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16:エルフさんと次女の喫茶店

 準備を終えた美希は食材を買いに先に出発し、少し遅れて私とリアは彩奈の車に乗り込む。

 彩奈の車は就職祝いに私がプレゼントしたLEXUSのIS250だ。

 所謂高級車と言っても良い車だが中古で150万で買った物だ。

 初期型ではあるが、しっかりとした車なので長く乗れるし、サイズ感も女性に扱いやすい中型のスポーツセダンだ。

 大型スポーツセダンを好む私の趣味では無いが、彩奈が運転するにはちょうど良いと思う。


 この車体で2.5LのV6を積んでいるのでパワーは充分、足回りは若干、緩い印象がある。

 そこは硬派なSUBARUのLEGACYみたいな車と比べると劣る。


 流石、LEXUSと言うだけあって、車内のユーティリティは充実している。

 内装の質感も非常に高く、安っぽさが無い。

 そこは私も高く評価している。

 彩奈自身、綺麗に乗っている所を見ると気に入っている様なので良かった。


 車の趣味に関しては私に似たらしい。

 昔から私のドライブに付き合ってくれるのは彩奈だったので、その影響かもしれない。

 因みに美希はハイト系の軽四のSUZUKIのハスラーだ。

 割と維持費と実用を考えた結果らしい。

 ハスラーは軽四の中では非常に内装がお洒落なので悪くは無い。

 四角い車はそんなに好みでは無いので私は選ばないが。


 我が家から野々市の市役所方面へ向かう時は遠回りだが国道八号線を通って少し迂回して行く。

 最短ルートは金沢駅の近くを通らなければならず、渋滞しやすい場所を通る事になるので面倒なのだ。


 野々市市は元々石川郡野々市町だったのが2011年に市へ変わったのだ。

 金沢のベッドタウンとして発展した街の為、郊外型のスーパマーケットや飲食店、量販店が非常に多い。

 野々市と言えば金沢工業大学があるので学生が多い街でもある。


 野々市市は野々市町時代に金沢市から何度も合併話のラブコール送ったが綺麗に振ると言う事が起きていた。

 理由は単純で合併してもうま味が無いからだ。

 市民負担を金沢市と合併した方が大きくなるのだ。

 そんなのは断られて当たり前だろう。

 金沢市周辺で言えば金沢市より周辺の市町の方が行政サービスが良い所が多かったりする。

 私は旦那が病院を継ぐ関係から金沢一択だったけど、自分で選ぶなら野々市市か内灘町を選ぶだろう。


 久々の野々市周辺の景色を見ているとあっと言う間に野々市市の庁舎が見えてきた。

 2004年に新しくしているので綺麗な建物だ。

 市役所の前の通り沿いを走っているとお洒落な感じで『Sepia』と書かれた看板のお店が見えてきた。

 少し建物に古さを感じるが何処か昭和の懐かしさを感じる佇まいだ。

 車を停めて『Closed』の看板が架かっているドアを開けるとカウンターには美希がいて色々と準備をしていた。

 店内は余り広くは無く、カウンターが十席にテーブル席が三つと言うこじんまりとした作りだ。

 内装は白と黒の二色を上手く使い分ける感じの落ち着いた空間になっている。

 席と席の間は比較的に広めに取られているのでゆったりと過ごせる。


「あ、いらっしゃい。こっちのカウンターへどうぞ」


 美希に促されて私達はカウンター席へ座る。

 私は普段被っている帽子を取る。


「結構、お洒落にしているのね」


「そうね。やっと安定してきた所なんだけどね。飲みたい物や食べたい物はメニューに書いてある物から適当に選んで」


 そう言われてメニューを見ると喫茶店らしいメニューが並んでいる。

 確か美希は調理師の学校を卒業していた筈よね。


「私はオムライスが良いわ」


 リアは相変わらずメニューと睨めっこしている。


「お姉ちゃん、柚子香るたらこパスタが良い」


 彩奈が頼んでのも気になるわね。

 後で一口分けてもらおう。


「リア、大丈夫?」


「ナポリタンとロコモコで迷ってます」


 これはシェアするには重たそうね。


「それならどっちか私が食べるからシェアしましょ?」


 美希がリアに助け舟を出す。


「良いのですか?」


「大丈夫よ。私は何も食べても変わらないから」


 美希はこの店のオーナーだし、作っているのが本人だからいつでも食べられるからね。

 美希はカウンターのキッチンでランチを作り始める。


