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19:エルフさんと残念女神とのんびりドライブ in 富山

 車庫のシャッターをリモコンのスイッチで開ける。

 我が家の車庫は旦那の車と私の車の二台置ける様になっており、シャッターの開閉はリモコンで行う様になっている。

 駐車場は車庫に二台、玄関前に二台、病院側に二台と計六台が駐車可能だ。

 金沢は北陸の中では比較的発展しているとは言っても車が無いと不便なので大体、十八歳を超えると車を持つ人が多い。

 私の子供達も大学時代には車を一台ずつ保有しているぐらいだ。


 私は愛車に乗り込み、エンジンを始動させてゆっくりと車庫から出して玄関の前に横付けする。

 車庫のシャッターを閉めて車から降りる。

 珍しく良い天気でつサングラスを掛けたままだ。


 車に軽くもたれてながら同行者を待つ。

 暫くすると玄関から輝く蒼い髪の清楚な女性が出てきてこちらへ歩いてくる。

 服装は秋を意識して暖色系ではあるが、シックに着こなしている。

 何時見ても彼女の美しさは反則だと思う。

 世の男性が彼女の姿に目を奪われる事は火を見るより明らかだ。


「花梨奈、お待たせしました」


 にこやかに笑顔を浮かべながら告げる彼女の表情に一瞬、同姓でありながらもドキッとしてしまう。

 それだけの魅力が彼女にある。

 当然と言ってしまえば当然でもあった。

 彼女は人間では無く女神なのだ。

 そう、彼女は私が転生した世界の創世の女神アルスメリアなのだから。


「それじゃ車に乗って」


 私は助手席のドアを開けてリアを車へ促す。


「はい。お邪魔します」


 リアが乗り込むのを確認して、私も乗り込んでシートベルトをする様に言う。

 傍から見れば口うるさい様に思えるかもしれないが、細かい常識については知らないので気が付く範囲で教える様にしているのだ。

 免許取ったばかりでシートベルトで減点なんて貰いたくない。


 初心者マークは窓ガラスに貼るタイプ。

 磁石のタイプは塗装に良く無いのでこっちのタイプにしたのだ。

 照が磁石タイプの初心者マークを使っていてうっかり貼りっぱなしにしたら剥がした時に跡が付いてしまった。

 どうやら磁石部分に細かい鉄粉等が塗装を傷付けてしまったらしく、跡を消すのには削って塗装し直すしか無く、照は泣く泣く修理したと言う悲しい実体験があるのだ。


 それから我が家では磁石のタイプの初心者マークは使わなくなった。

 長男の輝は旦那に似てマメなので毎回剥がして磁石面も綺麗に拭いていたので何も無かった。

 どちらかと言えば大雑把な私に似て照らしい事件だった。


 それにしてもこの車に初心者マークを貼って私とリアが乗るとどこぞのお嬢様に見える。

 と言うか実際に都さんに言われた。

 そんな事を言われてもどうしようも無いじゃない……。


 今日は免許を取ったと言う事でのんびりドライブに行く事にした。

 免許を取ったのでがっつりと運転したいと思っていたのよね。

 久しぶりの愛車でのドライブだから楽しみで仕方が無い。


 車をゆっくりと走らせ、浅野川を渡り森本方面へと向かう。

 旧金沢サティの横の道で国道8号線を横断し、少し入り組んだ道で北陸本線の踏み切りを渡り、森本駅の手前の町を曲がり、国道359線へ入っていく。

 森本インターを越えて宮野町の交差点を左折すると金沢と富山方面へ向かうので左折する。

 因みに直進すると国道304号線になり、と言うか森本からこの交差点まで重複区間ではあるが、この道は金沢の森本から富山県南砺市福光、城端(じょうはな)を経由して五箇山の国道156号線を結ぶ国道だ。

 今日はこちらへは行かない。


 国道359号線は通称『さんごくせん』と呼ばれ金沢の武蔵の交差点を基点に砺波、旧婦負(ねい)郡の婦中を経由して富山市内の国道41号線との交差点を結ぶ。

 金沢市から富山市を結ぶルートは国道8号線が主要道路としており、高岡、射水(射水)を経由する形となっており石川県と富山県の県境の倶利伽羅(くりから)峠以外は平坦な道程となっているのに対し、359号線は森本~小矢部間、砺波東部~婦中間は山間部を通る形だ。

