彩透和喜の語り
推理小説などを読むにあたって、僕は探偵よりも探偵の引き立て役の方に立って考えてしまう。
つまり、ただ見ているだけだ。
この度は僕、彩透和喜の体験談を語らせてもらう。
しかし、今回僕は、見ているだけで話は終わらない。
僕はワトソン先輩のように上手く語れないだろう。
先輩というより先生かな。
とにかく、語り部としては未熟者だが、そこは温かい目で見てほしい。
今回の件は大したことないが、僕の今後に繋がる話だから語らせてもらう。
語ることがあっても騙ることはないから安心してもらっていい。
高校2年の冬の放課後。
短縮授業だったのもあって、ホームルームが終わり次第各々が部活や家に直行したのだろう。しかし、何よりも、ホームルームが終了した後に起きた事件が人払いをしたのだろう。
教室内は女子数人と男子2人以外は誰もいなくなっていて、冬のそれとは違う寒さが教室を覆っていた。
先生も窓やロッカーの鍵のチェックが終わって職員室にいることだろう。
僕も他の生徒同様、ホームルームが終了してすぐに帰宅をしたので、教室で何かがあったことは察したが、何があったのかは全く知らなかった。
したがって、僕は教室に入ってから忘れ物を取るよりも先に、何がこの教室で起きたのかを聞くことにした。
唯一、教室内の集団のにいなかった、窓際に座っている黒髪ロングの女子。神代さんに何があったのかを聞いた。
神代さんはホームルームの時から僕が教室に戻ってくるまでずっと窓際の席で読書をしているようだ。カバーで本の表紙は分からないが、どうやらとても面白い本らしい。
時々小さく笑ってから周りを見て恥ずかしがる彼女はとても可愛い。しかも、普段は口数の少ないこととのギャップにより、男子の間では「天使の微笑み」とまで言われていた。
こんな時でなければ本の話でもしてみたいものだが、そういう状況ではなかった。
「神代さんって、ホームルームからこの教室にいるよね。何があったか教えてくれるかな?」
「ーそうね。彼女達が帰ろうとした時に、幕の内さんの財布が無いことに気付いたの。それで、森がまだ残っていた生徒にそれぞれ探すように言って見付かったらしいわ」
当然のように同じクラスの女子の名前を間違え、担任を呼び捨てにして説明した。
きっと間違えたのだろう。
「幕の内って弁当のことじゃない?」
「ま行の『なんとか下』さんよ!ま行の女子は1人しかいないんだから察しなさいよ!」
赤くなっている神代さんを見れて得をした気分だ。
それにしたって、『なんとか下さん』はひどいな。
何をどう、なんとかしたんだ。
「分かったよ。じゃあ、解決したのに何であんなに揉めてるんだ?」
「ーその財布が柿沼君と風間君のロッカーから出てきたからよ」
因みに、僕のクラスのロッカーは出席番号順に、2人で1つのロッカーを使うことになっている。
共同使用ロッカーである。
元々は1人に1つロッカーがあったのが半分に減ってしまったのだ。
しかし、これはまた別の話。
事件の概要を神代さんから聞き終えて、今最も近いてはいけない集団を確認しようと目を向けてみた。すると、いつの間にか女子の1人が僕達のことを見ていたらしく、目が合ってしまった。
その女子は僕達を、自分達の"犯人探し"という議論に参加させようと手招きしていた。
どうしようかと神代さんに顔を向けた時には既に本の世界に入っていたので、僕は1人でその女子の手招きに応じた。
ー私達、どうしても知りたいの。
どうやら、正確には、担任が教室から出て少ししてから松下さんの財布が柿沼と風間のロッカーから見付かったらしい。
…ということで、風間と柿谷は部活動時間であるのにも関わらず教室に居残り。
松下さんと数人の女子達は犯人探しで居残り。
そして、そこに僕が同席するという図が出来たのである。
僕は教室に忘れ物をして取りに来ただけだったのですぐに帰りたかった。
神代さんから事情を聞いた後すぐに教室から退場すればよかったものの、目を合わせてしまったが為に巻き込まれてしまうなんて…。
いや、そもそも教室に入って忘れ物を取ったらすぐに帰るべきだった。
運が悪かった。
犯人候補にならないだけましではあったものの、探偵役をやってほしいと言われてしまった。
