表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゾンビもの!  作者: どぶねずみ
八岐市の怪物退治編
69/91

この、人殺し!

 ぺちゃり、ぺちゃ。

 


 ……水? いや、水じゃない。なにか粘着性のある液体が跳ねる音にゆっくりと意識が覚醒する。

 ゆっくりと目を開ける。寝ぼけ眼を擦り、ぼやけた視点を合わせる。

「目が覚めましたか?」

 至近、ごく至近で女の声がする。聞き覚えのある声だ。


 ぴちゃり。


 再び液体の跳ねる音がする。今度は感触付きだ。

 薄暗い夜の中、俺は感触のあった口元を拭い、眼前にいる女の顔を見た。

「……、!」

 意識がはっきりと覚醒する。寝ている俺に跨って上から見下ろしている女は、進藤紅だった。

 俺は慌てて身体を起こそうとした。だが、できなかった。紅が俺の肩を押さえつけているのだ。

「お静かに。皆が起きてしまいます」

 辺りを見渡してみると、ほんの1メートルほど離れたところでは梨子が寝息を立てている。梨子の奥には荒瀬先輩の姿があった。

 俺は、状況を整理するために一度大きく息を吸って、紅に聞いた。

「あの……、紅子ちゃん、なにをやっているんだい?」

 紅は、瞳を細めて顔を近づけてきた。

「なにをやっているとお思いですか?」


 ぺちゃり。

 

 紅は、わずかの躊躇いも見せず、俺の唇を舐めた。

 いつもの鉄面皮とは違う、頬を赤く染め蕩けるような顔をしている紅は、薫るような色香があった。

「ひょっとして、さ。俺……、レイプされてる?」

「正解です」

 紅は唇から舌を覗かせ、迫ってきた。顔を背けようとするが、紅は俺の頭を両手で押さえつけてそれを阻止した。

 紅は、俺の唇を貪った。

 いつもの冷静さなど欠片も見当たらない、かといって情熱的でもない。例えるなら、ひたすら飢えを満たすようなキス。

 舌で唇を割り、歯茎を舐め上げ、唾液を啜る。

「……直以先輩も口を開けてください」

 俺は歯を喰い縛り、紅の要請を拒否した。紅はかまわずに唇を押し付けてくる。

 俺は、動けなかった。あるいは暴れれば今の状況から逃れらたかもしれないが、そこまでする気にはならなかった。いや、なれなかった。

 肉体的にではなく、精神的に縛り付けられているような、そんな感じ。

 

 くちゅ。


 どれくらいそうしていただろうか、紅はゆっくりと唇を離し、顔を俺から遠ざけた。

 俺と紅の唇を繋ぐ銀色の糸が細く伸ばされ、切れた。

「……気が済んだか?」

「直以先輩は淡白です。キスだけで満足できるとお思いですか?」

「ま、まあ待て。まずは落ち着こうや」

 俺は紅の顔に手を伸ばしたが、紅はその手を払いのけて再び顔を近づけてきた。

 なるほど、俺は紅の言う通り淡白らしかった。少なくとも自分の理解できない状況で、しかも周りに人がいる状況で情欲に身を任せられるタイプじゃなさそうだ。俺の頭は、周囲を観察できるほど冷えていた。

