―第3話 家族―
朝日が部屋に差し、アルヴィナに朝を伝える。
アルヴィナは眠たいが、重い瞼をゆっくり開けた。
「ふぁあ…眠っ…。あ、今日必要な物買わないと…」
ベッドから身体を起こし、ゆっくりとした歩調で洗面台に向かう。
バシャバシャと水で顔を洗い、鏡で髪型を見ながら簡単に手櫛て整える。
「よしっ!さっさと朝食食べにいこ!」
荷物を持って部屋を出る。
そのまま階段で一階の食堂に向かい、料理の匂いに腹を鳴らす。
「おばちゃーん、お腹すいたー」
「おやおや、アルヴィナさん…お早い目覚めですねぇ。もうすぐできるので座って待っててくださいねぇ。」
小柄で優しい雰囲気をまとうこの宿の主は、笑顔で答えた。
アルヴィナは、ほーいっと近くのテーブルに座る。
食堂はいい匂いがこもっていて、アルヴィナは楽しそうに鼻歌を歌って待つ。
「ふふ、アルヴィナさん食事となると上機嫌ですねぇ…。」
出来上がったのか、トレイに朝食を持ってアルヴィナのいるテーブルに置く。
「おばちゃんの朝食好きなんだもん♪
うわぁ、おいしそー♪」
いただきまーす、と手を合わせてから食べ始める。
朝食はオムレツ、野菜たっぷりのスープ、ベーコンとほうれん草の炒めもの、小麦パンだ。
それをほうばるように食べていく。
「んー、最高♪アルマ1美味しい朝食よねー!」
幸せそうに平らげていく。
食べ終わると、背伸びをし、テーブルを立つ。
「おばちゃんごちそうさま!アタシはもう行くね」
「早い旅立ちだねぇ…。
気を付けるんだよ」
「あんがと♪」
宿代をテーブルに置き、宿を出る。
外は市場で賑わっている。
湖や農家の近いアルマは、新鮮な魚や野菜が並んでいるのだ。
「いつ来てもアルマの市場はいいわね~」
アルヴィナは楽しげに周りを見て歩く。
時々知り合いの八百屋に野菜を貰ったり、米を貰ったりした。
アルヴィナの職業は《盗賊》だ。
だが、宝や市民からお金を取り上げるような汚い真似はしない。
盗るのはそのような悪行を行う《盗賊》や《海賊》、《山賊》などからだ。
今のところ盗み成功率は99%。
残り1%は村長だがな(フッ)
「久々にナレーターうるさい」
事実でしょう←
で、アルマの町人にアルヴィナはある意味人気だ。
しばらく歩いているととある雑貨店に着いた。
「タレイアさんいるー?」
アルヴィナはそこに入るやいなやある人物の名を呼ぶ。
店の奥から足音がし、店の主が現れる。
「―アルヴィナね…、お久しぶり。」
透き通るような声が彼女から発せられる。
現れたのは黒のマントを身に纏う女性だった。
顔はマントについているフードで半分隠れていて、口しか見えない。
長い付き合いだが、アルヴィナにとっても謎な人物なのだ。
「相変わらずだねー、タレイアさんは。私が旅立つのわかってたんでしょー?」
その質問に、タレイアと呼ばれる女性は口元に笑みを浮かべる。
「愚問ね…預言者の我に。
でも、所詮預言は預言だわ。あれ以来、未来読みはしていないの」
タレイアはこの雑貨店の店主であり、アルマ唯一の預言者だ。
何度か彼女に危機を救って貰ったことや、助言を貰ったことがある。
―友人として
「ならいいや。で、あれ準備してくれた?」
「預言後すぐにね」
2人で笑い合い、それからタレイアは棚から小さな箱を取り出した。
それをカウンターに置き、スッとアルヴィナに渡す。
アルヴィナは無言で大切そうに受け取り、箱を開けた。
それは、緋色の雫型のペンダントだった。
「あなたのお母さんから、あなたが旅立つまで預かって欲しいと言われた…《ガイアの涙》。
これがあなたを守ってくれる。」
彼女の口元が、寂しげに微笑んだ気がした。
「……タレイアさん、ありがとう。」
ギュッと握る。
その言葉に、彼女は確かな笑みを浮かべる。
「対価は28倍返しよ♪」
「うわっΣ多っ!、てか微妙っ!」
「じゃあ30倍」
「増えてるっ!?」
しばらくこのコント(?)が続き、昼頃になって店を出た。
再会の約束を立て。
アルヴィナが次に向かったのはアルマを一望できる丘だ。
そこはアルヴィナのお気に入りだ。
「タレイアさん容赦なさすぎ…」
先ほどのやり取りでかなり疲れたようだ。
ご愁傷様
「死んでないからΣ!」
丘について、アルヴィナは固まる。
「………………女の子が倒れてて蛇に囲まれてる………!!!?」
アルヴィナの言葉通り、銀髪の少女が丘の上に倒れており、それを蛇が囲んでいる。
しかもおそらく天然記念物のものや毒を持つハズの蛇に、だ。
アルヴィナは顔を引きつる。
すると、少女が起き上がった。
「いっったぁい!!誰よ!こんなところにおっきい石置いたヤツ!
