26 不可思議行動
「申し訳有りませんっ、遅れてしまいました」
エリッタが急いでルデルト王子の部屋へと飛び込んで来た。エリッタは絶対ルデルト王子に怒鳴られると思って居たのだが、部屋へと入り即座に謝り頭を下げたエリッタに、何の反応も却っては来なかった。あれっと思ったエリッタは、そっと下げて居た頭を上げる。もしかしたら部屋にはルデルト王子が居らず、誰も居なかったのかもしれないと思った。
しかし、部屋には確かにルデルト王子の姿が有る。ルデルト王子は何時もの様にソファに横になって居た。だが、ルデルト王子に反応は無い。ソファに横になったまま身動ぎもしないルデルト王子に、待ち草臥れて眠ってしまったのかもしれないと思ったエリッタは、確認の為にも、もし寝てるんだとしたら何かブランケットでも掛けないとと思いそっとルデルト王子に近付く。
ソファに横になって居るルデルト王子の顔を覗き込む様に見たエリッタは、バチリと二つの瞳と目が合った。
「あれ、起きていらしたのですか? 私ったら、反応が無かったのでルデルト様が寝て居らっしゃるのかと思っておりました」
バチリと目の合った二つの瞳はルデルト王子の瞳で、ルデルト王子はソファに横にはなって居たが如何やら寝ては居なかった様だ。覗き込んで起きて居るルデルト王子に微かに驚いたエリッタだったが、直ぐにルデルト王子の顔を覗き込んだままの体制笑みを浮かべた。
だが、ルデルト王子はじっとエリッタを見上げたまま何も反応しない。何かを言う訳でも無く、身動きも取らず、只瞬きをしつつエリッタを見上げて居るのだ。
此れには本格的に心配になって来たエリッタが、何処か具合でも悪いのかと不安を露わにする。
「もしや、何処かお加減でも悪いので御座いますか? 具合が悪いのでしたら私に仰って下さいませっ」
「……」
「頭が痛いのですか? 胸焼けですか? そういえば今日は何時もより沢山コーヒーを飲んでいらっしゃいましたし、其れが原因でしょうか? 其れ共お腹で御座いますか? お腹でしたら何処がどう痛いのです? もしかしたら盲腸の可能性も…!」
「……」
「ルデルト様? 仰って頂かないと、私には何処が悪いのか分かりません。ですから、何処かオカシイな所が御座いましたら、仰って下さいませ」
エリッタが幾ら言ってもルデルト王子は何の反応も示さず、只じっとエリッタを見つめたまま。流石のエリッタもそんな様子のルデルト王子にどうすれば良いのか困ってしまう。困り果てどうしようかと考えて居たエリッタに、漸くルデルト王子が口を開いた。
「…する……」
「え? ルデルト様、今何と仰いましたか? 申し訳有りませんがもう一度、仰って下さい」
ぼそりとルデルト王子が何かを言ったのだが、其れははっきりとエリッタの耳には届かず、エリッタは背凭れから移動して、丁度ルデルト王子の顔が有る位置の床に座り耳を傾けた。
「もやもやする…」
「もやもや、で御座いますか…? 其れは、胸の辺りが…?」
「ああ…。もやもやしてうざい」
ルデルト王子もエリッタが傍に移動して来た事で、上に向けて居た顔を右向きにし、直ぐ傍に有るエリッタの顔を見つめそう呟いた。その声に覇気は無く、エリッタはルデルト王子の言葉に眉を寄せる。胸の辺りがもやもやすると言う事は、やはり胸焼けかもしれない。
エリッタはその考えに行き付き、其れならば大丈夫だと安心するのだが、ルデルト王子は更に続けた。
「其れに苛々する」
「苛々…?」
ルデルト王子の言葉にエリッタは首を傾げる。もやもやは胸焼けだろうと思ったが、エリッタには苛々が分らなかった。体の不調で、苛々(・・)するという症状が出る物が有っただろうかと考えを巡らしてみても、そういう事の専門でも無いエリッタには全く見当も付かない。
「申し訳有りません、ルデルト様。私には苛々するという症状は思い付きませんでした。少々お待ち下さい。今お医者様を大至急お連れ致しますので」
やはり医者に診て貰った方が確実だと思ったエリッタは、ルデルト王子にそう言うと床から立ち上がろうと腰を上げたのだが、途中で腕を引っ張られその場から動けなくなる。
「ルデルト様…?」
エリッタの腕を掴んだのはルデルト王子で、ルデルト王子はエリッタの腕を掴み眉を寄せて居た。
「行くな」
「え…」
正に、一瞬だった。
ルデルト王子の行動と言葉に呆気に取られたエリッタを、腕を掴んで居たルデルト王子がその腕を引っ張った。しかしその腕を引っ張った力は其処まで強かった訳では無かった為、エリッタはつい先程まで座って居た床にまた座る様な形に納まって居た。
しかし腕をルデルト王子に掴まれ引っ張られた為、顔は先程よりも格段にルデルト王子の顔との距離が近い。膝立ちでソファに横になったままのルデルト王子の顔に覆い被さる様に、エリッタは上からルデルト王子の顔を見下ろす形になっており、余りにも一瞬の出来事だった為、エリッタは目をぱちくりさせて居た。
「ルデ、ルト様…?」
「医者なんて必要ない」
「え…?」
「治し方なんて、もう分かってる」
呆気に取られ何が起きて居るのか分かって居ないエリッタに、ルデルト王子は真剣な声色で呟いた。その真剣な声色と、何処か苦しそうな表情にエリッタはどういう事なのか分からない。
治し方が分かって居るのならば、何故今もその症状に苦しんで居るのか、エリッタはそうルデルト王子に聞こうと口を開き掛け、次にルデルト王子が囁いた言葉に止まる。
「傍に居ろ」
「そ、ば…?」
「お前が俺の傍に居れば、こんなの直ぐ治る」
「其れはどういう事で……」
「お前は只、俺の傍に居れば良いんだよ――!」
エリッタの疑問の声は、ルデルト王子の葉に遮られた。何処か苦しそうな、正に悲痛を含んだその訴えと共に抱き寄せられた。ルデルト王子の胸元に顔を押し付ける様な形になり、エリッタは驚きの余り声も出なかった。
一体、ルデルト王子に何が有ったのだろうか? されるがままのエリッタは、ルデルト王子の胸元に顔を押し付けた体制のまま思考を巡らす。つい先程呼ばれて行った時は普通で在った。という事は、その後ルデルト王子に何かが有ったのだろう。
そう結論付けたエリッタだったが、何処か必死に縋り付いて来るルデルト王子から離れる事は出来なかった。きっと今此処でルデルト王子から離れ様とすれば、そのエリッタの行動はルデルト王子の目には拒絶されたという結論に行き付くと分かって居たからだ。
兎に角今は、ルデルト王子の気が済むまで、ルデルト王子の心が落ち着くまで、此のままで居ようと思ったエリッタは、大人しくそのままの体制で居たので在った。
その後少ししてルデルト王子に解放されたエリッタだったが、結局ルデルト王子に何が有ったのかは分からなかった。
お気に入り登録等ありがとうございます!
こんなに恋愛っぽくなる筈では有りませんでした!(汗)
何処でこうなってしまったのでしょうか…^^;
ですが、取り敢えずこのまま進行させます(笑)




