表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/12

7話:宝箱、襲来

騒動の翌日、俺は再び魔物組合を訪れていた。

理由はもちろん、クエストを受けるためだ。


「すみませんこれ、お願いします」


「……今回は何個持ってきたんですか?」


俺の姿を見て、ダークエルフさんの耳が震える。

完全に昨日の騒動が染み付いてしまっている。


「今回は討伐なので安心してください」


「それはよかったです。もうあんなトラブルは経験したくないので……」


胸を撫で下ろしたダークエルフさんは、紙を受け取って仕事モードに入る。


「さて、今回のクエストは『境界の古城』でのモンスター討伐20体。報酬は90ゴールドですが、間違いありませんか?」


「大丈夫です」


俺がここを選んだ理由は、進化のためだ。

ここにはガーゴイルやリビングアーマーなど、ミミック()の親戚が徘徊している。

こいつらと戦えば、進化の参考になるだろう。


「こちら受理させていただきました。頑張ってくださいね」


にこりと笑うダークエルフさん。さあ、次の冒険の始まりだ!


◆ ◆ ◆


ということでやってきました、『境界の古城』。

ここは光陣営と闇陣営の中間地点にあるため、光陣営のプレイヤーもそこそこやってくるらしい。


そして肝心のモンスターたちは、"擬態するもの(ミミック)"らしくはなかった。

飛び回る石像と歩く全身鎧。

どちらも堂々とダンジョンを闊歩していて、擬態する気なし。


おそらく彼らは擬態先の性質を活かし、純粋な戦闘力を高める方向に進化したのだろう。


「俺がなりたいのは、これじゃないよな」


俺は今の影呑頼りの戦い方が気に入っている。

だから、この方向性は無しだ。

そうと決まれば、後はさっさと討伐を終わらせて報告に……


そう思ったところで声が聞こえた。

ダンジョンでは初めて出会う、プレイヤーだ。


「なあ、ここの敵硬くね?別のとこいかね?」


「クエストも受けちゃったし、移動するならクリアしてからねー」


「ここは宝箱が美味いんだよ。罠もあるけど、運が良ければレアアイテムが手に入る。狙うしかないだろ?」


そんな話をしながらやってきたのは、槍使い、弓使い、そして神官の三人組。

どうやら宝箱を探しているらしい。


それなら、ミミック(俺)の、モンスターとしての仕事を果たすとしますかね。

このゲームでは陣営間のPKが推奨されている。

PKに後ろめたさを感じる必要はない。


相手が三人なのは気になるが、別に負けたっていい。

なんてったって、勝とうが負けようが、間違いなく楽しいんだから。


それからしばらくして、彼らは宝箱に扮した俺を見つけた。


「お、噂をすれば宝箱じゃん!やりぃ!」


「よし、任せろ。《罠探知》」


弓使いの目が淡く光る。

スキル名からして、俺に罠が仕掛けられていないかを調べているのだろう。


……俺って罠じゃないよな?

実質罠ではあるけどさ。


「罠はない。開けて大丈夫だ」


どうやら俺は罠ではないようだった。

よかった。


「いいもの出ますよーに!なむー!」


「っしゃ、俺の運を見せてやる!」


「お前ら元気だなぁ……」


神官が祈り、槍使いが指を鳴らし宝箱に近づく。

それを呆れ顔で眺める弓使い。


そんな楽しい冒険の一幕を、ぶち壊す。

戦闘、開始だ。


━━《影呑》


プレイヤー相手に通じるかが少し心配だったが、影呑は俺の心配をよそにあっさりと発動。

いつものように闇が槍使いを包み、飲み込む。

ダメージ減衰もなし。

即死だ。


「えっ!罠ないんじゃなかったの!?」


「くそっ!あれは罠じゃない、ミミックだ!」


神官は驚きながらも杖を構え、弓使いは素早く矢を放つ。

放たれた矢は正確に俺の眉間……蓋を打ち抜き、体の内部に衝撃が走る。

HPが20%ほど削られた。


すごい、戦ってるって感じだ。

思わず笑みが漏れる。


さて、わかっていたことだが真っ向勝負では敵わない。

だからやるべきことは離脱と……誘導。


俺は彼らがきた方向とは逆に走り出す。

目指すのは今までの探索で見つけた"いい場所"。

あそこまで誘導できれば、勝てる。


「こら待てっ!ケインの仇っ!」


「あまり離れるなよ!」


HPが削れた俺を倒せそうだと思ったのだろう。

二人とも俺のことを追ってくる。

わざとじゃないけど、攻撃を受けて良かった。


「ちっ、速い!魔法で止められないのか!?」


「走りながら詠唱とか無理ぃ!」


スピード勝負は俺の圧勝。

飛んでくる矢にさえ気をつければ容易に逃げ切れるだろうが、今回の目標はそれじゃない。

追跡を諦められないよう、付かず離れずの距離を維持して走る。


そして辿り着いたのは、吹き抜けがある大ホール。

すぐさま階段を駆け上がり、上階の手すりの上で身を潜める。


「……見失ったか」


「あのミミック足早すぎだってぇ……」


少し遅れて二人がホールへと辿り着いた。

それを視認した瞬間、体の重心を前へと倒し落下する。

ミミック特有のガタガタ音も、これなら鳴らない。


狙うのは弓使い。

ヒーラーは脅威になり得ない。


「《影呑》」


「な━━!」


気づいた時にはもう遅い。

闇が弓使いを包み、その悲鳴すらも飲み込んだ。


「ご馳走様っと」


地面に着地した俺は、ゆっくりと神官に体を向ける。


「ひえっ……わ、私食べても味しないタイプだからぁぁあああ!!!」


神官は体を翻し、逃げていった。

味しないタイプってなんだよ……


ま、回復職一人じゃ戦えないし逃げるのはよくわかる。

きっと戦ったら俺が負けるんだけどさ。


「それじゃ、今回は俺の勝ちってことで」


神官は追わずに、その場で深く息を吐く。

本当に楽しかった。


気づいていない相手を飲むのも、俺に気づいている相手に奇襲を決めるのも。

俺はやっぱり、今のミミックが好きみたいだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
個人的には掲示板回が多くてもいいと思います!それにしても至近距離でしか発動しない即死技が、人間が近づいてやられる以外にも宝箱そのものが突っ込んで来るとか、中々にびっくり要素が強いミミックですね〜(*´…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