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13:エルフさんとエルフさんの子供達

「もしもし」


『今、百番街の時計台の駐車場の近くの道路の所に着いたぞ』


 旦那が金沢駅に着いた様だ。


「分かったわ。今、そっちに行くから少し待っててね」


『分かった』


 私は電話を切る。


「旦那が迎えに来たから行きましょう」


「はい」


 私はリアを連れて百番街のRintoを抜けて外へ出る。

 道路には人街の車が並んでいた。

 ちょうど時計台の駐車場と百番街の間にある道路は待合の車が多い場所だ。

 なので金沢駅周辺でかなり混雑する場所だ。


 ざっと車を見て旦那の車を探すと直ぐに見付かった。

 周りの車と比べて一際大きい黒の車体が目立つ。

 旦那が乗っているのはトヨタのランドクルーザー200だ。

 夫婦で車の趣味が全然違う。

 私はスポーツカーが基本的に好きなのに対して旦那はSUVの様なガッチリとして漢らしい車が好きだ。

 運転と言う意味では座席の位置が高い車は苦手な私、逆に高い位置が好きな旦那。

 車の好みだけは正反対なのだ。


私は旦那の車に近寄り、助手席のドアをノックする。

 そうすると旦那がロックが開いていると合図するので後部座席のドアを開けてリアに車へ乗る様に促し、私もその横に乗り込む。


「迎えに来てくれてありがとう」


「態々ありがとうございます」


「そんな事無い。取り敢えず、輝達は先にっ向かっている」


 旦那は車が来ない事を確認し、ゆっくり車列から抜け出す。


「楽しかったか?」


「えぇ、久しぶりの金沢はとても楽しかったわ。リアはどうだった?」


「私も楽しかったです。今まで東京から出た事が無かったのでとても新鮮な事がたくさんでした」


 リアは満足気に答える。

 楽しかったなら何よりだ。

 私も久しぶりの金沢をゆっくり見て回って改めてこっちの世界に戻ってきたと実感出来た。


「それなら良かった」


 旦那の声がいつも以上に優しく感じたが気のせいでは無いだろう。


「本当にこの後、私も一緒で良いのですか?」


「寧ろその方が助かるわ。説明の手間が省けるから」


 正直、私一人で説明しきれる自信が無い。


「すまんが儂からもお願いしたい。恐らく身内だけだと収拾がつかなくなる可能性が高い」


 きっと彩奈が大変な事になるのではと旦那と話していたのだ。

 まぁ……死んだと思った人間が帰ってきたら混乱するのは間違いないんだけどね。


「そうなのですか?」


 リアはそうなのだろうか、と言う感じで首を傾げる。

 こう言う人の感情の機微を掴む事に関してはリアは得意では無い。

 そんな所を見ると人では無いと感じてしまう。


「リア、ごめんなさい。我が家の事情に連れ回してしまって……」


「私は構いませんよ。花梨奈は私にとって気軽に話せる数少ない友人ですので」


「……ありがとう」


 車は金沢駅からけやき大通り、通称50m道路を北上し鞍月方面へ走らせる。

 国道八号線を越えると左手に石川県庁が目に入る。

 更に金沢港の方に向かって走り、途中右折し、郊外型の大きい居酒屋へと辿り着く。


 ここは台場と言う名前の居酒屋なんだけど個室が接待や法事にも使えるので使い勝手が良いのだ。

 昔は和食中心の居酒屋だったのだけど、今は夕食時限定で焼肉もやっているらしい。


 旦那を先頭に店内へと入っていく。


「本巣で予約しているのですが」


「ご予約の本巣様ですね。ご案内致しますのでこちらへどうぞ」


 店員は旦那の言葉に直ぐ予約の一覧を確認し私達を席へと案内する。

 中央の階段を上がり二階の個室へと案内される。

 個室へ入ると既に輝一家に懐かしい顔ぶれが揃っていた。

 ちょうど上座に三席空いており、奥から旦那、私、リアの順に座る。

 私とリアの登場に事情を知っている輝達以外は困惑の表情を浮かべる。

