっている。
「あなたからすれば渡りに船ね」
この女神は前々から私を【神】にしたかったのだろう。
それも転生する前から。
「【神】になると私はどうなるの?」
「ヴァースに住みながらあの子と一緒に【神】として必要な事を教えます。子供はそれが終わってからゆっくり育ててもらおうと思ってます」
ヴァースに住む?
「今まで通りの家に住むのかしら?」
「はい。私と言う居候が増えますが」
それは良いのかしら?
あんな街中の狭い家に神が三柱いるとか大丈夫なの?
「あの子と一緒に買い物とかしたかったから良い機会です」
単なる女神の自己満足だった。
「後、私はもうこの世界には入れなくなるの?」
「ずっとは困りますが百年程度なら構いません。その代わりあなたの生殖機能は奪います。この様な事態が繰り返されるのは困ります」
これは仕方がない。
私の失点だから。
「身体をエルフからエンシェントエルフに変えてしまいます。エンシェントエルフは子を成しませんから」
エンシェントエルフ。
エルフの中で【神】と崇められている存在だ。
「分かったわ。大人しく受けるわよ。それで良いんでしょ?」
「そんなにヤケクソにならなくても」
「ヤケクソにならないとやってられないわよ」
転移は事故だが、子供が出来たのは私の責任だ。
自分の迂闊さが恨めしい。
「あ、エルフの国には行きたくないんだけど」
「どの権能を割り振るかは決めてません。まぁ、あなたには沢山無理を押し付けているのでエルフは私が面倒を見ましょう。本当はエンシェントエルフになるあなたの方が良いのですが……」
「それならもう言う事は無いわ」
女神が手を翳すと私のお腹から淡い光が出てくる。
「あなたが【神】になるまでこの子は私が預かります。あなたがしっかりと【神】になった時にお返しします」
光は虚空に消えた。
「以降、私に様付けは不要です。私達は同じ立場の者になりますから」
と言われても呼び捨てしにくいのよね。
「リアって、呼んでいいかしら?」
「その響きが良いです!カリーナ、もう一回」
「リア」
リアはその呼び名を噛み締める様に頷く。
「これでヴァースに友達が出来ました」
リア……友達いなかったの?
「カリーナのスマホに私の電話番号を登録しておきましたので気軽に電話して下さい。寧ろ電話して欲しい……」
実は淋しがり屋だったのね。
「分かったわ。電話するわ。そろそろ戻してもらえるかしら?」
「分かりました。起きたら身体はエンシェントエルフに変わってます。魔力と身体能力が上がるのと生殖能力が失くなる以外は変化はありません」
この女神に振り回されっ放しね。
「地球をゆっくり楽しんで下さい」
意識が徐々に遠退いていった。
そして私は【神】となった。