まあ、これは冗談だ。
実際には、「どっちが盗ったとおもう?」と聞かれただけである。
しかし、僕は探偵役を勝手に引き受けようと思っていた。なぜなら、クラスで朝倉さん、神代さんと共にトップを誇る可愛さの松下優子さんの財布の盗難事件。
巻き込まれたとはいえ、これを見過ごすわけにはいかない。
僕の株価を上げるチャンス。
しかも、だ。容疑者として挙がっているサッカー部の風間秀一とバスケ部の柿谷陽介はどちらとも女子からの人気が高いらしい。
ここで、一応2人の紹介。
風間はサッカー部のエースで頭が良く、クールなのに女子には優しいらしい。
イケメンである。
余談であるが、風間の真似をしてクールぶってみた男子がいたが、その子は普段から静かだった為、あまり変化は無かった。
柿谷はバスケだけでなく様々なスポーツでの才能があるらしく、持久走大会では去年トップを取っている。また、明るい性格で男女問わず人気である。
そして、イケメンである。
一緒に走ったことがあるが、笑顔で抜かされた時は蹴ってやろうかと思った。
そんな女子からの人気が高い2人の内のどちらかが容疑者であれば、俄然やる気が沸いてくる。
僕は生憎、人間として出来てないので、喜んで2人の人気を落とそうと思っていた。
そして、松下さんの為に何とかしたいと思っていた。
…駄目だ。
「何とかした」、で神代さんの赤い顔を思い出してニヤけ面が止まらない。
深呼吸。
僕はポーカーフェイスを装った。
「松下さんの財布はいつ失くなったか分かる?」
手始めに、そんな質問からしてみた。
「気づいたのがホームルームの後だったから…」
松下さんが考えてる時、同じ女子グループの子がこんなことを言った。
「そういえば、ゆっこ。体育から帰る時に財布持って来なくて飲み物買えなかったよね?」
「そういえば、そうだった、かな?」
松下さんの記憶力はそんなに低くないはずだが、何だか曖昧な感じだ。
体育は男女別々である為、授業が終わってから更衣室までの移動時間で、男子の方が早く教室に着くことが多い。
女子達が言いたいのは、つまり、今日の4限目の体育が終わってからの時間で財布が盗難されたということだろう。
「いや、待ってくれ。俺達は盗んでないぞ!」
女子達の遠回しな詰問に対して、柿沼がすぐに気付いて反論した。
「その通りだ。柿沼は分からないが、俺が盗むなんて有り得ない」
「おい、待てよ。何で俺何だよ」
運動部同士の殴り合い寸前の口論が始まってしまった。
僕は内心、もっとやれ!と応援したいところだったがここで松下さんの仲介。
「2人ともやめて。私が不注意だったのもあるかもしれないから今日はもう帰ろうよ」
流石松下さん。
自分の財布を盗難した犯人探しなのに、2人が口論を始めて、喧嘩にならないようにすぐに帰宅を提案した。
僕だったらそのまま、どちらかがボロを出すまで止めないだろうに…。
心の綺麗さの現れかもしれない。
しかし、ニュアンス的に「私の為に争わないで」と聞こえてニヤけてしまい他の女子達に睨まれてしまった。
「同じ男子の彩透君ならわかるんじゃない?」
女子の誰かが言って女子達の視線が僕の方に向いてきた。
いやいや、待ってくれ。
急展開に心の準備が出来ていない、ことはないけれど。
僕に何を期待しようというんだ。
「わかるんじゃない?」とはどういう意味が込められているんだ。
「分かる」なのか、「解る」なのかどっちの意味だ。もしかして、この女子達は両方の意味を瞳に込めて僕を見ているのか。
それにしては期待、よりもゴミを見るような目で見られているが…。
ニヤけた代償がこんな大きいものになるならポーカーフェイスを保つよう、努力するべきだった。
「えーと。じゃあ、その前に松下さんから聞きたいことがあるんだけれど、いいかな?」
松下さんは「?」という顔をしながら廊下まで一緒に来てくれた。
僕は女子達からのキラーアイから逃げるように廊下に出た。
それに、気になっていたことを確認しようと思う。
「松下さんって風間のことが好きなのか?」
「は、はぁ!?それがどう関係あるのよ!」
あ、やばい。
松下さんが開き直って怒こり始めた。
この議論に参加してから、ずっと風間をちらちら見ていたのを知っていたから、それとなく解ってしまったのだ。
