21:エルフさんと富岩運河環水公園
スターバックスを出た私達は環水公園をのんびり散策する事にした。
お昼がラーメンだったので食後の運動にはちょうど良いわね。
富山ブラックはご飯とセットで食べないとキツイからどうしても量が多くなってしまう。
そうすると女性としては多く取ってしまった炭水化物の糖分はお腹の肥やしになってしまうのは避けたい所。
エルフは種族的特性から基本的に太りにくい。
向こうに転生した時にエルフで太っている人が非常に少なくて不思議だった。
当時の自分の侍女に聞いたらそう言う答えが返ってきてエルフは女性にとって憧れの様な種族だと思い、エルフに転生して良かった思った。
身の回りの環境は置いておいて。
因みに太っている人がいない訳ではない。
エルフで太っているイコール不摂生をしているだらしが無い人と思われるのだ。
女性で太っていれば絶対にモテない。
その為、エルフの女性は太ったと言われる事は何よりも恐ろしく禁句。
太っているとはエルフの女性にとって最も不名誉な称号なのだ。
エルフの価値観を持っている訳では無いが、普通の女性としても少しでも余計な脂肪を燃やしておきたいのよね。
「こう言う公園を散歩するのも良いわね」
晴れた日の水辺の公園は落ち着くし、緑と水辺のコントラストは見ていて癒される。
リアはと言うと芝生のある広場で遊んでいる子供達を眺めていた。
昔はよく子供達を公園で遊ばせていたわね。
「何か気になる物でもあったかしら?」
「そう言う訳ではありませんが、芝生で転がっている子供を見ていると何とも心地良さそうにしていたので……」
これはつまり芝生で転がってみたいと言う事だろうか?
今は十月終わりなので芝生で寝転がるには少し肌寒い気がしないでも無い。
今日は幸い晴天なので陽射しも暖かいのでギリギリ大丈夫かしら?
これが十一月中旬以降だったら寒いから却下なんだけどね。
「それなら向こうの木陰で座ってのんびりする?」
私は川を渡す天門橋の上から対岸の桜並木を指す。
あそこなら日向で暖かいから大丈夫だろう。
この時期の日陰は寒くて厳しい。
「良いのですか?」
「別に特にやる事がある訳では無いから良いわよ。春にまた来ても良いかもね。ここ、桜が綺麗だから」
本当は水上バスで岩瀬浜に行こうと思っていたけど、別に無理して今日である必要は無い。
夕飯の準備を考えると三時ぐらいに富山を出たい。
一応、都さんには私が作るって言ってあるしね。
帰りに買い物もしないといけないし。
環水公園は富山市内でも桜のお花見スポットとしても定番の場所なのでその季節になったら色んなお花見スポットを回るのも悪くない。
桜といえば岐阜の荘川桜も悪く無いわね。
時期も山側だからこっちと時期が半月以上ずれているから都合が良い。
私とリアは川を渡って日向になっている桜の木の根元に腰を下ろす。
芝生が服に付くが気にしない。
いざとなればリアが魔法でこそっと何とかしそうだから。
二人して静かに景色を眺めている。
ちょうど対岸の方を見ると立山連峰が望める。
山頂付近は白く雪があるのが見て分かる。
富山市街から見える立山連峰は富山の自慢の一つで、一般登山者が登る山の内では危険度の最も高い山と称される剱岳を有している。
剱岳は日本で数少ない氷河が現存する山でもある。
立山と言えば何と言っても見所は立山黒部アルペンルートはオススメ。
よく観光雑誌で見掛ける大迫力の雪の壁が見られるのがここなのである。
この観光ルートはほとんどバスやロープウェイでの移動なので体力の心配はいらない。
ただ移動に時間が掛かるので余裕のある日程を組む事を勧める。
私の小さい頃育った氷見からも富山湾を挟む形で立山連峰を毎日見ていた。
見ていると言うよりは自然と目に入ってくると言うのが正しい。
よく学校の校歌に立山連峰に関連した言葉が入っている。
富山の人にとってはそれだけ馴染み深い物なのだ。
じっとしていると、十月も終わりと言う事もあり風が吹くと肌寒いかもしれない。
少し厚手のジャケットを着ていたのは幸いだったかもしれない。
横目でリアを見ると一目を憚らず、芝生が髪や服に付くのを気にもせず気持ち良さそうに寝転がっている。
視線が動いているので寝てはいない様である
私は鞄から徐にスマホを取り出して横からパシャリ。
「私ですか?」
リアは不思議そうに私を見る。
「気持ち良さそうだから一枚、と思ってね」
と言っても私のスマホには大した写真は入ってない。
そもそもスマホを買ったのが入院する少し前なのでインターネットを見るばかり。
病院の中で写真を撮る被写体が無い。
「それなら私も」
リアも懐からスマホを取り出し、下のアングルから私をパシャリ。
そして体を起こして私の横に座り直してもう一枚。
「記念はこんな感じでしょうか?」
リアは撮った写真を私の方へ見せる。
穏やかな笑顔を浮かべているリアの隣に少し間抜けな顔の私が写っていた。
不意打ちだったから何も準備していなかったから仕方が無い。
でもそんなに悪くないかもしれないわね。
ある意味、気の緩んだ貴重な一枚だと思った。
「どんな写真があるのかしら?」
私は何気に写真をスライドしてみる。
そこにはどうみてもこっちの世界に似つかわしくない人間ではない種族の女性が写っていた。
だが背景は日本の建物の一室。
「リア、これは?」
私がリアの方を向くと分かりやすく視線と共に顔を逸らす。
こっちの世界に遊びに来てる雰囲気しかしない。
画面に映っている女性はパッと見た感じ人間に見えなくも無い。
上半身は。
だが下半身が明らかに違う。
下半身が蜘蛛なのだ。
それなのにも関わらず部屋にはテレビとゲーム機が移っており、その女性はゲーム機のコントローラーがっつり持っている。
「私、イレギュラーな存在な筈よね?それなのにこの人は良いのかしら?」
明らかに目が泳いでいる。
「……一応、管理側の許可を取ってあるので大丈夫です。彼女は私のマンションから出る事が出来ないので」
許可を取っているのなら良いのかしら?
