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ゾンビもの!  作者: どぶねずみ
鈴宮長戸戦争編
48/91

周防橋の戦い4

 両軍が顔の確認できる距離で睨み合う。


 一瞬、世界中から音が消え去る。


 次の瞬間、ヒステリックな獣性が周防橋を覆った。


 怒声、喚声を吐き出しながら長戸市の兵は一斉に駆け出す。

 両翼からはショットガンによる射撃が簡易バリケードに傷をつけた。

「直以!」

「まだだ。もっと引きつけろ」

 こっちは素人だ。遠くから撃ち合っても負ける。

 俺たちは頭上を飛び越える散弾をバリケードの内側に篭ってやり過ごした。


 しばらくすると、ショットガンの銃声が止んだ。両軍の距離が近くなりすぎたために、同士討ちを避けたのだ。

 それに合わせて長戸市の兵の喚声が大きくなった。


 眼前の距離、すでに敵兵が歯茎を剥き出している表情まで見て取れる。


 俺は、叫んだ。

「撃てぇ!」


 大気をつんざく甲高い音が響いた。が、それほどの轟音でも人間の持つ獣性をねじ伏せることはできなかった。


 長戸市の兵は銃で撃たれた仲間を弾き飛ばし、バリケードに取り付いた。素手で鉄条網を引っ張り、もう片手に持つ日本刀を突き立ててくる。


 鈴宮・朝倉連合軍は冷静に対処する。極至近距離から拳銃を乱射し、バリケードを直接飛び越えようとしてくる敵には火薬棒で迎撃する。

運良くそれらを避け、バリケードの内側に入り込んだ長戸市の兵は、今度は集団に取り囲まれて撲殺される。

 火薬棒で肩を突かれた敵兵は、血肉を撒き散らして焼けたコンクリートに倒れ、ぶらさげるだけになった腕を必死に繋ぎとめているところを後続の仲間に踏み殺された。


『負傷者が続出している。すぐに援軍を送ってくれ!』

『おいおい、あんな数俺たちだけじゃあ対処できないよ!』

『武器が足りない! さっさと送ってくれ!』


 通信機が悲鳴に満たされる。パニック寸前のその状態を聖は書類をさばくようにひとつひとつ処理していった。

「第3地区の兵を前に出して3班と4班を交代。本陣からから届いた火薬棒と銃器は中央に集めろ! 梨子くん、負傷兵と一緒に使い終わった火薬棒も後ろに搬送するんだ」

『は~い♪』

 梨子のちょっと間の抜けた声が通信機から聞こえてくる。こんな状態なのに、少しだけ和んでしまった。

 聖は煙草に火をつけて、俺を見た。

「敵の勢いがかなり強い。早々は崩れないだろうがローテーションを速めることになるぞ」「わかってる」

 俺は双眼鏡を覗いた。わめき散らしている白いスーツの男と傍らに立つ女。

「このまま力押しで崩してくる気なのか、それともまだ奥の手があるのか……」

 長戸市の兵は火力の薄いところを重点的に攻撃してきている。対する俺たちは、効率的とはいえないまでもバリケードを盾にしてなんとか迎撃できていた。

 が、あくまでも防御であり受身だ。この戦争が始まって以来、主導権を長戸市に握られ続けていることには変わりはなかった。


「直以先輩! そっちにひとり行ったっす!」

 隆介の声に振り返ると、バリケードを越えた長戸市の兵がドスを小脇に抱えて俺に向かって突っ込んできていた。

 単調な動きだ。これなら、ゾンビのほうがはるかに速いし強い。

 俺は、戈を振るった。長柄である戈は短いドスが俺の身体に届くより速く長戸市の兵の腕を斬り落とした。

 遅れてきた隆介が腕を押さえて蹲っている長戸市の兵にとどめを刺した。

「すいやせん、直以先輩」

「こっちなら大丈夫だ。すぐに部隊に戻れ」

