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15:エルフさんと残念女神アルスメリアの引越し

 昨日は美希、彩奈、リアの三人が我が家に泊まって行ったので賑やかな夜だった。

 リアは最初、居候する部屋で寝る予定だったのだが、美希と彩奈と意気投合し、彩奈の部屋で三人で一緒に寝る事になった。

 美希と彩奈はリアが神様だと言う事を気にせずゲームの話題で盛り上がっていた様だ。

 リア達がやるゲームは私はやらないのでよく分からない。

 面子が集まれば麻雀はやりたいけどね。


 三人はかなり遅くまで起きていた様だ。

 私が寝る時間になっても部屋に灯りが点いて賑やかだったからだ。

 私と旦那は基本的に十一時ぐらいには寝床に就いてしまうので、早いといえば早い。

 中身が六十八のお婆ちゃんなので仕方が無い。


 そんなお婆ちゃんな私はまだ朝の五時だと言うのに、顔を洗って着替えて台所で朝食の準備をしている。

 今日はクロックマダムを作る。

 折角、美希と彩奈が帰ってきているのだから少し手の込んだ朝食にしたいのだ。


 皆が起きてくる時間まで少し時間があるので先にサラダから作る。

 レタスは冷水で洗ってから手で千切る。

 人参は細切りにして、彩りに黄色と赤色のパプリカを薄めの輪切りにする。

 玉葱は半分をスライサーでスライスをした後、キッチンペーパーに薄く広げてお酢を少し振ってレンジで三十秒加熱する。

 こうする事で火が通らない感じで辛味が抜ける。

 さっと冷水に通せばシャキっとした玉葱スライスが出来上がる。

 かいわれは根元を切るだけ。

 後は材料を器に綺麗に盛るだけ。


 ドレッシングは半分残しておいた玉葱をすりおろして、オリーブオイル、お酢、そしてレモン汁、マスタードを少々、彩りにみじん切りにしたパセリとレモンの皮を入れる。

 レモンの皮を使う場合は農薬無使用でワックスが塗っていない物を選ぶ。。

 最後に塩とブラックペッパーで味を調えれば完成だ。


 こっちの材料でドレッシングは久しぶりだったけど、良い感じに出来たと思う。

 向こうの世界だとドレッシングは基本的に自家製だから作るのが普通なのよね。


「レモンの香りがスッキリして良い感じね」


 出来たドレッシングを味見してみると良い出来なので満足。

 酸味と塩っ気のバランスもちょうど良く、レモンの皮を入れた事によりさわやかさが出ておりさっぱりとした味わいになっている。


 今から朝食のメインとなるクロックマダムに取り掛かる。

 時間に余裕があるのでパンに塗るベシャメルソースから作る事にする。

 一見、難しそうだけど言う程難しくは無い。


 鍋にバターを入れて溶かしたら小麦粉を振るって手早く火を入れながら混ぜる。

 失敗しないコツは弱火で焦げない様にする事。

 レシピによっては最初中火にしたりするんだけど、火力調整を途中ですると失敗しやすいから私はやらない。

 本当はそっちの方が美味しいのかもしれないけど、失敗しない方が重要。


 そこに牛乳を少しずつ加えながら混ぜていく。

 牛乳を全て入れ終わったら泡立て器で粉がダマにならない様にしっかり混ぜる。

 塩で軽く味を整えて完成。

 所要時間は意外と少なく十分程。

 今回はパンに塗るので少し硬めの仕上がり。


 ベシャメルソースを作る前に温めておいたトースターで食パン二枚を軽く焼く。

 後程、具材と一緒にオーブンで焼くのでカパン暖かくなる程度でOK。

 焼いた食パンにバターを塗り、一枚には溶けるスライスチーズ、もう一枚にはベシャメルソース、ハムを乗せてオーブンでパンに焼き目が付くまで焼く。

 その間に上に乗せる目玉焼きを作る。

 皆、手に持って食べるので、トロッとならないぐらいに半熟感を残して焼いていく。

 半熟でも良いが、手で食べるので黄身が零れるのが嫌なのだ。

 焼けたパンを重ねて、その上に目玉焼きを乗せる。

 仕上げに軽くブラックペッパーを振ってとみじん切りにしたパセリを散らせば完成だ。


「中々、良い出来ね。少し頑張り過ぎかしら?」


 そんな事を一人で呟いていると旦那や都さんが降りてくる。


「おはよう、仁君」


「あぁ、おはよう、花梨奈。それにしても朝から手が込んでるな」


「美希や彩奈がいるからつい張り切って作っちゃったわ。コーヒー置いておくわ」


「すまんな」


 私は旦那の席にコーヒーを置く。


「お義母さん、おはようございます。飲み物の準備は私がしますので、ゆっくりして下さい。それにしても朝からクロックマダムとは気合が入っていますね。でもホワイトソースの買い置きなんてありました?」