それ以前に許可が出るのが謎なのだけれど……。
「リアの知り合い?」
「……花梨奈と一緒で転生者です」
なるほど、彼女もこっちの人で転生して向こうに言ったクチね。
「私がサボ……休憩している時に遊ぶゲーム仲間です」
明らかにサボって、と言いそうになっていたわね。
でもリアが好き勝手に扱える人物か……となると。
「もしかして魔王の内の誰か?」
「よく分かりましたね。彼女は魔王の一角です。機会があれば花梨奈に紹介しようと思っていました」
そう言えば私、勝手に魔王にされちゃったのよね。
今までの生活を変える気は更々無いんだけど。
「後で問題になったりはしないわよね?」
「それは大丈夫です。許可もちゃんと取ってありますし、私の結界があるので不法侵入も無理ですし、彼女が外に出る事も出来ませんので」
「でもこの写真、万が一、流出したら不味くないかしら?」
私の言葉にリアはさっとスマホを操作して写真を消去する。
「これで問題ありません」
しれっと問題無いと言っているけど、どう見ても問題有りとしか思えない動きだ。
敢えて突っ込むのは面倒だからしないけど。
私は消して新たに出てきた写真が目に映る。
「これは?」
「それは彩奈が記念に、と言う事で撮った写真を送ってもらった物です。何か良いですね」
ぼっち駄女神だから友達っぽい事をしと事が無くて、実際に友達っぽい事が出来て嬉しいのか、少し照れくさそうにしている。
それにしても私の娘は女神と知っていても遠慮が無いわね。
写真を見る限りにこやかにピースしている彩奈が何とも微笑ましいが、少し遠慮した方が良いかしら?
「彩奈とは仲良しな感じなのかしら?確か……一緒のゲームをやっているのよね?」
「はい。よく一緒にゲーム内で遊んでいますよ。折角なので花梨奈もやりましょう」
地味に痛い所を突かれた。
「新しいパソコンでインターネットばかり見ているのは勿体無いです」
美希の喫茶店を出た後、野々市にあるパソコンショップに行き、最新のパソコンを購入したのだ。
私は性能とか見ても全く分からない。
CPUとメモリとか言われてもさっぱり。
その辺りはリアと彩奈にお任せして、美希と一緒に店内をブラブラと歩き回っていた。
気が付けばパソコンは選び終わっていてそのまま持ち帰る形になった。
二十万少し切る価格で高い、と私は思ったんだけど、リアと彩奈はこれでも頑張って安くしたと言っていた。
ただ美希は複雑そうな顔をしていたのが、少し気になった。
家に戻ってからリアと彩奈で私の部屋にパソコンを設置してもらい、設定なんかも色々としてもらった。
性能とか分からないけど、画面が大きいのは何となく良いわね。
私がそんな事を言うと二人は溜息を吐いていたが、理由がよく分からない。
今は老眼じゃないけど、画面が大きく見やすいのは良い事だと思うのだけれど。
「インターネットだけじゃ無いわよ」
「ソリティアをその他に入れないで下さい」
リアは不満そうに言った。
ソリティア面白いじゃない。
実は昔から暇さえあればソリティアをやっているので、気が付けば自己ベストは三十秒台と言う中々の記録を持っている。
後は四川省とかマインスイーパも好き。
「良いじゃない。やってると面白いわよ」
シンプルで飽きないのよね。
「折角の最新スペックのパソコンなのに宝の持ち腐れです」
「インターネットが前より速いから充分、役に立っているわよ」
「寧ろそれはパソコンが古すぎなだけです。と言う事で近々、私がやっているゲームをインストールして一緒にやりましょう!」
リアは私にどうしてもやらせたいのね……。
「分かったわよ。設定とかお願いね。でもそんなに根気いれてやらないわよ。家事とかやる事があるんだから」
「はい。それは分かってます。それなら善は急げです。帰って準備しましょう」
リアは勢いよく立ち上げる。
あ~、背中に芝生がたくさん付いているわ。
「リア、ちょっと落ち着きなさい。背中をこっちに向けなさい」
私はリアに背中をこっちに向かせて芝生を払う。
「あ、すみません……」
「しっかりしなさい。全く……」
自分のお尻を叩いて芝生を払って鞄を取る。
腕時計を見て時間を確認する。
二時半……ちょっと早いけど買い物して帰れば、もたもた五時ぐらいかしら?
本当は水上バスに乗りたかったけど、次の機会にしましょうか。
「じゃ、車に戻って帰りましょうか?」
「はい。花梨奈と一緒に早くプレイしたいです」
リアは上機嫌で足取りが非常に軽い。
そんなに私とゲームが出来るのが嬉しいのだろうか?
それ以上に私が最近のゲームに付いていけるか不安。
そんなご機嫌のリアを先頭に駐車場へ戻り、環水公園を後にした。