「紅、隆介はどうしたんだ?」

 紅は俺の鼻に自分の鼻をくっつけ、熱い吐息を俺にかけた。

「焚き火の前でぐっすりとお休みです。日中はずっと運転していましたから疲れていたのでしょうね」

 俺は、紅の小さな頭を抱えてキスを避けた。そのまま耳元に話しかける。

「どうしたんだ? いきなり発情期にでも入ったみたいだな」

「こういった行為はお嫌いではないでしょう?」

 俺はそれには答えず、紅のわずかなほつれもない整った髪を撫でた。

 紅は、俺の首筋に残る寝汗を舌で舐め取った。

「……いきなりと言うわけではないんです。ずっと、こうしたいと思っていました」

 少し落ち着いたのか、紅は語り出した。

「これは、いけないことです。いけないことなのに、我慢できないんです」

 俺は苦笑してしまった。

 紅の言いたいことはわかる。

 紅がいけないことと言っているのは、俺をレイプしようとしたことではない。自分が、感情に流されて行動していることだ。

「本当だったら私はここに来る必要はありませんでした。いえ、来るべきではありませんでした。比較的落ち着いているとはいえ、周防橋では小競り合いが続いていますし、須藤先輩の補佐も疎かにできることではないです。でも、須藤先輩から直以先輩たちの迎えを指示されたとき、私は喜んでその命令を受けました。私は、感情に流されたんです」

「それがいけないことか?」

「いけないこと、です」

「そう、か」

 紅はゆっくりと顔を上げた。さきほどまでの情欲に身を任せた顔ではなく、どこか泣きそうな顔をしていた。


 葛藤。


 理性によって制御されるべき感情。理性では抑えきれない想い。

  

 どちらが良いも、どちらが悪いもない。

 それらを含めて、紅の為人ひととなりだろう。

 だから俺は紅を、紅の感情を受け入れることにした。


 俺は紅の顔に手を伸ばした。今度は払われることはなく、俺の手は紅の頬を撫でた。

 少しだけ身体を起こし、顔を近づける。紅は、涙で赤くなった瞳をそっと伏せた。


 俺は、紅とキスをした。


 唇をついばむような軽いキス。

 初めて俺から紅を求めたキス。

 

 俺は紅の腰を抱き、大腿を撫でた。

 紅の甘い吐息が繋がっている唇から漏れ、消えた。


「うう~ん……」

 そのうめき声は、俺と紅のすぐ横から聞こえた。

 梨子が寝返りを打ったのだ。

 俺は紅から顔を背け、わずか1メートルほどの距離にいる梨子を見た。

 梨子は眉間に皺を寄せながら固く瞳を閉じている。起きている様子はなかった。


 だが、その奥にいる荒瀬先輩は違った。目を見開いて顔を俺たちに向けていたのだ。

「……荒瀬先輩?」

 荒瀬先輩からの返事はない。それで、俺は荒瀬先輩が俺たちを見ていないことに気付いた。

 そして、俺も荒瀬先輩がなにに集中しているかに気付いた。



 紅より先にそれに気付けたのは、単純な位置関係だろう。地面に頭を接している分、俺にはその音が聞こえたのだ。

「紅、ここまでだ」

 俺の変化に気付いたのか、紅もすぐに表情を引き締めた。

「失礼します」

「ッっぶ!」

 紅はひと言断ると、俺にのしかかってきた。そのまま胸を俺の顔に押し付け、地面に耳を当てた。

「……複数の足音。5、10、もっといますね、ひゃう!」

 俺は、紅の尻に手を伸ばし、思い切り掴んだ。驚いて跳ねた紅を横に退かし、俺は半身を起こした。

「足音を忍ばせているところを見るとゾンビじゃないな」

「この辺りで生活している人たちでしょうか?」

「いや、この辺りで略奪の形跡はなかった。この辺りに人はいないはずだ」

「それでは……」

「こいつらが何者かは直接聞けばいい。隆介は……、起こしている暇はないな。荒瀬先輩、梨子を頼みます」

「直以先輩。私にも指示を」

 そう言った紅の顔は鉄面皮に戻っていた。紅の内面を覗いた後では、いつもどおりというのは間違っているのかもしれない。だが、今の紅は頼りになる理性的な紅だった。

「せっかくむこうからアプローチをかけてきたんだ。逃げるってのも芸がないだろう。こっちから逆撃をかけてむこうのリーダーを人質に取る。タイミングを見計らって飛び出すぞ」