「それはさっと自分で作ったのよ。慣れれば簡単よ」


 加減とコツさえ掴んでしまえば難しくは無いのだ。


「私もレパートリーを増やさないとダメですね。あ、お弁当もありがとうございます」


 合間に華奈と透也のお弁当も作っていたのだ。

 孫の弁当を作るのは楽しいので全く苦にならない。


「どう致しまして。何か家事が無性に楽しいのよね」


 私はそう良いながら自分で作ったクロックマダムを一口。

 卵とチーズ、ハム、そしてベシャメルソースの味が上手く調和して良く出来ている。

 食べていて思うけど、朝からカロリー高いわね。

 クロックマダムの味が濃い目なのでレモンの風味が利いたさわやかな手作りドレッシングのサラダがちょうど口をさっぱりさせてくれる。


 華奈と透也も下りてきて朝食にありつく。

 クロックマダムは好評な様で美味しそうに食べている。


「美希と彩奈とリアさんが起きてきませんね?」


「確かにそうね。私が見てくるわ」


 三人とも遅くまで起きていたのだろう。

 二階に上がり彩奈の部屋の扉を見ると三人とも仲良く川の字になって寝ていた。

 枕元にはスマートフォンが並んでいて寝る直前までゲームをしていたのだろう。


「美希、彩奈にリアも起きなさい。朝よ」


 私は体を軽く揺さぶりながら起こしていく。


「ふわぁ……お母さん?あ、おはよう……」


「もう朝……眠い……」


「ん……花梨奈ですか……おはようございます」


 三人とも眠そうに体を起こす。


「折角、朝ごはんにクロックマダムを作ったんだから冷めない内に食べなさい」


「え、朝からそんな手の込んだ物を作ったの?」


 美希が朝食のメニューに驚いていた。

 喫茶店を経営している美希からすればクロックマダムを作る手間はよく知っているだろう。


「だから早く下りてきなさい」


 私は先に居間へ戻り、洗い物をしようと思っていたが、都さんがサクッとやってしまっていた。


「都さん、洗い物ありがとうね」


「そんな事はありませんよ。最近は家事を任せきりなので」


 こっちに戻ってきてから家事の半分以上は私がやっている。

 でも都さんは病院の仕事もあるのだ。

 幸い内の病院は基本的に入院治療は行っていないので、夜が拘束される事が無い。

 それでも急患や書類仕事もあるので遅くなる時もあるので、少しでも都さんには楽をさせてあげたいのだ。

 それに基本はやる事が無いので家事ぐらいしないと私が辛い。


「気にしなくて良いのよ」


 私は空になった自分のカップに二杯目のコーヒーを注ぐ。

 コーヒーはコーヒーメーカーから販売されているバリスタの機械で淹れる奴だ。

 これで淹れるコーヒーは意外と美味しいのよね。

 席に戻ってコーヒーを飲みながら朝の情報番組を見ていると彩奈と美希とリアが下りてきた。


「皆さん、飲み物は何にしますか?」


 都さんがキッチンでカップを準備して尋ねる。


「私は普通にコーヒーで角砂糖一つ入れてくれれば良いかな」


「カフェオレを甘めで」


 美希は私と好みが似ている。

 彼女もコーヒーが好きだ。

 彩奈は昔から甘いカフェオレだ。


「私はどうしましょうか?」


 リアは朝ごはんを食べる習慣が無いのとコーヒーを飲んだ事が無いので、何を飲もうか迷っている。


「都さん、リアにはレモンティーを淹れて上げてもらっても良いかしら?」


 紅茶なら飲んだ事がある筈だと思う。

 それにコーヒーより飲みやすいから大丈夫だろう。


「分かりました。空いている席に座って下さい」