しばらく気絶したじゃん!!」
ご立腹の様子だ。
蛇たちが少女に擦りよっている。
「あっ、蛇ちゃんたちは大丈夫っ?」
すかさず蛇の心配をする少女。
奇妙過ぎる。
「あ、あのさ…大丈夫…?」
とりあえず話しかけた。
すると、キョトンと顔を向けてきた。
一見して、可愛らしい少女だ。
蛇に好かれてさえいなければ…
顔立ちは整っており、アイスブルーの丸い瞳に長い銀髪がよく似合う。
白い膝丈ワンピースを着、黒のベルトを腰と腕に巻きつけ、十字架の刻まれた藍色のブーツを履いている。
アルマでは見たことのないような少女だ。
「ん?大丈夫だよっ!
あなただーれ?」
懐っこい笑みを浮かべ、尋ねてきた。
「アタシはアルヴィナ・キートゥス。
アルマの近くの村の人間だよ。あなたは?」
「ソルティス・ファラナだよ!
アルヴィナちゃんだっけ?
わたし、《お兄ちゃん》を探してるの!」
笑顔で答えてきた。
いい子らしい。
蛇たちが警戒しているのが怖いが……
それに気付いたのかソルティスと名乗る少女が蛇たちを叱る。
「ダメ!アルヴィナちゃん敵じゃないっ!」
すると、警戒が消える。
「ごめんねー。この子たち旅してる中でずっと警戒してたから…」
「だ、大丈夫だけど……。
すごいね、蛇が懐くなんて…」
「蛇ちゃんたちはわたしの友達なの!わたし、昔から蛇使いだからだいたいの蛇は懐かせることができる体質なんだー♪」
ニコニコと楽しげに話す。
アルヴィナは引きつった笑みを浮かべるしかない。
「そ、そういえばお兄ちゃんを探してるんだっけ?
どこから来たの?」
話を最初に戻す。
すると、ハッとした顔をする。
「うん!!《お兄ちゃん》を探してるの!わたしは《レギュレイシャン》から来たんだけど、全然会えなくて……」
シュン、と悲しげに眉を下げる。
喜怒哀楽が表情や仕草に出やすい性格のようだ。
蛇たちが心配そうにソルティスを見上げている。
アルヴィナは苦笑して、ソルティスの頭を撫でた。
ソルティスは少しビックリしていた。
「わざわざレギュレイシャンからお兄ちゃんを探しに来てるんだから、きっと見つかるよ。
家族なんでしょ?」
「!…うんっ!」
家族という言葉に、彼女は力強く頷いた。
「早く《お兄ちゃん》を探さないと!
諦めちゃダメだもんね!!」
ねー!と蛇たちに同意を求めていた。
それからアルヴィナに向き直る。
「アルヴィナちゃん!ありがと!
わたし行くね!」
「うん。しばらくロギアラ内を探すの?」
すると、へへっと笑う。
「うん。《お兄ちゃん》はウロウロするとすぐいなくなっちゃうから、探すの。じゃあ、またね!」
そう言って彼女は蛇たちとその場を去って行った。
アルヴィナはポツンと呟く。
「なんか……嵐みたいだったな……」
そして、自分の家族のことを考えた。
「(……アイツに黙って出ちゃったな…)」
唯一の家族に別れを告げずに出たことを半分申し訳なく思っていた。
でも、後悔はなかった。
「(言ったらついてくるしね、アイツに言わない方が性格だったよね。)」
丘から街を一望して、アルヴィナはアルマを出た。
己が望む旅を求めて……
―小さな歯車が交わった。彼女の小さな出会いは、必然的に世界を変えて行く―