それにしても、怒らなくてもいいだろうに。
「まあね。大体解ったよ」
嘘である。
キラーアイから一時的に逃げる口実である。
あえて他に述べるなら、松下さんの恋愛事情は個人的にも聞きたいことだったので聞いてみたいだけだ。
しかし、本当に、それだけで松下さんを廊下に呼び出したことがバレてはとんでもないことをされそうだ。
「解ったよ」と言った手前、話を聞いてから考えていたことを披露しなければ。
僕はひとまず、松下さんに教室に戻るように促した。
男子の2人は口論はせずとも、お互いに顔を合わせないように意識していた。
そんなギスギスした空気をぶち壊すようにドアが思いっきり開いたもんだから、次はほとんどの目が僕を鋭く睨んだ。
「か、風間と柿沼は部活行って大丈夫だよ」
ついどもってしまった。
「俺達が犯人じゃないって解ったのか」
「やっとか。部活に行かせてもらうぞ」
不機嫌気味の風間を先頭に2人は教室から出て行った。
教室に残された女子達は僕を責めるような感じで囲い始めた。
超恐ろしい。
「ゆっこと何話してたの?」
「どうして行かせたの」
「勝手な事しないでよね」
「彩透君、何がわかったのか説明して」
小学生の頃だったら既に泣いてるくらいの責めようだった。
これ以上首筋が強ばるのを感じるのは耐えられないので、そろそろ幕を下ろそうと思う。
クライマックス。
「僕こそ、君達から説明を受けたいくらいだよ。
ーどうして柿沼と風間が盗難を起こしたなんて嘘をついたんだ」
ここでやっと、嵐の収束。
女子達が揃って口を閉ざした。
「どこまで知ってるの?」
どこかのサスペンスドラマでありそうな台詞を吐いたのは松下さんだった。
ところで、さっきから演技じみた台詞ばかり口にしているが、ドラマ好きなのだろうか。 とても気になって、聞いてみたい衝動に駆られたが、また廊下に呼び出すのは我慢した。
「僕が知っているのは、君達が言ったことだけ。つまり、君達がグルとなって、わざと松下さんの財布を柿沼と風間のロッカーに入れたこと。それだけだよ」
「いつ解ったの?」
違う背の高い女子が高圧的に聞いてきた。
「森先生が教室から出た後にロッカーの中から松下さんの財布が出てきたって言われた時かな」
だって、おかしいだろ。担任がチェックをしたのに、女子達が柿沼と風間の"ロッカーから財布を見つけた"なんて。
担任は教室の窓やロッカーの施錠の確認。出来てない場合は担任が施錠することになっている。
それなのに、女子達がロッカーから松下さんの財布を見つけられたというのは、女子達自信が鍵を使って財布を入れたということだろう。
鍵は恐らく、たまたま柿沼と風間のロッカーを施錠していた錠が、女子の持っていった錠と同じだったのだろう。
百均で買えば、同じになることはある。
しかし、本当にどういうことだろう。
2人に喧嘩をさせたかったのであれば、松下さんは喧嘩を止めることはなかっただろうに。
「実はね…」
「ちょっと、美恵」
背の高い女子は松下さんが遮っても続けた。
「実は、ゆっこが風間君に告白しようとしてたから止めようと思ってしたことなの」
いまいちよく分かっていない僕に違う女子が説明した。
「風間君って、見た目とか格好いいし、女子には優しいじゃん?でも、本当は性格が悪いっていう噂が女子の間ではあってね…」
…なるほど。つまり、事件を仕立てあげて風間の本当の性格を松下さんに教えようということだったのか。
そうだとしたら、柿沼にとっては迷惑な話だ。
もちろん、巻き込まれた僕にとってもだが。
「私は風間君は優しい人だと思ってたもん」
どうやら、この様子だとあまり効果はなかったようだ。
もしかすると、僕が部活に行かせたことも原因かもしれない。
しかし、乙女心は分からないものだ。
『恋は盲目』とはよく言ったものだ。
「それでもこんなことはするべきではないよ。僕のことも考えてほしいね」
「彩透君ごめん。他に思いつかなくて…」
しまった。
女子達の目が潤んできた(松下さんはけろっとしているが…)。
あくまで、彼女達は松下さんの為にしたことだ。
だから、迷惑をかけられたとはいえ、僕はもう少し言葉を選ぶべきだった。
