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ゾンビもの!  作者: どぶねずみ
鈴宮長戸戦争編
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台風

 連日続く真夏日の中、俺たち鈴宮朝倉連合は橋を挟んで長戸市との対陣を続けている。

 正面からの戦闘こそないものの、連日の緊張感は続き、お互いの疲労が目に見えるようになってきている。

 このまま手をこまねいていれば戦闘に拠らずに自壊することになりかねない。

 そんな馬鹿馬鹿しい状況になりかけたとき、聖は口を開いた。


「前線を後退する」


 ガソリン式の発電機が稼動する音、弱冷房と薄暗い明かりが灯る中、一人起立した聖はそう言い放った。

「元々が監視砦を築くまでの時間稼ぎだ。それが一応の形になった以上橋に拘る必要はない。私たちは監視砦を中心に橋の出口で待ち構えることにしよう」

「まあ、遮るもののない橋の上よりは兵の負担はだいぶ楽になるけど。でも、橋の上でしっかり蓋をしておいたほうがいいんじゃないの? 橋を占領されたら行き来が自由になる」

「なに、かまわんさ。集団で来たなら当然迎撃するし、ひとりふたりと端数で来たところで大した戦力にもならん」

「はい、直以お兄ちゃん」

「ああ、サンキュー」

 俺は梨子から冷たい麦茶を受け取り、口を付けた。

 会議の中心では麻理と聖がなにやら言い合っている。麻理が聖に反論してケチをつけているというよりは、みんなが感じる疑問を麻理が先回りして質問して聖が答えているって感じだが。

 梨子は、会議に参加している全員に麦茶を配り終えると、俺の隣に腰を下ろした。

「なあ、梨子」

「なあに?」

「聖と麻理ってなんかあったか?」

「え? なんで?」

「いや、なんとなくなんだが、あの2人、うまく連携が取れているような……」

 麻理と聖の仲は良くないと俺は思っているが、全体としての認識も同じだろう。だから今の状況も周りには聖に麻理が喰って掛かっていると写っているだろうが、俺にはなにかツーカーな受け答えをしているように見えた。

「んふふ~♪ 内緒。いいオンナには秘密があるんですよーだ」

「ここで言ういい女は聖と麻理でおまえは入ってないんじゃないか?」

 そう言うと梨子は口をへの字にして俺の背中をぺちりと叩いた。

「それで、直以はどう思う?」

 埒が明かないと見たのか、大地が俺に話題を振ってくる。全員の視線が、俺と、俺の隣にいる梨子に注がれた。

「前線を後退させるのには賛成。こう連日の炎天下じゃあ、いざってときに戦えないよ。それがわかっているから条件が同じ長戸市の連中も攻めてこないんだろうけど」

「下手に引いたら朝倉市の連中の士気が下がるんじゃないか?」

 健司の言葉に少し考える。なるほど、劣勢が理由での後退だと勘違いされる恐れは確かにあるかもしれない。

「それは、各班長にちゃんと理由を説明してもらうしかないなあ」

「暑さに耐えられないから、って?」

「いや、実はもうひとつ理由があるんだ」

 俺は、梨子の背中を押した。全員の視線が梨子ひとりに集まった。

 頼りなげに俺を見上げてくる梨子。俺は、梨子が安心できるように軽く手を握ってやった。

 梨子は、俺の手をぎゅっと握り、言った。

「えっと、その、台風です」

「台風、ですか? 確かに時期的にはそろそろだとは思いますが」

 支倉先輩の言葉に多少たじろぎながらも梨子は答えた。

「はい。天気予報がないからいつ来るかはわからないけど、けど、いつ来てもおかしくないと思います。そのとき、今ある簡易バリケードの先陣ではとても耐え切れないと思います」

「少し補足しておこう。台風が来れば、当然風雨の問題から簡易バリケード自体が吹き飛ばされる可能性もある。だが、それ以上に我々には火薬棒が使えなくなるのが大きなマイナスだ。火薬棒は黒色火薬を使っている。黒色火薬は湿気に弱いから雨の中ではとても使えないからね」

