宵の太陽 朱い月
イベント事に乗ってみようパート2です。
今回は若干詩っぽいところもあります。実はこういう文章の方が、作者の元の文体だったり。
では、独特の世界観をどうぞ。
とても月の明るい夜 あたしはいつも散歩してた
あたしの真っ黒の毛が月の光に反射してとても綺麗に輝くのを あたしは知っているから
何かあたし自身が輝いている気がして
まるでどっかのショーのモデルみたいに 自慢気に歩いてた
あたしはそれを 心から愉しんでいた
*
僕はいつも一人だった ヒトリだった 独りだった
家でも 学校でも ましてや世間なら なおさら
僕は誰にも構ってもらえなかった
親にも 友達にも 先生にも 周りの大人たちにも 僕の姿は見えていないようだった
やたぁ! 僕はとうとう透明人間になったんだ! もう学校にも家にも居なくて済む!
僕は夢中で翔け出した。どこまでも、どこまでも走った。
しばらく走った後、少し疲れたから道端に座り込んでいたら、
「おや? 見ない顔だね。どこから来たの?」
知らないおばあさんに声を掛けられた。
なんだぁ……僕は透明人間になった訳じゃないのかぁ……。
とぼとぼと家へ向かった。着いた時、辺りは真っ暗だった。
「……ただいま」
薄暗いリビングに僕のか細い声だけが虚しく響く。
電気をつけると、机の上にラップを掛けられた皿が乗っていた。
やっぱり 僕は一応存在しているらしい ちぇっ。
*
それからしばらくして、僕は“制服”というものを着て学校に行き始めた。
周りはやっぱり相変わらずだったが、ある時を境に、少しずつ話してくれる人が増えた。
僕の両親が殺されたからだ
ナイフでめった刺しにされて その醜さとは対照的な 美しい紅い色で部屋中を染めて
まぁ、殺ったのは僕だけど。
ケーサツはミジンも僕の事を疑わず、今でも犯人捜しを続けているらしい。税金無駄遣いして……ご苦労なこった。ドウジョウとは素晴らしいモノで、今までその眼に映すことすらしなかった奴等が、カイガイしく僕の世話を焼いた。
白黒の僕の世界に一筋の赤が加わった瞬間だった
*
しばらくして、俺は制服を学ランからブレザーにチェンジした。
勉強は嫌いじゃなかったのが幸いして、そこそこレベルの高い学校に入る事が出来た。
俺は中学時代に身に付けた社交性を生かして、知り合いを増やしていった。
それこそ、100人越えだ。
でも……何かが足りない。
色も虹が描けるぐらいには増えたはずなのに……
その答えを教えてくれたのは、一人(彼女)と一匹(猫)だった
*
俺は家に帰ると、それこそ独りだった。だからよく、散歩した。
最近は夜中に出歩く事が多くなった。
だって 深夜には散歩友達がいたから
そいつは鴉の濡れ羽色した毛に褐色の瞳をもつ、美しい猫だった。
背筋をピンと伸ばして、優雅に歩く姿が愛らしくて、俺はよくそれを眺めていた。
ある日の事。俺はいつものように散歩に出かけた。その日は、風がやけに冷たかった。
あいつはいつもの塀の上には居なくて、その代わり、俺の膝にすり寄ってきた。
その姿がやけに可愛くて、無性に愛おしくなって、その日、俺はそいつを連れて帰った。
俗に言う、“お持ち帰り”である。
*
「来るか?」
名前も知らない男だったけど その日 寒かったから
あたしを抱き寄せた手が温かくって 何となくついてった
その日から あたしは彼の飼い猫になった
*
「あのさ……、もしかして、猫飼ってる?」
あいつを飼い始めてから数日。突然そこまで仲良くもない女子に話しかけられた。
驚いた俺は思わず、何故か俺の十八番“嘘”もつかずに、素直に答える。
「へ?あ、うん。飼ってるけど。何で?」
「私、猫大好きなの。今度見に行っても良い?」
「あ、あぁ」
あの時は、冗談だと思ってた。けど実際、彼女は家に来た。いや、断る事も勿論出来たんだけど、何となく断り切れずに招待してしまった。
「わー、可愛いー♡」
彼女があいつにじゃれている姿が何とも愛おしくて、その時から俺は、彼女に惹かれた。
どうしようもなく、ずっと一緒に居たいと思った。
でも、それは無理な事だという事も俺は知っていた。
俺は 人殺しだから
彼女が俺から離れていったら、俺は彼女を殺してしまうかもしれない。いや、殺すだろう。
――嗚呼、俺は人を してもいけないのか?
あれ? ……今、何て言おうとしたんだ? ……解らない。そうか、コレが俺に足りないものなのか。でも、何なんだろう……。
*
「なぁ、俺はどうしたら良いと思う?」
珍しい。顔が真剣。そんなに、あの娘の事が好きになっちゃったのかしら?
そうねぇ……あたしとしては、君を独り占め出来なくなっちゃうから、それは寂しいわ。
でもあの子……彼とは違う温かさだった。あたしには火傷しそうな位、温かかった。
あの子なら……君を変えてくれると思う。そう想って、あたしは
「さぁ?」
と言って、彼に飛びついた。
*
「にゃぁ」
あいつはそう言って、俺に甘えてきた。このぉ、可愛い奴めっ。
「よし、俺は俺の好きなようにやるか」
そうこうしているうちに、雪の降る季節になっていた。何故だか今日は皆浮足立っている気がした。俺が緊張しているから、そう見えるだけかもしれないけど。
今日こそは彼女に告白をしようと決めていたのだ。だって、今日は……
「おはよー☆」
!? 吃驚した。彼女だった。
「お、はよ」
吃驚し過ぎてどもる。
「はい、コレ」
差し出されたのは何やら包み紙に入った物体。
「あ、ありがとう」
再びどもる。
「じゃ」
僕も手を振り返しそうになったが、いかんいかん、と勇気を振り絞って彼女を呼び止める。
「ちょ、ちょっと待って!」
「な、何かな?」
彼女は頬を赤らめながら振り向いた。やば、超絶可愛い。その場で悶えそうになりながらも、精一杯平静を取り繕って、俺は言った。
「あ、あの……俺……貴女の事がす、好きです」
噛んだー!! 彼女の方を見る。何か笑っている。あーぁ。やっちゃった。
落ち込む俺をよそに、彼女は笑う。耳まで真っ赤に染まりながら、にこっと笑う。
「変なのー。今日は男の子が女の子に告白する日なのにー。……でも、嬉しいっ♪ 最っ高の誕生日プレゼントだわっ」
そう言って、彼女は微笑んだ。俺も、頬が緩んだ。
俺に足りない物とは “温かさ”だった
俺は太陽と月に会う事で それに気が付いた
もしかしたら 二人とも地上に降り立った星なのかもしれないけれど
温かい事に 変わりはない
もしかしたら いつか 俺が朱く染めてしまうかもしれないけれど
優しい事に 変わりはない
そして今日も 俺は柔らかな明かりの元で歩く 歩き続ける
絶え間なく降り注ぐ 二つの美しい光に見守られて
叶うことなら、この穏やかな日々がいつまでも続きますように。
何故、今日という日に投稿したのか、最後までお読みになっていただければお分かりになるはず、です。作者がいかにひねくれているかも。
甘い話を書くのは苦手なのですが、たまに書くとこうなります。やっぱり難しいです。
でも、たまにはあからさまなハッピーエンドを書くのも、悪くはないですね。