表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/43

1 オーガニック・ジュエル (10)

「いや。寝ていようが起きていようが、手の指に装置を接触させ続けた上で別の人間がEins(エインス)への回答を入力していれば、端末は『本人が入力を行っている』と認識する。その状態で入力している者が複数名の交代制だというのなら、発生している状況に対する一応の説明はつくな。AIでも構わない。アクセスしてきている地点が一つであれば。」

 丹生(にう)が唇の片端を持ち上げた。

 俺は尋ねることにする。

「一つなんだろう?」

「違う。八つだな、僕が見た範囲内では。しかも、緯度も経度もばらばらの世界各国に散らばっている。そして時間帯によっては、異なる地点からのアクセスが同時に行われている。別々の端末からの回答が混在しているんだ。」

 Einsへの加点が速すぎるのは、複数ヶ所から同時重複で回答が行われている時だということか。

「うーん、一ヶ所からの入力を一旦、他の地点に分散して中継させているんじゃないのか?」

 それならタイムラグとかの結果として、そういう現象が観察されることになるかもしれない。

「よく考えろ、(あい)。『指紋認証が行われている端末からの回答のみ』が送信されているんだぞ。人間が移動するのに数時間は掛かるような離れた地点から、殆ど間隔を置かず、時には同時に。」

「それぞれの端末は指紋認証で本人確認を行っているけれど、各端末に登録されている『指紋』が同一人物のものではないという可能性が有るよね」

「いや。お前は知らないのか?保険会社のサービスの一つに、『登録されている指紋が同一のものであるという証明の発行』というのが有る。その証明が送信されてきた履歴が残っているから、指紋は同一のものだと判断できる。」

「知らなかった。」

「この保険会社が何らかの偽装工作に加担しているというケースには、僕では対応できないな。大手の会社だし、まず無いだろうが。顧客の指紋なんていう個人情報を扱っている会社が、信用を損ねるような真似を容易には行わないだろう。だから今は『登録されている指紋が同一人物のものでない』という可能性は保留にする。」

 丹生は椅子にもたれるようにして腕組みをした。

「さて、世界各国に散らばる端末に『登録されている指紋が同一人物のものである』場合、何が起こっていると考えられる?藍。」

「そんなの有り得ないと思うけど、『同一じゃない場合』も有り得ないんだね。うーん、なんていうか……何のためにそんな執拗なことを?」

「そうだな。アクセスしているのが同一人物であると判定させたいのであれば、複数端末からの同時ログインなど行うべきではない。何者の計画なのか判らないが、行動に捩れが有る。矛盾している。そもそもEinsの成績が同一人物の能力である必要性を感じている者など少数派だ。」

 その少数派に行き当たることを懸念して登録後に個人認証の設定をする人はいるけれど、保険会社に保証してもらってまで気を遣うのは珍しい。しかも七歳とかのレベルなら、後から幾らでも取り返せる程度の得点だろう。俺だって、自分で調べて設定を行ったのはEinsを使い始めてから数年後だった。

「Einsの得点上位者を目指しているという動機は考え難いんじゃないかな。何らかの別の活動の結果として表面化している現象に過ぎないとか」

「僕もそう思う。」

 そう言って丹生は口を閉じた。

 しばらくして、椅子の背にもたれるようにして、のけぞる。

「うーん、やっぱり駄目だ。僕には他には思いつかない。」

「え?じゃあ、何か思いついたっていうことか?」

「まあな。でも、これが正解だとは信じられない。ああ、気乗りしないなぁ。」

「俺に言うだけなら、君の考えが間違っていたとしてもリスクは無いだろう」

 丹生はこくりと(うなず)いて、口を開いた。

「実は、タブレット全面で数分に一度とか数秒に一度とかの指紋認証を行う端末では、犯罪捜査の指紋鑑定などに比べれば精度が著しく低くなっているんだ。画面への指の接触面や角度が一律ではないし、接触時に皮膚表面が歪めば少し形が変わる。だから、無視できないほど指紋のパターンが違っていない限りは、一致率が低くても同一人物であると判定される。そうでなければエラーが頻出して使い物にならないからな。」

「その情報は一般人に開示されていないとフェアじゃないだろう」

「身も蓋もないことを言えば販売促進のためだ。『セキュリティは万全ですよ』という売り込みには不都合なんだろう。ここで、保険会社に登録されているのと似た指紋を持つ人物がいたとすれば、説明がつく。例えば一卵性多胎児のような。」

「多胎児って……確かさっき君は、アクセスしてきているのは八人だって言ってただろう。一卵性の八つ子は無理が有るよ。」

「遺伝情報さえ同じなら代理母による出産でも構わない。人工母胎は成功率が低すぎるから採用されていないだろう。天文学的な費用が掛かる。」

「クローンっていうことか?違法じゃないか。」

「そうだな。誕生させることも、それに類する実験を行うことも禁止されている。国際法でも日本の法律でも。しかし、国際法を批准していない国ないし地域で秘密裏に行われていたとしたら?それでも発覚すれば何らかの追及は免れないだろうが……施術者や遺伝子提供者の国籍によるのか。」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