22:エルフさんと女神様とショッピングモール
富山からの帰りは国道359号線を使わずに県道62号線から県道9号を経由する形で高岡市街の南側を通るルートにした。
基本的に私は来た道と同じ道を往復するのが嫌いなので帰りは多少、遠回りでも違う道を選ぶ。
このルートは神通川を有沢橋で渡り、呉羽山、太閤山を横断し、小杉のインターチェンジの近くを通過していくルートで国道8号線、国道359線の代替ルートでもある。
高岡まではほとんど片側二車線あるので快走路で渋滞も余りしないのが魅力。
国道8号線と合流してから混むのは割り切るしかない。
実はこっちのルートにしたのは前述した理由だけでは無い。
通り沿いにイオンモールがあるからだ。
高岡のイオンモールは北陸でも規模が大きく専門店の数も多い為、非常に賑わっている。
高岡駅からシャトルバスも運行しており、駅から遠い立地と言う難点も気にならない。
実は金沢にここまで大きいショッピングモールは無い。
松任のアピタ、御経塚のイオン、河北のイオンと郊外に行けばあるが、高岡のイオンモール規模のお店は存在しない。
その為、金沢からここまで買い物に来る人が実は多かったりする。
北陸でここにしか専門店があるので尚更だ。
と言う事でイオンモール内で絶賛、買い物中。
リアは特に買う物が無い様なので私の買い物に付き合ってもらう形だ。
お目当ては冬物のカジュアルなコートとそれに合う帽子。
前に都さんに見繕ってもらったのは秋物ばかりなので冬物はまた買わないといけない。
若者向けのあっさりめのデザインを中心としてアパレルショップへと入る。
ここは可愛らしさよりステイリッシュな感じを売りにしたデザインが多いので、私としては好み。
向かいにあるレースをあしらったフリフリの可愛いのは逆に苦手。
恥ずかしくてとてもではないけで着れない。
「これはどうかしら?」
手近にあった黒のコートを合わせてみる。
「これじゃないわね」
黒は嫌いでは無いけど、何か重たい気がするわね。
隣のキャメルのトレンチコートを合わせてみる。
襟が膝丈近くまであり、少し変わった形だけど面白い。
表から見るとボタンもベルトが無い様に見えるが、ちゃんと後ろにベルトがあるので前を閉めたい時はちゃんと閉められる様になっている。
「リア、どうかしら?」
私はコートを合わせてリアに見せる。
「似合っていると思います。でも冬には少し寒い感じがします」
「そうなのよね。少し薄い感じがするし、前がしっかり閉められないから風が強かったり、雪が降ったら厳しそうなのよね」
でもデザインは好きなのでキープ。
「このダッフルコートなんてどうでしょう?首周りにファーは無いのでスッキリした感じが花梨奈には合いそうです」
先程のトレンチコートを脱いで近くに仮置きしてリアが選んだダッフルコートを合わせる。
こっちはシックにネイビーでこれはこれで悪く無いわね。
これなら寒い日もちょうど良さそう。
「どうかしら?」
「こっちの方がカジュアル感が出ますね。先程のよりは冬場には良いのでは?」
私はダッフルコートの方を脱いで両者を見比べる。
正直、どっちも良い。
一層の事、両方買ってしまうのも有りね。
秋物のコートが二着しかないからもう一着ぐらいあっても困らないだろうし。
「両方、買うわ。秋物の数がまだ少ないから」
買うコートを決めた所で今度は合わせる帽子を見る。
キャメルのトレンチコートには少し暗めの色のハットが良いかな、と思っているけど、どうもしっくり来ない。
そろそろニット以外も色々と揃えたい。
黒や濃いネイビーは割と合うと思っているけど、形がどうも気に食わない。
傍から見るとニット帽の上から帽子を合わせている自分って、かなり奇異に見えると思う。
耳を人前で出す訳には行かないから仕方が無いんだけど。
そんな感じで見ている中で良い感じの明るいベージュの浅めのハットが目に留まった。
これならダッフルコートの方と合いそうね。
さっと合わせながら鏡を見ると問題なさそうだ。
「ここで全部買う訳じゃないからこれだけにしようかしら……」
無理してここで揃える必要は無いのよね。
金沢フォーラスや大和も見てみたいし。
「よし、今日はここまでね」
結局、コート二着、ハット、それに加えてインナーを数点購入した。
