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理想のヤンデレ幼馴染と過ごす幸福な毎日。それを壊しに来たのは、網タイツの催眠おじさんでした。  作者:
催眠アプリとおじさんと彼女

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第7話 陥落と記念日

翌日の放課後。俺はかつてないほどの緊張を抱えながら、千歳の家のインターホンを押した。 おじさんの催眠のおかげで、俺の認識の中の千歳は、今日もこの世のものとは思えないほど美しい。だが、その毒々しい美しさを「脳を焼かれた結果」であると自覚している今の俺にとって、彼女は極彩色の猛毒を秘めた蜘蛛にしか見えなかった。


「悠真くん、どうしたの? 委員会、遅くなっちゃってごめんね」


玄関の扉が開き、千歳が姿を現した。 完璧な笑顔。完璧な声のトーン。以前の俺なら、それだけで胸を熱くしていたはずの仕草が、今はただ不気味だった。


「千歳、少し話がしたいんだ。……いつもの公園で待ってる」


俺は「飼い犬」としての完璧な表情を作り、彼女の目をまっすぐに見つめた。 思考の片隅では、茂みに潜んでいるはずのおじさんの位置を確認している。おじさんが千歳を拘束さえできれば、すべてが終わる。 そう確信して背を向けようとした、その時だった。パシャリと音がした。


「……命令。動くな」


千歳の声が、これまでになく平坦で、機械的な冷たさを帯びて響いた。 その瞬間、俺の肉体は自分の意志を完全に無視して、コンクリートに固定されたかのように硬直した。


千歳は俺の前にゆっくりと回り込んだ。その瞳には、これまでの慈愛に満ちた輝きはなく、ただ底知れない狂気だけが揺らめいている。


「悠真くん。お芝居、下手だね」


彼女は冷ややかな手つきで、俺の頬を撫でた。そして、手にしたスマートフォンの画面を俺の目の前に突きつけた。そこには、赤黒い文字で禍々しく表示されていた。


【常識改変】:対象:瀬戸悠真 効果:私の命令に従え


「なんで……っ。いつから、催眠が解けてることに気づいたんだ……!」 俺の喉が、引き攣った音を出す。


「今日の学校だよ。お昼休みの時、私と目が合った瞬間、ほんの数ミリ秒だけ視線を逸らそうとしたでしょ? それに、私が話しかけた時の呼吸のテンポ……三年間、一秒も欠かさず悠真くんを見てきた私が、気づかないと思った? ……ねえ、何でそんなに震えてるの? 私が怖いの?」


千歳は楽しそうに首を傾げた。彼女は逃げ場を塞ぐように、スマートフォンの画面を指で叩いた。


「命令。最大限、私の有利になるように動いて」


その言葉が耳に届いた瞬間、俺の脳内にあった防波堤が跡形もなく決壊した。 おじさんの『保険』の暗示によって運よく思考は独立しているが、肉体の支配権は完全に千歳へと明け渡された。


「……あ、……ぁ、……」 俺の意志とは無関係に、声が漏れ出す。おじさんと昨夜交わした会話、作戦の内容、公安の爆弾のこと、一週間という期限……。 俺は、自分自身の言葉で、自分を助けようとしてくれた協力者を一人残らず売り払っていった。すべてを洗いざらい吐き出した後、俺の思考に残ったのは、耐え難いほどの自己厳悪と絶望だけだった。


「……ふふ、よく言えました。……公安、爆弾。面白いね」


千歳は満足げに俺の頭を撫でると、冷たく公園の方角を見据えた。 「……いいよ。わざと捕まってあげる。悠真くん、私を公園まで案内して?」


夜の公園。予定通り、茂みから飛び出したおじさんが千歳に詰め寄る。 おじさんは、千歳に即座に催眠が効かないことを知っている。だから、まずは物理的に取り押さえて三時間の拘束時間を稼ごうと、手にした縄を広げて千歳に襲いかかった。


「やった……! ついに捕まえたぞ、このクソガキ!」 おじさんは、千歳が抵抗もせずに無防備に立っていることに歓喜し、勝利を確信していた。


だが、その背後に立つ俺の肉体には、千歳の「最大限私の有利に動け」という絶対命令が突き刺さっている。


「がはっ……!? お、お前……」


俺の拳が、背後からおじさんの後頭部を正確に捉えた。 崩れ落ちるおじさん。俺の意識は「逃げてくれ、おじさん!」と絶叫しているが、肉体は無表情におじさんの身を拘束し、その手からスマホを奪い取って千歳に差し出した。


「お疲れ様、悠真くん。やっぱり私の彼氏、最高に頼りになるね」


千歳は優雅に歩み寄り、気絶したおじさんの首にある爆弾をまじまじと見つめた。 それからの三時間は、地獄だった。 千歳はおじさんのスマホ13台をすべて使い、意識を取り戻したおじさんを執拗に、徹底的に、再洗脳した。 三時間後。かつて傲慢だった「猟犬」は、涎を垂らしながら千歳の靴を舐める、魂の抜けた操り人形へと成り果てていた。


「……公安に、もう連絡がいっている。……もうすぐ、ここに来る……」


おじさんが虚ろな声で吐き出した情報を聞き、千歳は「ふぅん」と短く息を吐いた。


「あら、逃げなきゃ。……そういえば悠真くん、もうちょっとで付き合った記念日だね」


彼女は俺の首に腕を回し、顔を近づけた。 認識改変の影響で、俺の目にはやはり彼女が「完璧な美少女」に見えている。それが余計に恐ろしかった。


「命令――記念日まで、私の彼氏として振る舞い続けて。……公安が来ない場所へ、三人で逃げよう?」


俺の意識は絶望の深淵に沈んだ。 だが、体は、言葉は、優しく彼女の腰を抱き寄せ、耳元で愛を囁き始めた。


「……行こうか、千歳。どこまでも一緒だ」


絶世の美女の姿をした「怪物」と共に、俺は光のない夜へと消えていった。

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