僕の株価は低下である。
「あ、あー…。違うんだ」
「『僕のことも考えてほしい』というのは僕が協力してあげるという意味だよ」
女子の悲しむ姿は見ていられなくてつい言ってしまった。
ひとまず、女子達には全員帰ってもらった。
僕が協力するという話をしている間、松下さんからの「余計なことをしなくていいオーラ」をずっと感じていた。
女子達を全員帰して、僕も本来の目的である忘れ物を取って教室から出ることにした。
外はさらに寒くなっているだろうから、マフラーを巻き直して手袋をはめた。
教室を出たところで、僕は女子達がまだ"全員"ではなかったことに気付かされた。
「彩透君、なかなかの活躍だったね」
さっきまで素知らぬふりをして読書をしていた神代さんが声をかけてきた。
神代さんに声をかけてもらえるなんてとても嬉しいが、僕の言った言葉に反応して席を立つことになったのなら申し訳ない。
「"女子の全員"というのは、僕が話を終わらせる為に言ったことだから、神代さんは教室に居ていいんだよ」
「彩透君の言ったことなんて気にしてもないわ」
「むしろ、聞いてないわ」
…幻聴だろうか?
僕の分析では、神代さんは清楚でお淑やかな文学女子のはずだ。
「彩透君の大したことない発言力で私を従えようなんて、浅い考えね」
前言撤回。
僕の中にある神代さんのイメージが崩れていった。
これ以上、神代さんの黒い部分を見たくないので話を切り替えることにした。
「それじゃあ、神代さんはどうして席を立ったの?」
失敗した。
席を立つ理由なんていくらでもあるし、これで用事がお手洗いだったら僕はさっきよりも鋭い罵倒を受けるだろう。
しかし、実際には罵倒されて終わった方がマシだったかもしれない。
「あなたを探偵部にスカウトしに来たの」
聞き慣れない単語を聞いた。
我が校には様々な部活が存在していて、全部を把握出来るのは部活動紹介の時くらいだ。そのため、1回の紹介くらいでは全ての部活を覚えられない。
「入るかどうかは置いといて、その探偵部は何をするの?」
僕は入らないつもりだったが、気になったので一応聞いてみた。
「探偵部のする事は色々よ。あと、彩透君が探偵部に入るのは決定事項よ」
入部は決定されていた。
僕は部活の入っていない数少ない人間なので、部活に所属している人からそんな事を言われては断わりづらい。
しかし、理由はどうであれ、ここは断っておきたい。
「申し訳ないけれど、僕は探偵部には入らないよ。」
家でゆっくりしたいのがこの僕の信念である。
「探偵部の活動は不定期だから、籍を置くだけ、みたいな感じでも大丈夫よ」
僕の考えていることを読んだかのような返答だった。
まあ、それなら面倒ではなさそうだからいいかな。
しかし、1つどうしても聞いておきたい。
「どうして僕はスカウトされたんだ?」
「彩透君の推理力は伸ばせばもっと凄いものになると判断したからよ」
「…」
別に推理なんて言われるほど、大層なことはしていない。だが、美人に褒められて嬉しいことは事実であった。
僕が照れて無言でいると入部すると受け取ったのか、神代さんは僕が今まで見たことのない、とてもいい笑顔になった。
「では明日からよろしくね」
「分かったよ。じゃあ、また明日」
あれ?今「明日よろしくね」って言ったか?
活動は不定期じゃなかったのかよ。
気にしたら負けだ。明日は無いだろう。
いや、あっても行かない。
僕は帰り道でそんな事を延々と考えながら帰った。
そしてつぎの日。
ホームルームが終わったのですぐに帰ろうとしたが、神代さんがいた。
「活動するわよ。ついて来なさい」
僕は言われるがままに神代さんの後について行き、部室棟の文化部が占領している3階の階段から1番近い部屋に入った。
「くじでここを引き当てたのよ」
とても自慢げに話してくれた。
そういえば、部員は神代さんと僕だけなのだろうか。もしそうならば、少し嬉しくもある。
「他の部員はどこに?」
いないことを期待しながら聞いてみた。
「今日は彩透君の案件だから他の部員は必要ないから呼んでないわ」
残念…。
「僕の案件ってどういうことだ?」
しかも「他の部員は必要ない」とか言っていたが、部活とはそんなものだったっけ?