折角なのでダッフルコートとハットはその場でタグを外してもらい、そのまま着て帰る事にした。
「リア、お待たせ」
「買った物に変えたのですね。いつもの花梨奈よりカジュアル感が増していて新鮮です」
普段は40代狙いの服ばかり着ているから二十台中心の服が少ない。
悲しい事に体は若くても心は年寄りなのよね……。
「服はこれで終わりね。後は食材を買って終わりよ」
私達はのんびり一階に降りて、カートに籠をセットして食品フロアへ。
「今日の晩御飯は何にしようかしら?」
鱒の寿司があるのでそれに合う様なメニューにしたい。
「あら、胡瓜が安いわね」
さっと胡瓜を三本程袋に詰めて他の野菜を見る。
少なくなってきた玉葱、人参は適当に補給。
キャベツはまだ半分以上あったので今日は買わなくて良い。
この付近の野菜は常備しておいても使い道に困らないのが良い。
ついでに茄子ときのこ類、ごぼうも買う。
野菜のコーナーの一角にある漬物コーナーに目が留まる。
美味しそうな漬物が無いか、つい見てしまうのよね。
「リア、何か食べたい物があったら言ってね」
「はい」
リアも一緒に漬物を物色。
最初は漬物に抵抗感があったリアだったが、柴漬け、白菜漬けの様なあっさりとして漬物は割と好みに合ったみたいで地味に食べるのだ。
「花梨奈、これを買っても大丈夫ですか?」
リアが手に取ったのは生姜の刻んで醤油漬けにした物だ。
これって、温かい白いご飯の上に乗っけて食べると美味しいのよね。
混ぜ込みでお弁当に入れても美味しいし、割と万能。
「良いわよ」
生姜の醤油漬けを籠に入れて先へ進む。
鮮魚コーナーでパッと目に入ったのがあさり。
お味噌汁にすると良い出汁が出て美味しいし、酒蒸しも悪くない。
そんなに高くは無いので今日のお味噌汁はあさりで決定。
冷凍の鮭の切り身が安いので華奈達のお弁当用も含めて十枚程、袋に詰める。
並んでいる魚を見るとふくらぎがかなり並んでいる。
値段が手頃でお刺身で食べるには悪くない。
時期的に脂も乗り始めているし。
他には鱸、真鯛、秋刀魚、鮍、飛魚が並んでいるが、どうもそそられないので今日はスルー。
「お魚は良いのですか?」
「う~ん……ちょっとパッとしないのよね。気になる物でもあった?」
「いえ、特には。魚を見てかなり悩んでいたので」
確かに魚と睨めっこしていたわね……。
「大丈夫よ。この感じだとメインはお肉ね」
惹かれる魚が無いので、精肉コーナーを覗く。
そこである物に目が釘付けになる。
それは大振りのローストビーフ。
以前、CMで見て美味しそうに見えたのよね。
「これって、もしかしてCMでやっていたのでは?」
「えぇ、ちょっと迷ってるわ」
非常に魅力的ではあるが、値段が高いのだ。
この分厚めにカットしたローストビーフが美味しいのは間違い無い。
しかし、これを人数分買うとあっと言う間に福沢諭吉が飛んでいく金額になってしまう。
流石に普段の食事にそこまでコストは掛けられない。
それに今日は鱒の寿司があるからそこそこコストを掛けている。
「諦めるわ。予算オーバーよ」
「……確かにこれを人数分となるとあれですね……」
一応、リアもこう言う金銭感覚は意外に持っていた。
「これならカップうどんがたくさん買えますね」
残念な方向で持っているが、お財布に優しいから不問とする。
この見た目で定番のカップうどんが大好物なのだ。
本人的には三食カップうどんも珍しくないとか。
更にアルミの器に入った鍋焼きうどんも好きらしい。
卵は欠かせないとの事。
思いの外、駄女神の食事は庶民的なのよね。
「明日のお昼はうどんにする?」
「はい!」
本当に自分の娘と買い物に来た様な感覚よね。
籠に海老のかき揚げ入りの鍋焼きうどんを二つ入れる。
私は卵よりかき揚げが入っている方が好き。
「もも肉が安いからから揚げでも良さそうね」
メインは鳥のから揚げに決定。
みんな好きだから文句はまず出ない。
グラム単価も安いので庶民の味方。
適当に豚のコマ肉、お弁当用にウインナーも籠に入れていく。
そしてその先にある鍋焼きうどんを籠に入れるとリアが満面の笑みを浮かべた。
本当に好きなのよね……。
後は食パンとバターロールも買って、乾物類とお菓子を買い足して今日の買い物は終わり。
意外とたくさん買ったけど、無くなるのは早い。
