ボケと舌打ち
怜央は事件の後少しして、第17部隊に異動になった。
基地は鈴鹿にあり、最前線のうちの1つである。
名目上は小隊長になり大尉から少佐になった。
だが、実質は、第28部隊にいたころは5代目候補と思われていて、総大将になるのも夢ではなかったが、ここでは、その夢は夢のまた夢になってしまっている。
ここの部隊は天野派であり、直属の中隊長も一条と、面識があったりして、それなりに良くしているが、何か物足りない。その何かはとっくのとうに気付いているがあえて気付いていないふりをしている。
そうでもしていないと、やっていけない。
ただ、そんな怜央にも一縷の望みはある。
それは戦争が起こることだ。そしたら、最前線であるここは戦功を立てやすい。
なので、寮に帰るとひたすら、戦術書を読む毎日である。
「三好中隊長何の用でしょうか?」10人の小隊長を代表して、怜央が聞く。
「実は相手が攻めてくるという情報がわが軍にもたらされた。
そこで万が一攻めてきた場合君たちがわが軍の先陣になってもらうことになった。」
怜央は喜びのあまりもう少しでガッツポーズしそうになり、寸前で止めた。
が、やはり動きが怪しかったようで、
「どうした?一ノ瀬。拳など作って」と指摘された。
「いや、あの、敵が来たら、どうやって殴ろうかと考えてまして」
「銃を持ってか?」
「銃を持って、相手に近づいていき、引き金を、引くと見せかけて、もう1方の手で、鳩尾を殴る。
名付けて桶狭間戦法です。」
怜央はこの時、この世の全お笑い芸人を尊敬した。
すべった時のこの空気を毎日感じているなんて、無理だ。不可能だ。
なんとか、場を持たせるため、微妙な愛想笑いを振りまきながら、思った。
だれか微笑み返しをしてくれよ。怜央の切実な願いもむなしく、誰も微笑み返ししてくる人はいなかった。逆に露骨に視線を避ける奴もいた。というかそんな奴ばかりだ。
それもそうだ、もし、本格的な戦争になったとしたら、先陣なんて、生きて帰れる可能性は3割ぐらい
であり、この場でハイテンションな怜央が自殺志願者と考えられても、全くおかしくない。
というか、普通なら、それしか、考えられない。
だから、こんな辺鄙なところにいつまでもいるんだよと、怜央は思う。
こんなチャンスが訪れたのだぞ。もし、最初から自信がないなら指揮権を俺に渡してくれとまで思う。
俺は、何があろうとも、表舞台に戻ってやる。
話の途中だったたが、席を立ち、部屋を出た。
次の日の昼、ついに出陣命令が下された。
噂では、民主共和国側が宣戦布告してきたらしい。
出陣するのは17部隊の由岐班以外の4班である。
「ちっ」と怜央は舌打ちする。
陣形が先程発表され、一ノ瀬隊は最後尾であったからだ。
これでは、戦功が立てられない。
すると、どこかで銃声が聞こえた。上を見ると、飛行機が飛んでおり、右を見ると、海で其処には大量の空母が浮かんでいた。
今度は爆発音が聞こえた。後ろを見ると、第2陣が見えた。
怜央は先ほどより大きく舌打ちした。