5
登場人物
和月夜・・・この物語の主人公。『極東の赤黒い死神姉弟』の1人。神融合異能士。日本軍異能士特別作戦郡郡長補佐。
大和日陽里・・・月夜の姉。『極東の赤黒い死神姉弟』の1人。面倒見がよく、礼儀正しい。神融合異能士。日本軍異能士特別作戦郡郡長。
大和海琉・・・月夜の弟。『極東の赤黒い死神姉弟』の1人。真の天才で不良グループのリーダー。神融合異能士。日本軍異能士特別作戦郡郡長補佐。
細谷大嗣・・・日本異能士育成駒沢高校の生徒指導の先生であり、日本軍異能士部隊参謀。『式覗眼』の異名を持つ。
孫英剛・・・北朝鮮海軍統帥。『爆烈火焔』と言う能力を使う。
金鎧石・・・北朝鮮海軍副統帥。神融合異能士。
七頭女神・・・ロシア人の少女。スラヴ神話の7柱神の1人。
東西冷戦が再勃発した。
ロシアを盟主とした共産主義・社会主義陣営がアメリカを盟主とした自由主義・資本主義陣営に宣戦布告し、真っ先に犠牲になったのは日本の隠岐島だった。対馬は対韓国防衛要塞と化していたため、北朝鮮は比較的攻めやすい隠岐島を狙ったのだろう。
時代は異能力。
油まみれで鉄臭い戦争の時代は終わりを告げ、科学が発展し異能力が戦場の主役になるのかと思われたが、見事に共産主義・社会主義陣営がぶち壊してくれた。
そう、魔術の復活。
神話に書かれている時代には沢山の神々が群雄割拠する時代だった。神話には今の科学では証明できない超常現象や力が描かれている。それを一部の宗教家や神話の研究者などが再現したという。
その古くて新しい儀式は一部の異能士にも取り込まれていた。
神融合異能士は神話に登場する神を霊体として降臨させ、異能士と融合させることで作ることが出来る。神融合異能士は魔力を元にした異能を使うので、全ての系統の力を使える。一般の異能士は脳で展開式というものを組み、そこに血液から新たに発見されたアニュージュアルという成分を術力という力に変えて、組み立てた展開式に術力を流し込み異能の力へと変える。更に異能力を使うためには、アニュージュアルを術力に変えるための薬を服用しなくてはならない。
しかし、神融合異能士は魔力を直接展開式に流し込み、異能の力を発動できるので、アニュージュアルを術力に変える手間が掛からなくなり、普通の異能士より速射性に優れている。
それに、普通の異能士はアニュージュアルを術力に変えるときにどうしても個人差があるがムラができてしまう。そのムラが自分が使える能力の系統に得意、不得意の影響を与える。よって、12個ある系統の中でどれか1つを伸ばしていく異能士が一般的だ。神融合異能士は魔力を変える必要が無いため、全ての系統の能力を使うことが可能にるし、薬の服用も不必要だ。
これからの戦争は異能士と魔術師がぶつかり合うようになるだろう。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「おー、なんか凄いことになってんじゃん?」
派手な服装の少年が対峙している金鎧石と極東の赤黒い死神姉弟を見下ろしている。
派手な少年の背後から背の低い少女が顔を出す。
「金さん押されてますねー。」
少女は間延びした声で少年に話しかける。
おそらく兄妹のようだ。
すると兄らしき方が下の片方に向かって叫ぶ。
「おーい、金おっさーん。加勢しに来たぞ。」
「私も来ましたー。」
金鎧石はチラリと自分の名前を呼んだ兄妹の方を見る。
「少し遅くないか? まぁいい。」
それだけ言うと金は何かを呟く。
「人神融合武器化発動。朝鮮神話を元に冥府の王、現世の王を召喚。」
すると、兄妹が青白い光に包まれ、光の粒子となって金鎧石の両手に集まる。
「太陽と月を射落とす武器となれ。」
金鎧石が次にそう呟くと、金鎧石の両手に集まった光の粒子が左手に漆黒の巨大な弓となり、右手には純白の巨大な弓となった。
「陽月墜。」