我が家はリアを含めると七人いるので食材はかなりたくさん買う必要がある。
透也は特に育ち盛りだからよく食べる。
それもあってかなり食費が掛かる。
食費に関しては旦那からちゃんと貰った分でやりくりしている。
自腹を切ればローストビーフに出来なくも無かったが、エンゲル係数が高い食事ばかりも良くない。
と言うか私の四十九日やリアが来た日に地味にお金を掛けているので程々にしないと使い過ぎになってしまう。
それは私としては避けたい。
リアの食費に関しては家賃代わりに月に五万程貰っている。
正直、みんなの分をまとめて作るので食費だけだとそこまでは掛からない。
水道代、光熱費も含めてとの事なのでありがたく受け取る事にした。
どっちも意外と馬鹿にならないのよね。
一般的な一人暮らし用アパートの一部屋を借りると築年数にも寄るけど安い物件で三万円を切るぐらいから五万円程借りる事が出来る。
家賃、食費、光熱費込みで五万円はそんなに高くは無い。
寧ろかなり安い部類に入る。
リアから貰った五万円は食材買出し様の財布に直行の予定。
我が家は基本的に私か都さんが買い物に行くので、食費の管理の意味も有り、食材や日用品の買出しは共用の財布を使っているのだ。
レシートは必ず取っておき、輝が暇な時に家計簿にまとめている。
我が家ではこうやって食費を管理している。
意外とちゃんと管理しているのだ。
私は割とどんぶり勘定なのであんまり信用されていない。
本巣家は私に似ると大雑把で旦那に似るとマメになる。
輝は旦那に似たからマメだから家計簿の管理と向いているのよね。
都さんもしっかりしているから二人に任せておけば安心。
食材の買出しが終わると、もたもたエコバッグ二つ分も買っていた。
食材の詰ったエコバッグ二つをカートに乗せてエレベーターへ向かう。
ちょうど途中に酒屋のテナントの前を通ると秋限定のビールが並んでいるのが目に留まる。
ラガービールが好きな私だが、季節限定の味も嫌いではない。
この限定と言う言葉に弱いのよね。
ロング缶の六本セットがアルプラザより安い。
「リア、ちょっとカートを見てて貰って良いかしら?」
「はい。何か買うのですか?」
「えぇ」
私は秋限定のビール六本セットを手に取る。
「あの……私も買って良いですか?」
リアはおずおずと聞いてくる。
「お酒は基本的に自分の財布から出すから別に私を気にする必要は無いわよ」
我が家では酒代は各自の財布から出すのがルールだ。
酒は嗜好品なので食費とは別扱い。
と言っても私と輝と都さんはビール派だから一緒に買う事が多いんだけどね。
「直ぐに選んできますので、良いですか?」
「良いわよ」
リアはそう言ってお酒を選び行った。
どんなお酒を選ぶのか気になりカートを押してリアの後を付いていく。
リアが入って行ったのは日本酒コーナー。
そう言えば金城楼に行った時も日本酒を美味しそうに飲んでいたわね。
日本酒コーナーでリアは探し物が見付からないのか棚を隅々まで見ている。
「何を探しているの?」
「花梨奈の家にあった立山と言うお酒を探しているのですが、同じラベルの物が見付からなくて……」
なるほどね。
それにしても立山が気に入るとは中々の通ね。
「それならこれよ」
私は青いラベルの立山を手に取る。
「ラベルが違いませんか?」
「去年にラベルが変わったのよ。家にあるのは古いラベルのだから」
実は立山は去年にラベルが一新されているのだ。
リアがウチで見たのは古いラベルの方で、お店では新しいラベルの物しか並んでいないので見付からないのは当然だ。
青いラベルは普通酒で所謂昔の二級酒で辛口でスッキリした飲み口が特徴で、富山の人には馴染みのお酒だ。
私と同世代は純米の大吟醸では無くこっちを推す人が多い。
昔は家で飲むのが青ラベルの二級酒で大体何処の家でもこっちが置いてある。
「そうだったのですね……。通りで見付からない訳です」
「知らないと分からないから仕方が無いわね」
私はカートをリアに預けて立山とビールの精算をしてしまう。
でも立山の青ラベルなら安上がりよね。
私とリアは買い物袋を両手に一杯にしてイオンを後にした。
最近、小松に大きいイオンモールが出来たらしいのですが、作者はまだ行った事がありません。
機会があれば覗きに行きたいですね。




