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ゾンビもの!  作者: どぶねずみ
武器取得編
22/91

揺れる自然美

 ゾンビ発生から一週間が経った。

 依然として救助隊が来る様子はなく、ゾンビどもは学校外を徘徊している。


 日常にはそれなりに変化があった。

  例えば生鮮食料がなくなったこと。予想できたことではあるが、食生活の強制的な変換は、けっこう堪えるものがあった。

 他にも、生活単位が班になった。10人で1班、その中のひとりを班長にして、作業を班単位で指示する。作業をさぼっていると、街への調達班に選ばれなかったり、調達してきた物資を分配するときの優先権が低くなったりする。

 洗濯やらシャワーなんかを使う時間も班で分けられたりしていた。

 須藤先輩の発案だが、今のところはうまく機能していた。


 俺は、というと須藤先輩と同じ1班に入れられた。構成員は須藤先輩を班長に、俺こと菅田直以、遠野梨子、青井雄太、牧原聖、、進藤紅、荒瀬宏、それにさっちゃんこと外岡皐月の8人だ。

 1班は少し特殊で、特定の仕事に従事することはなく、いわゆる統括的な仕事をしている。ぶっちゃけるなら、それぞれで勝手に動いている状態だった。

 さっちゃんはお医者さんらしく保険室に詰めているし、雄太と聖はなにやら俺のわからない技術的なことをやっている。

 紅と須藤先輩は、いわゆる事務仕事だ。今日の作業はどれだけ進んだとか、昨日の夕飯は好評だったとか、あの班にはどんな不満があるとか。そういったことをこつこつとまとめている。俺には絶対にできない面倒事だ。

 俺は、というと、荒瀬先輩について畑作りに精を出していた。邪魔なゾンビを倒して入ってこれないよう柵を設置し、土地を測量して荒地を耕す。

 試作にサツマイモとトマトを植えているのだが、この間、芽を出していたのにはかなり感動したりしていた。

 そして、我らが妹姫はというと……。



「直以おに~ちゃーん!」

 梨子は手を思い切り振って俺のところまで駆けてきた。手には大きなバスケットを持っている。

 俺は荒瀬先輩を見た。

「もう昼か。少し休むぞ」

 俺はようやく出た休憩に大きく息を吹き、梨子を出迎えた。

「梨子。弁当持ってきてくれたのか?」

「うん♪」

 梨子はバスケットからビニールシートを取り出して俺に渡した。俺は荒瀬先輩と一緒にビニールシートを広げた。その上に梨子は弁当を並べる。

「遠野は今日なにやってたんだ?」

 荒瀬先輩の質問に梨子は人差し指を下唇に当てて答えた。以前はビクビクしていたが、最近は慣れてきたのだろう。梨子は荒瀬先輩とも普通に話せるようになっていた。

「えっと、まずは聖お姉ちゃんたちのところにいて、さっちゃんとお茶して、その後は紅ちゃんたちのお仕事手伝って、さっちゃんとお茶して、それで今、お弁当作ってここに来たの」