金鎧石が最後に呟くと2つの弓が輝き、金鎧石と極東の赤黒い死神姉弟との頭上に青白い月と輝く太陽が出現する。
「この2つの弓は太陽と月を射落とした神話を元に組み上げた術式だ。その2つのエネルギーは隠岐島にクレーターをつくることだろうよ。」
金鎧石の無情な宣告。
巨大なエネルギーがふたりを襲う。
しかし、隠岐島にクレーターが出現することは無かった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「なに?」
金鎧石は確定したはずの未来が覆されたことに驚きを隠せなかった。明らかに動揺しているのが見て取れる。
クレーターが出来ているはずの場所には無傷で立っている3人の人影があったからだ。
「残念でしたね。」
「お前は・・・」
そう、そこに立っていた左目を黄金色に輝かせている新しい人影はのは日本軍異能士特別作戦郡郡長にして、極東の赤黒い死神姉弟の長女、大和日陽里だったのだ。
「貴方は知っていますか? 私達は何の神を宿しているか。」
「当たり前だ、日本神話の天照大神、月読命、素戔男尊だろ?・・・はっ!」
「分かったようですね。そう、私が宿している天照大神は太陽を神格化させたもの。太陽を元にした攻撃は吸収出来る。」
ちらりと右目を紅く輝かせている月夜を見る。
「そして、月夜が宿している月読命は月を神格化させたもの。と言うことはこちらも月を元にした攻撃は通じない。その攻撃は魔術としても変わらない。」
「くっ!」
金鎧石は悔しそうに歯噛みして俯くと、2つの巨弓は人の姿に戻る。
「初めて攻撃が通じなかった。」
人の姿に戻った冥府の王も悔しそうに呟く。
「撤退だ。」
金鎧石が振動系能力を使い、北朝鮮軍の軍人達にそう広める。
すると、すぐに撤退の準備が始まり戦艦へと引き揚げていく。
「勝ったぞー!!」
「金鎧石に勝ったー!!」
「勝利だー!!」
と、日本軍側から男達の勝鬨がこだまする。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「七頭女神様、金鎧石率いる北朝鮮軍が、撤退を始めました。如何がなさいますか?」
七頭女神と呼ばれた少女は大きな鏡台の前に座り、古い木製の櫛で腰程まである長い金色に輝く髪を梳いていた。
「そう、使えない奴らね。」
古い櫛なので所々ささくれが出来ており、長い金髪がときおり引っかかり、不満そうな表情をする。
「いいわ、次は私達スラヴの七柱神が参りましょう。」
「了解いたしました。」
髪を梳き終えると、古い櫛を鏡台の机に置く。
「まずは日本から滅ぼします。」
彼女の瞳は爛々と輝いていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ここは日本軍異能士特別作戦郡が隠岐島の戦いの時に本部としていた空母の1室だ。そこには世界に『極東の赤黒い死神姉弟』として恐れられている3人がいた。
「やっと終わった。」
長男である月夜が呟くと長女である日陽里と次男である海琉が返す。
「そうだねー。私はあんまり疲れてないけど、2人はお疲れ様。」
「あんくらいは楽勝だぜ。」
戦いの時とはまるっきり印象の違う2人が気の抜けた表情でズズズーとお茶を啜る。
「いやーしかし、魔術師が出てくるとはね。」
ホッと一息ついた日陽里がそういうと、月夜が聞く。
「日陽里は魔術の存在を知っていたのか?」
「まぁ知っていたけど、なんで?」
「いや、なんでじゃなくて先に教えてくれてたら戦いやすかったのに。」
なあ? と海琉に振る月夜。
「確かに」
「それもそうだね。でも教える暇が無かったんだよ。」
「ふーん、なら今教えてくれよ。」
「オッケー、ならまず最初に・・・」
月夜が頼むと日陽里が男2人の耳を疑わせるような事を言い放つ。
「あんた達も一応魔術使えるんだよ。いや、もう使いまくってるね。」
色々おかしいかも知れませんが、暖かい目でご覧下さい。