船頭さんのお話
昔々、あるところに旅をしているお侍さんがいました。
旅を始めたときに持ってきた財布もすっかり軽くなり、次の街に着いたらどうにかしないといけない、と思いながら歩いていると、道の先に大きな川がありました。
大きな広い川です。
水は綺麗なのですが、そのおかげで川底が深いことがよくわかります。辺りを見渡すと、近くに渡し舟を見つけました。
「船頭さん、渡し賃はいくらだい?」
「へぇ、八文でさ」
八文なら何とか持っていたのですが、ここで払ってしまうとお昼に何も食べられなくなりそうなのです。
そのことを正直に話すと、船頭さんはからからと笑い舟に乗せてくれました。
「お侍さんは少し変わってらっせるな」
「そうか?おれはこれで並だと思うが」
「前に一人、偉そうなお侍様を乗せたときも値切られましてね。それも八文だと伝えたとたんにこうだ」
そこまで言って船頭さんは精一杯みけんに線を刻んで見せて。
「高い、六文にせい」
「それで、どうしたのだ?」
「どうしたもこうしたも、丁度このあたりでしたかね?」
あと少しで岸に着こうかというところで船を止められ、お侍さんは首をかしげました。
「このあたり、とは?」
すると船頭さんはすまし顔で
「お侍様、六文ですとここまででございます。どうぞ降りて下せえ」
お侍さんは大慌て
「い、いや、それは困る。だがここで八文だと昼飯が…」
「冗談、冗談です。お侍さんはきっちりと六文で渡して見せまさ。ここで止めたのは偉そうにふんぞり返ったお侍様だけで」
舟がまた進みだしたので、お侍さんは胸をなでおろし
「そうか、して、その侍はどうなったのだ?」
「ふふん、頭に血が上ったそのお侍様は『もういい、元の岸に戻せ』なんて怒鳴りだしたもんでこう言ってやりました。
『では、ここまでで六文、帰りで六文、合わせて十二文になります』そうしたら、ちゃーんと八文払ってくれましたよ」
「ははは、船頭さんは口が達者なのだな」
「幼いころからこれだけがとりえでしてね。さ、着きました」
お侍さんは船頭さんに六文を払い、礼を言うとまた旅を続けました。
これの元ネタはきっちょむさんです