影と陽
その夜、怜央は昨日と同じく中隊室にいた。
ただ、昨日とは違い、話というか説教を聞いていただけだった。
その間、僕は泉が領元を蹴った後、1人で走っているシーンをずっと頭の中に浮かべていた。
でも、取り押さえられた後の、あの表情を思い出す事は出来なかった。決して。
「分かったか?」
「はい。このようなことはもうしません。」
「なら下がってもよい。」
「一ノ瀬。」泉の足音が聞こえなくなると、突然一条が言った。
「はい。何でしょうか?」
「この件どう思う?」
「領元中尉も自分の感情を抑えれなかったのは悪いとは思いますが、本人も反省していますし、
あんなことを言われたなら自分も何をするか分かりません。」
「泉君は?君の班の副班長つまり部下だぞ」
怜央は、泉の表情を見た時の感情を伝え、最後にこう伝えた
「あいつは、人の感情が分かっていません。一度精神科に行ったほうがよいと思いました。」
「まだ様子見の段階ではないか?少し急ぎすぎであろう。」
「先ほど初めて虫唾が走ったと言いましたが、僕も今思い出しましたですけど、前1度だけあの表情を、見たことがあるんです。そいつは、もうこの世にはいないですけど。」
そう言うと怜央は足早に、部屋を出て行った。
息をするのも苦しかった。
その夜、怜央は、寝れなかった。
泉が領元を蹴った後、1人で走っているシーンが頭をずっとよぎる。
そして相変わらず、取り押さえられた後の、あの表情を思い出す事は出来なかった。
変わりに、ある男の顔が目に浮かぶ。鮮明に。
同じ時、一条は堂林と話しをしていた。
「一ノ瀬は悲劇の50期生だったのか。」
「はい。その一ノ瀬の反応からも、泉は精神科に行かせるべきですよね。」
「だな。他にお前の隊に50期生は居るか?」
「1班の初本中尉だけです。ハンモックナンバーは564番。影の番号は213番です。」
「分かった。」
「泉は最低でも半年は戻ってこないようにしよう。」
「上には、一ノ瀬君の話をいれて伝えておく。そしたら、もっと長くなるかもしれないな。」