「後で教えるわ。だからそんなことよりも、この早く入部届けに記入しなさい」
…。
僕は渡された用紙にクラスと名前、所属する部活名を記入して神代さんに渡した。
「うん、よし。じゃあ、さっそく彩透の案件を片付けるとしましょうか」
あ、入部すると呼び捨てなんだ…。僕としては君付けよりかは距離が縮まったように感じるからいいけれど。
「…で?案件というのは?」
探偵というのは勿体ぶって話さなければいけないのだろうか。
「昨日、柏木さんと猪塚さんと富田さんに安請け合いしてたじゃない」
そのことか。
あの3人の女子達の名前をやっと思い出した。
というか、そこまで聞くくらいなら神代さんにも参加して欲しかったわ!
「私達は風間君の不誠実なことの証明をし、松さんの目を覚まさせるのよ!」
また神代さんの新しい顔を見れた。
しかし、決め顔のところ悪いが、また松下さんの名前が違う。惜しかった。
だが、もう訂正はしない。
「お〜!」
勢いに乗り、具体的に何をするかも決めずに、荷物を置いてそのまま外へ。
サッカー部のいるグラウンドまで行ったかと思ったら、サッカー部の1年生に聞き込みを始めていた。
因みに僕はただ神代さんの後をついて行ってるだけで何もしていない。
見ているだけ。
僕の案件とか言ってなかったっけ…?
「風間君は部活で問題を起こしたことはありますか?」
「風間君はどんな先輩ですか?」
そんな質問を色々な1年生に聞いた後、口止めとしてスカートのポケットからチョコを出して渡していた。
見てはいけない取引きのようだった。
一通り聞き込みが終わって、また探偵部の部室へ。
その後は僕の仕事だった。
神代さんがメモした紙を1枚のレポート用紙にまとめた。そして、いつ入手したか分からない風間の写真をクリップでレポート用紙に留めた。
最後に、神代さんがインタビューとして録ったボイスレコーダーの編集をして終わり。
「これって別に僕が外行く必要なかったんじゃないか?」
ボイスレコーダーの編集が終わってから僕はやっと口を開いた。
「そんなことないわ。聞き込みの方法として私のやり方を見る、という勉強をしたでしょ?」
そうだったのか。
そういう意味があるとは思ってなかったから、サッカー部の活動を見学していた。
「早くそれを女子達に渡しに行かないと帰っちゃうわよ」
「神代さんがやったのに行かないのか?」
「最初に言ったとおり、あなたの案件よ」
僕は神代さんにお礼を述べてから教室に向かった。
走って行ったが、そんな必要はなかったようだ。どうやら、4人でよく、放課後に教室で話をしているらしい。
僕はまとめたレポート用紙とボイスレコーダーを使って風間について説明した。
松下さんの告白を踏みとどまらせることに成功した僕はその後、柏木さんと富田さんと井上?…猪塚さんに感謝された。
実際にはほとんど神代さんの手柄だったが、僕はありがたく、その感謝をちゃっかりボイスレコーダーに記録した。
僕は探偵部の部室に戻ったが、神代さんは既に帰ったらしい。
ボイスレコーダーはまた今度神代さんに聞かせてあげよう。
部室のホワイトボードに置き手紙、というか書き置きが貼り付けてあった。
「今日はお疲れ様。部屋の鍵を閉めて帰るように」
そして、最後の一行。
「明日もよろしくね」
やはり、不定期というのは嘘だったのか。
しかし、僕はそれほど嫌がってもない自分に気付いた。
仕方ない。やってやろうではないか。
荷物を持って部室の鍵を閉めた。
当然だが、鍵は百均で売っているようなものとは違うことが一目でよく分かる。
僕は謎の安心感を感じ、マフラーを巻きながら歩いた。
時間は昨日よりかは少しばかり遅くなっていた。
日もほとんど沈みつつあり、スマホで調べたら気温は今年で1番低かったが、僕の体感温度は少しばかり高かった。