 車の処理量は8号線の方が当然多いが、金沢市から富山市に直接行く場合、特に富山駅より南側に用事がある場合は359線を使う方が早かったりする。


 左折すると目の前に北陸道と交差している。

 道の左右にはS字を書く細い道があり、国道が縦断する様に道が続いていく。

 実はこの細い道は359号線の旧道だ。

 歴史のある国道は最初から全線片側二車線確保されていた訳では無い。

 最初はすれ違いも大変な狭隘路の場合もある。

 特に山岳地帯を通る国道は顕著とも言える。

 交通量が増えてきたり、安全面を考慮し、道路を拡幅して今の片側二車線を確保した道路となっているのだ。


 桐山の集落の上りのキツめのカーブを抜けると山間ではあるが田んぼが広がる。

 もう十一月なので既に稲刈りは終わっており、田んぼには刈り取られた稲の根だけが残っている。

 この時期は何処か寂しげに見える。


 私は徐に脇の道へハンドルを切る。


「あれ、曲がるのですか?」


 リアは車の動きに不思議そうに尋ねた。

 普通なら直進だ。

 現在(・・)の359号線は直進が正解だ。


「今回は旧道を通りたいからこっちなのよ」


 私が行きたいのは()の359号線だ。

 現在の359号線は山の中腹付近をルーティングしながら谷に橋を架けて走りやすい様になっている。

 しかし元々の359号線は内山峠の近くまでは谷底の川の直ぐ傍を併走していたのだ。


 旧道は現道を潜ると丁字路となっているが迷わず左に曲がる。

 右に曲がっても行き止まりなのでスルー。


「先程の道と比べると少し暗いですね」


 旧道は一応、普通車であればすれ違いが十分可能な道路幅を有している。

 旧道と言う事もあり、車の通りが少ないので道路上には細かい木の枝や落ち葉が散乱し、舗装も若干荒い。

 道路脇に生えている木々も余り手入れされていないので鬱蒼とした感じが漂う。


 ここを遣うのは専ら曲子原や堀切に住んでいる人ぐらいだから必要最低限の手入れしかされていない。


「まぁ、こっちは旧道だからね」


「こっちを通るのに何か意味があるのですか?」


「気分……かな。昔はこっちを通っていたからちょっと懐かしくてこっちにしただけよ。普通に通るならこっちに来る必要は全く無いわ。私の気分ね」


 はっきり言って旧道を通るメリットは何も無い。

 時間が掛かる、見通しが悪く景色もパッとしない、それに加え細かいカーブが走りづらく道路の見通しも悪い。


「懐かしい道ならその選択肢も有りですね。それにしても花梨奈の車は静かで揺れが少ないです」


 リアは感心しながら私の愛車を褒める。


「それはそうよ。4ドアのクーペとは言っても高級車なんだから」


 そもそもセダンのEクラスがベースになっているから静粛性は抜群。


「そう言えば今日の目的を聞いてませんでしたが、朝早くから何処へ向かうのですか?」


 リアは不思議そうに私に聞く。

 今日は朝の九時に自宅を出発している。


「まぁ、行ってからのお楽しみよ」


 私は軽く濁す。

 勿体振る程の事では無いけど、楽しみにしておいて貰おう。


「そうですか。期待しておきましょう」


 納得と言うよりは純粋に楽しみしておいtくれる模様。

 リアと他愛ない話をしている内に徐々に道は高度を上げて現道へと合流した。

 ここから先は拡幅された区間なので旧道は無いのでそのまま道なりに走る。

 内山峠に差し掛かるとスノーシェッドが見えてくる。


 スノーシェッドとは洞門と呼ばれる物で道路を落石や雪崩から守る役割を持つ。

 雪対策の場合はスノーシェッド、岩石対策はロックシェッド、土砂対策はアースシェッドと呼び分けたりもする。

 ここの峠のスノーシェッドはアップダウンがありながらカーブが地味にキツイので走る時はしっかり減速しないと危ない。


 ちょうど内山峠が石川と富山の県境となっている。

 スノーシェッドを抜けると長い下りを優雅に走らせながらドライブを楽しむ。

 この車にはちょうど良い感じのカーブの連続で運転が楽しくなり心が踊る。

 でもネズミ捕りに掴まるのは嫌なのでスピードは程々に。


 そこから359号線を東へ進む砺波方面へ走らせる。

 359号線と156号線がぶつかり156号線と合流し北上しているが無視して直進する。

 地図上で見ると何故か北上して南下して直進した道と合流する知らない人から見ると謎のルーティングをしていると思う。

 だがこれには理由がある。


 元々359号線は小矢部・砺波ジャンクションの所から砺波工業高校の前を通り、砺波駅の北側を抜けて行くルートだった。

 しかし、古い道なので道路の処理能力が低い為、街中を迂回する形で現道が作られた。

 このルーティングは昔の名残とも言える。


 そこから再度、現道にぶつかり、すぐ右折する。