 なんかお茶が多い気がするが、梨子がさぼっているんじゃなくて、無理やりちびっこ医師に付き合わされたんだろう。

「ちょこまかと小間使いしてるんだな」

 梨子は相変わらず忙しなく動き回っていた。少し変わったことといえば班分けをしたことで班内の仕事をよくするようになったことと、俺の傍にいるようになったことだ。

 俺は弁当のタコさんウィンナーを摘まんだ。

「これ、冷凍食品?」

「うん……。ごめんなさい。本当はちゃんとお料理したかったんだけど」

「いや、いいよ。梨子のせいでもないしな。それに、俺んちの弁当なんて大抵こんなもんだったぞ」

「だが、これから食生活はどんどん劣化していくぞ。生卵はもう残ってないだろう?」

 梨子は荒瀬先輩に頷いた。

「どこからか鶏、調達しますか?」

「そうだな。鶏糞は肥料にもなるから、畑が軌道に乗ったら養鶏も考えるか」

「そのうち、豚や牛もやることになりそうですね」

「そうなると、学校だけでは手狭だな」

 真剣に考察する荒瀬先輩を見て、俺と梨子は顔を見合わせて笑った。その笑い声につられて、柵の外のゾンビがひとり向かってくる。

 荒瀬先輩は、耕作中に出てきた石を拾うと、ゾンビに向かって投げた。ゾンビは石を額に突き立て、後ろに倒れて動かなくなった。ったく、相変わらずの馬鹿力だ。

 梨子は笑い顔をひきつらせて固まっている。荒瀬先輩はめったにしない笑みを見せて、梨子に言った。

「飯の最中に悪かったな」

「い、いえ! そうだ、直以お兄ちゃん。お昼から出かけるから、早く校舎に戻らなくちゃだめだよ!」

 話を変えるためか、梨子はいきなりそんなことを言ってきた。

「昼? 昼になんかあったっけか?」

「今日は1班と8班が街に物資調達に行く日でしょ。私、楽しみにしていたんだから」

「そうか。荒瀬先輩、昼からの作業はどうします?」

「俺がやっておくからおまえは行ってこい」

「行かないんですか?」

「ああ。俺は残る」

 さて、どうしようか。なにか俺だけ街に行くのは、荒瀬先輩に仕事を押し付けるみたいで嫌だが。

 ふと見ると、梨子が目を輝かせて俺を見ている。

 まあ、こいつの期待は裏切れないか。

「それじゃあ頼みます。梨子、午後は一緒に街に行くか?」

「うん♪ よかった~。実は、聖お姉ちゃんは行かないって言ってるんだよ」

 まあ、あいつはそうだろうな。以前一度街に行ってるし、わざわざ2度も見る必要はないと思っているんだろう。

「それじゃあ、1班は荒瀬先輩と聖を抜いた6人か?」

「ううん。須藤先輩とさっちゃんも行かないって。さっちゃんはお酒持って来いって言ってたよ」

「あいつ、ちびっこのくせに駄目駄目だな」

「そんなこと言うとまた白衣の袖でぺちぺち殴られるよ」

 梨子はくすくすと笑った。

 俺は、梨子の花開くような笑顔を見て思った。

 わざわざ昼飯をもって来てくれたように、こいつには色々と世話になっている。対して俺はこいつになにもしてやれていない。

 こいつが喜ぶなら、今日の残り半日くらい付き合ってやるのも悪くない。そう思った。





 午後の1時を少し過ぎた頃、俺たちはロータリーに集合した。集まったのは、8班の10人と1班の4人だ。

 紅は、野球部の遠征用バスから降りると俺の前に立った。

「直以先輩、お疲れ様です。どうやら全員揃っているようですね。さっそく出発しますか?」

「ああ。運転は任せてもいいかな」

「はい。大丈夫です。私が運転します」

「それで、8班の班長は……」

 紅は視線を俺の後ろに向けた。

 俺は、振り返った。


 そこには、雄大な自然美があった。


「直以くん。えっと、直接話したことってなかったよね。私は内藤晴美。今日はよろしくね」

「あ、ああ。よろしく」

 俺は、視線を上げた。

 そこに立っていたのは女子だった。三つ編みにメガネを掛けた地味っ子だ。地味じゃないところは首の下についていた。


 でかい。

 とにかくでかい。

 なにがでかいって胸がでかい。

 メロン、いや、スイカ、いや、地球……。


「あの……、直以くん?」

「お、おぱ。おぱぱぐほう!」

 尻に衝撃を受ける。紅が膝を叩き込んできたのだ。ぐ、けっこう利いたが俺は正気に戻れた。しかし、紅に突っ込まれるとは……。

「いや、悪い。内藤。確か同学年だったよな。よろしくな」

 内藤はわずかに微笑んだ。胸も微笑んだ。いや、わずかな身じろぎでバインボイン揺れるんだって。これ、目に毒だな。

 俺は視線を逸らして言った。

「8班は街に行くのは初めてか?」

「うん。だからみんなすごく楽しみにしていたんだよ」

「それじゃあ悪いけど、しばらくは俺が仕切るな。細々とした注意点もあるし」

「うん、わかった。じゃあみんな、バスに乗り込んで!」

 内藤の指示で8班の連中はバスに乗り込んでいく。内藤もそいつらに続いてバスに乗り込んだ。後姿からも胸の揺れは確認できた。

 俺は内藤の手際(と、おっぱい)に感心する。一応の統率は執れているようだ。まあ、爆弾女、須藤清良の人選だ。あの人に限っていえばミスキャストはないだろう。

「直以おに~ちゃん♪」

 声のほうを向くと、雄太と梨子が立っていた。

 梨子は俺の腕に抱きついてきた。……こいつの胸はこれからに期待だな。

「さ、私たちも行こ♪」

 梨子は俺の腕を引っ張るが、俺はそれを止めて雄太に聞いた。

「雄太、銃は?」

「拳銃を一丁だけ。紅に持たせてる」

 俺は紅を見た。紅は、ブレザーの胸を軽く叩いてみせた。


 俺たちが見つけてきた銃は、周りには秘密にしていた。

 変な誤解をされても困るからだ。

 銃はあくまで外敵に向けられるものであって内部には使用しない。