 私の横には彰、向かいには生前の私を若くした感じの長女の照、その横には照の旦那さんの角屋隆(すみやたかし)さん、そして娘の美希と彩奈が座る形だ。

 都さんは華奈と透也と照の子供の翔太(しょうた)と一緒に家に残ってもらっている。


「これで全員揃った様だな」


 旦那は揃った面々を見渡して言った。


「今日は花梨奈の四十九日と言う事も有り、大事な事を伝えねばならないのでこの席を設けさせて貰った」


 その視線は謎の外国人である私とリアに自然と集まる。

 分かってはいるが、家族から向けられる訝しげに見つめられる視線が辛い。


「今から話す事は到底、信じられない物だと思うし、困惑するとは思うが心して聞いて欲しい」


 旦那は念を押し、表情の真剣味が増す。


「すまんが帽子を取ってもらって良いか」


「分かったわ」


 私は旦那に言われ帽子を取るとエルフの特徴である長い耳が露になる。


「えっ……」


 彩奈が思わず声を漏らす。

 まるで信じられない物を見る様な顔をしていた。

 隆さんに照に美希も彩奈程では無いが表情に驚きが見て取れる。


「……もしかして……」


 彩奈は手で口元を覆い、声が震えていた。

 その顔は今にも泣きそうだ。


「ちょっと大丈夫、彩奈?」


 美希が彩奈の様子が心配に声を掛けた。

 恐らく、彩奈は私の事が分かったのだろう。

 姿は変わっているが基本的な顔の特徴に声は生前と一緒なのだ。

 これは旦那から聞いて気付いた事だけど。


「彩奈は何となく気付いたんだな。こっちの耳の長い金髪の女性はお前達の母親の花梨奈だ」


「う、嘘……」


「だって……今日……」


 照も美希も旦那の言葉に明らかに驚愕した表情を見せる。

 彩奈に至っては声に出せない様だ。

 先程、四十九日の法要で供養した相手が目の前にいるなんて誰も思わないだろう。


「混乱させてごめんなさい。私が死んだのは事実よ。でも私は別の世界で生まれ変わったの」


 私は生まれ変わった経緯を順を追って話していく。

 転生して異世界でエルフになった事、向こうで結婚して子供、孫がいる事、薬師をしている事、そして事故でこっちの世界に戻ってきてしまった事。

 ゆっくり話していくと困惑しながらも徐々に落ち着いてきた様だ。


「―――今はこうして日本で当面、生活する事になったの。私も驚いたわ。戻ってきたら自分が死んでから一ヶ月程しか経ってなかった事に」


 嗚咽が聞こえてくる。

 彩奈の涙腺は崩壊し、ハンカチで押さえながら途中からずっと泣いていた。


「本当に心配掛けてごめんなさい」


 私は彩奈の涙に物凄く心が苦しかった。

 自分の所為で娘がこれ程悲しんで苦しめていた事を実感した事は無かった。

 今程、生前の自分を悔やんだ事は無い。


「本当に……お母さんなの?」


「えぇ、見た目はエルフになってしまったけど、あなたの母親よ。信じられないなら思い出を語っても良いわよ?」


 彩奈は首を大きく横に振る。


「あー、混乱するわ。正直、信じられないけど、取り敢えず、お母さんは家で普通に生活するのよね?」


 美希は混乱を抑える様に髪を手で掻きながら言った。


「そのつもりよ。でもこんな姿だから出来る事は限られるけど」


「ま、お母さんが戻ってきたと思って割り切るわ」


 美希はあっさり割り切ると言った。

 この子はある意味、性格が私に似ている。


「私としては喋っている感じでお母さんと言うのは何となく感じますけど、翔太にどう説明した物か悩みますね。あなた、どうしましょう?」


「僕に聞くのか?はっきり言って異世界に生まれ変わってなんて信じられないぞ。翔太ならあっさり受け入れそうだが……」


 隆さんは照に振られて困った顔をしながら返す。


「最初は俺も信じられなかったが、あのビールの飲み方は間違いなく母さんだ」


 だから何でビールの飲み方で私を判断しているのかしら?

