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うさぎ

この話は恋愛ものです。微笑ましい二人の関係をお楽しみください。

「じゃ、またな」

「バイバーイ♪」

 それが、あたし達の交わした最期の言葉。

 って、仰々しく言ってはみたものの、実際はそれから2日しか経ってないんだけどね。

 金曜日の放課後から、月曜日の朝まで、あたし達は会えない。

 だって、学生だから。学校に居る時以外は、めったに会えない。

 だって、あの人の家を知らないから。行きたくても、押しかけることも叶わない。

 だって、あの人は受験生だから。デートもたまにしか、もう出来ない。

 ましてやその邪魔なんて……。出来るはずがない。

 それでも、あの人はいつも毎日のようにメールをくれる。ほんの些細な事だけど、あたしはそれがとっても嬉しい。でも、今回はそれもない。昨日から、ずっとない。多分忙しいのと大した用がないからだとは思うんだけど……。あ、あと最近あたしがぶっ倒れたから(過労との事。一か月ぐらい部活やら生徒会やら文化祭やらで働きづめだったから、当然っちゃ当然、納得の結果ではある)“休め”という無言の圧力をかけているのかもしれない。

 それでもさぁ……。寂しいモノは寂しいんだよ。

「はぁ……。早く月曜日にならないかな」



「おいで、フー」

 俺が呼ぶと、フーは嬉しそうに俺の膝の上に乗っかってきた。

「動くなよ。すぐ終わるからな」

 月に一度のブラッシング。フーはコレを大層気に入っているらしく、始まるとすぐにとろんとした眼をして、気持ち良さそうにしている。あ、ちなみに。“フー”とはうさぎの名前である。薄いグレーのフカフカの毛にクリクリとした眼をした愛らしいやつなのだ。

 ……ちなみに(part2)“フー”は俺の彼女の名から取った。自分でも恥ずかしい事をした、という自覚はあるのだが、フーの姿が彼女を髣髴させるので、そう呼んでいる。

 そう言えば。最近、勉強やらフーの世話やらであいつをかまってやってないな……。そろそろかまってやらないと、いじけ出しそうだ。ブラッシング(コレ)が終わったら、メールぐらいしてやるか……。

「よーし、終わったぞー」

 フーは名残惜しそうに俺の目を見つめていたが、最終的に小屋へ帰っていった。ったく、お前までそんな目で見るなよ……。



 彼女との出会いは、2年前。その時高校1年生だった俺は、まだ幼く背も低く、よく中学生に間違えられた(いや、今は170超えましたよ、越えましたとも)。そんな訳で、よく強面の中学生にカツあげされかけた。いつもは友達と行くので問題は無いのだが、その日はあまりにも暇だったので、一人旅と言う名の散歩に出かけてしまったのである。雨も降っていたし、そんなに遅くならなければ大丈夫、とタカをくくっていたのだが、案外どこにでも、似たような輩はいるもので。案の定、俺はあるグループに目をつけられてしまった。大方、春休みで小遣いを使い切ってしまったのだろう。良いカモを見つけた彼等は、目を爛欄と光らせていた。ついには、暗い路地裏まで追いつめられてしまい、さて、どうやって逃げようか……とあれこれ思案していると、

「お前ら、こんな所で何やってんだ?」

怒りと侮蔑が内含された、冷やかな台詞が飛んできた。少年達は声のする方を見ると、

「お、お前は?!」

と言って顔を青くし、その少女の名を呼ぶことすら許されないままに打ちのめされていた。

 当時、中高生である種伝説的存在になっていた、“戦場の兎”という恐ろしく強い正義感の塊のような少女がいる、という噂を俺は思い出したが、それが彼女と同一人物かどうかは、未だに分からない。

 というか、見た目普通に普通の可愛らしい女の子だったから、信じたくなかった。だけかもしれない。

 とりあえず、ゴシュウショウサマ。と、陰で少年達に合掌する。何もそこまでやらなくても、とも思ったが、彼女の迫力に押され尻もちをついていたのだから、俺には何も言えなかった。って言うか俺、情けねぇ……。

