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ゾンビもの!  作者: どぶねずみ
鈴宮高校開放編
13/91

第一回これからどうしようか会議

 校長室は特別棟3階の、部活棟寄りの場所にあった。引き戸式の他の場所とは違う、取っ手のある扉だ。それだけでも普段は俺たち学生には縁のない場所だった。

 一歩部屋に踏み込めば赤絨毯。ガラス製のテーブルに来客用の皮製のソファ。その奥には重厚な木製の机があり、格子窓からはロータリーが見下ろせた。

 

須藤清良は重厚な机に座り、その後ろでは荒瀬先輩が外を見ていた。

 俺は皮製のソファに座った。対面には大地、大地の後ろには10人近い取り巻きが立っていた。聖は俺の後ろに秘書のように立っている。

「さて、直以くんも来たことだし、そろそろ始めましょうか」

 須藤先輩はそう言った。

「昨日も言ったとおり、私はこの鈴宮高校で立て篭もって救援を待つつもり。それについて2人はどう思う?」

「俺は、問題ないと思います。俺自身も元々そのつもりだったし」

「俺も……、いいと思います。ですが、須藤先輩。ひとついいですか?」

「なにかしら、大地くん」

「今回の選挙で先輩は1位当選したわけですけど。いつまでリーダーでいるつもりですか? あ、別に不満はないんですけど、少し気になったもので」

 須藤先輩は一瞬だけ俺を見て、言った。

「本音で言うなら、今すぐ投げ出して全てをあなたたちに任せたいのだけど、選挙で選ばれた以上、そうも言えないわね。とりあえず、私は3ヶ月、それを目途に色々と推し進めていくつもり。3ヵ月後まで私たちが生きていけて、3ヵ月後も続けて生きていけるような体制を作るの」

「3ヶ月も救助隊が来ないのかよ!」

 大地の取り巻きのひとりが発言した。俺と同じクラスのサッカー部のやつだ。

「今この瞬間にでも救助隊が来てくれる、それが理想だけど。現状が掴めない以上、いつ来るかわからない救助隊をアテにするわけにはいかない。だから、3ヶ月先まで救助は来ないという最悪の状況を前提に行動するの」

 さすが、というべきか。須藤先輩はそれと感じさせないような威圧感があった。大地の取り巻きは二の句が告げなくなってしまっていた。

 須藤先輩は透き通る声を発した。

「それじゃあこれからのことを話し合いましょう」

「その前に、ひとついいでしょうか?」

 その声は、俺の後ろから聞こえた。進藤紅だ。いつ来たのか、俺の後ろに立っていた。そんなところに立っていたら俺の仲間だと思われるぞ?

「手書きで申し訳ありませんが、現在確認できる食料の備蓄量です。今朝、確認しました」

 そう言って紅は一歩前に出て、須藤先輩に手書きの紙を渡そうとした。だが、紙は須藤先輩に渡る前に聖によって取り上げられた。

 聖は秒数にして1秒にも満たない時間で書類に目を通した。

「ふむ、悪くない。が、学食のものだけで購買のものが記されていないが?」

「……購買のものは、パンも乾麺も、今朝の段階で根こそぎなくなっていました。おそらく夜のうちに誰かが持ち出したのでしょう」

「と、いうことだそうだ」

 聖は俺の肩に手を置き、紙を指で弾いた。紙は、まっすぐ須藤先輩の手元に飛んでいった。

「少し迂闊だったかしら。一晩で購買の食べ物がなくなるなんてね」

 須藤先輩は机の引き出しから書類を取り出すと、紅の持ってきた紙と並べた。

 俺はソファから立ち上がり、机に並べられた書類を見比べた。書式こそ違うものの、書かれている内容はほぼ同じだった。

 俺は紅の持ってきた紙を大地に渡し、須藤先輩の取り出した書類を手に取った。

「これは、須藤先輩が作ったんですか?」

「ええ。昨日のうちにね。購買のものもアテにしていたのだけど、無駄になってしまったわね」

 書類には、生鮮食料に長期保存のできるもの、冷凍もの、それに米の量で分けられていた。

「……米の貯蔵量がやたら多いですね。なんでですか?」

 大地の質問には紅が答えた。

「ここ、鈴宮高校は災害時の緊急避難場所に指定されています。多人数がしばらくの間自炊できるように計画されているんです」

「ああ、聞いたことあるよ。そうだ、そういえば地下室に水とか乾パンとかの食料を貯蔵しているんじゃなかったっけ?」

 あの話ってけっこう有名だったのか?