 聖に視線が集まって、梨子はほっと息を吐いて俺に寄りかかった。

「おそらく次に長戸市が動くのはそのときだろう。我々は、そのときに備えて少しでも有利な状態で迎撃できるように準備しておかなければならない」

 次に長戸市が動くとき、それは、美紀さんが動くときだ。

 今度はどんなことをやってくるのか。雄太が間に合えばこっちから仕掛けるのもいいが、おそらくは今回も受身になることだろう。

 ……ちなみに、雄太が今近隣の市を回ってなにやら冒険譚を繰り広げていることを当然俺たちは知らなかった。

「わかりました。迎撃の難しい先陣は放棄するのですね。それでは今本陣として使っている場所はどうしますか? そこも引き払って監視砦で迎撃しますか?」

「いや……、本陣は残しておこう。監視にも使えるし橋の出口を押さえれば牽制にもなるから」

 そう言ったのは大地だ。多少の違和感があるが、ここで異を唱えるのも具合が悪い。俺は黙っていることにした。




 俺たちの先陣放棄はスムーズに進んだ。美紀さんは申し訳程度の嫌がらせをしてくれたが、特段大きな戦いに発展することはなかった。


 風が強くなってきている。

 厚い雲は天を覆い、連日働き詰めだった太陽は久しぶりの有給休暇になりを潜めている。

 おそらく今日の夜半にでも台風は周防橋を直撃することになりそうだった。

 俺は、長戸市を迎撃するための準備の最終チェックをしていた。

「隆介、もう少しライトで先まで照らせないか?」

「車を前進させるっすか?」

「いや、それをするとバランスが崩れるからなあ」

 風雨の中での夜間戦闘。視界は不良で銃の命中率も格段に下がるだろう。最悪、泥に塗れた肉弾戦になりかねない。

「なんか台風ってわくわくしないっすか?」

「ガキかよ。別にわくわくしねえよ」

「またまたぁ。直以先輩、なんか楽しそうっすよ」

「うるせえぞ。やることは山ほどあるんだからさっさと働け」

「うい~っす」

 隆介は文句を言うこともなく俺の指示に従って行動する。見た目とは裏腹に、隆介はけっこうな働き者だった。

 俺は、自分の左手首を掴み、脈拍を確認した。

 なるほど、俺の心臓は普通よりも早く鼓動を繰り返していた。高揚している証拠だ。

 だが、この高揚は台風の接近によるものではない。

 台風の最中に美紀さんがなにをやってくるか、それの期待によるものだ。

「直以お兄ちゃん」

 ふと見ると、いつからいたのか梨子が俺の前に立っている。

「どうした、梨子。おまえは聖と一緒に監視砦のほうにいるはずだろ」

「う、うん。でも、まだ少しはいいかなって」

 そういえば最近は梨子のことをおざなりにしてたなあ。傍にいるくらいならいいだろう。

「なにかあったらすぐに監視砦に戻るんだぞ」

「うん!」

 梨子は、嬉しそうに頷くと俺の腕にしな垂れかかってきた。

「ねえねえ、この後、なにが起こると思う?」

「正直わからん。単に芸のない特攻はやってこないと思うから、何かしらの奇計をやってくると思うが、見当もつかないな」

「お願いだからあんまり危ないことはしないでよ。私は、直以お兄ちゃんが怪我するとかって嫌だからね」

 俺は、思わず苦笑してしまった。

「それはなかなか難しいなあ。ここにいれば嫌でも危険な目に遭うよ」

「むううぅ! それでも危険なことはしないでください!」

「ああ、わかったわかった。なるべく気をつけるから」 

 俺は、梨子のちっこいおかっぱ頭に手を置いた。梨子は、誤魔化されていると思ったのか、思いっきり頭を振って俺の手を退けた。

 と、頬に冷たいものが当たった。

 雨が降ってきたのだ。