「了解しました」

「荒瀬先輩。念のため車は動かせるようにしておいてください」

「ああ、わかった」

「あ、直以先輩」

 行動を起こそうとする直前、紅は俺を呼び止めた。

「どうした?」

 紅は、一瞬、ほんの一瞬だけ鉄面皮を取り去り、俺を見詰めた。

「続きはまた後ほど……」

「あ~、ああ、そうだな。また今度、いつか、な」

 俺と紅はそっと移動した。敵の側面に回り、観察する。

 年齢性別までバラバラの集団、銃器の所持は確認できず、手に持っている武器はバットやドライバー、他には長柄に包丁を結びつけて作った槍なんかもあった。

 紅は、どこにもっていたのか、ジャックナイフをカバーから取り出した。あれ、いつか戈を見つけた店で隆介が振り回していたやつだな。

「殺すなよ」

「……善処します」

 俺たちは、タイミングを待った。そのタイミングは、時を置かずして訪れた。

 敵が一斉に喚声を上げて隆介のいる焚き火目掛けて走り出したのだ。

 だが、その喚声は一瞬の間を置いて悲鳴に変わった。

 走り出した半数以上が転んだのだ。

 料理の最中、紅が前もって仕掛けておいた罠だ。

 足が嵌るような窪み、引っかかるように草をアーチ状に編んだもの、即席で簡易な罠だったが、効果は抜群だった。

 倒れなかった連中はそのまま焚き火へと走って行く。その連中の前には、荒瀬先輩が立っていた。

……転んでいたほうが怪我は少なかっただろうに。ご愁傷様だ。

 

 

 俺と紅は、駆けた。

 倒れているやつの横を走り抜け、起き上がろうとしているやつの顔面に膝を叩き込む。

 敵のリーダーはすぐに判別がついた。全体のやや後方にいるひげ面の男だ。

 ひげ面の男は事態の変転に混乱しながらも近づいてくる俺の姿を見つけると、手に持っているドライバーを握り直した。俺も戈を握り、わずかに腰を落とした。


「失礼します」


 その声は、俺の真後ろから聞こえた。

 ふっと、紅の口から鋭い息が吐き出された。

 紅は後ろから俺の肩に手を添えると、一気に飛び上がった。

 爪先が高く天にそびえ、そのまま綺麗な孤を描いてひげ面の男に降りかかった。

 ひげ面の男の肩に紅の両足が乗る。

 勢いと体重、その両者がひげ面の男に圧し掛かり、ひげ面の男は抵抗する間もなく背中を地面に強打した。その首筋にはすでに紅のジャックナイフが当てられていた。

 紅は、俺の顔を見上げた。俺はひとつ頷くと、公園中に響く大声で叫んだ。

「動くな、武器を捨てろ!」

 最初は展開の速さに困惑していた敵も、自分たちのリーダーが人質に取られていることを確認すると、ひとり、またひとりと武器を捨てた。

 

 だが、その中でひとりだけ武器を捨てないやつがいた。

 女だ。わずかに赤茶けた髪をポニーテールに結っている。

 俺たちと同じ位の歳だろうその女は、なぜか俺を、わずかに吊り上った意思の強そうな瞳で睨みつけていた。

 その眼差しに、俺はどこかで覚えがあった。

「武器を捨てなさい」

 一向に武器を捨てない女を見て、紅はひげ面の男にジャックナイフの切っ先を突き立てて言った。

 だが、やはり女は武器を捨てなかった。

「……環奈、武器を捨てろ」

「かんな?」

 ひげ面の男の呼ぶ、その名に俺は聞き覚えがあった。正直に言うのなら……、再会などしたくなかった名前だ。

 俺は、女に呼びかけた。

「おまえ……、ひょっとして間宮環奈か?」

 俺の呼びかけに、俺の古い友人は昔と変わらない憎悪を篭めて、吐き捨てた。


「……菅田直以、この、人殺し!」


どうも、どぶねずみでございます。とりあえず、遅筆陳謝!


だって、だってさ。


エロが書けねえんだよお、書いても書いてもエロくならないんだよ~。



・・・失敬、少々取り乱しました。

どぶねずみの場合、エロは書いていると冷める傾向にあるので今までは忌避していたのですが、ここまで難しいとは思いませんでした。


エロを期待していた方(・・・いるのか?)、本当にすいませんでした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