 俺は聖を見た。聖は皮肉たっぷりの顔で俺を見返した。

「ええ。そのことはもちろん知っているわ。でも、地下室は、しばらくは開封しないでおこうと思うの」

「なんでですか? それがあれば余裕で3ヶ月なんて持ち堪えられると思いますけど」

「だから、よ。余裕があればなにもしなくなる。では、食料の備蓄がなくなったら? 不必要に不安を煽るつもりはないけど、ある程度の緊張感はみんなに持っていてもらいたいの」

「そんなことしなくったって救助隊が来てくれるだろう!」

「言ったはずだけど。私たちは最悪の状況を想定して行動すると」

 発言した大地の取り巻きは言葉を詰まらせた。

 こいつはひょっとしたら、自分の支持する大地のために、須藤先輩にケチをつけようとしているのかもしれない。

「それに、先ほど進藤さんが言ったとおり、ここはこの地域の緊急避難場所です。街からここに逃げてくる人がいるかもしれない。そのことも想定すると、安穏と無駄に時間と食料を貪るわけにはいかないって理解できるわね」

「少しだけ補足しておこう。地下室にあるのは水に氷砂糖と乾パン、それと種類の少ない缶詰程度だ。食料としてはかなりの量になるが、私に言わせれば実に味気ない。3食缶詰と乾パンなどという生活は正直ぞっとしないな」

 聖の言葉に全員が押し黙った。

 俺は書類を机の上に置くと、ソファに戻った。

「これでやっと本題に戻れるな。じゃあどうするんだって話だ。須藤先輩はどうしようと思っていたんですか? それとも、今の前ふりはただの問題提起ですか?」

 須藤先輩は俺に微笑を向けた。俺は、須藤先輩の瞳の奥が光ったのを見逃さなかった。

「私、園芸部なの」

「……それはつまり」

「鈴宮高校の周辺はみんな知っているわね。学校の裏側、南側に土手と川、部活棟のある東側には公営の運動公園。そして、教室棟のある西側と正門のある北側には1キロ四方に渡って荒地があるわ。その荒地を開墾します」

 鈴宮高校は、言ってみれば陸の孤島だ。周囲にはなんにもなく、屋上から眺める街の景色はどこか蜃気楼めいた儚さがある。それを助長しているのが荒地だった。

 この荒地は、鈴宮高校全学生の仇敵だった。これのせいで街までやたら遠く感じるし、乾燥した秋には強風が吹くと、まるで砂嵐のように学校全体を包むのだ。

「あんな荒地を畑に使えるんですか?」

 紅の疑問に聖は答えた。

「それについては問題ない。ああ、もちろん法律的な意味で、ではないがね。あの荒地は、実は畑なんだ。ただ、農家の人のものではなく、趣味で個人菜園をやっている人に分譲されているのだが」

 そうだったのか。知らなかった。しかし、聖のやつ、なんでも知ってるな。

「だが、それは無理ですよね。わかって言ってるんですか?」

「直以くん。なぜかしら?」

「ゾンビがいるからですよ。学校外はおろか、校内ですらゾンビどもは溢れてる。こいつらをなんとかしないと、開墾なんてできるわけないでしょ」

「ザッツライト♪」

 須藤先輩は俺に親指を立てた。そのまま人差し指を俺に突きつけ、銃を作る。

「さすが直以くん、話が早くて助かるわ。直以くん、大地くん。最初の仕事よ。食料確保と安全の向上のために、校内のゾンビを一掃してください」

 須藤先輩は、バキュンと言って、手で作った鉄砲を撃った。

 見えない弾は俺の中にある大切じゃないなにかを傷付けた。


 

 話は終わりとばかりに校長室を追い出された俺と大地は、数メートル先にある即席バリケードを見た。昨日職員室の机で作った3階と4階を塞ぐものだ。

 外側では、ゾンビがひとりこちらに手を伸ばしていた。

 俺は、大きなため息を吐いた。

「あの爆弾女、学校のゾンビを一掃しろだと? ずいぶんと簡単に言ってくれるじゃねえか」

「そうだね。こっちも命がけだしね」

「大地、それだけじゃねえよ……」

 俺は、続きの言葉を飲み込んだ。どっちにしたってやらなくてはならないなら、士気を削ぐようなことは言いたくなかった。

 俺は大地から視線を逸らし、聖に言った。

「それでどうする? 作戦は?」

「その前に、保有戦力の確認をしておきたいな。木村、きみはどうするんだい? 気が乗らないなら直以だけにやらせるが」

 俺だけって……。

「やるよ、もちろん。それが選ばれた責務だと思うから」

 大地の取り巻きたちも、それぞれがやると言った。聖は嘲笑を浮かべた顔を俺だけに見せた。

「さて、単純計算だが、鈴宮学園の生徒数は500人、生存者は100人。もちろん街に逃げた連中もいるだろうし、ゾンビにならずに死んだ連中もいるだろうから一概には言えないんだが、校舎内には400人のゾンビがいることになる」

