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第1章 エピローグ
夜の街を走る一台のタクシーの中。
千歳の肩を抱き、彼女の甘い香りに包まれながら、俺の肉体は穏やかな「幸福」を演じていた。 隣には、おじさんが、ただの無機質な荷物のように押し込められている。
俺の思考は、この美しい地獄から逃げ出す方法を必死に探していた。 だが、どれほど脳内で叫んでも、俺の手は千歳の指先を優しく愛撫し続け、俺の口は彼女を安心させるための偽りの愛を囁き続ける。
「ねえ、悠真くん。もうすぐ記念日だね」
千歳が俺の胸に頭を預け、宝石のように美しい瞳で俺を見上げた。 その瞳に映る俺の顔は、あまりにも幸せそうで、あまりにも完璧な「彼氏」そのものだった。
三年前から始まったこの悪夢は、終わるどころか、さらに深く、暗い場所へと加速していく。
俺たちは、偽りの愛と真実の絶望を抱えたまま、逃避行へと足を踏み入れた。




