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檻の中

少し不快な表現があるかもしれません。直接的な表現はありませんが、R15になります。

あれから、何日たっただろうか。

小窓から座敷牢に差し込む細い明かりだけでは、太陽が沈み、再び登ったとしてもまいにはわからなかった。


 景綱の命により待遇は少しだけ良くなった。


 薄いが布団と着替えが与えられ、朝晩粥と具のない汁物が運ばれてくる。到底手をつけるつもりにはならなかったが、何度目かで空腹に耐えかねてしまった。

 

 食事を取り、後は息を殺してただ時が過ぎるのを待つ。喉の渇きはなくなったが、自分が声を発することができるのかさえもうわからない。


 あれ以降景綱は姿を現さない。牢に訪れるのは主に高成だった。変わらずの無表情で、ただ事務的に世話をしにくる。


(まるで、檻に入れられた家畜ね)


 そう自嘲する。


 座敷牢は奥まった廊下の先にあるようだ。遠くに見張りが2名ほど、交互につけられていることが、たまに聞こえてくる声で徐々にわかった。


 見張り達はうるさい。ここは日に2回高成が訪れる以外上役は来ない、ちょうど良くサボれる良い配置なのだろう。時には酒盛りをしているような声さえ聞こえた。

 

 誰も助けてくれない。

 ここは、私の声が外へ届かない場所だ。

 そう思えば、大声を出す気すら起こらなかった。


それに。


逃げれば、父と弥助に危害が及ぶ。

だから、もし隙があったとしても、

逃げないと、まいは自分で決めていた。


 そんな時だった。


 今日の見張りはやけに静かではあったが、一段と重い空気が漂った。


 ギシ、ギシと、ゆっくり歩いてくる足音。

 高成がやってくる時間ではない。


 まいは久しぶりに緊張に身体をこわばらせた。



 「……まい」


 景綱の声がした。

 今回は1人で来たのだろう、側に高成は控えていない。蝋を手にし、下から照らされた不気味な表情でこちらにやってくる。

 「まい、久しいな。元気にしているようで何よりだ」

 白々しい。連れてこられた時と比べて、自分はさらにやつれているはずだ。


 どちらかと言うと高成よりも、この口調の柔らかい城主の方がまいは怖い。人を人とも思っていないのが、嫌と言うほど伝わる。


 景綱は牢の外に蝋燭を置くとニコニコとコチラを見た。


「平和な日々で退屈であろう?ーー今日は、私と、

良いことをしよう」


 その言葉に、まいの背筋が凍る。

 ジャラリと聞き覚えのある金属音の先、景綱の手には牢の鍵が握られていた。

「何を、なさるのですか……」

 か細い声だ。それでも、景綱はまいが言葉を返したのが嬉しいらしい。「ああ、お前はそのような声で鳴くのだな」などと、気色の悪いことをいいながら、牢の鍵を開け始めた。

「いや…嫌…来ないで、ください」

 まいは本能的に何をされるのか、検討がついた。今まで人から疎まれることはあったが、それとは違う、寒気のするようなおぞましい欲。


 「怖がるな。すぐに済む」


 言葉とは裏腹に、声音は諧謔的だ。

 追い詰めるのを楽しむように、蝋燭の逆光の中、ゆっくりとこちらに近づいてくる。まいは徐々に座敷牢の奥、布団の上へと追いやられた。


 逃げられない。

 叫んでも無駄。

 

 景綱の手がまいの顔に触れた。まいは悲鳴すらあげられなかった。景綱がまいの前に覆い被さるよう膝をつく。まいは景綱を怯えた表情で見上げたまま、動くことができない。


 「お前と子をなすのは、誰でもかまわぬとは思わんか?」


 まるで愛おしむように。いや、獲物をいたぶるように、景綱の手がまいの頬を撫でる。

(子…?)

 恐怖に支配された頭の中で、まいに一つの疑問が浮かぶ。


 神の血、贄、子……。


 私がここに連れてこられたのは、贄となる子供を産むため…?


 あまりに、あまりに惨い予測。

 だが、これが確信に近いことを、止まらない状況が教えてくる。


「神の子と人、どのように違うのだろうな」

 景綱の手が、まいの首にかかる。じわりと肌に侵食する不快な熱に、まいは忘れていた渇いた瞳を、ぎゅっとつむった。



「ーーーーーー景綱様」



 聞き馴染んでしまった、静かな声。


 その声に、まいはうっすらと瞼を上げた。

 音もなく、景綱の背後に黒い影が立っていた。


 「……高成」


 景綱が忌々しげに、しかし、来るのを予想はしていたのだろう。片側の口角を上げた歪んだ笑みで、高成を振り返った。


 高成の手がが景綱の肩を掴む。


「景綱様。そのような行い、城主として相応しくありません。」


 声は淡々としているのに、空気は一瞬で氷のように冷えた。


 先ほどとは変わった、張り詰めるような空気に、まいは息を呑む。


 高成の黒い瞳が闇の中でわずかに光って見えた。

 その表情は無感情で、冷たく、鋭い。


 だが、まいに向けられた一瞬の視線だけが、なぜか――刃のような緊張の奥で、わずかに揺らいでいる気がした。



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