「こっちの4倍か」

「大地、人手はひとりでも多いほうがいい。なんとか手の空いてるやつに手伝いを頼めないか?」

「……いや、俺たちだけでやろう。数が増えれば負傷者も増えるから。少数精鋭で行こう」

 聖は、俺の耳元で呟いた。

「自分たちのことを精鋭とはね。ものは言いようだな。嫌なことをさせて自分の評価を下げたくないだけだろうに」

「聖、うるさいぞ。さっさと作戦を言えよ」

 聖は煙草を取り出したが、少し迷って吸わずに閉まった。どうやら、ジッポは雄太が持っていることに気づいたようだ。

 と、そこにタイミングよく雄太が現れる。手には、モップの柄を握っていた。

 雄太は意図的に大地を無視して言った。

「直以、聖。会議はどうだった?」

「ま、つつがなく予定通り、と言ったところだね。それより雄太。私のジッポを返したまえ」

 雄太はポケットから取り出したジッポを聖に放った。俺はそれを空中でインターセプトする。

「雄太。その棒はなんだ?」

「ああ。秘密兵器。なんとか間に合ったかな」

 雄太の持っているのはモップの柄だった。モップではない。本来モップがついているところには、電球を取り付けるようなソケットがついていた。

 聖は俺を恨みがましげに睨み、雄太からモップの柄を受け取った。ソケットの形状を確認し、なにやら偉そうに頷いた。

「まあいいだろう。しかし、かなり時間がかかったな。私は小峰卓也を過大評価していたようだ」

「そう言うなって。あいつはよくやっているよ。足を複雑骨折しても火薬の調合に成功したんだから」

「……そろそろ説明しろ」

 俺がそう言っても聖は振り返ろうともしなかった。俺は、舌打ちしてジッポを聖に返した。

 聖は、会心の笑みを浮かべて、ウェーブのかかった髪をたなびかせた。

「これは、火薬棒だ。効果は……、見たほうが早いだろう。雄太」

「はいよ」

 雄太は聖から火薬棒を受け取ると、ソケットの先に三角錐に(かたど)った紙を装着した。

 雄太はそのままバリケードの外にいるゾンビの頭部に、槍のように火薬棒を突き当てた。


 瞬間、乾いた音が響いた。


 ゾンビは頭部を喪失し、ゆっくりと後ろに倒れた。

「ふむ。予想より威力が強いな。もう少し火薬を減らしてもいいかな」

 満足げな聖。俺と大地と大地の取り巻きは言葉を失っていた。

「直以。これは先に火薬を詰めて衝撃で爆発するようにしたものだ。海女が鮫避けにこういったものを使っていると聞いたことがあってね。私なりに設計してみたんだ。昨日の雄太の要望どおり、固い頭蓋骨をこれなら簡単に吹き飛ばせるよ」

「……火薬があるなら遠距離で使える爆弾にすればいいじゃねえかよ」

 聖は、大地の取り巻きの言葉に、顔も向けずに答えた。

「理由はいくつかある。まず、これが黒色火薬であること」

「黒色火薬? 確か花火で使われてるやつだよな」

「そうだ。火薬である以上、危険物であることには変わりないが、殺傷能力という点ではそれほど高くない。痛覚のないゾンビにはほとんど効果はないだろう」

 聖は俺にだけ語りかけていた。こいつの悪い癖だ。別に人見知りというわけでもないのに。

「さらに、資源の問題もある。当面は材料に不安はないが、補充が利かない以上、無駄に使うわけにはいかない。そこで登場するのがこのソケットだ」

 聖は雄太から火薬棒を奪い、俺に突きつけた。ソケットは、黒い煙を上げていた。

「このソケットの形状はちょっとした自信作でね。爆圧に指向性を持たせているんだ。これによって一方にのみ爆発させることができ、さらに威力も数倍にすることができるのだよ♪」

「? そうなのか。すごいな」

「もしどこかの馬鹿が言っていたように爆弾として使うのなら、10倍近い火薬を必要とするだろう。しかも、爆風は四方に飛び、威力も落ちる。そして、これがどこで使われるのか、ということだ」

 どこかの馬鹿であるところの大地の取り巻きは、顔の色を変えて聖に詰め寄ろうとしていたが、大地に止められていた。

「まあ、これからするのは校舎内のゾンビ退治だからなあ」

 さすがに校内で爆弾は使えないな。

 俺は、なおも説明を続けようとする聖を押し退け、雄太に言った。

「それで、これの量産体制は?」

「こんな状況で無理言うなよ。ま、いいところ、昼までに10本ってところかな」

 雄太は聖に気づかれないようにそっと俺の耳元で呟いた。

「ぶっちゃけ、連射もできないし、次弾装填もやり方がある。それほど万能ってわけじゃないぞ」

「でも威力はあるんだろ。それなら使い方次第ってことだろ。俺とおまえの」

「ま、そういうことになるかな」

 雄太は苦笑を浮かべた。

 しかし、10本か。

 俺は、大地を見た。

その後ろには、10人近い取り巻きたちがいた。


火薬棒の名前募集! ていうか本当の名前を知っている人、教えてください。


長々と説明文が続いて申し訳ありません。無視するわけにもいかないんで書いているんだけど、もう少し分散させないといけませんね。書いているほうとしても面白くないから執筆速度が落ちるし。

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