 その後、彼女は

「大丈夫ですか?」

と、俺に温かい言葉と手を差し伸べる余裕まで見せてくれた。ヲイ、仮にも5人も倒した後だぞ……? しかし、手を借りなければ立ち上がれなかったのもまた事実だったので、その時は大人しく、彼女の手を取った。

 いつの間にか雨は止んでいたらしく、彼女は日の光に照らされて、後光が差しているように、俺には見えた。


 こんな衝撃的な出会いを果たした俺達はその後、先輩・後輩という形で再会する事になる。

 彼女は覚えていないようだったが、俺にとっては不名誉極まりない事だったので、逆に良かったのかもしれない。“雨の日”だったんだからもう少し、ロマンチックな演出があると思うのだが(俺が彼女に傘を貸してやるとかさ……)、まぁ助けに来てくれた彼女がキラキラと輝いていて美しかったので、まぁ、よしとしよう。




「うさぎってね、あんまり構ってもらえないと淋しくて死んじゃうんだよー」

以前、彼女はフーを見てそんな事を言っていた。

彼女は、普段は男子の数人ぐらい朝飯前でぶちのめしてしまうぐらい強く、後輩・同輩からの信頼も厚く格好良いのだが、俺の前では、こういう女の子らしい一面も見せてくれる。そういう所が、ついあいつを小動物と重ねてしまう所以、なのかもしれないが。

「じゃあ、お前も淋しいと死ぬのか?」

以前の渾名を思い出し、おふざけ半分で俺は聞く。

「うーん。どーだろ?でも、案外そうかもしれないねー」

キャハハ。笑って言っていたから、冗談とばかり思っていたのに。何となく、今回は冗談じゃ済まない気がする。


「さーて、何て送ってやろうかな?」



 ヴーヴーヴー……!

 誰かからメールだっ。携帯を、机からひったくるようにして奪う。……メルマガだった。

――はぁ~。

 ヴー。

 !? こ、今度は騙されないぞぉ。と言いつつも、一応確認。

――あ、あの人からだ! わーい! えーっと、内容は……

「よぉ、寂しがり屋、元気か? もう夜も遅いから返信はしなくても良いぞ。さっさと寝ろ」

 あまりにもいつも通りの言い方に、思わず笑みがこぼれる。じっと見ていると、声まで聞こえてきそうだ。さらに画面をスクロール。あの人がたまーにやる手なのだ。えーっと、なになに……?

 ……読んだら涙が出てきた。

「ゆー君のバカぁ。何でこんなメール送るのよ!」

 思わず声に出ていた。そして、そのまま感情が抑えきれなくなって――

 泣き疲れて眠ってしまった。手には携帯を握りしめたまま。

「……ゆー君、大好き……」


 携帯の画面には、こんな文字が映っていた。

「P.S だって月曜日、一番可愛い姿で見たいだろ?」



 あー、恥ずかしい事をした! 全く、俺の兎はわがままなんだから!

 ……まぁ、そこが可愛いんだけど。


 その後、俺は無事志望していた大学に一発合格。ささやかなパーティーを二人でした。俺より彼女の方が、俺の合格を喜んでくれたのは言うまでもない。

「さて、来年はお前の番だからな?」

「むぅ……。頑張る。ゆー君と同じとこ行きたいもん」

「おう、待ってるからな」

 今度は、俺が応援する番。寂しがり屋のこいつが、ずーっと影から支えてくれたんだ。俺も、出来る限りの事をしてやろう。

「……うんっ」

 ぴょん、と飛ぶように抱きついてきた俺の兎。今じゃあの物騒な名前は似合わないけど、実は両方とも可愛いな、と思っている事は内緒である。


 そんな訳で、俺と兎の幸せな生活は、もうしばらく続きそうだ。


久々に、というかまともに恋愛モノ書いたのは初めてかもしれません。

あまりにも柄じゃないので、出すかどうか迷ったのは秘密。

では、また次の話で。

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