雨と猫とあまねちゃん
あまねちゃんは、
雨がだいすきな女の子です。
しとしと降る日はてのひらをかざして。
ざあざあ降る日はかわいい傘をさして。
あまねちゃんの名前は、おかあさんが考えました。ひときわきれいに晴れた空に、陽に照らされてきらめく雨が降る日に生まれたので、そう名付けられました。
あまねちゃんはおおきな瞳をかがやかせて、青灰色に染まった雨空を見上げました。
傘を傾けた拍子に、傘に溜まった水が後ろの方につるつると滑り落ちていきました。
地面ではねた雨水があまねちゃんの靴下を少し濡らしましたが、あまねちゃんは気づかず、一心に空を見つめています。
(何だかお布団みたいだな)
青空をおおい隠す灰色の雲はおおきくて分厚く、まるでふかふかの羽毛布団を思い起こさせました。
雲の方がお日様に近いので、きっとおうちのお布団よりもさらさらで、みんなにやさしい夢を見せてくれるすてきな触り心地かもしれないとも考えました。
(あれ? でも、お布団の中にいるってことは)
あまねちゃんの胸の中に、かなしい考えが浮かんできました。まるで氷のかたまりで撫でられたように、それはあまねちゃんの心をすうっと冷やしました。
(それじゃあ、お空は泣いているのかな?)
お布団をかぶって、お空が泣いているから雨が降るのかな、と雲の向こうに思いをめぐらせて、あまねちゃんは急にさびしい気持ちになってしまいました。
(それならみんな、甘い飴になっちゃえばいいのに)
落ちるちいさな雨粒たちを見て、あまねちゃんは思いました。
(そうしたら、きっとお空もうれしい気持ちになるかな。また笑顔になれるよね?)
傘の柄をぎゅっと握りしめて、眉を寄せて、口も尖らせて、あまねちゃんはしばらくの間しょんぼりと立ち尽くしていました。
そんなあまねちゃんのまえに、一匹の黒猫があらわれました。
すべてを見透かすような、お月さまのように黄色くかがやく丸い瞳で、あまねちゃんをじっと見つめ返しています。
そうして、ゆっくりと語りかけました。
「雨をよろこぶ者もいる」
——たとえば君のように
——動物たちや、植物たちのように
——恵みを祈る者のように
——なみだを隠したい者のように
男の子なのか女の子なのか分からない、
春の雨滴のように透き通った声でした。
「だから、甘い飴にしなくても大丈夫。
そのままがいいんだよ」
あまねちゃんは目をぱちくりとさせながらも、こくりと頷きました。
そこでふと、おかあさんの言葉を思い出しました。あまねちゃんが生まれた日の出来事のこと。たいせつな名前の由来のことです。
窓の向こうでしばらく降り続いた雨音が、
まるで子守唄のように、生まれたばかりのちいさなあまねちゃんとおかあさんを癒し、お祝いしてくれたんだ、と。
おかあさんは、いつかのあまねちゃんにそう言い聞かせてくれました。
その時のおかあさんの笑顔を思い出して、
あまねちゃんはようやく、やさしい顔に戻ることができました。
そして黒猫を抱き上げて、頭をこつんと触れ合わせました。
「一緒に帰ろう。びしょ濡れだよ」




