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3 ドロップ・オブ・ザ・ムーン (0)

 *****


 夢の中で、どこか知らない国の男性が一人、機械に囲まれた通路を走っていた。

 僕にはそれが夢だと判っているけれど、彼にとっては夢ではないらしい。

 その人は、核弾頭ミサイルの発射を止めようとして走っている。なぜかは分からないけれど、見ている僕にはそのことが伝わってきた。

 彼はその国で最も優れた科学者で、そのミサイルの設計に携わっていた。だから、他の人には黙って予め致命的な欠陥を組み込んでおくことが可能だった。少しの手順で、修復を行えない状態にできる。

 ミサイルが発射されれば、遠く離れた国の見知らぬ人々が災禍に襲われることになる。

 誰も、そんなことは知らされていなかった。

 騙されていたのだ。

 自分の国の平和のためだと教えられていた。実際には使わない、単なる牽制のための兵器開発だと信じ込まされていた。

 そして今になって、実用が目的なことは言うまでも無い当たり前のことだろうと見下された。そんなことも理解できなかったのかと嘲弄された。

 打ち上げを中止させる唯一の方法を実現させられるのは、彼しかいない。

 操作を終えたところで、追いついてきた兵士たちに両側から腕を掴まれた。

 彼は国家への反逆を行った罪で捕らわれ、銃殺されるまでの一晩を独りで過ごす。

 悔いは無かった。どれだけ考えても、過去の自分の行動として他の選択肢は彼には見当たらなかった。生きるために学んできたことにも、その結果として行ってきたことにも、最終的に選んだ道にも。

 彼は最後に、その国では口に出してはならない言語で『ありがとう』と声を発した。

 僕が見ていることを知っていたのかもしれない。

 目が覚めたとき、僕の耳の後ろが涙で濡れていた。


 *****

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