「梨子、話はお終いだ。聖のところに戻れよ。俺はおまえが雨に濡れて風邪を引いたなんて嫌だからな」

「そうしたら、直以お兄ちゃん私のこと看病してくれる?」

「つきっきりでな」

 梨子は、ほにゃらと笑顔を作った。

「それいいねぇ。私、風邪ひこっかな~♪」

「馬鹿言ってないでさっさと戻れ」

 俺は梨子の背中を押した。だが、梨子はつんのめりながらも耐えて、振り返った。

 が、視線の先は俺ではなく麻理がいた。

「麻理先輩、直以お兄ちゃんをよろしくお願いしまっす!」

「うん、任された!」

 ……阿吽の呼吸だった。

「なんで麻理に俺のこと頼んでんの?」

「えっへへえ~、秘密♪ それじゃあ直以お兄ちゃん、私は戻るけど本当に危ないことはしないでよ!」

 梨子はそれだけ言うと、軽い足取りで去っていった。

 俺はしばらく梨子の背中を見送った後、作業に戻った。



 小雨だったのはほんのわずかな間だけ、本降りになるには時間がかからなかった。

 風雨の強さからも台風が近づいてきていることはわかる。

 俺たちは、横に並べたバスの中で雨を凌いだ。

 豪風と雨粒が窓を叩く音がバス内を包む。

「……大丈夫よね。橋ごと落ちたりしないわよね」

「大丈夫だろ。メンテナンスされてないからって、10年やそこらでは落ちないだろ」

 不安げな麻理に答えながら、俺は窓の外を見た。

 橋の上は、乗っ取られないようにタイヤを外した車を数台並べてライトで照らしている。

 ないよりははるかにマシだろうが、それでも視界が悪いことに変わりはなかった。

「もうちょっとやりようがなかったかなあ」

「大丈夫でしょ。この風なら、狙撃はベテランの狙撃手でも難しいわよ。だから、近づいてきても銃はお互い使い物にならないわ。だから、あんまり遠距離を見渡せても意味がない」

 今度は逆に麻理が俺を安心させる言葉を言う。

 すでに日は暮れかかっている。光源がライトのみになった頃、その連絡は入った。

『直以先輩、お疲れ様です』

 通信機から聞こえてくるのは紅の声だ。

「紅、どうかしたか?」

『はい、少々。今、監視砦が敵襲に遭っています』

 いつもと変わらない落ち着いた紅の口調。だが、話の内容は深刻だった。

「敵の数は?」

『視界不良のため、確認できません。100人は超えないと思いますが』

 俺は窓の外を見た。ライトの先には、未だに敵兵の姿はない。

「俺たちに気付かれないように川を渡ったのか、それとも下流の橋を使って大回りしてきたのか」

『大地先輩からの要請です。直以先輩をすぐにこちらに来させるように』

「俺は監視砦には戻らない。大地に伝えてくれ。防御に徹しろ。敵は補給がきかない。弾が尽きればそれで終わりだ」

 監視砦には聖もいるし十分な備えもある。数と装備、さらには地形で劣る長戸市の兵が特攻を仕掛けたところで自殺行為だろう。そんなことをやってくるとは思えない。

 もしこの行動に意味があるとするのならば、監視砦に兵を向け、牽制することで俺たち橋に陣取る部隊を孤立させ、一気に殲滅することだろう。

 だが、俺たちは攻撃を受けていない。

 長戸市の行動には連携が欠けていた。


「なにを考えてやがるんだか?」


 俺の頭の中には美笑を浮かべる美紀さんが浮かんだ。あの人に限って言えば、作戦ミスもトラブルも有り得ないだろう。


 なにか壮大な計略の一環、だがその全貌は台風の風雨に凌がれて姿形も見えなかった。


雄太の話は外伝で!


……すいません、たぶん書きません。

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