 私はジト目で輝に抗議の視線を送る。


「輝、明日の晩御飯はピーマンづくしにするから覚えていなさい」


「ちょ!?母さん、それはマジで勘弁してくれ!!」


 輝はこの年になってピーマンが大の苦手なのだ。

 お前はお子様かと言いたい。


「ぷっ……本当にお母さんね。このやり取りは懐かしいわ」


「そうね。兄貴が変な事を言ってピーマン責めにされるのは我が家の定番よね」


 照と美希は私と輝のやり取りに思わず笑い、懐かしむ。


「何かそんな事で私と認識されるのは少し心外なんだけど……」


 一人でぼやく。

 本当に子供達にどう思われていたのか凄く気になってきた。

 でも聞くと余計に凹みそうな予感しかしないので聞かない。


「はぁ……私から横にいる人を紹介するわ。私が転生した世界の創世の女神であるアルスメリア様よ」


「ヴァースと言う世界を管理しているアルスメリアと申します、気軽にリアと呼んで下さい」


 リアを紹介した瞬間、場が凍り付いた。

 当然、そうなるわよね。

 異世界とは言え神様が出てくるなんて誰も想像しないだろう。


「当面は本巣家で住まわせて頂く事になりますので、ご挨拶をと思って一緒にさせて頂きました」


 そんな話は無かったけど、リアはそれっぽく言うので特に突っ込まない。

 寧ろ突っ込む方が面倒。


「異世界の神様って、本当に?」


「はい。どうやったら信じて貰えますかね?」


 リアは美希の疑問に対してどうやってら認めてもらえるか考えている様だ。


「美希、手を出してもらって良いですか?」


「えぇ、良いわよ」


 美希はリアに言われる通りに手を出すとリアは握りこんだ手をその上に置いた。


「ちょっと手品っぽいかもしれませんね」


 リアがそう言って手を広げるとそこから小指大の綺麗な透明な石が幾つも美希の手の上に転がっていく。


「こ、これ何!?」


 突然の出来事に声を上げる美希。


「ダイアモンドです」


 リアの無自覚の言葉に場がピシリと音を立てて凍り付いた。

 宝石を何も無い所から生み出すとか規格外にも程がある。

 残念ではあるが腐っても創世の神と呼ばれるだけの事はある。

 小指大の大きさだから10カラットぐらいはあるのでは無かろうか?

 未加工だけど一個二千万円から三千万円ぐらいするだろう。


「美希、手に乗っているダイヤだけで五億円ぐらいの価値があるかもしれないわよ」


 美希は私の言葉に体が完全に固まってしまう。

 そして持っている手がブルブルと震えだす。

 自分の手に五億円が乗っていると思うと間違いなく怖い。


「お、お母さん……」


 泣きそうな顔で見てくる美希に私は溜息を吐いてリアを見る。

 リアは私を見てにっこりと笑い、美希の手の上をダイヤモンドを回収して空間収納へ放り込んだ。

 突然、消えたダイヤに周囲は困惑しているが、美希は手の上のダイヤが消えた事でほっと胸を撫で下ろしていた。


「リア、私の娘を苛めないで欲しいんだけど」


 私が非難の視線を送るとリアはさっと目を逸らした。

 都合が悪い時の反応は分かりやすいのよね。


「ちょっと変わった所はあるけど、悪い人じゃないからよろしくね」


 強引によろしくしてしまう。

 みんな戸惑いながらよろしくをして食事会が始まった。


 私は照や美希に異世界の話をしたりしながら食事会は和やかに進んで行った。

 少し意外だったのは彩奈とリアが意気投合して仲良くなっていた事だ。

 耳を少しリアと彩奈の方へ向けてみる。


「リアさんもワンダーズオンラインをやっているんですか?」


「はい。彩奈もやっているのですか?」


「はい。私はレベル700ぐらいで聖騎士です」


「やり込んでますね。私は悪魔でレベル999でカンストしてます」


 どうやら同じゲームをやっている様だ。

 それにしても女神が悪魔を使うのかしら?


「レベルカンストですか!?凄いです!でもカンストの悪魔と言うとドリフって言うプレイヤーが有名ですよね?」


「あ、それが私です」


 何でドリフなのよ!?

 そのネーミングセンスが謎過ぎるわ。


「本当ですか!?今度、一緒に狩りに行きませんか」


「良いですよ。もし良かったら私のギルドに入りませんか?」


「リアさんのギルドと言うと……女神の翼ですか?」


 ギルド名は普通ね

 別の意味で引っ掛かる名前だけど。


「そうです。一応、私がサブマスターなので私の権限で承認出来るので安心して下さい」


「そう言えばギルマスは凄く有名でPKキラーのヴァルファルネアさんでしたよね?」


「はい。彼女はPK狩りが趣味なので。彩奈も女神の仲間入りですね」


「私なんか女神なんて恐れ多いですよ。実はギルメンが女神しかいなかったりして」


 彩奈は笑いながら冗談っぽく言った。

 これは嫌な予感しかしない。

 目の前にいるリアが生粋の女神なのだから。


「そうですよ」


「は?」


 リアの肯定の言葉に彩奈は間抜けな声を出した。


「一応、アマテラスやモリガン、アテナ、ネフティスも本物ですよ」


 ちょっと待ちなさい。

 今、挙げた女神が本物とか全く冗談にもなら無いんだけど。


「ギルマスのヴァルファルネアは異世界の女神ですね」


 衝撃の事実が発覚。

 異世界の女神が他にもいた。

 リアがいるんだから他にいてもおかしくは無いわよね。

 それにしても神様はゲームが好きなのかしら?


「冗談ですよね」


「本人ですよ」


「……」


 彩奈が完全に固まってしまった。


「アマテラスにメールしておきますね」


 固まっている彩奈を余所にリアは携帯を取り出してメールを打っている。

 これ以上聞いていると色々と面倒な事が起こりそうな気がしたので旦那にもたれ掛かって逃げる事にした。

 完全に現実逃避。

 さっき聞いた名前は忘れよう。


「皆さんにメッセージを送ったら了承の返事がすぐ来たので後で彩奈の方から申請を出しておいて下さい。後、ネフティスから年末年始に日本に来るらしいので一緒に遊びましょう、だそうです」


 彩奈は頷いているが現実に戻ってこれていない。

 さらっと私にも爆弾な気がしたけど、聞かなかった事にしよう。

 地味にどっと疲れた食事会だった。



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