 須藤先輩はそう言って調達してきた銃の大半を地下室に封印した。

 このことは1班の8人と、調達のときに一緒にいた麻理だけが知っており、大地にも秘されていた。


「正直、中度感染者と遭遇したとき、手ぶらじゃあ心もとないからな」

「直以先輩が所持しますか?」

「いや、紅が持っていてくれ。いざとなったら雄太にな。俺じゃあ当たらないから」

 俺は梨子の頭を撫でた。今までお預けを食らっていた梨子は、それを合図にぐんぐん俺を引っ張っていく。

 俺たちは、梨子を先頭にバスに乗り込んだ。





 調達班には、ちょっとしたルールがある。

 まずは調達する場所と物資を指定される。集めてくるものは食料品や衣料品、その他もろもろでリストアップされている。これは学校に戻ると班の優先順位ごとに仕分けされる。

 それが終わると自由時間だ。自分たちの好きなものを持てるだけ自分のものとして調達できるのだ。

 4時半までに戻らないと調達品は全部没収というシビアな条件はあるが、それでも普段学校内で禁欲的な生活を強制されている学生たちには立派なバカンスなのだ。

 みんな調達班になりたがり、そのためにも学校内の作業を頑張るというわけだ。

「紅、今日の調達場所はどこだ?」

「古泉区です。あそこには大型ショッピングモールがあるのでそこに向かっているのですがよろしいでしょうか?」

「ああ。頼む。内藤、そういうことだが問題はないよな」

「あ、うん……」

 内藤は歯切れ悪く答えた。胸は車の震動に合わせて小刻みに揺れている。

「意見があるなら今のうちに言ってくれよ」

「あ、その……。古泉区には私の実家があるから寄りたいんだけど」

「そうか。それじゃあさっさと用事済ませて帰りに寄って行こう。紅、今日の調達物資はなんだ?」

 紅は運転しながら答えた。

「医薬品です。種類を言ってもわからないだろうから、全部持って来いとのことです。あ、あとお酒」

「それは、さっちゃんだな」

 紅は大きく頷いた。ったく、そういう大雑把なところがちびっこの部屋を掃除できない要因だな。

「それじゃあ2つに分かれよう。男はゾンビの掃討。女は医薬品を梱包して車内に積んでくれ。内藤、女子の仕事任せても大丈夫だよな」

「うん。わかった」

 俺は後部座席にいる8班の男を見た。文化部が2人、運動部が2人、それに、髪を金色に染めたやつがひとりだ。

「よっし、男班は降車後、薬局目指すぞ」

 後部からは元気のない声。まあ、いきなり俺なんかに仕切られて困っているんだろう。

 と、いきなり金髪が立ち上がって歩いてきた。三白眼に眉まで金に染めた強面だ。でも頭頂部には黒が混ざってるな。

「直以先輩……」

 そいつは、俺を見下ろして言った。さすが不良、荒瀬先輩ほどではないにしてもかなり迫力がある。

「俺、頑張るっすから!」

 白い歯を見せて笑う不良。あ、なんか愛嬌ある顔だな。

 俺の後ろにいた梨子は、俺の肩を揉んだ。俺は、梨子に聞いた。

「梨子、知り合いか?」

「うん。同じクラスの林田隆介くん。見た目どおりの不良で、入学早々に問題起こして学校休んでいたんだけど……」

 ゾンビ発生したときに学校にいたわけか。運がいいんだか悪いんだか。

「おい遠野、なに話してんだ!」

 梨子はさっと俺の影に隠れる。自然、林田は俺を睨む形になる。俺は睨み返した。

 梨子は、俺の影に隠れたままぼそりと一言。

「荒瀬先輩ほど怖くないね」

 俺は笑いを堪えた。それをどう解釈したのか、林田は表情を崩して梨子に言った。

「遠野、さん。すいやせん。どうも癖で凄んじまって……」

 俺は堪らずに突っ込んだ。

「おい、林田。おまえ、一体なんなんだ!」

「水臭いっすよ。俺のことは隆介って呼んでください!」

「おまえ、すっげえ馴れ馴れしいよ。俺とおまえ、初対面だろ?」

 隆介はずうずうしくも俺の隣の席に座った。

「やっぱり覚えてないんすね。俺、ゾンビが沸いてきたあの日に、教室に取り残されたんすよ。それで、直以先輩に助けてもらったんす。直以先輩にはその他大勢かもしれねえけど、俺には感謝してもしきれないことだったんす」

 あ~、そういえばこんなやつ、いたっけか?

「俺、普段から突っ張ってて、戦争でも起これば俺が一番活躍するって思っていたんすよ。でも、実際にゾンビが出てきたら、なにもできなくて、どうすればいいのかもわからなくて……。そんな中で直以先輩が俺を助けてくれたんす。輝いてたっすよ!」

「おまえ、暑苦しい」

「そんなことを言わないでくださいよ~!」

 俺はなおも言い寄ってくる隆介を手で追い払う。

 そこで今まで黙っていた雄太がぼそり。

「舎弟ができたな」

「いらねえよ。こんな舎弟」

「そんなこと言わずに舎弟にしてくださいよ! あ、俺、選挙のとき、直以先輩に入れたっすよ」

「てめえは余計なことしやがって!」

「直以お兄ちゃん、どうどう」

 隆介に掴みかかろうとする俺を梨子は静める。ちくしょう、梨子に背中を撫でられるとなんかすっげえ落ち着く。

 隆介は、頭を掻きながら梨子に言った。

「あの、さ。遠野。さっきは本当に悪かったな。俺、遠野が直以先輩の女だって知らなかったおおおお~~~!!」

 途端、車が急ブレーキで止まった。

 梨子は俺にしがみつき、俺も梨子を抱きしめる。内藤の胸は、揺れるというレベルじゃなくどこかに飛んでいきそうな勢いで跳ねていた。

 思いっきり前に投げ出された隆介は、運転手である紅に詰め寄った。

「いきなりなにすんだ!」

 紅は、なぜか不機嫌そうに言った。

「……到着しました」



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