「ありがとうございます。その二つでお願いします。それにしても美希と話していると花梨奈が二人いる感じがしますね」


 性格は一番、私に似ていると思う。

 電話だと本当にそっくりらしく私が出たか、美希が出たか分からないらしい。

 旦那でさえ間違うぐらいだ。


「お母さんとお姉ちゃんは似ているから。私とお兄ちゃんはお父さん似だし」


 輝は年を重ねる毎に旦那に似ていると言う印象が強くなっていく。

 子供の頃は余りそう思わなかったのに不思議。


「一番、上のお姉さんはどうなのですか?」


「照お姉ちゃんは割とお母さん似っぽく見えてお父さん似かな?」


 親戚からはどちらにも似てないと言われたのよね。

 どちらかと言えばお義父さん、つまり旦那の父親に似ている感じがする。

 何処かおっとりした感じが特に似ている。


「どちらかと言えば旦那のお義父さん似ね」


「へぇ~、私、お祖父ちゃんの事はあんまり知らないんだよね」


 旦那のお義父さんは彩奈が生まれる前に亡くなっているからどんな人か知らないのだ。

 気さくな方で結婚の挨拶に伺った時もできちゃった結婚だったのもあって終始、私に気を遣ってくれて何かと世話を焼いてくれた。

 輝や照、美希を連れて泊まりに行くと嬉しそうに子供達も可愛がってくれる良い人だった。

 ただ私と一緒でタバコがやめられない方で死因も私と一緒の肺ガンだった。


「とっても良い人よ。確かウチのアルバムに一緒に撮った写真が何枚かあるから見てみる?」


「見たい!」


「分かったわ。帰ったら探しておくわ」


 何処かのタイミングでお墓参りでもしましょうか。

 折角、こっちに戻ってきたのに挨拶ぐらいはしないとダメよね。


「お母さん、免許取ったらこっちにも遊びに来てよ」


「確か今は彦根よね?」


「うん。職場は米原なんだけどね。米原は何も無いから」


 彦根はゆっくり観光した事が無いわね。

 そう言えば彦根城は一度は行ってみたいと思っていたのよね。

 彦根ならそんなに遠くないから高速を使わずにのんびり下道で行っても良いわね。

 敦賀の焼き鯖寿司も久々に食べたいし。


「良いわよ。彦根はゆっくりした事が無いから。行く時は連絡するわ」


 道中、一泊して福井で蟹を頂くのも有りよね。

 冬は蟹の季節だからちょうど良いわよね。


「私も一緒に行っても大丈夫ですか?」


 リアは少し申し訳なさげに遠慮がちに聞く。


「リアさんも一緒に是非。あ、家に帰ったら申請出しておきます」


「ありがとうございます。急がなくても大丈夫ですよ」


 多分、後半はゲームの話ね。


「そう言えば、花梨奈もやりませんか?」


「え、私?」


 突然、話を振られて戸惑う。

 彩奈やリアがやっているゲームはよく分からない。


「それって、携帯でやっているゲームの事?」


「いいえ、そっちでは無くてパソコンでやる方です。そうすれば彩奈も一緒ですから」


 うーん、誘ってくれるのは嬉しいんだけど、最近のゲームは難しくてやれる気がしないのよね。


「お姉ちゃんもやってるし、華奈ちゃんや都さんもやっているから良いかも」


 彩奈はさらっと言ったけど、華奈や美希ならまだしも都さんの名前が出てくるのは予想外だった。


「彩奈は寂しがり屋だからね」


 美希が揶揄う様に言った。


「もう、お姉ちゃん!」


 彩奈は頬を膨らまして抗議する。


「ごめん、ごめん」


 美希は悪びれもせず、ランチの準備をしながら謝った。

 ふと気になる事があった。


「私のパソコンでそれって、出来るのかしら?私のパソコン、もう十年以上前に買ったヤツよ」


 仕事にしか使っていないのでワード、エクセル、パワーポイントが使えれば充分なのだ。

 後は暇潰しにソリティアをやるぐらいだし。


「十年前ですか……。それはちょっと無理ですね」


「あー、もしかしてOSも古いかもしれないよ。新しいの買わないと無理かも」


 OSとかはよく分からないわね。

 買ってから特にパソコンの中身は弄ってないけど。


「そもそもお母さんに最新のMMORPGをやらせるのに無理があると思うけど」


 美希は私にそのゲームをやるのは難しいと言わんばかりの言い方だ。

 まぁ、間違ってはいないけどね。


「だってスマホも電話とメールとメッセージアプリしか使ってないじゃない。別にガラケーとやっている事は変わらないわよ」


「天気予報やインターネットで調べたり、地図アプリで行き先を調べたりはするわよ」


 頑張って抗議してみる。


