表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/11

6話:買取騒動

アグニスと別れた後、俺はクエストが受けられる建物に向かうことにした。

進化も戦争も気になるが、今すぐにできることはない。

だから、できることから確実に。

それが一番だ。


「さて、到着っと」


徒歩1分ほどの移動を終え、俺は巻物マークの看板の建物、魔物組合に入る。

この巻物がクエストってことなんだろう。


建物の中ではミノタウロスが酒を飲んでいたり、妖精が自由に飛び回っていたりと、街と変わらず賑やかだ。


「さて、クエストは……あそこだな」


辺りを見渡すと、『クエスト一覧』と書かれたコルクボードが目に映る。

俺のような小型モンスター用と思われる台座があるのが地味にありがたい。


素材採取、討伐、噂の調査といったクエストが並ぶ中、一つのクエストに目が止まる。


それは、ゴブリンに奪われた指輪を取り返してほしい、というクエストだった。

場所は俺が最初にいた洞窟。

そして俺の貪納には、ゴブリンのボスが集めていたガラクタがぎっしりと詰まっている。


「これ、多分もう持ってるな」


貪納の中身を見てみると、壊れていないものだけで100個以上の指輪が。

どれが依頼主のものかはわからないが、これだけあればどれかは当たりだろう。

そう考えて貼られていた紙を剥がし、カウンターへと向かう。


「すみません、これお願いします」


こちらにもあった台座に乗って、受付にいるダークエルフの女性に声をかける。


「依頼の受注ですね。こちらの依頼は捜索難易度が高いと思われますが、大丈夫ですか?」


ダークエルフさんが心配そうな顔でそう言う。

確かにあのゴミ山からたった一つの指輪を見つけるのは相当な難易度だ。

だが、俺はあのゴミ山全てを持っている。


「大丈夫です。多分、もう持ってるので」


俺はそう言って貪納から指輪を放出する。

カウンターの上に指輪が積み上がっていく。

ダークエルフさんの耳がぴくりと震えた。


「えっ、ちょっ……ええっ?」


事務的だったダークエルフさんが、素で驚いた声を上げる。

その声に反応して、周りからも野次が飛び始めた。


「おいおい、なんだあの山……装飾店でも開く気か?」

「俺、あの人が表情変えてるの見たの初めてかもしれない」

「あれ、全部調べるのか?」


申し訳ないとは思いつつも、俺は指輪をざらざらと出し続ける。

そしてカウンターの上に指輪の山が出来上がった頃、ようやく放出が止まった。


「えーっと、すみません。どれが依頼のものかわからなくて……」


「い、いえ……これも仕事ですから……」


深く息を吸い、ダークエルフさんが鑑定を始める。

本当に申し訳ない。


「……ありました。依頼達成となります」


しばらくして依頼の指輪が見つかり、報酬の50ゴールドを受け取る。

申し訳なさで胃が痛い。

ミミックに胃があるかはわからないが。


「ところで、不要な指輪は買取もできますが」


その言葉を聞いてふと思ってしまった。

残りのアイテムも買い取ってもらえるのではないか、と。


「お願いします。それと、この何倍もアイテムを持ってるんですが、買取お願いできたりは……」


ダークエルフさんがぴしりと固まる。


「……少々、お待ちください」


ダークエルフさんはそう言って部屋の奥へと歩いていき、誰かとしばらく話した後戻ってきた。

どうやら、買取してもらえるようだった。


「奥の部屋にご案内させていただいても……?そこであれば、なんとかなると思いますので……」


今から訪れるであろう鑑定地獄を思ってか、目が完全に死んでいる。

それでも買取を受けてくれるのは本当にありがたい……


「ありがとうございます!」


俺は深々と頭を下げる。

いやミミックだから、体が傾いただけだが。


ダークエルフさんに続いて歩いていくと、後ろからは野次の嵐が飛んでくる。


「あいつ裏に連れてかれたぞ!」

「これ明日には大量持ち込み禁止令とか出されるかもな」

「勇敢に戦った我らの受付嬢に黙祷……」


……うん、気持ちはわかる。

俺が野次馬だったら、確かに黙祷する。


「では、アイテムはこちらにお願いします。ここであればなんとかなると思いますので……」


案内された部屋は倉庫のようだった。

大きな部屋に、アイテムが置かれた棚が並べられている。

ここなら、ある程度はアイテムを出しても大丈夫そうだ。


「じゃあ、使えそうなのを出しますね」


使い古された武器や防具、金属塊、形を保った陶器、何かの牙、ゴブリンの魔石など……

価値がありそうなアイテムが溢れ出す。


「量がおかしいです!これ、ゴブリンの巣を丸々持ってきたとかそういう……!」


ダークエルフさんのキャラが完全に崩壊したが、俺は黙々とアイテムを吐き出し続ける。

俺の周りがアイテムで埋め尽くされた頃、ダークエルフさんの悲鳴が建物に響き渡った。


「す、ストップ!もう無理です!!扉塞がってます!!」


なんとなくやばい気はしていたが、やっぱりか。


アイテムを止めたその直後。

ダークエルフさんの悲鳴を聞いてか、部屋の扉が開かれる。


次の瞬間、扉によって堰き止められていたアイテムが、廊下へと溢れ出した。


「おうわっ!!?」


流れに飲まれたスケルトンが棚に衝突し、棚が倒れる。

アイテムで溢れた倉庫に、さらなるアイテムがばら撒かれた。


「ちょっ誰かヘルプ!!」

「なんだどうし……何が起きた!?」


次々に人が集まり、騒ぎがどんどん広まっていく。

……完全に俺のせいだ。


「ほんとすみません……俺もできる限り手伝うんで……」


「て、手伝って、くれるんですか?」


死にかけていたダークエルフさんの目に、微かな光が灯る。


ここから逃げてしまった日には、ミミックとしての、いや人としての何かが失われる。

……元凶が何を言うという話ではあるのだが。


そこからは、完全に戦争だった。

倒れた棚を元に戻し、散らばったアイテムを貪納で一度取り込み、職員たちと整理していく。


そして……


日が沈み出した頃、なんとか倉庫も廊下も元通りになった。


「本当に......お疲れ様でした……」


ダークエルフさんがよろよろと壁にもたれ、呟いた。

職員たちは疲れ果てた顔で散っていく。


「ご迷惑をおかけしました……」


俺は深く頭を下げる。


「いえ……助かりました。もしあなたがいなければ、死んでました……」


その言葉で、少し気持ちが楽になった。

こうして、買取騒動と片付けに追われた一日は、静かに終わりを迎えた。


ちなみに、騒動に紛れて買取もしてもらえた。

多分今の俺は小金持ちである。

もちろん、素直にそれを喜ぶことはできないが。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
主人公が順調に高スペなミミックでやらかしてるのが面白いです!(*´艸`)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