 三人は適当に空いている席に着く。

 都さんが手早くコーヒーと紅茶を入れて朝食を並べていく。


「お母さん、これベシャメルから作った?」


 流石、美希。

 食べて一発で当てたわね。


「そうよ。起きてからクロックマダムを作ろうと思ったから市販の買い置きが無かったから」


「料理はお母さんに勝てる気がしないわ。このクロックマダムならウチで出せるわよ」


 あら、嬉しい褒め言葉ね。


「ありがとう。朝から頑張った甲斐があったわ」


 彩奈とリアの方を見ると美味しそうに朝食を食べている。

 リアは紅茶が良さそうね。


「そう言えばお母さんは普段は何をしているの?」


「特に何も。こんな形だから迂闊な事は出来ないから。暇があれば旅行でもするつもりだけど」


 自分の姿は何かと目立つのだ。


「それならウチで働かない?お母さんが厨房なら安心して任せられるし」


 美希の突然の提案に私は迷う。

 確かに日がな家で時間を持て余しているのは勿体無い。

 そう言う意味では日中だけの営業の喫茶店の仕事は悪くない様に思えた。

 だが自分が表に出るのは極力避けたい。


「確か野々市の市役所の近くだったわよね?」


 野々市の市役所付近は新しいお店が多い地域だ。


「そうよ。今は私一人でやっているんだけど、最近はお客が増えてきて手が足りないのよ。バイトを雇うか迷っていたんだけど、お母さんがもし暇ならどうかな、と思ってね」


「うーん、悩むわね。足が無いのよ」


 我が家から野々市の市役所方面に行くには内灘線で金沢駅まで行ってから野々市の市役所方面へ行くバスへ乗り換えなければならない。

 直線距離で我が家から10km以上あるので自転車で行くには少し遠い。

 まぁ、冒険者をやっていた私の体力なら大した事は無いかもしれないが、通勤に一時間はちょっとあれかな。


「出掛ける時は彩奈の自転車を借りてるからね」


「免許を取ったら問題無い感じ?」


「車なら問題無いわね。でも少し考える時間を頂戴」


「分かったわ。良い返事を期待しているわ」


 そんなに期待されても困るんだけど。


「お母さん、免許の写真はどうするの?確か帽子はダメな筈だよ」


 彩奈が非常に痛い指摘をする。

 免許の写真は帽子を被っての撮影がダメなのをすっかり忘れていた。


「忘れていたわ……。でも耳を出すのは不味いのよね」


 写真が撮れないと免許を取得する事は出来ない。


「それなら髪で隠したら良いんじゃない?幸い髪は長いんだから。耳はテープで止めておけば何とかならないかしら?」


 美希、ナイスアイディア!


「あ、それなら行けるかも。髪をワックスで固めれば大丈夫じゃない?」


「そうね。後で試してみるわ」


 一時的で良いなら何とかなりそうだ。

 それよりも学科の試験勉強が先ね。


「今日は何か用事あるの?」


「私?リアの引越しぐらいかしら?と言っても引越し業者が来る訳じゃないから手間は掛からないとは思うけど」


 空間転移や創造など何でも有りなので直ぐ終わる気しかしない。


「確か姉さんの部屋を使うんだっけ?」


 リアの為に整理した物置部屋は元々長女照の部屋だ。

 結婚をして家を出てから空き部屋になり、気が付けば物置と化していた。


「えぇ。リア、荷物はどれぐらいあるの?」


「そんなに多くないですよ。と言うか部屋を見ながら家具は作るつもりでしたから。東京にある部屋の荷物は移動させないので、こちらに置くのはベッドとテーブルとタンス程度ですかね」


