―第01話 始まり―
「ああぁあぁぁ!もうっ!何なのよこの地盤の弱さっっ!」
盗賊アルヴィナ、村から数キロ先の山奥にて、地盤沈下に巻き込まれる。
ゲームオー「バーにするなっΣ!」
……すみません
「てか、ここどこよ…。回り真っ暗…」
立ち上がり、服についた砂埃を叩いて辺りを見回す。
洞窟のような形状で、奥からはピチャン、ピチャンと水音が響いていた。
上を見上げるが、かなり高いところに落ちてきた穴があった。
流石のアルヴィナでも登ることは不可能に近い。
「…とりあえず、出口を探すしかないわね…。アルマまで向かうためには…」
ハァ…、と重いため息を吐き、肩を落とす。
実は、村から出てまず《緑水の街アルマ》に向かっていたのだ。
特にどこに行くか決めていない旅だったが、アルマで自分の生まれ育った村にない旅の必需品を買って決めようとしていた。
アルヴィナは村長からもらった《マジックポーチ》からランプを取り出した。
《マジックポーチ》は、一定範囲の量までなら何でもしまえ、しかも軽くて小さいという優れものだ。
アルヴィナはこの中に食材、非常食に必需品セット(僅かな医療品やランプなど)を入れている。
常に《マジックポーチ》をウェストポーチのように腰のベルトに付け、横に仕事道具である小ぶりの剣を鞘に納めている。
ランプの油にマッチの火を付け、辺りをほんのりと照らす。
「あ、ここ昔遊んだ《ヘスティア洞窟》じゃん。」
なんだぁ、と少し安堵の声を漏らす。
知っていた場所とわかり、近くに落ちていた石にランプの火を近づけた。
すると、その石はオレンジ色のほのかな灯りを灯した。
ここの洞窟は名前の由来が《炉の女神・ヘスティア》であり、火を灯すと炉の炎のように強く灯りが灯る石があれば、先ほどの石のようにほのかに灯るものがある。
アルヴィナはここでその石を使って遊んだことを思い出していた。
「夜中にここでこの石に火を灯して川に投げて遊んだなぁ…。灯ると水に入れてもしばらくの間光ってたし。
恰好の遊び場所だったなぁ…。
!、んっ?」
点々と石に灯りを灯していたら、ふと何かに気づいた。
嫌な気配がするのだ。
察して間を置かず、獣の鳴き声が聞こえてきた。
「…魔物?うそ、ここ魔物なんて…」
ハッと気づいた。
そういえば最近、世界中で異常現象が起き、《ロギアラ》で今までおとなしかった魔物達が森や道などで人々を襲うようになったり、凶暴で見たことのない魔物が現れたと、村で聞いたことがあった。
もしかしたら、そのせいで今まで魔物がいなかったこの洞窟に魔物達が住み着いたのかもしれない。
「…良心が痛むよ…。」
幼い頃、魔物達と遊んだことのあるアルヴィナにとって、魔物は友人のような存在だった。
「とりあえず、さっさと出ないと!」
アルヴィナはタッと地面を蹴り、自慢の脚力と身軽さで洞窟を進んでいく。
しばらく進むと、洞窟の壁の「緑水の街アルマ→」という文字が見えてきた。
「このまま魔物達に遭いませんよーにっ!」
その願いは虚しく、大型のいわば狼のような魔物に遭遇してしまった。しかも三匹。
この魔物の名は《フェンリル》
特徴は黒い毛皮に鋭い牙だ。
「グルルルッ…」
「…ありゃあ…、なんつぅベタな展開…」
苦い顔をしていると、そのうちの一匹がアルヴィナを襲うように飛びついてきた。
アルヴィナは横にタンッと避け、素早い動きでその一匹との間合いを詰め、回し蹴りを食らわせる。
「ギャンッ!」
他のフェンリルも一斉にアルヴィナに襲いかかってくる。
「大人しくしろっての!」
鞘から小ぶりの剣を抜き、一匹は蹴り上げ、もう一匹には急所に的確に剣を突き刺した。
刺されたフェンリルは絶命し、アルヴィナはそのフェンリルから剣を抜いて再び向かってくるフェンリル達を斬りつける。
「っ、しつこいっ!」
「ギャウンッ!!」
ドサッと崩れ落ちたフェンリルを見て、アルヴィナは小さく顔を歪めた。
「…さっさと出ーようっと…」
剣についた血を払い、鞘に収めてから呟く。
そのまま二度と振り返ることはなく、アルヴィナは洞窟を出た。
―旅の始まりは戦いの始まり。歯車が動くまで、後少し―