表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/43

2 イン・アウア・ネイチャー (1)

 早めに起き出してEins(エインス)に接続し、目を覚ますために簡単な設問に回答する。

 リトルパールで鯨を見てから三日が経った。

 俺は丹生(にう)と喋っていたせいで手つかずだった分も取り戻すべく勉強に集中していた。あそこに行った日は、どう短く済ませたとしても半日分は時間を取られてしまう。アルバイトとしては割がいいし得るものも多いが、あまり長居すると学習時間が減るのが悩みの種だ。とは云っても、三日連続で一時間ほど早起きすれば済む話なのだけれど。

 休憩して朝食を摂っていたとき、苅安(かりやす)からの着信に気付いた。三十分ほど前だ。俺が応答しなかったからメッセージが残っている。文面は『グラニュータワー4階で待機中』。

 俺は苅安の仲間(面倒だから便宜上、苅安一味としておく。誰も彼がリーダーだとは思っていないだろうが。)の一人が作成したゲームを起動させた。ログインして目的地を指定する。塔のネーミングセンスは駄洒落好きなゲーム作成者のものだ。

 指定されたポイントに辿り着いたところで、戦闘開始が宣告された。

『こんなところに呼び出して一体何の用だ』

 俺は文章を入力して決定キーを押す。入力された文字がグラフィック上で燃える弾丸となって(弾丸って燃えるのだろうか?)画面奥の方向に吸い込まれ爆発する。相手にダメージを与えることができた。先制攻撃だ。

 爆発エフェクトの煙の背後で、黄色いドラゴン(サイズは小さい)が口を開く。

『お前の知り合いっていう奴を紹介してほしい』

 ドラゴンの口から火炎とともに文章が吐き出された。

 俺は慌てて防御態勢に入る。

『誰のことだ』

 決定キー。防御が間に合って、僅かながらダメージを減少させることができた。

 いや別にライフがゼロになっても次のキャラクターに交代するだけなんだけれど、なんとなく。

 このゲームの中では、対戦相手に向けて文章を入力すると何らかの攻撃となって送信される。対戦型タイピングゲームとでも呼べるだろうか。文章の内容と攻撃力やエフェクトとの関連性は作成者本人しか知らない。漢字が多いほうが与えられるダメージが大きいような気がするけれど、気のせいかもしれない。

『この間の常時ログインIDの謎を解明した名探偵さんだよ』

 再び火炎。大ダメージ。俺のキャラクターのライフがゼロになり、次のキャラクターに代わる。作成者の好みを鑑みると『謎』『名探偵』という文字はポイントが高そうだ。

 俺の端末には対戦相手が苅安であると表示されている。そうでなくても状況や文章の内容から、相手が苅安であることを疑うのは難しい。

 このゲームは苅安一味の仲間内だけに配布され使用されているプログラムで、ゲームの(てい)を纏った暗号化システムである。純粋に対戦を目的としてこのゲームにログインする者はほぼ存在しない。まぁプロが本気になれば容易に解読できるだろうけれど、明らかに若者がゲームで遊んでいるようにしか見えないので誰も干渉してきていないという話だった。勿論、警察その他の当局に端末を押収されれば通信記録は筒抜けだろう(いや、もしかして案外ただのゲームプログラムだと思われて見過ごされるのか?)。しかし俺が知る限り、苅安だって家宅捜査を受けるような犯罪行為には手を染めていない。

『どういうことだ?解明したって』

 文字列が泡になってイエロードラゴンに向かう。水属性魔法か。火炎竜には効果的っぽいが、はたして。

『お前の知り合いが言ってた通りだった』

 俺の文章送信と殆ど同時に発信されていたらしい苅安の言葉が、竜の爪となって泡を消し去り、ついでにこっちにダメージを与えてきた。

 端末に着信。苅安からのメッセージ。本文にはアイコンが五つほど貼り付けられているだけ。それぞれのリンクを纏めて開くと、いずれも似たような情報共有所(フォーラム)の転載画面だった。日本語と英語で『九人のクローン』の文字が共通して見て取れる。

『三日前の時点で、この情報を見かけた奴は俺の周囲には皆無だった』

 苅安からの攻撃が続く。

『お前がわざわざ世間話をするほどの奴だ。ただの勘じゃないんだろ?』

 イエロードラゴンから連続ダメージ。俺は端末の文字を読むのに手一杯で防御できない。

『教えろ。誰なんだ』

 ゲーム画面では赤く焼けた岩石が降り注いできて、二人目のキャラクターのライフがゼロになった。今は無制限モードだから交代要員は無尽蔵なのだけれど。

 苅安から送信されてきたデータ上では異口同音に、海外で『七歳の少年と同年齢のクローン』として出生した九人の少年の存在が明らかになったことが話題にされていた。丹生の言っていた通りなのか。しかし、なぜ今このタイミングで?

『お前、こっちに戻ってくる気は無いのか?』

 ゲーム内では既に三人目のキャラクターが攻撃を受けている。強いな、イエロードラゴン。

 俺は苅安との会話に復帰した。

『知ってるだろう。実技の講習も試験もこっちでは受けられない。そのうち戻るよ』

 画面内に刃物の軌跡が飛散するエフェクト。剣士キャラか。

『そういう意味じゃない。戻ってこないかって言ってるんだ』

 更に大きな炎が襲いかかってきた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