 相も変わらず規格外だと思ってしまった。


「作るんですか?」


「はい」


 彩奈は不思議そうに聞くとリアは真顔で答える。


「そうすると後でホームセンターへ行くの?」


 リアの言葉の意味をDIYと取った様だ。


「彩奈、違うわよ。リアは物質を想像出来るのよ。昨日、見たでしょ?」


 彩奈は明後日の方向を見ながら記憶を思い起こす。

 そして昨日の事を思い出したのか顔が引き攣っている。


「リアに人の常識は通じないわよ。私も呆れるしかないから」


 そもそもリアは女神なので人と色んな事の感覚がズレている。


「私がまるで非常識みたいな……」


 リアは自分が至って普通だと言うが、リアが普通なら世の人間全てが普通になってしまう。

 正直、注意するのも面倒なのでスルー。


「ほら、早くご飯を食べてしまって」


 私はそう言って自分の食器を持って台所へ。


「リア、顔を洗って着替えが済んだら引越し作業始めるから」


 ここは有無を言わさず私が決めてしまう。


「分かりました。花梨奈はその間どうするのですか?」


「私?洗濯物に掃除とかやる事はあるわよ」


 今は都さんの代わりに日中の家事は全て私が担っているのだ。

 やる事が無い事は無いのだ。


 洗い物を片付けて洗濯物を干し終えるとリアの準備が出来た様だ。

 そして、リアの部屋の前には何故か美希と彩奈以外に旦那と都さんがいた。

 二人とも仕事はどうしたのかしら?


「二人とも何でここにいるの?」


「いや、どんな事をするか気になってな」


「折角なので見たいと思ったので」


 二人とも興味津々だった。

 だからと言って仕事着で来る事は無いと思う。

 と言うか一人残された輝が気の毒だわ。


「ちゃんと仕事しなさいよ……」


 リアは部屋の中を見渡していた。

 何を何処に置くか考えている様だ。

 考えがまとまると虚空に手を翳して魔力を展開する。

 その瞬間、部屋の様相が華々しく変わった。


 フローリングの上には柔らかなさぞ寝心地が良さそうなふかふかの白と赤のツートーンの絨毯が敷かれ、エアコンの下にはアンティーク調のベッドとタンスにガラスの丸テーブルが置かれ、壁には赤と白の薔薇のリースが掛けられており、照明も豪華なシャンデリアになっていた。

 その変わり様に皆、一様に息を飲む。


 と言うか、ここって私の家よね?

 何処かのアンティークをテーマにしたモデルルームに来たと錯覚してしまう。


「花梨奈、引越しが終わりましたよ。皆さん、どうしたのですか?」


 リアの非常識な引越しに皆、開いた口が塞がらなかった。


「いや、何と言うか……ここだけ別空間になっているな、と思っただけよ」


 全員、私の言葉に首を縦に振った。


「そうですか?明るくて良いと思うのですが」


 私は決して悪いとは思っていない。

 ただ、部屋が変わる過程に驚いているのだ。

 固まっていると旦那の携帯が鳴った。


「ん、誰だ?輝から早く戻って来い、か」


 仕事を放り出して来てれば呼び出されるわよね。


「儂と都さんは病院に戻るから花梨奈、後は頼んだぞ」


 旦那と都さんはそそくさと階段を下りて病院へ戻って行った。

 と言うか仕事しろ、と言いたい。


「リアさんって、本当に凄いのね……」


「神様って、本当にいるんだね……」


 美希と彩奈は目の前の光景にまだ呆然としていた。

 気持ちは分かるけどね。

 私は部屋の中へ入ると昨日まで空だったクローゼットの中には洋服がだくさん架かっていた。

 これが引越しと言ってしまったら引越し業者が泣きそうね。


「リア、普段は魔法とか創造は自重してね」


「分かっています。これで終わりですが、どうしましょうか?」


 一瞬で引越しが終わったからね。

 私も何も考えていなかったわよ。


「それならお昼はウチのお店で食べる?皆、来た事無いでしょ?」


 言われてみれば美希のお店には行った事が無かった。

 確かオープンした時は既に入院していたんだっけ?


「良いの?」


「全然、良いわよ。お母さんには来て欲しかったら。それに今日はお休みだから気兼ねする事無くお喋りも出来るしね」


 私も美希のお店には行きたかった。

 折角の機会だから行きたい。


「リアも彩奈も大丈夫かしら?」


「私は構いませんよ」


「大丈夫だよ」


 二人とも問題無いみたいだ。


「じゃ、今日はよろしくね」


 私達は各自身支度をして家を出た。



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