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2 イン・アウア・ネイチャー (0)

 *****


 僕は泣いていたのに、兄さんは笑っていた。

「泣かなくてもいいんだよ、にゅー。」

「ぼくは、にゅーじゃない。」

 喉の奥から、しゃっくりが出た。泣いているときに、しゃっくりがでるのはどうしてだろう。止めようとしているのに、止まらない。

 自分の名前を言おうとして、自分の本当の名前が自分でも言えなくて、それで我慢できずに泣いてしまった。

 そんな僕の頭を、兄さんは笑顔で撫でてくれた。

「本当は、にゅーでも間違いじゃないんだよ。」

「うそ、つき。……にいさんは、うそつきだ。」

「嘘じゃないよ。」

 兄さんは困ったように笑った。

 お母さんもお父さんも、お祖父さまも、ちゃんと正しい名前で呼んでくれる。

 それが本当の名前だと知っているのに。自分の本当の名前なのに。

 兄さんは、僕の前で膝を抱えて座ったままでいる。

「『はひふへほ』の『は』は、ハって読むときもワって読むときも有るし、『はひふへほ』の『へ』はヘって読むときもエって読むときも有るよね。」

 僕は少し考えて、こくんと首を縦に振った。平仮名の読み方は憶えている。

「それと同じように、にゅーの名前も、にゅーって読んでも、えっと、にーうー、って読んでもいいんだって。昔からそうみたいだよ。」

 兄さんも、僕のことを丹生(にう)と呼ぶのは難しいみたいだった。

「うそじゃないの?」

「お祖父さまに聞いたから、たぶん嘘じゃないよ。」

「おじいさまは、うそつきだよ。」

「あはは、そうだね。」

 声を出して兄さんが笑う。

「でも、本当なのか嘘なのか、気になるんだったら他の人にも聞いてみればいいよ、にゅー。」

 僕は兄さんの顔をずっと見つめていた。

 いつの間にか、涙は止まっていた。


 *****


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