 直進しても良いが中途半端にしかバイパスが出来ていない為、旧道へ入る。

 旧道は路肩は狭いが片側二車線はしっかり確保されているので走りにくい事は無い。


 庄川を越えて頼成(らんじょ)から婦中の区間は山道を走る。

 山道と言っても登坂車線がある快走路なので気楽にドライブ気分を楽しめる。

 ここも稀にネズミ捕りをやっているので注意が必要。


 蓮花寺付近まで来ると立山連峰を背に富山市内から八尾まで一望出来る。

 晴れていると本当に良い景色だ。

 359号線で富山に来る時はのこの眺望が一番好きだ。

 8号線では味わえない風景である。

 山側を通るからこそ見られるのだ。


 富山市内へ入ると徐々に車が多くなってくる。

 このまま359号線を進んでも良いのだが神通川を渡る婦中大橋と41号線との合流地点での渋滞が予想出来ているので婦中大橋の手前で曲がり、有沢橋を目指す。


 有沢橋は旧の359号線である。

 婦中を通る359号線は片側二車線の立派な道路だが、元々は婦中の街中を通る片側一車線の細い道路の為、交通量の増加に伴い街中を迂回する様に今の現道が作られた。

 ただ迂回してネックとなるのは神通川を渡る場所だ。

 神通川は大きい河川のなので簡単に橋を架ける事が難しいのだ。

 主に費用面で。


 婦中大橋は今は普通に気にもせず通れるが昔は通行料金を取られていた。

 無料となった今はこちらに車が集中してしまい渋滞のメッカとなってしまっている。

 その原因は41号線の先に踏切があるからだ。

 大通りを堂々と縦断しているので踏み切りで一旦停止が発生するので交通量の多い道だと自然に渋滞となってしまう。


 神通川を渡って41号線もそのまま横断すると左手側に目的地が見える。

 目的地は通り沿いにひっそり佇む鱒の寿司の店『大多屋』だ。


 今日のドライブの最大の目的はここの鱒の寿司を買って帰る事。

 何か無性に食べたくなった。

 ただそれだけ。

 まぁ、ドライブがてらにちょうど良かったと言うのもあるけど……。


 鱒の寿司は富山の郷土料理で簡単に言ってしまえば鱒の押し寿司の事。

 最近ではコンビニのおにぎりでも鱒の寿司があるので知っている人は多いと思う。


 朝早めにに出た理由は午前中に来ないと売り切れるから。

 ここの鱒の寿司は美味しいから。

 そんな訳で私は車にリアを置いてサクッと家族分の鱒の寿司を購入し、トランクにあるクーラーボックスへと仕舞う。

 このまま直ぐ帰る訳では無いので、車内にそのまま放置しておくと悪くなるので事前に準備しておいたのだ。


 特にこのお店の鱒の寿司は酢が弱めなので日持ちしない。

 駅の売店で売っている源のであれば酢が強めなので日持ちする。


 鱒の寿司と言っても店によって塩加減、酢の量、鱒、酢飯の押し具合の全てが違う。

 鱒の寿司のお店は何店舗も有り、ここは私の好みと合致するお店だ。

 人によって好みが分かれるので何処が一番かは議論しない。


「リア、お待たせ」


 車でのんびりスマホでゲームをしながら暇を潰しているリアに声を掛ける。


「あ、はい。お昼に食べるのですか?」


「あれは夜にみんなと食べる感じね」


「楽しみにしてます。お昼まで時間がありますが、何処か回るのですか?」


「折角だから岩瀬浜まで船でのんびり景色を眺めながら行って、電車でのんびりこっちまで戻ってこようと思ってるの」


 水源公園から水上バスに乗ってライトレールで戻ってくる定番の観光ルート。

 実は行った事が無かったのよね。

 観光で回った事があるのは五箇山の合掌集落や黒部ダムみたいな所で富山市内はじっくり見る機会が無かった。

 専ら研修会で来るだけでトンボ帰りが基本。

 金沢からだと高速を使えば一時間で着くので日帰りが基本。


 研修会の後に懇親会でお酒を飲む前提でも電車で余裕を持って帰れる。

 そのぐらい金沢と富山は近い。

 私としてはあんまり旅行に来たと言う気分はしないのよね。


「こっちで船に乗った事が無いので楽しみです。でも時間的にお昼はどうしますか?」


 リアは水上バスに胸を躍らせている様ね。

 でもそれ以上にお昼ご飯が気になっているらしい。

 時間的に十一時なので水上バスで一周する頃にはお昼は過ぎてお腹ペコペコに違いない。

 そう考えると少し早いけど、先にお昼ご飯を食べた方が良いかもしれないわね。


「少し好みに分かれるけど富山の名物ラーメンがあるんだけど、それで良いかしら?」


「名物なら是非食べてみたいです」


 個人的にはあんまり好みでは無いが、富山に来たのだから味わっておくべきよね。


「じゃ、お店へ向かいましょうか」


 私はリアを横に乗せて一路、お店へと向かった。



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