「お母さん、それは使えている内に入らないよ」


 彩奈にバッサリ一刀両断された……。


「お母さんは電子機器が苦手だからね。パソコンを買ったのだってお父さんがずっとワープロを使っているお母さんに業を煮やして今のヤツを買ったんだから」


 ワープロ、使いやすくて良いじゃない。

 確か旦那がいい加減データで資料が欲しい、と言って私の知らない内に部屋にパソコンが置かれていたのよね。


「お母さんのOSは買った当事の多分……98ぐらいじゃないかしら?」


「え、マジで?」


「嘘ですよね?」


 彩奈とリアが化石を見るかの様に私を見る。

 確かに起動する画面のロゴに98と描いてあるわね。


「ネットに繋がっていなければ気にならないのかな?」


「いえ、そもそもデータのやり取りをどうやっているのか疑問なのですが?98だとフラッシュメモリも挿すだけ使えませんよ」


「うわ、何それ!?ネットもフラッシュメモリも無しとか厳しいよ」


 彩奈とリアがよく分からない言葉を使っていて話が全く分からない。


「お母さん、フロッピーで使ってるわよね?」


「仁君に資料を渡す時はフロッピーよ」


 旦那に資料を渡す時はフロッピーで渡しているけど何か変だろうか?

 彩奈とリアが信じられない物を視るような目で私を見ている。


「花梨奈、お金は私が出すのでこの後、パソコンを買いに行きましょう」


「それに賛成」


「確かに……未だにあのパソコンを使うのは問題あるわね」


 リアの提案に皆頷く。


「別に私はそんなに困って無いから無理に買い換えなくても良いわよ。ゲームもどうしてもやりたい訳では無いし」


 私がそう言うとリアが食い付いてきた。


「花梨奈、このご時勢、そんな古いパソコンを使うのはダメですよ。データをやり取りすると言う事はパソコンのセキュリティも考え無いといけません。いくら仁さんがウィルス対策をしっかりやっていても古いOSでは対処出来ません。何かあればデータに異常が出るかもしれませんし、仁さんも花梨奈が新しいパソコンに買えれば楽になります」


 詰め寄る様に言い迫るリアに私は困惑する。

 そもそも異世界の女神が何でこっちの世界の事に詳しいのよ?


「お母さん、リアさんの言う事も一理あるわよ。古いデータを受け取ったお父さんが互換性の関係で多少、資料を修正しているかもしれないし」


「互換性?」


 私は聞きなれない単語に首を傾げる。

 三人は私の様子に揃って溜息を吐く。


「この後はパソコンを買いに行きましょう」


「そうね」


「そうしよう。きっとお父さんが喜ぶね。私とリアさんがいればセットアップは問題無いから」


 私を置いて勝手に話が決まっていく。


「ちょ、ちょっと、私は今のままでも」


「「「ダメ」」」


 食い気味で却下された。

 私、悪い事は何もしてない筈よね?


「花梨奈、知らないと言う事は時には罪になるんですよ」


「そうよ。知らないから許される訳じゃないのよ」


「知らない事で周りに迷惑を掛けている事だってあるんだよ」


 三人は口々に私を責める。

 これはパソコンを買うまで延々と続きそうな予感がした。


「わ、分かったわよ。でも安いので良いのよ。私に高いのなんか扱いきれないんだから」


「大丈夫です。予算は三十万ぐらいで済ませますから」


 リアがさらっととんでもない金額を言い始めた。


「リアさん、太っ腹。私のもそのぐらいはしたかな」


「私は彩奈に選んでもらったそこそこのだからそんなに高く無いわね」


 今の話からすると私が買うのはかなり高め?

 そんな金額を人に払わす訳にはいかない。


「きっと花梨奈は自分から買い換えないと思うので長く使う事を前提に買わないといけません。次のOSに耐えられるぐらいにしておかないと。それだけ積んでおけば処理落ちの心配はありませんから」


「そうだよね。出来れば無線LANも付けておけばお父さんが楽出来るからいるかな。グラボもメモリも積めるだけ積む?」


「そうですね。そこは最大限にしましょう。ついでにハードディスクでは無く全部SSDにします。ブルーレイは必須で後は―――」


 会話に付いて行けない私は途中から話を離脱し、お冷で口を潤す。

 正直、会話に出てくる単語が分からない。

 こうして私はよく分からないままパソコンを新しくする事になってしまった。



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