 隆介はひとつ頷くと、俺に背を向けた。

「……聖、今のやつ、まっすぐ俺のところに来たな。俺が狙われたのか?」

「敵の大将を討ち取るというのは常道手段だろう」

「そう、か。ちょっとここを頼む」

 俺は、聖の返事を待たずに隆介の後を追った。


「そっち、来てるわよ! 駄目、まだ引きつけて……、よし、撃って!」

 麻理の命令で一斉射撃が行われた。硝煙の匂いが辺りに充満した。

「直以! なんでこっちに来てんのよ!」

 麻理は小銃の弾倉を変えながら、俺には見向きもせず聞いてきた。

「麻理、こっちはどうだ?」

「最悪! もちろん逆の意味でね」

 銃器の絶対数が不足する中、もっとも装備が充実していて錬度が高いのは麻理たちの部隊だ。

 麻理たちをもっとも敵が攻めやすいところに配置していたのだが、それが完全に裏目に出た。

 第2派のゾンビをけしかけることで俺たちの配置を知った長戸市は、麻理たちのいるここに兵を集めないのだ。

 麻理たちはせいぜいが近場への援護射撃か、群れから逸れて自殺行為的に突っ込んでくる敵の迎撃くらいしかやることがなかった。

 火力の効率的運営が、完全に封殺されているのだ。

「ねえ直以。ここは林田に任せてせめて私だけでも別の場所に移してよ」

「駄目だ。隆介を信頼していないわけじゃないが、ここを集中的に攻められておまえがいなかったら、ここはもたない」

「じゃあどうすんのよ!? このままじゃあジリ貧の消耗戦になるわよ?」

「……ここに敵を集める」

 俺は、それだけ言うと、軽く膝を曲げて飛び上がった。


――あれ?


 俺がバリケードの上に立った瞬間、炎暑が消えた。

 戦場を覆っていた獣性が一瞬、ほんの一瞬だけ霧散する。

 混沌のひととき、次いで訪れたのは、俺に放たれる志向性を持った殺意だった。


 鳴動。

 長戸市の兵は一斉に俺めがけて走りよってきた。はるか前方には顔に驚きを浮かべる美紀さん。後ろでは聖の悲鳴と麻理の罵声。

 俺の中に沈むおこりがわずかに波打った瞬間、俺は隆介に襟首をつかまれてバリケードの内側に引きずり倒された。

「あ、あんたなに考えてるんすか! あんたがやられたら俺たちはお終いだろうが!」

「……大丈夫だよ。それより、来るぞ!」

 俺は戈を握り、迫る敵兵に備えた。

「撃ちまくりなさい! 残弾なんて気にしなくていいから!」

 麻理は周りに指示を出すと、自身も小銃を乱射した。それでも長戸市の兵は味方の屍を乗り越えて向かってくる。その様は、音に群がるゾンビと大差なかった。


 狂熱に犯されたのは長戸市の兵だけではない。朝倉市の兵も一斉にバリケードを飛び出したのだ。

 お互いの牙が折れるほどの衝突。

 こうなれば指揮も統率も関係ない。あるのは、本能に従った殺し合いだけだった。


 終幕は、わずか1分ほどで訪れた。長戸市の兵が撤退を開始したのだ。

 おそらくは自分の統制を外れた戦いを嫌って一度部隊をまとめにかかったのだろう。

「追撃はいい。俺たちも一度引いて体制を立て直すぞ! あと被害状況を報告!」

 俺も大声を張り上げて勝手に戦っている兵たちをまとめにかかった。


 周防橋の上は死体の山で満ちている。我ながらひどい戦い方をしたもんだ。


 俺は天を見上げた。

 青い空に白い雲。そして、燦燦と輝く太陽。

 視線を下ろす。

 焼けたアスファルトに飛び散る赤。


 目が痛くなるほどの彩度に、俺は軽い立ちくらみを覚えた。


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